
令和3年介護報酬改定から義務化となったBCP策定ですが、それに伴い研修や訓練も行わなければいけません。前回までは「BCP研修・訓練(自然災害)(感染症)」についてご紹介させていただきました。
今回はこれらを踏まえ、「避難訓練・消火訓練・通報訓練」について、ご紹介させていただきます。皆さんの業務にご活用いただければ幸いです。
目次
防災計画と業務継続計画(BCP)の違い
BCPでは、防災計画の目的に加えて、優先的に継続・復旧すべき重要業務を継続する、または、早期復旧することを目指しており、両方の計画には共通する部分もあり密接な関係にあります。
防災計画 | BCP |
|
---|---|---|
主な目的 | ・身体、生命の安全確保 ・物的被害の軽減 | ・身体、生命の安全確保に加え、優先的に継続、復旧すべき重要業務の継続または早期復旧 |
考慮すべき事象 | ・拠点がある地域で発生することが想定される災害 | ・自社の事業中断の原因となり得るあらゆる発生事象 |
重要視される事象 | ・以下を最小限にすること >「死傷者数」 >「損害額」 ・従業員等の安否を確認し、被害者を救助・支援すること被害を受けた拠点を早期復旧すること | ・左記に加え、以下を含む >重要業務の目標復旧期間・目標復旧レベルを達成すること >経営及び利害関係者への影響を許容範囲内に抑えること >利益を確保し企業として生き残ること |
活動、対策の検討範囲 | ・自社の拠点ごと | ・全社的(拠点横断的) ・依存関係にある主体(委託先、調達先、供給先) |
【出典】「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」
BCP研修・訓練とは

BCPの研修・訓練は、介護施設などとしての事業を継続するための訓練・研修です。年間研修計画に組み込み、年2回実施ください。なお、消防訓練と同日での開催も可能です。
避難訓練

消防法によって、年2回の避難訓練を行うことを義務付けられております。介護施設においては、2回のうち1回は夜間想定の訓練実施をするよう求められています。消防署へ提出しております消防計画に基づき訓練の実施を行ってください。
事前に消防署に相談することで、消防署職員に来所していただき、消火器の模擬操作訓練などや、拠点ごとに助言をいただくこともできますので、検討してください。
避難訓練(事前準備)
- 訓練計画の策定
- 訓練計画の告知
- (管轄により)消防署へ避難訓練計画を提出(必要の有無は拠点にて確認してください)
- 消防設備(消火器、消火栓、防火扉、スプリンクラー、報知器、受信盤)の確認
- 自力避難可能な利用者、困難な利用者の振り分け
- 消火と避難誘導、通報の担当者を決める
- 緊急連絡網の確認
- 火元に対しての避難ルートの策定
- 非常口の確認
避難訓練の流れ
事前準備⇒消火訓練⇒通報訓練⇒避難訓練⇒振り返り
避難訓練
非常口・避難経路の確認⇒自力避難が可能な利用者には、避難場所(屋外)を指示し向かっていただく⇒自力避難が困難な利用者は、廊下など一時避難場所に集めてから屋外へ避難させる
想定しておくこと
- 災害の種類
- 洪水:土砂災害・地震など
- 火災の場合:火元
抽出しておくこと
- 自力避難できる利用者
- 自力避難ができない利用者
※エレベーターは使用禁止です。
非常階段での避難が困難な場合、火元から離れたベランダやバルコニーで救助を待つという選択もあります(水平避難)
消火訓練

各担当者を決め、
火元を確認する⇒職員や利用者に火災が発生したことを伝え避難を促す⇒初期消火を行う(消火器)⇒火災室を閉鎖する⇒館内から煙を逃すため窓を開ける
訓練の際はそれぞれ役割、シチュエーションを決めて行いましょう
想定しておくこと
- 火災場所
- 時間帯
- 利用者人数
- 職員人数
決めておく役割
- 火元を確認する担当
- 避難を促す担当
- 初期消火をする担当
- 窓を開ける担当
通報訓練

消防通報時に主に聞かれることを確認しましょう
- 火事or救急
- 施設の住所
- 何階建てか、どこが燃えているか
- 利用者、職員の総数、逃げ遅れている利用者などはいるか
- 目印となる建物
- 通報者の名前
※特に今、館内に利用者、職員が何名いるかを把握しておくことが重要です
夜間想定

【日中との違い】
- 利用者は全員居室で就寝中、職員は1名か2名
- 「火災報知器が発報する前の段階で出火確認」を想定
- 消防へ通報⇒管理者へ報告⇒初期消火を行う⇒初期消火が不可能な場合は避難誘導実施
- 避難誘導については、「避難訓練」を参照
- 自力避難可能な利用者、できない利用者を事前に把握しておきましょう
振り返り
- 質疑応答、訓練報告書の記入
- (管轄により)消防署へ避難訓練報告書を提出または報告連絡
まとめ
『介護保険最新情報Vol.1225令和6年3月15日厚生労働省老健局』においての「管理者の責務」については、次のように明記されています。
問184 管理者に求められる具体的な役割は何か。
(答)「指定居宅サービス等及び指定介護予防サービス等に関する基準について」(平成11年9月17日付け老企第25号)等の解釈通知においては、管理者の責務を、介護保険法の基本理念を踏まえた利用者本位のサービス提供を行うため、現場で発生する事象を最前線で把握しながら、職員及び業務の管理を一元的に行うとともに、職員に指定基準の規定を遵守させるために必要な指揮命令を行うこととしている。具体的には、「介護事業所・施設の管理者向けガイドライン」等を参考にされたい。
≪参考≫「介護事業所・施設の管理者向けガイドライン」(抄)(令和元年度老人保健健康増進等事業「介護事業所・施設における管理者業務のあり方とサービス提供マネジメントに関する調査研究」(一般社団法人シルバーサービス振興会)
第1章 第2節管理者の役割
- 管理者の位置づけおよび役割の重要性
- 利用者との関係
- 介護にともなう民法上の責任関係
- 事業所・施設の考える介護職員のキャリアイメージの共有
- 理念やビジョン、組織の方針や事業計画・目標の明確化および職員への周知
- 事業計画と予算書の策定
- 経営視点から見た事業展開と、業績向上に向けたマネジメント
- 記録・報告や面談などを通じた介護職員同士、管理者との情報共有
BCPに伴う研修や訓練と避難訓練、消火訓練、通報訓練においても、日頃の管理者のリーダーシップが活かされますので、管理者としての責務と職員との信頼関係をあらためて見直していただく機会にされてください。