感染症予防の対策~感染予防の基礎知識と感染症発生の防止~

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
感染症予防の対策~感染予防の基礎知識と感染症発生の防止~

全国の介護施設や事業所において、新型コロナウイルスによるクラスターの報道が、増えています。特にオミクロン株の疑いもあり、先日も保健所の保健師の方とお話をしましたが、「5波に比べ、6波はスピードが早く、情報共有が追い付いていない。」と話されていました。

年末年始にご家族がご利用者のお家に帰省され、体調が悪く、PCR検査を行ったら陽性になったため、念のためご利用者やご家族がPCR検査を受検されたら、無症状だが陽性になった例など、無症状の陽性者も増えています。

緊急事態宣言が解除され、プライベートでの外出や外食の機会も増えたかと思いますが、私たちは福祉専門職として特段の感染予防に注意した日頃からの心がけが、媒介にならない体制には必要です。今回は『感染症予防の対策~感染予防の基礎知識と感染症発生の防止~』についてご紹介します。

感染者も増えてきた中で、あらためて皆さんの施設・事業所で、見直す機会にして頂ければ幸いです。

感染症対策の基礎知識

感染症に対する対策の柱として、以下の3つが挙げられます。

  1. 感染源の排除
  2. 感染経路の遮断
  3. ご利用者・ご入居者の健康管理

感染源

感染症の原因となる微生物(細菌、ウイルスなど)を含んでいるものを感染源といい、次のものは感染源となる可能性があります。

  1. 排泄物(嘔吐物・便・尿など)
  2. 血液・体液・分泌物(喀痰・膿みなど)
  3. 使用した器具・器材(刺入・挿入したもの)
  4. 上記に触れた手指で取り扱った食品など

1、2、3は、素手で触らず、必ず手袋を着用して取り扱いましょう。また、手袋を脱いだ後は、手洗い、手指消毒が必要です。

感染経路

感染経路には、1. 空気感染、2.飛沫感染、3.接触感染、及び針刺し事故などによる血液媒介感染などがあります。感染経路に応じた適切な対策をとりましょう。

  1. 空気感染:咳・くしゃみなど飛沫核(5μm以下)として伝搬する。空中に浮遊し、空気の流れにより飛散する

    例)結核菌・麻しんウイルス・水痘ウイルス等
  2. 飛沫感染:咳・くしゃみ、会話などで感染する。飛沫粒子(5μm以下)は1m以内に床に落下し、空中に浮遊し続けることは出来ない。

    例)インフルエンザウイルス・ムンプスウイルス・風疹ウイルス・レジオネラ等
  3. 接触感染:手指・食品・器具を介して伝搬する。最も頻度の高い伝播経路である。

    例)ノロウイルス・腸管出血性大腸菌・MRSA・緑膿菌など

感染経路の遮断とは・・・

そのためには、手洗いの励行、うがいの励行、環境の清掃が重要であり、血液・体液・分泌物・排泄物などを扱うときは、手袋を着用するとともに、これらが飛び散る可能性のある場合に備えて、マスクやエプロン・ガウンの着用を行うものとします。

介護施設における感染症は、施設内でまったく新規に発生することはまれであると考えられます。つまり、新規のご利用者、職員、面会者などが施設外で罹患して施設内に持ち込むことが多いのです。したがって、介護施設における感染対策では、施設の外部から感染症の病原体を持ち込まないようにすることが重要です。

具体的には、「新規のご利用者・ご入居者への対策」と「職員、委託業者、面会者、ボランティア、実習生」などに対する対策が重要となります。中でもスタッフは、ご利用者と日常的に長時間接するため特に注意が必要です。日常から健康管理を心がけるとともに、感染症に罹患した際には休むことができる職場環境づくりも必要です。また、定期的に活動するボランティアや、頻繁に面会に来られるご家族にも、同様の注意が必要です。


