今日からできる!介護現場における労災対策

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介護業務は身体的、精神的に負担がかかる仕事です。介護職員の健康は本人だけの問題ではなく、利用者の生活や職場環境にも関わるといっても過言ではありません。この記事では、具体的な事例や統計データから、職場で実際にできる労災事故の予防策について紹介していきます。

介護業務は労災保険の対象となるのか

介護職として業務を行っている際に、事故や怪我をすることがあるかもしれません。労災保険は労働者に対して労働中あるいは通勤時の事故や怪我を負った場合に、療養保障や休業補償をする制度ですが、介護業務においてはどのような病気や怪我に適用されるのでしょうか。

介護業務においても、利用者を介助する際に発生する可能性のある事故や怪我などについて、労災保険の対象になるかどうかの基準が定められています。

社会福祉施設における労働災害の実態

実際に事故や怪我を負った際にそれが労働災害と認められるには、労働基準監督署長による認定を受けなければなりません。一般的に労災保険は業務上の災害、または通勤災害に該当する負傷や疾病、障害や死亡が給付の対象となります。

しかしながら介護業務は対人援助を基本とする生活支援であるため、転倒や転落、無理な動作による負傷など、災害の原因は多岐にわたります。

過去4年間の推移

厚生労働省は平成29年から令和2年における労働災害の推移を分析し、労働現場全体の発生件数が減少傾向ではあるものの、社会福祉施設等の現場における事故はいまだ増加傾向であると発表しました。

平成29年平成30年令和元年令和2年
社会福祉施設での事故2,349人2,543人2,538人2,762人

これは、過去4年間の5月時点における死傷災害者数の推移データです。社会福祉施設では令和元年以降、毎年10,000人以上が労働災害にあっています。

<参考>社会福祉施設で働くみなさま 労働災害の現状 – 厚生労働省

労災に認定されている事故の割合

中央労働災害防止協会のデータによると、平成27年から令和2年に社会福祉施設で発生した労働災害では、「動作の反動・無理な動作」(腰痛など)によるものが全体の34%でもっとも多く、次に「転倒」が33%となっています。そのほかには「墜落・転落」や「交通事故(道路)」、「激突」なども見られます。

年齢層での発生比率を見ると年齢が高くなるほど高く、性別では男性職員よりも女性職員のほうが多く見られます。

労災保険における給付の種類

労災保険は、原則として労働者であればアルバイトやパートタイマーといった雇用形態に関係なく給付を受けることができます。一人でも従業員を雇用している事業所であれば、業種や規模は問われません。主な給付には次のようなものがあります。

給付の種類内容
療養給付業務災害、複数業務による災害または通勤災害による傷病で療養するときの治療費の支払い
休業給付業務災害、複数業務による災害または通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないときの休業療養中の生活補償
障害給付業務災害、複数業務による災害または通勤災害による傷病が治癒したのちの後遺障害に対する給付
傷病給付受傷から1年6ヶ月を経過した重篤な傷病に対する給付
介護給付重篤な傷病によって受ける介護に対する給付

こんなときはどうすればいい? 事例を紹介

介護業務における労災事故について、いくつかの事例を紹介します。利用者の身体介護における事故だけではなく、感染症の罹患や利用者からの暴力など様々な場面で事故が想定されます。業務上で発生した事故に労災を適用するためには、それぞれ条件があるので参考にしてください。

腰痛

社会福祉施設における労働災害は、増加傾向にあります。主な労働災害としては、介助に伴う「腰痛」や「転倒」です。腰痛を起こす要因には様々あり、次に示す5つの介助をおこなう際には特に注意が必要です。

