事故を防ぐ「介護現場のリスクマネジメント」とは?事例と対策を紹介

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事故を防ぐ「介護現場のリスクマネジメント」とは?事例と対策を紹介

利用者が転倒しそうになって、ひやり、はっとした経験はありませんか?介護施設や事業所は高齢の利用者が多く、重大な事故が起きやすい場所です。

ひやり、はっとしたことを放置するといずれ大きな事故につながるかもしれません。事故防止に努めるためにも、事業者はリスクマネジメントを意識する必要があります。

今回は、介護現場で起こりやすい具体的な事故事例を紹介しながら対策を解説していきます。システム作りのコツもまとめましたので、リスクマネジメントを強化したい介護事業者は是非ご確認ください。

介護現場でのリスクマネジメントとは

介護現場でのリスクマネジメントとは

介護のリスクマネジメントとは、介護現場における事故が起きる危険性を把握・管理し、ルール化することで事故を未然に防ぐ活動を意味します。

高齢者の多い介護現場では、事故が起きるリスクが高い傾向にあります。公益財団法人介護労働安定センターの『福祉サービス事故事例集』では、具体的に以下のようなトラブルが挙げられています。


【介護現場での事故・ヒヤリハット事例】

  • ふらつきのある利用者に、後ろから声をかけてしまい転倒
  • 誤嚥のリスクを把握しないまま食事の介助を行い、利用者が激しくむせてしまった
  • 車いすが石にぶつかった衝撃で利用者が転落
  • ソファに深く体を沈めて座っていた利用者が、立ち上がった際によろけて転倒
  • タンスの上段を勢いよく引いたはずみで利用者が転びそうになる
  • 面会者が持参したパンや菓子をのどにつまらせてしまう
  • 別の利用者の薬を間違って飲ませてしまいそうになった
  • おむつの交換時に、利用者がバランスを崩してベッドから転落

上記の事故はケガや命に関わる危険性があるため、介護の現場ではリスクマネジメントが非常に重要です。具体的には事故の防止策と、万が一事故が起きた時の対応策も含めて、明確にする必要があります。

令和3年度の介護報酬・基準改定でもよりリスクマネジメントの強化が推進され、新たな項目が定められました。特に介護現場のリスクマネジメントにおいて注目したい項目は以下の3点です。

1感染症と災害への対応力強化感染症や災害が発生した場合でもサービスを安定的に提供できる体制を整えるため、業務継続計画(BCP)の作成や研修・訓練(シミュレーション)の実施が必要。
2安全管理体制未実施減算と安全対策体制加算の新設安全管理体制未実施減算……事故の発生または再発の防止策を講じられていない場合、基本報酬から1日あたり5単位減算される。

安全対策体制加算……安全対策部門を設置し、担当者を配置した際に20単位を加算。
3介護保険施設等における事故の報告様式の統一化事故を分析し、予防対策に有効活用していくため、介護事故報告書の様式が国で定められている。

上記からもわかる通り、今後は介護現場でのリスクマネジメントをより強化していく必要があると言えます。

「介護現場のリスクマネジメント」具体的な事例と対策

「介護現場のリスクマネジメント」具体的な事例と対策

介護現場のリスクマネジメントでは、利用者の特徴やサービスの特性を踏まえた視点が必要になってきます。まずは「どんな場面で事故が起こりやすいのか」を実際の事例から確認しましょう。

以下は厚生労働省が『福祉サービス事故事例集』を参考にまとめた事故発生状況の傾向です。

『福祉サービス事故事例集』には全国の1,384施設、また約6,400人の介護職員から寄せられた事故事例やヒヤリ・ハット事例が掲載されています。

【各施設において多く発生している上位3つの事故類型】

【各施設において多く発生している上位3つの事故類型】
【各施設において多く発生している上位3つの事故類型】

引用:「福祉サービスにおける危機管理(リスクマネジメント)に関する取り組み指針 ~利用者の笑顔と満足を求めて~」について|厚生労働省

いずれの施設でも転倒のリスクが高く、誤嚥や転落などの事故も多い傾向にあります。介護の場面では歩行・移動中が多くの割合を占める一方で、食事中や入浴時などの事故にも気を付ける必要があることがわかりました。

