介護士は腰痛になりやすい?腰痛の予防と対策

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介護士の仕事は腰痛になりやすいと言われていますが、実際に腰痛に悩んでいるという方も多いのではないでしょうか。腰痛が原因で仕事だけでなく日常の生活にも影響が出てしまう場合があります。今回は介護の仕事と腰痛の関係や、腰痛が起こる原因と対策について紹介します。

介護と腰痛の関係性

厚生労働省の「社会福祉・介護事業における労働災害の発生状況」によると、平成22年の労働災害は5,533件で腰痛は938件でしたが、平成26年には労働災害7,224件のうち腰痛は1,023件となっています。このデータが示す通り、社会福祉・介護事業において、労働災害発生のうちの「腰痛」が占める割合が高く、増加傾向にあることが分かります。

労働災害の内訳を見てみると、平成27年の上半期(1月から6月)に社会福祉施設で起きた労働災害のトップが「動作の反動・無理な動作」などによって起こる腰痛です。腰痛は平成24年以降の統計で毎年トップとなっており、社会福祉施設で腰痛をかかえながら働いている職員多さが見えてきます。

また、職業別に見ても介護士の腰痛が多いことがわかります。「職場における腰痛に関する日本国内の疫学調査」によると、職業別に腰痛の訴えがあった割合は以下のようになっています。

  • 事務(42〜49%)
  • 看護(46〜65%)
  • 介護(63%)
  • 運輸(71〜74%)
  • 清掃(69%)
  • 建設(29%)

介護福祉士の腰痛について調査した「介護福祉士の腰痛に関する研究 ‐勤務年数4群からの検討‐」によると、174人の介護士に腰痛の有無を尋ねたところ、130名(74.7%)の方が腰痛をかかえていると答えています。データを通して客観的に見ても、介護士の仕事は腰痛になりやすい一面があるといえるでしょう。

介護士が腰痛を引き起こす原因

腰痛が発生する要因はいくつかあり、その要因が重なることで起こるといわれています。腰痛への対策を的確に行うためには、それらの要因を取り除くことが大切です。代表的な5つの要因を紹介しますので、腰痛に悩まされている方は自分に当てはまるものがないかチェックしてみてください。

腰痛を引き起こしやすい介護業務(動作要因)

介護士の行う介護業務には、腰に負担のかかりやすい姿勢や動作が含まれているものが多くあります。腰に負担のかかる姿勢や動作とは以下のようなものです。

  • 前かがみや中腰の姿勢
  • 腰をひねる動作
  • 長時間の同じ体勢
  • 持ち上げる動作

具体的には、前かがみや中腰の姿勢で行うオムツ交換や、腰のひねり・持ち上げる動作をする移乗の介助、長時間同じ姿勢でする食事や入浴介助などがあてはまります。

心身のストレスが影響を与える(心理・社会的要因)

腰痛で悩まされている方は、めまいや肩こり、睡眠障害からくる体のストレスや、不安・抑うつといった心のストレスを訴えている方も多いという統計があります。また、腰痛をかばおうとする考えや行動が過度になりやすいという特徴が、統計の結果としてあります。

たとえば、スタッフ同士のトラブルなどの人間関係や、腰痛のまま働くことで周囲に迷惑をかけてしまうのではという思い、腰の痛みを気遣いながら働くことによるストレスなどです。こういった心身のストレスは、腰痛を悪化させ症状を長引かせる原因のひとつであることも証明されています。

体格や基礎疾患から受ける影響(個人的要因)

高齢者の介護を行う介護士本人に、腰痛を引き起こす要因がある場合もあります。年齢や性別、体格や筋力など人それぞれに異なる要素が要因となってきます。また、椎間板ヘルニアや骨粗鬆症などの疾患も要因のひとつとなります。上記以外には、妊娠中であることや介護士として経験が浅いことなども腰痛に影響を与えやすい要因です。

介護をする環境から受ける影響(環境要因)

介護士が働く環境が腰痛に影響を与えることがあります。例えば、無理な姿勢での介助が必要となる狭い空間、寒い環境や腰に振動を与えやすい床などが腰痛の要因になります。

利用者さんから受ける要因(対象者の個人的要因)

介護士が介助を行う利用者さんの身長や体重、障害や疾患、残存機能の状態が腰痛の発生する要因のひとつとなります。また、利用者さんと介護士の意思疎通の状態も、腰痛に影響を与えやすい要素です。認知症や失語症の症状などによっては、意思の疎通がうまくいかないことがあります。本来であれば利用者さん自身で行えることも、してほしい行動が相手に伝わらないと介護士が介助することになってしまう場合があるからです。