主な介助腰痛のリスク
移乗介助利用者を椅子から車いすに移動させたり、寝ている利用者を抱えて車いすに移したりする介助などが該当します。利用者に怪我をさせないように移乗させるには、知識や技術が必要です。職員よりも利用者の体が大きい場合もあるでしょう。経験が浅い職員は、慣れない介助で腰を痛めることがあります。
入浴介助普段の移乗介助とは違い、裸の利用者を移乗させるには技術や注意が必要です。皮膚が当たって怪我をさせてはいけない、裸なので抱える場所が限られているなど、特に配慮しなければなりません。その分職員の身体的かつ精神的な負担が発生し、腰痛を起こすことがあります。
トイレ介助(おむつ交換)トイレ介助では利用者を車いすから便器に移乗させたり、不安定ながらも立ったままリハビリパンツを着脱させたりすることがあります。おむつ交換とは、寝ている利用者の下着やおむつを取り替える業務を指します。いずれの介助も中腰の姿勢で作業することで腰に負担がかかり、痛めてしまうことがあります。
体位交換ベッド上で自ら寝返りをうてない利用者には、褥瘡予防のため定期的に体の向きを変える体位交換を行います。一日の中で複数回利用者の体を支える必要があるため、それが腰痛の原因になることがあります。
更衣介助自分で衣類を着替えることができない利用者には、起床時や就寝時に上着や下着の着脱を介助します。介護職ではかがんだ姿勢で作業をしていると腰に負担を抱えることがあります。ベッドで寝たままの利用者に対して朝には衣類、夕に寝巻へ着替えさせる介助の場合、中腰での作業となって腰を痛めてしまうことがあります。

国は介護業務でおこった労災事故に対して、労災補償の対象であることを適切に認定するため、腰痛を次の2種類に区分しています。一つ目は業務において突発的に怪我をしたことが明白な災害性腰痛、二つ目は慢性的に腰に負担がかかったことで発症した非災害性腰痛です。どちらも労災補償の対象となりますが、原因が介護業務によることが明らかで、療養が必要であるという医師の診断がないと認定されません。

腱鞘炎

介護業務によって腱鞘炎を起こしたと認定されるためには、上肢などに負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事したのちに発症したものであることが条件となります。上肢などに負担がかかる業務がどのような過重業務であったかを特定し、原則として6ヶ月以上従事して負傷した場合が認定基準となります。

疥癬

疥癬とは、ヒゼンダニ(疥癬虫)が皮膚の角質層に寄生する皮膚感染症です。人を介して感染し、強い痒みをともなう病気です。労災事故として認定を受けようとしても、介護業務で感染したことが立証しにくいため、どの業務によって感染したかなど原因を明らかにする必要があります。また痒いというだけではなく、医師の診断によってダニの存在が確認されたなど、疥癬が特定されていることが条件となります。

新型コロナウイルス

介護職が新型コロナウイルスに感染した場合、業務外で感染したことが明らかな場合を除き、原則として労災補償の対象となります。実際に社会福祉施設において、新型コロナウイルスの感染疑いがある利用者を介護していた職員が感染し、労災認定された事例があります。

<参考>令和2年4月28日基補発 0428 「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱い」

利用者からの暴力

社会福祉施設には、認知症の周辺症状が原因で介護に抵抗したり暴力をふるったりする利用者がいます。介護職が対応する過程で負傷した場合、事業主の管理下で業務に従事していたことが認められれば、労災補償の対象となります。

もしも負傷した場合には具体的な場面や状況を正確に把握しておき、業務との因果関係を証明できるように適切に記録をしておくことが重要です。

職場でできる労災事故予防

労災事故の予防において、介護職員自身が自分の身を守るのにも限界があります。事業所として職員を守ることをあわせておこなうことが、発生リスクの低下へとつながるのです。事故発生の傾向と原因を探り、職場内で同じ事故が再び起こらないような取組や職員への研修をおこなうなど、安全な職場づくりが大切です。

危険の見える化を行ってみる

介護現場において事故につながる危険因子には、目に見えないものも多く存在します。これらを検証して見える化することにより、効果的な安全対策をおこなうことができます。以下に、介護現場の危険を見える化するポイントについて紹介します。

・介護者ひとりによる利用者の抱え上げは原則として行わず、複数の職員による介助や移動リフトなどの福祉用具や介護ロボットを積極的に活用し、身体的な負担を軽減する。

・利用者に福祉用具を活用する際にはケアプランに位置づけ、職員間で介護方法の統一を図る。職員ごとに介護方法が異なって利用者が混乱するのを避けるためだけではなく、職員の過信が事故につながることを防ぐため。