次に実際に起きた転倒・誤嚥・転落のケースをもとに、詳しい対策をまとめていきます。

事例1)ベッドから車いすに移動する際の転落や転倒

ベッドから車いすに移乗する際にバランスを崩したり、車いすのブレーキが不十分だったことで転倒したりする事例が多くみられます。利用者が骨折してしまった事例もあるため、十分な注意が必要です。

要因として、まず介助する職員の人数不足や車いすの基本操作の確認不足などが挙げられます。ほかにも車いすの配置やベッドの高さが適切でないために事故が起きるケースもあるので、環境整備も大切です。

基本的な動作の確認を徹底したり、受傷した利用者のケアプランと計画書は再アセスメントを基に見直し、再発防止に努めたりするなどの対策も有効でしょう。

事例2)食事中の誤嚥

食事中の発作や職員が少し目を離したすきに誤嚥する事例が多くみられます。なかには職員が問題ないと判断したミキサー食で、のどを詰まらせそうになった事例もあります。利用者の嚥下状態を都度確認することが大切です。

原因の1つである職員の注意不足を防ぐには、十分な人員配置が有効でしょう。リスクがある方のテーブルに職員が必ずつくようにして、食事中の観察をしっかり行い、利用者の食事中のリスクを職員同士で共有することが重要です。

また誤嚥や誤飲時の対応の訓練、救命器具を設置、共有し、いつでも職員が対応できるよう、万が一の事態に供えた対策も欠かさないようにしましょう。

事例3)入浴時の転落

入浴時の転落は着脱時や浴室内の移動時、体を洗っているときに起きる事例が多く報告されています。更衣台やストレッチャーなどからの転落のほか、職員が手を滑らせて利用者を落としてしまう事例が大半です。

事前に利用者の障害の状態を把握せずに介助にあたる、ストレッチャーのブレーキの掛け忘れなどが、原因の1つとして考えられます。対策として業務マニュアルの作成や介助時の基本動作のおさらいなどを行うとよいでしょう。

また機器の故障をはじめとする環境要因も考えられるので、更衣台やストレッチャーの定期点検も大切です。

介護のリスクマネジメント強化するためのプロセス

介護のリスクマネジメント強化するためのプロセス

上記で紹介したように、介護現場での事故は職員の注意力だけで防げるものではありません。人為的ミスには必ず原因があり、環境や機器の不備なども事故を招く要因として考えられます。

介護現場のリスクマネジメントを強化するためには、仕組みを作り、組織全体で取り組むことが大切です。ここでは4つのプロセスについて解説していきます。

防げる事故と防げない事故を分ける

まず念頭においておきたいのが、介護現場ですべての事故は防げないという考えです。

介護が必要な高齢者だけでなく、誰でも歩いたときにつまずいたり、食事中にむせたりなど生活上で避けられないリスクが多くあるものです。介護の現場で無事故を目指しても、避けられないトラブルは必ず存在します。

大事なのは防げる事故と防げない事故に分けて、それぞれ対策を講じることです。

介護施設で起こる事故の正しい評価基準とは

引用:介護リスクマネジメントと介護事故の防止|東京都国民健康保険団体連合会

防げる事故というのは、上記のように事業者側や施設に過失があり、危険が予知できる事故です。1~3の事故の場合、事業者は賠償責任を問われる可能性が高いため、しっかり対策する必要があります。

一方で4・5の事故は、防ぐことの難しい事故です。例えば認知症の利用者が徘徊して転倒する事故のように、対策を講じても防ぎきれないものが該当します。

しかし図のように、事故防止の要求が高いご家族も中にはいらっしゃいます。その対策については後述します。

ヒヤリハット事例を分析する

事故の分類を行ったら、防げる事故に関してその要因を分析しましょう。まず事故が起きた場所や時間、状況などを集約していくことで、施設や事業所で特に対策すべき課題が見えてくるはずです。

