介護現場での10月からの最低賃金改定の対応

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介護現場での10月からの最低賃金改定の対応

「最低賃金」とは、最低賃金法にもとづいて国が賃金の最低限度を定めたものです。雇い主は最低賃金以上を労働者に支払うようにもとめられています。

2021年度の全国平均は、制度が始まった以来、最大の上げ幅となる目安が示されています。10月に最低賃金改定が行われますが、10月1日付雇用契約書から、最低賃金が下回っていないかのご確認、ご対応が必要になります。今回は、10月からの最低賃金改定の対応についてご紹介します。

最低賃金とは

最低賃金とは、雇い主が労働者に最低限、払わなければいけない賃金を定めたものですが、例えばグループホームを経営している経営者が、事務職の方に「今、入居者が減って厳しいから10月から最低賃金が上がるけど、最低賃金額より低い賃金でお願いしたいんだけど。」と話し、「いいですよ。」と返事をもらったとしていたとしても無効となります。最低賃金未満の場合は、使用者の経営状況に問わずに、使用者が労働者に差額を支払う必要があります

最低賃金の種類

最低賃金には、都道府県ごと定められた「地域別最低賃金」と、特定の産業の労働者に向けて定められた「特定(産業別)最低賃金」の2種類があります。使用者は、どちらか高い方を払わなければなりませんが、10月から大幅な引き上げとなっているのは地域別最低賃金ですので、厚労省HPを確認して下さい。

地域別最低賃金とは

地域別最低賃金とは、介護現場で働く正職員。契約社員、非常勤職員などの雇用形態にかかわらずに、各都道府県の仕事場で働くすべての労働者とその使用者に適用される制度です。

最低賃金は、都道府県ごとに決められていますが、人材不足の介護現場では派遣会社に依頼されているケースもあるかもしれませんが、その場合には、派遣元と派遣先の都道府県が違う場合もありますが、派遣先の都道府県の最低賃金が適用されますので、派遣元は派遣先の最低賃金を確認する必要があります。

尚、地域別最低賃金額を下回る賃金しかを支払わない場合は、最低賃金法で50万円以下の罰金が定められていますので、「面倒だから次の契約更新が近いからそこから支払えば良いか・・・」と勝手な判断はせずに、適切に支払うようにして下さい。

最低賃金の減額の特例について

次の5つのケースの場合は、使用者が都道府県労働局長の許可を受ければ最低賃金の減額が認められる場合もあります。

①軽易な業務に従事する職員

業務の進行や能率についてほとんど規制を受けない物の片づけ、掃除等の介護現場の介護業務は行わず、同じ業務に従事する職員がほとんどいない例外的なものです。この業務を行う従事する職員が最低賃金の適用を受ける他の職員の従事する業務と比較して特に軽易な業務をする職員を指すかと思われますが、特に「軽易な業務に従事する」については、労働基準局の厳格な審査が必要になります。

②監視・断続的労働に従事する職員

「監視労働」とは、監視することを本来の業務とし、かつ身体または精神的緊張の少ない労働、また、「断続的労働」とは、実作業が間欠的に行われ、手待ち時間の多い労働のことをいいますが、介護現場においては、施設の夜間の宿直業務を行う職員を指します。

他に宿日直勤務もありますが、一般的に医療機関における定期巡回や文書の受付、電話連絡の処理または非常事態に備えての待機業務などをいいます。介護現場でも男性の事務職員等が、宿日直を行うケースが、ありますが。「監視・断続的労働」との大きな違いは、本来業務に従事しつつ、同じ者が時間外や休日に宿日直勤務を行う業務です。そのような理由から、本来の業務の延長と考えられるような業務を行う内容は、例え宿日直勤務といっても最低賃金の減額許可の対象となりません。

③試用期間中の職員

試用期間とは、法人が人材を採用する際に、職員としての適性(勤務態度、能力、スキル)を評価判断するために、労働協約、就業規則又は労働契約において定められているもののことです。長期雇用を前提としての雇用契約となりますので、期間の長さについては、労働基準法などで明確な定めはありませんが、業種・職種等の実情に照らし必要と認められる期間で、試用期間は1〜6カ月が一般的です。

減額の特例許可の対象となるのは、次のように使用期間中に減額対象職員の賃金を最低賃金額未満とすることに合理性がある場合に限られます。

  • 申請のあった業種又は職種の本採用労働者の賃金水準が最低賃金額と同程度であること。
  • 申請のあった業種又は職種の本採用労働者に比較して、試の使用期間中の労働者の賃金を著しく低額に定める慣行が存在すること。

最低賃金の適用を逃れるために、あまりにも長期の試用期間を設定すれば、脱法行為とされますので、留意して下さい。

④精神または身体の障害により著しく労働能力の低い人

介護現場でも障害手帳をお持ちの方に働いて頂いていますが、単に障害があるだけでは、許可の対象とはなりません。その障害が業務の遂行に、直接、支障を与えている、例えば、障害によって作業効率が異なることが明白である必要があります。また同じ業務をしていて、その業務をしていて健常者の中で著しく労働能力が低い人に比べて低いとみなさなければ対象になりません。

⑤基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受け、厚生労働省令で定める人

最低賃金の減額の特例許可の対象となる「認定職業訓練を受けている人」は、職業能力開発促進法施行規則第9条において、「以下の訓練を受ける者であって、職業を転換するために職業訓練を受けるもの以外の者」と定められています。

  1. 普通課程の普通職業訓練
  2. 短期課程(職業に必要な基礎的な技能及びこれに関する知識を習得させるためのものに限る)の普通職業訓練
  3. 専門課程の高度職業訓練

①~⑤については、労働基準局に申請、審査、許可を得た上で行われますが、許可を得た場合でも対象の職員に説明を行い、 同意を得なければ適用は出来ません

介護現場で、10月からの最低賃金改定前にやるべきこと

1.今、準備中の雇用契約書(契約更改/新規入社)の給与設定が 最低賃金を下回っていないかをご確認頂き、下回る場合は、給与額の修正(アップ)の対応をすること

手順について:

  • 各都道府県別の最低賃金は下記を参照ください。
    <厚生労働省HP> 「地域別最低賃金の全国一覧」
  • 給与変更日は「10月1日付」にしてください。
    都道府県によっては、改定日が10月2日以降の場合がありますが、 月途中の給与額変更ですと手計算での調整が生じてしまうため、 特別な理由がない限り、給与額変更日は「10月1日付」とされた方が良いです

2.契約更改以外で最低賃金を下回っている社員の賃金改定の対応を行うこと

例えば、常勤社員の時給換算方法は以下の通りです。

時給(換算) = 基準内賃金 ÷ 176時間(8時間 × 22日)

  • 雇用契約書変更の対象職員には、賃金変更の説明を行い、同意を得ること。
  • 掲示などの方法も活用し、最低賃金が10月1日から改定になることを職員に周知すること。

まとめ

最低賃金が上がることは、労働者にとっては非常に喜ばしいことですが、令和3年度介護報酬改定では、すべての事業者が一律で収入が0.7%上がる訳ではなく、今回新設された上位区分の報酬を算定できる場合は増収となり、現状維持の場合は大きく減収となるケースが出てきます。コロナ禍の中で、「最低賃金が上がる=人件費が上がる」中で、どのように集客し、稼働率を上げ、収益を上げるかの対応は急務です。適切な労務管理と共に、介護事業の収益改善のご参考にご活用頂ければ幸いです。

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