・福祉用具や介護ロボットを使う際には、介助準備から器具の使用方法、要配慮事項をイラストや写真を用いてマニュアル化する。正しい使用方法や安全対策を共有しておくことで誤操作を防ぎ、安全な介助ができる。

・職員研修を定期的に行い、危険を見える化する。利用者の状態変化や介護方法の変更によって危険な場面も変化する。利用者に応じた適切な介助方法について職員同士で実際に練習するなど、介護技術研修を定期的におこなうことが重要。

介護業務においては、無理な動作による腰痛や転倒が労災事故の半数を占めています。危険の見える化を行い、目に見えないリスクを洗い出してみましょう。

KY活動は職場環境の改善にも効果的

KY活動とは、危険(KIKEN)と予測(YOSOKU)の頭文字であるKYからつくられた造語です。事故が起こる原因には、職場環境への慣れによる気の緩み、不注意などヒューマンエラーと呼ばれるものがあります。KY活動は職場内での安全を再確認し、事故防止の意識を職場で共有する活動であるため、ヒューマンエラーに対して効果的だといわれています。

具体的な方法としては、事故がよく起こる場所や場面を想定し、次の3点についてグループで意見を出し合って進めていきます。

・どんな危険が潜んでいるか意見を出し合う

・どんな対策が有効なのかを目標に定める

・業務にあたる際には、一人ひとりが指さし確認をしながら業務を遂行する

これによって事故リスクの高い業務でのヒューマンエラーを未然に防ぐことができます。KY活動を職場全体でおこなうことで職員のコミュニケーションが増え、仕事に対する意欲も向上し、職場の良好な雰囲気づくりにつながるというメリットがあります。

マニュアルの作成や研修は有効な手段

介護職が安全面において事業所のサポートを十分に受けられていないことで、腰痛や転倒といった労働災害が発生しています。平成28年に中央労働災害防止協会が全国3,300箇所の社会福祉施設におこなったアンケート調査によると、もっとも重要な新規採用直後の安全衛生教育については、法令で義務付けられているにもかかわらず約半数の事業所でしか実施されていません。

人材不足の介護現場では職員の家庭の事情もあり、研修に時間を割くことが難しいといのこともありますが、社会福祉施設の労働災害による死傷者のうち、経験年数が3年未満の介護職が全体の約半数を占めているのが実態なのです。

事業所としては、業務上のサポート不足が原因で職員が災害に見舞われ、休職や離職によって欠員となる状況を生むよりも、研修などの教育体制をしっかりと確立して安全で安心が出来る環境を構築することのほうがより利を得られるでしょう。

実際の介護場面を動画で撮影し、職員がいつでも事業所のパソコン等で確認できるようにしておくことも安全対策の一つです。ここで紹介した危険の見える化やKY活動を積極的に取り入れながらマニュアルを見直してみましょう。

安全な介護環境を整えて労災事故をなくそう

令和3年度の介護報酬改定では、腰痛防止体操や健康管理の実施など、介護施設内における介護職員の健康管理が介護職員等特定処遇改善加算の要件となりました。そもそも社会福祉施設などにおいては、安全で安心、快適な生活環境を利用者に提供することを責務としています。そのためには、まずはサービスを提供する介護職などの安全や健康が保たれている環境が必要なのです。

介護業務は、食事や入浴など利用者の生活に必要な介護、車いすや歩行の介助など、その内容が多岐にわたります。こうした業務の中で安全対策を進めるには、施設・事業所の管理者や管理職、介護職等がそれぞれの立場や責務を自覚し、全員で取り組むことが重要です。

日頃から職員自身の安全と安心を守る意識と術を持ち、職員同士で声かけをおこなうコミュニケーションに努め、国が発行するリーフレットなどを活用しながら労災事故から職員を守る職場環境整備の見直しや改善を行いましょう。

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