さらに詳しく要因を探るため、1つのヒヤリハットシートについて細かく分析します。職員の不注意で終わらせず、設備不備や人的要因、ハラスメントなどの環境要因なのかまで深く掘り下げるようにしてください。

例えば車いすのブレーキが緩んでいたことによる事故も、単なる機器の不備ではないかもしれません。手入れが十分にされていなかったり、定期点検が行われていなかったりなどが要因とも考えられるでしょう。

掘り下げることで、より具体的な対策が立てられるようになります。

具体的な対応策を考える

次に分析した事例に対し、具体的な予防策を立てていきます。先ほど解説した車いすの不備による事故の場合、定期的な安全点検をルール化することで対策できます。

例えば薬を間違えて渡してしまう誤薬事故に関しては、ミスを事前に発見できる仕組みを取り入れる方法もおすすめです。薬と利用者の写真が入ったチェックシートを作り、照らし合わせれば事故のリスクを大きく減らせるでしょう。

また医療と同様に、配薬時にご自分の名前を言える方には言って頂き、薬に明記されている名前と利用者を確認し、配薬するのも良いでしょう。

いずれにしても、利用の尊厳を守る対策を考えるのが基本です。事故防止のためといって、安易に身体を拘束や行動制限をするような対策は許されません

判断に迷うときは、利用者の行動を抑制することによって得られる安全と心身的負担を検証しながら考えてみましょう。

周知させ運用していく

最後は対応策をマニュアルにして、研修を通して職員に周知させるステップです。ただし仕組みを導入して終わりではなく、PDCAサイクルに基づいて取り組みを進め、現場に定着させる必要があります。

PDCAとは、「Plan(計画)」「Do(実施)」「Check(検証)」「Action(行動)」の頭文字をとった言葉です。

このサイクルを通して問題点を洗い出し、さらなる改善策を試していくことが、よりリスクマネジメントの強化につながります。

令和3年度の介護報酬・基準改定により、施設サービスでは安全対策担当者の設置が義務付けられました。安全対策担当者を中心に、職場全体の危機意識を高めていきましょう。

入居者家族の協力も大切

入居者家族の協力も大切

前項でお話した通り、介護現場には防げない事故が存在します。そのリスクについて利用者のご家族に事前に説明し、同意を得ていく必要があります。ご家族に理解して頂いたうえで、必要な支援をケアプランに位置づけていくことが重要です。

事故のリスクを理解してもらうためには、具体的な対策を一緒に伝える方法も有効でしょう。さらにご家族にも事故を防止するための活動に協力してもらう方法も1つの手です。

例えば自分でトイレに行きたいと望まれる利用者の転倒リスクを減らすために、ご家族には声がけをお願いしてみましょう。遠慮せず介護職員を呼ぶよう声をかけてもらうことで、事故のリスクを減らすことにつながります

介護現場のリスクマネジメントを強化しよう

介護現場のリスクマネジメントを強化しよう

介護現場でリスクマネジメントを行わないと、いずれ大きな事故、最悪死亡事故につながる可能性があります。しかし、ただヒヤリハットシートを記入するだけでは、現場のリスク対策を進めることはできません。

大事なのは、事故やヒヤリハット事例をもとに原因を分析し、大きな事故につながらないよう、個別の対応策を立てることです。さらにPDCAサイクルで運用しながら、職員全体の意識を高めることも重要になってきます。

安全対策担当者の方は、記事内で紹介したプロセスを参考に現場のリスクマネジメントを強化していきましょう。

危険予知訓練(KYT)や外部のリスクマネジメント研修などもリスクマネジメント強化に有効です。同じ事故を繰り返す、事故が減らないなどリスク対策に悩んでいる方は活用してみるとよいでしょう

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