同一労働同一賃金で介護現場がかわる? 対応メリットと4つのポイントを解説

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「パートだから」、「契約社員だから」という理由だけで、非正規職員と正社員との間に待遇差を設けていませんか?

これからは、基本給や昇給、ボーナス、各種手当などの賃金、教育訓練や福利厚生に至るまで、非正規社員と正社員との間に不合理な待遇差を設けてはいけなくなります。賃金改善や福利厚生、教育訓練の実施といった処遇改善への取り組みは、介護現場において費用負担が増加する可能性があり、「同一労働同一賃金」への対応に気乗りしない事業者も少なくないでしょう。

ここでは、「同一労働同一賃金」が介護現場にもたらす影響とそのメリット、導入のステップについてご紹介します。

介護現場にも適応! 同一労働同一賃金とは

2020年4月にパートタイム・有期雇用労働法が施行されました。「同一労働同一賃金」は、非正規雇用労働者と正規雇用労働者との間で賃金や福利厚生などにおいて、不合理な待遇差をなくそうとするまだ新しい取り組みの一つです。これには非正規雇用労働者が働きがいを得ることによるモチベーションアップが期待されています。

2021年4月からは中小企業にも適用されることとなり、介護施設や事業所もその対象となりました。令和2年度介護労働実態調査によれば介護施設職員で約3割、訪問介護職員にいたっては約4割が「有期雇用労働者」であり、非正規労働者を戦力とする介護業界に大きな痛手となる可能性があります。非正規労働者にあまりコストを掛けたくない事業者側にしてみれば無関心ではいられない問題であり、十分な準備が必要となります。

なお、派遣労働者についても企業規模を問わず一律に適用となるため、「比較対象労働者の選定方法」や「待遇に関する情報の提供方法」などについて、派遣会社に事前に確認しておくことが大切です。

同一労働同一賃金の線引き! 合理的な待遇差とは

能力や経験が同じであれば、不合理な待遇差があってはならないとされています。では逆に合理的な理由があれば、待遇差があっても問題とはならないのでしょうか。

ここでは、どのような待遇差が合理的といえるのか、厚生労働省がまとめている「同一労働同一賃金ガイドライン」を参考に説明します。

基本給について

ひとくちに基本給といっても「能力や経験」、「業績や成果」、「勤続年数」など待遇を考慮する際にはさまざまな要素があります

能力又は経験に一定の差がある場合は合理的

たとえばキャリアアップ制度を導入していて、専門スキルを習得した正規職員の介護士Xにはそのスキルに応じた基本給を支給し、習得していないパート介護士Yには支給しなかったとしても問題はありません。

また、同一職場で同一の業務を行うパート職員のうち、一定のスキルと経験が伴った介護士Xを正規職員に登用し、業務や勤務場所の変更があることを理由に、ほかのパート介護士よりも基本給を高く設定したとしても問題ありません。

一方で経験豊富であることを理由として、正規職員の基本給を同一職にあるパート職員よりも高く設定している場合、その正規職員の職歴や経験が現在の業務と無関係だとすると問題となるので注意が必要です。

業績や成果に一定の差がある場合は合理的

訪問看護ステーションなどでは、一定の訪問件数に応じて基本給の一部を支給する場合があります。勤務時間の短い非正規職員が、訪問件数において正規職員が目標とする件数の半分であった場合、正規職員が目標を達成した際の半分を支給するとしていても、その差は問題となりません。

一方で、勤務時間の短い非正規職員の目標件数を通常の労働時間で働く正規職員と同一に設定しておきながら、支給額を半分とするのは問題となるので注意が必要です。

勤続年数に一定の差がある場合は合理的

勤続年数に応じた基本給を支給している場合、有期雇用契約を更新している非正規職員に対して、当初の労働契約の開始時から通算して勤続年数を評価したうえで支給していれば問題はありません。

一方で、その時点の労働契約期間のみで勤続年数を評価して支給すると問題となるので注意が必要です。

賞与について

介護施設や事業所への貢献度に違いがあるのならば、賞与(ボーナス)に違いがあっても問題にはなりません。たとえば、正規職員の介護士Xには業務の効率(残業時間など)や利用者に対するサービスの質(満足度など)の目標値に責任があり、パート介護士のYにはその責任がない場合、Xには賞与を支給してYには支給しなかったとしても問題にはなりません。

