介護施設での感染症対策!集団感染を防ぐために職員ができること

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介護施設での感染症対策!集団感染を防ぐために職員ができること

新型コロナウイルスが日本の各地で猛威を振い、介護事業所ではこれまで以上に感染症予防に対する措置が取られていると思います。
厚生労働省でも、令和2年5月4日付事務連絡で「介護老人保健施設等における感染拡大防止のための留意点について」の情報を出すなどして取り組みを進めています。正しい知識を持ち実践することが、感染症対策として大変重要であることはみなさんも理解されているでしょう。一方で、「本当にこのやり方でいいのだろうか」と不安に感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこでこの記事では厚生労働省が発表する「 高齢者介護施設における 感染対策マニュアル 」をもとに、感染症対策について詳しく紹介します。

感染症とは

感染症とは、環境のなかにある大気、水、土壌、動物(人も含む)などに存在する病原性の微生物が人の体に入り込み、繁殖して起こる疾患のことです。環境中には人の目には見えませんが、細菌、ウイルス、真菌などの微生物が多く存在しています。

感染症は、大きく分けると「伝染性」と「非伝染性」の2つに分けられます。伝染性の感染症は人から人にうつり、非伝染性の感染症は動物や昆虫などから感染を起こし人から人にはうつることはありません。また、感染して症状が現れる場合(顕性感染)もあれば、症状がはっきりと現れない場合(不顕性感染)もあります。不顕性感染は感染している本人が気づかないことから、知らないうちに感染を拡げてしまうケースがあります。

感染対策のために必要なこと

一般的に高齢になるとは免疫力が低下するといわれています。介護サービスを利用する何らかのサポートが必要な方は、特に免疫力が低下した状態にある場合も多いでしょう。免疫力が低下し、抵抗力の低い高齢者の健康と命を守るためには介護施設での徹底した感染症の対策を行う必要があります。介護施設で働く職員一人ひとりが感染症の特徴を理解し、自ら考え実践することが感染症対策への第一歩となります。また、それぞれの施設の実情に合わせた独自のマニュアルや指針をつくることも必要です。

施設長(管理者)ができること

以下のようなポイントをおさえた行動が感染症への対策では大切になります。

  • 感染症を予防するための正しい知識を身につける。
  • 感染症が発生した時の正しい対応の方法を身につける。
  • 常日頃から感染症に対して次のような活動を施設内で行う。
    感染対策委員会の設置
    指針とマニュアルの策定
    職員等を対象とした研修の実施
    設備整備、など
  • 関係機関との間で次のような事務連絡などの連携を進める。
    感染症に関する情報の収集
    感染症発生時の行政への届け出など
  • 次のようなポイントをおさえた職員の労務管理を行う。
    職員の健康管理
    職員が感染症に感染した場合に療養できるような人的環境を整える

施設の職員ができること

  • 介護施設で働く職員は次のような感染症の特性や特徴を理解しておく必要があります。
    利用者さんと、働く施設の特性
    介護施設で発生が懸念される感染症の特徴
  • 次のポイントをおさえた感染症に対する基本的な知識を身につける。
    予防と発生時の対応
    特に高齢者がかかりやすいとされる感染症の知識
  • 日常的に感染症対策を業務へ取り入れる。
  • 職員は健康の管理を行い感染源や媒介者にならないように注意する。

感染症が発生する3つの要因

感染症は、感染源とも呼ばれる病原体と感染経路、感受性宿主と言われる感受を受けやすい人がそろうことで起こってしまいます。感染源、感染経路、感受性宿主の特徴は以下のようになっているので参考にしてください。

病原体(感染源)

感染症の原因となる細菌やウイルスなどの微生物を含んだものや人のことを病原体(感染源)と呼びます。以下のようなものは病原体(感染源)となる可能性があります。

  • 嘔吐物、排泄物(便・尿)、創傷皮膚、粘膜
  • 注射針・ガーゼなどの使用した器具・器材
  • 汗以外の体液(血液、唾液、鼻汁、喀痰、腹水、胸水、涙、膿、母乳など)
  • 上記に触れた手指