腰痛にならないため、悪化させないために気をつけたい5つのポイント

適切な方法で介助を行う

ボディメカニクスを活用する

腰痛を予防するためには、無理な姿勢や力任せの介助は避ける必要があります。ボディメカニクスを身につけることで人間の体がもつ力を効率よく使うことで、腰への負担を軽減できます。

ボディメカニクスのポイントは以下のとおりです。

  • 自身の体重を支える支持基底面積を広くとる。
  • 介助の際には重心を低くする。
  • できるだけ持ち上げる介助は行わず、水平移動を心がける。
  • 利用者さんと介護士の体(重心)を近づける。
  • 介護士の肘や膝を支点に遠心力を利用した介助(てこの原理)をする。
  • 利用者の腕や足を曲げて小さくまとめてもらう。
  • 足や腰、背中などの大きな筋肉を一緒に使って介助する。

福祉用具を利用する

介護士の体にかかる負担を減らすことができる、福祉用具を活用しましょう。リフトやスライディングボード、スライディングシートがそれにあたります。これらを使用することは、介護士の体への負担を取り除くだけでなく安全な介助にもつながるので、積極的に利用してみてください。

環境を介護しやすいように整える

車いすの通る通路を広くしたりや段差を解消することで腰痛のリスクを下げることができます。建物自体を大きく作り変えることは現実的ではありませんが、介護士が介助しやすいように居室内のスペースを広くとるために整理整頓をする、タンスの位置を変えることなどは比較的簡単に行えます。介助をする環境を一度見直してみましょう。

心と体を適度に休ませる

しっかりと休憩ができるように、休憩時間をあらかじめ業務に組み込んでおくのがよいでしょう。まとまった休憩の時間以外にも、作業の合間など介助の内容に合わせて小休止する時間がとれるようにすることをおすすめします。また、寝転がったりしてリラックスできるように、男女別の休憩室があればより体を休めることができるでしょう。

まとまった休憩時間が取れない、ゆっくりと休憩する場所がないといった場合は、ご自身の体を守るためにも上司や会社に相談をしてみてください。

利用者さんのアセスメントをする

アセスメントを行って利用者さんの残存機能を正しく見極め、それを活かした適切な介助をするようにしましょう。たとえば、足に少しでも力が入る利用者さんであれば、立ち上がりを介助する際に床へ足を着いていただくだけでも、介護士の負担は軽くなります。このように、利用者さんのアセスメントをして能力を適切に見極め残存機能を活かせるようにしてみてください。

腰痛予防の体操

腰痛予防のストレッチやエクササイズには、腰の周りの筋肉をほぐし血流をよくすることで腰痛を予防してケアする効果があります。手軽にできるものを紹介するので毎日の生活に取りいれてみてください。

寝転がった姿勢でする体操”]仰向けに寝転がった姿勢で足の裏を床につけて両膝は軽く立てておきます。息を吐きながら体と足が平行になるところまでお尻を持ち上げます。時間は5秒間を目安にしましょう。この時に、足や太ももよりもお尻に力を入れてください。

椅子に座ってする体操”]背もたれにもたれないように椅子の中央に座ります。両太ももの間に丸めたタオルを挟み、腕は交差させて添えるように軽く肩のあたりおきます。この姿勢でゆっくりと体の中心ごと肩を下げずに左右にずらすイメージで振ってください。バランスが崩れそうな位置まで体を傾け停止させることがポイントです。

介護士の腰痛と労災

腰痛は労災として認定されるのかどうか、ご紹介します。結論から言うと、条件はありますが労災として認定されます。では、その条件とはどういったものなのでしょうか。

条件は大きく2つあります。ひとつは災害性のある腰痛と呼ばれるものです。これは、突然の出来事により急激に強い力が腰にかかり起きた腰痛や、腰痛の基礎疾患、既往が腰にかかった力で悪化させたことが認められた場合のことです。もうひとつは、災害性の腰痛ではないけれども毎日の仕事の中で徐々に腰に負担がかかり起きた腰痛です。よくある「ぎっくり腰」は日常の動作のなかでも起きることなので、業務が原因であると認められない限りは労災に認定されません。

まとめ

腰痛予防は介護士を長く続けるために重要なことです。「分かっていても業務中は忙しくてそこまで気を使っていられない 」 といった場合も多いかと思いますが、今回、紹介した腰痛になる要因と対策を参考にしていただきながら腰痛の予防や悪化防止に取り組んでみてください。

また、どうしても腰痛が辛い場合は腰への負担が少ないサービス事業所への転職や、相談員やケアマネジャーなどの介護職員以外の職種になることも腰痛対策のひとつといえるので検討してみるのもよいでしょう。もし、腰痛の症状がひどいようであればガマンせずに病院などで治療するようにしてください。

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