【参考】スタンダード・プレコーション(standard precautions、標準的予防措置(策))とは1985 年に米国CDC(国立疾病予防センター)が病院感染対策のガイドラインとして、ユニバーサル・プレコーション(Universal precautions、一般予防策)を提唱しました。これは、特にAIDS 対策(患者の血液、体液、分泌物は感染する危険性があるため、その接触をコントロールすること)を目的としたものでした。その後、1996 年に、これを拡大し整理した予防策 が、スタンダード・プレコーション(Standard precautions、標準的予防措置(策))です。「すべての患者の血液、体液、分泌物、排泄物、創傷皮膚、粘膜などは、感染する危険性があるものとして取り扱わなければならない」という考え方を基本としています。

感染症発生の防止

◎健康管理の徹底

ご利用者・ご入居者

【ご利用時・ご入居時の健康状態の把握】
入居・利用時点での健康状態を確認することから始まります。主治医から「主治医の意見書」などを提出して頂き、サービス内容によっては「診断書」を作成して頂きます。また、感染症に関する既往歴などについても確認します。やむを得ず書類での確認ができない場合は、サービス担当者会議等での情報やご家族からの聞き取りを記録に残します。

注意が必要な疾患としては、痂皮型疥癬(ノルウェー疥癬とも言われる)、MRSA、結核などがあります。これらの症状がある場合には、原則として、入居・利用前に治療を済ませてもらうようにします。 基本的には、他の感染症既往者の入居は感染管理上、特に問題はありませんので、既往のあるサービス利用申込者に、不利益が生じないように配慮(説明、同意)する必要があります。

【入居・利用後の健康管理】
重要なのは、衛生管理の徹底だけではなく、日常からご利用者・ご入居者の抵抗力を高め、感染予防を進める視点です。できるだけチューブをはずす(尿留置カテーテル等)、おむつをはずす取り組みを行うなど、ご利用者・ご入居者の健康状態の維持・向上に寄与する取り組みを行うことが必要です。

健康状態を把握するためには、栄養状態の把握(総蛋白質、アルブミンの値などを指標とする)、食事摂取状況(摂取量Check、体重測定による)や、定期的なバイタル測定が必要です。これらの指標から異常の兆候を発見して、早めに対応することにより、抵抗力を保持することが可能となります。

また、ご利用者・ご入居者の健康状態を記録し、早期に体調の悪い人がいないかを把握することが必要です。次のような症状をチェックし、記録に残すことが必要です。

  1. 吐き気・嘔吐の有無・回数及び内容(性状)、量
  2. 下痢の有無、性状・回数
  3. 発熱時の体温

感染症を発見しやすくするために、発生の状況を定期的に分析することにより、「日常的な発生状況」を把握し、「現時点での発生状況」との比較を行います。

高齢者は感染症等に対する抵抗力が弱いことから、早期の発見と対応が重要です。施設外で感染症等が流行している時期には、予防接種や、定期的な健康診断の実施が必要となります。

職員

a 感染媒介となりうる職員

一般的に、職員は施設の外部との出入りの機会が多いことから、施設に病原体を持ち込む可能性が最も高いことを認識する必要があります。また、日々の介護行為において、ご利用者・ご入居者に密接に接触する機会が多く、ご利用者・ご入居者間の病原体の媒介者となるおそれが高いことから、日常からの健康管理が重要となります。

施設の職員が感染症の症状を呈した場合には、施設の実情を踏まえた上で、症状が改善するまで就業を停止することを就業規則で唱っています。職員が病原体を施設内に持ち込むリスクは極めて高いため、完治するまで休業させること予防接種の実施に当たっては、スタッフに対して、予防接種の意義、有効性、副反応の可能性等を十分に説明して、同意を得た上で、積極的に予防接種の機会を提供しましょう。

まとめ

介護施設は、感染症に対する抵抗力が弱い高齢者が、集団で生活する場です。このため、介護施設は感染が広がりやすい状況にあることを認識しなければなりません。

また、感染自体を完全に無くすことはできないことを踏まえ、感染の被害を最小限にすることが求められます。

このような前提に立って、介護施設では、感染症を予防する体制を整備し、平常時から対策を実施するとともに、感染症発生時には迅速で適切な対応を図ることが必要となります。

感染対策を効果的に実施するためには、職員一人一人が自ら考え実践することが重要となります。

CWS for Care
  • このエントリーをはてなブックマークに追加