感染経路

細菌やウイルスなどが人の体の中に運ばれる経路のことを感染経路と言います。主な感染経路には接触感染、飛沫感染、空気感染、血液媒介感染があげられます。

接触感染 (経口感染含む)

感染する頻度の高い経路となっており、手指、食品、さまざまな器具を介して感染します。
(例)ノロウイルス、腸管出血性大腸菌、メチシリン耐性黄色ブドウ 球菌(MRSA)など

飛沫感染

人のする咳やくしゃみ、会話の際に飛び散る唾液などの飛沫粒子(5μm 以上)により起こる感染経路のことです。約1m以内で床に落下し、空中を漂い続けることはありません
(例)インフルエンザウイルス、ムンプスウイルス、風しんウイルスなど

空気感染

咳、くしゃみなどで空中を浮遊する飛沫核(5μm 未満)を吸い込むことで起こります。
(例)結核菌、麻しん、ウイルス、水痘ウイルスなど

血液媒介感染

血液や体液などの病原体に汚染された分泌物が、針刺しや感染者の外傷を手当する際に傷口や粘膜を経路に体内へ入ることで起こります。
(例)B 型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルスなど

感受性宿主(感受を受けやすい人)

特に抵抗力が低く感染を受けやすい人のことを感受性宿主と言います。子供や高齢者がこれに含まれており、高齢者は免疫の機能が低下し、抵抗力が落ちている場合があるので注意が必要です。普段から十分な栄養と睡眠をとり抵抗力がつくようにすることが大切です。また、ワクチン接種によって免疫を得ることも効果的です。

感染症対策の3つの基本

病原体(感染源)の排除

病原体(感染源)を排除するためには「感染させないこと」が基本です。具体的には、病原体には素手で触らずに手袋を着用して対応することや、手袋を脱いだあとに手指の消毒を徹底することで感染の予防ができます。仮に感染したとしても、上記で紹介したようにあらかじめ免疫力をつけておくことで、発症の確率を低くおさえられます。

感染経路別予防策

感染源を「持ち込まない」「持ち出さない」「拡げない」を意識して実行することが感染経路を断つことにつながります。以下で、4つの感染経路と具体的な予防策について紹介します。

接触感染予防策

  • 徹底した手洗いの実施。
  • ケアの際には手袋を着用する。同じ人であっても便や傷口の膿などに触れる場合は手袋を交換する。
  • 病原体(感染源)に汚染されているものに触れることが予想された時点でガウンを着用する。
  • ガウンを脱いだ後は、ガウンの表面が物品や衣服に触れないようにする。
  • 感染を広げる可能性が高い方は個室で管理をする。ただし、同じ感染症にかかっている方がいる場合は集団隔離とする場合もある。
    ※感染している方の居室に特殊な空調を設置する必要はありません。

飛沫感染予防

  • 職員はマスクを着用する。
  • 感染症の症状のある方(疑われる症状を含む)にはマスク着用をしてもらう。
    ※呼吸状態に配慮する必要があります。
  • 感染症にかかっている方は個室での管理を基本とする。同じ感染症にかかっている方がいる場合には集団で隔離する場合もある。
  • 感染症にかかっている方をそれぞれに隔離して管理ができない場合にはベッド間をカーテンなどで仕切る、ベッドの間隔を2m以上あける対応をとる。
    ※感染している方の居室に特殊な空調を設置する必要はなくドアは開けたままでもかまいません。
    ※感染している方の居室に特殊な空調を設置する必要はありません。

空気感染予防策

  • 感染者は入院治療を実施する。
  • 病院へ入院するまでの間、感染した方は個室で管理を行う。
  • 結核にかかり排菌している感染者と接触する場合には、高性能マスク(N952など)を着用する。