一方で正規職員の全員に何らかの賞与を支給し、業務内容や貢献度が同じであるはずの非正規職員には支給していないとなると、あきらかに問題となるので注意しましょう。

手当について

ここでは、「役職手当」と「深夜及び休日手当」を例にあげて説明します。

役職の内容に一定の差がある場合は合理的

正規職員と同一の職責に就く非正規職員の介護士で、勤務時間が正規職員の半分である場合、職務手当の支給が正規職員の半分であったとしてもその差は問題ありません。

一方で、非正規職員だからという理由だけで正規職員よりも職務手当を低く設定することはできないので注意が必要です。

深夜及び休日手当について

正規職員と時間数も業務内容が同じで深夜の勤務や休日労働を行う非正規職員に対して、一律の手当を支給していればもちろん問題とはなりません。

しかし、深夜又は休日以外の労働時間が短いことを理由に、深夜及び休日手当の単価を正規職員よりも低く設定すると問題となるので注意しましょう。

福利厚生とその他

教育訓練などの必要なスキルや知識を習得する機会は、正規職員か非正規職員かを問わず、その機会を同等に与えなければいけません。もしも業務内容に違いがあるのであれば、その違いに応じた教育訓練の機会を提供する必要があるので注意しましょう。

「同一労働同一賃金」が介護現場にもたらすメリット

同一労働同一賃金の導入により、介護現場では従業員にかかるコストが増え、収益の悪化から雇用抑制を余儀なくされるなど、何らかの負担を強いられる可能性があります。

一方で同一労働同一賃金の導入は、多くのメリットを生む可能性もあるのです。ここでは、同一労働同一賃金が介護現場にもたらすメリットについてご紹介します。

非正規職員のモチベーション向上と能力開発につながる

非正規職員にとっては能力の度合いに応じて賃金や手当が引き上げられる可能性があるため、労働の対価に満足感が高まってモチベーションのアップにつながります。また、正規職員と同じ教育訓練を受けることができ、業務に必要な知識やスキルを身につけることでサービスの質の向上が期待できます。

慢性的な人材不足を解消できる

賃金や福利厚生の改善、教育訓練の機会を与えることは、非正規職員に仕事へのやりがいを持たせるとともに、離職を防止することができます。

また、収入面が是正されることで正規職員として働く必然性が薄れるため、一人ひとりにあった自由な働き方が選択でき、転職希望者や未就業者の応募増加も期待できるでしょう。さらには非正規職員から正規職員への雇用促進にもつながる可能性があるため、慢性的な人材不足を解消する一手ともなり得るのです。

「同一労働同一賃金」の対応に向けた4つのステップ

では同一労働同一賃金の導入を進めるには、どのような手順で進めればよいのでしょうか。

ここでは、同一労働同一賃金の対応に向けた4つのステップについて紹介します。

全職員の雇用形態を整理する

まずは、対象となるパートタイム職員や有期雇用職員の有無を確認します。たとえば雇用契約期間が有期か無期かを問わず、正規職員と比べて1週間あたりの所定労働時間が短い職員や雇用契約期間に定めがある職員を抽出します。

次に職員を勤務形態ごとに分類します。たとえばパート職員で「短時間かフルタイムか」、「有期か無期か」、アルバイトで「短時間かフルタイムか」、「有期か無期か」といったように書き出してみるのです。

雇用形態ごとの待遇状況を確認する

パートタイム職員と有期雇用職員のタイプ分類が済んだならば、それぞれの基本給や賞与、手当、福利厚生などの内容を精査し、正規職員との相違点を書き出してみましょう。

待遇差の理由を確認する

パートタイムや有期雇用職員と正規職員との間で待遇に違いがある場合、それがどのように違っていて、どのような理由から差を設けているのかを書き出してみます。

たとえば「トラブル発生時に求められる対応」、「職務内容や配置変更」、「異動の範囲」などが理由にあたります。

待遇差が「不合理ではない」理由を整理する

「パートだから」、「契約社員だから」、「正規職員は非正規職員と将来の役割への期待値が異なるから」という抽象的な理由は認められません。

「なぜ差があるのか」と、正規職員との待遇差の理由をパートタイムや有期雇用職員から求められた際に備え、詳しく説明できるように文書として整理しておくことをおすすめします。

「同一労働同一賃金」を基本とした抜本的な働き方改革を

同一労働同一賃金が導入され、非正規職員の待遇を改善する取り組みのなかで、事業者は人件費の上昇など何らかの経営負担を強いられます。

一方で同一労働同一賃金への取り組みは、働きやすい職場づくりと分け隔てないという職員の信頼を獲得する絶好の機会としてポジティブにとらえることもできます。施設・事業所側の人件費の負担増と考えるだけではなく、人事制度の抜本的な見直しのきっかけと共に、労働環境整備のための投資と前向きに取り組んでいきましょう。

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