血液媒介感染予防策

  • 血液に触れる場合(出血や吐血、褥瘡のある方への対応など)には、職員は手袋やガウンを着用して血液に触れないようにする。

個人の抵抗力の向上

介護サービスを利用する高齢者は免疫力が低下している可能性があることから、免疫力を高めて病気への抵抗力を向上させることが重要です。感染症対策の視点から免疫力を高めるケアを日頃から意識して行うことが大切です。

  • 栄養バランスの良い食事を提供する。
  • 充分に睡眠をとる。
  • 清潔を保持する。
  • 運動をして体を動かす。
  • 笑う機会を持つ。
  • ストレスをやわらげることや感じさせないようにする。

標準予防策(スタンダード・プリコーション)

厚生労働省が感染症への望ましい対応としているのが、1996年にアメリカ合衆国のアメリカ疾病管理予防センター(CDC)が提唱した「すべての患者の血液・体液・排泄物は感染源になる可能性があるものとして取り扱う」というものです。人は誰でも病原体を持っているかもしれないリスクがあると理解しておきましょう。

具体的な対応方法

  • 素手で感染源に触った場合にはすぐに手洗いをする。
  • 触る際には手袋を着用し、終わったときには手袋を外して石鹸と流水で手洗いをする。
  • 口や鼻の中(粘膜)が感染源により汚れることが予想できる場合にはマスクを着用する。
  • 感染源により着衣しているものが汚れそうな場合にはプラスチックエプロンやガウンを使用する。
  • 咳やくしゃみの飛沫が目に入りそうな場合にはゴーグル、アイシールドを着用する。
  • 顔や目、口、鼻の粘膜が感染源となりうる咳やくしゃみ・痰などで汚れそうな場合にはフェイスシールドを使用する。
  • 床が感染源で汚れた場合には手袋をして消毒剤を使い拭き取る。

正しい手洗い・消毒の方法

手洗い

手洗いの手順

  1. 両方の手のひらをすり合わせる。
  2. 手の甲をこすり洗う。
  3. 指の先は指を立て手のひらでこする。
  4. 指の間は両手指を組みこすり洗う。
  5. 洗う側の親指を逆側の手で握り洗う。
  6. 手のひらを洗う。
  7. 片方の手首を逆側の手で握り洗う。

手洗いの注意点

洗い残しやすい指の先や指のあいだ、親指の周囲、手首、手のしわなどに注意する。
指輪や腕時計といった装飾品などは外して洗う。

手指消毒

手指消毒の手順

※速乾性擦込式消毒液を使用する場合

  1. 手洗いを行ったあと、液体3mlを手指に取り手のひらをこする。
  2. 指の間をこする。
  3. 指先と爪の部分をこする。
  4. 手の甲をこする。
  5. 親指にねじるようにすりこむ。

介助時のポイント

食事介助

介護職員が病原菌を媒介しないように、食前の徹底した手洗いと清潔な食器や器具の用意をしましょう。清潔な状態を保つことができるように利用者さんが使用した吸い飲みは食器用洗剤などを使用してきれいに洗ってください。

排泄介助

スタンダードプリコーションの説明の際に伝えたように尿や便には病原体があると考えましょう。職員が媒介しないように介助などをする際には手袋、エプロン、ガウンを使用することが重要です。使用した手袋やエプロンはひとつのケアが終わるたびに取り換えて手指消毒を行い、汚れが目に見える場合は手洗いをしましょう。おむつ交換の際に物品などを積んだカートと一緒に移動することは感染を拡げてしまうことにつながるので使用は避けてください。

まとめ

感染症の対策について紹介してきましたが参考になったでしょうか。感染症から高齢者施設利用者さんの生活と命を守り、安心・安全なサービスを提供するとともに、一般の生活者でもある自身を感染症から守るためにも、感染症対策を正しく理解し実践してください。