労働基準法の改正により、2019年から有給休暇の取得が義務化されました。企業は、従業員が年5日の有給休暇を必ず取得するよう働きかける必要があります。違反すると罰金が生じる可能性があるので、今後はより一層注意しなければならないでしょう。
そこで年次有給休暇について基本から理解できるよう、法改正の内容や義務化された項目、対象となる従業員などの情報をわかりやすくまとめました。あわせて有給休暇取得を進める対策についても紹介しています。
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目次
有給休暇義務化とその背景
労働基準法が改正され、2019年4月より年次有給休暇の取得が義務化されました。企業には、従業員に年5日の有給休暇を取得させなければならない義務が発生し、違反すると罰則が生じる場合があります。
年次有給休暇の取得義務化には、取得率の低迷が背景にあるといわれています。以下は厚生労働省の「就労条件総合調査の概況」から、平成29~31年の有給休暇取得率についてまとめた表です。
労働者1人平均取得率 | 平成29年 | 平成30年 | 平成31年 |
---|---|---|---|
1,000人以上 | 55.3% | 58.4% | 58.6% |
300~999人 | 48.0% | 47.6% | 49.8% |
100~299人 | 46.5% | 47.6% | 49.4% |
30~99人 | 43.8% | 44.3% | 47.2% |
計 | 49.4% | 51.1% | 52.4% |
上記からもわかる通り、概ね取得率は増えているものの低調な状況にあります。有給休暇の取得義務化は、この状況を打破する目的も持っています。
有給休暇義務化の対象となる従業員
取得義務の対象となるのは、年10日以上の年次有給休暇が付与された従業員です。基本的に以下の2つの条件を満たした従業員には、年次有給休暇が付与されます。
- 雇用期間が6ヶ月以上経っている
- 既定の労働日数のうち8割以上出勤している
上記には管理監督者や有期雇用労働者も含まれますので、漏れがないようにしましょう。
また、上記以外に、条件を満たした一部のパートタイム労働者も対象となります。所定労働日数が少ない労働者は、以下の表に準じて有給休暇が比例付与されます。
このうち10日以上の有給休暇が付与されている従業員が取得義務の対象となります(上記太枠で囲まれている部分の勤務をしている従業員)。改めてまとめると以下になります。
- 入社から3年半以上経過+週4日勤務をしているパートタイム労働者
- 入社から5年半以上経過+週3日勤務をしているパートタイム労働者
- 雇用期間6ヶ月以上+週30時間以上勤務をしているパートタイム労働者
年次有給休暇における企業の義務
次に年次有給休暇制度において、義務化されている内容について改めて解説します。義務化されているのは、「年5日の有休取得」「年次有給休暇管理簿の作成・保管」「就業規則へ規定記載」の3点です。ひとつずつ説明していきます。
必ず年5日分の有給を取得させる
先にも解説しましたが、年次有給休暇制度では、1年につき年5日の有給休暇を従業員ごとに取得させることが義務付けられています。
1年という期間は、有給休暇を与えた基準日から数えます。たとえば2022年4月1日に有給休暇を10日与えた場合、2023年3月31日までに5日間の有給休暇を取得させる必要があります。従業員に有給休暇日の希望を聞き、時季を指定するだけでは不十分で、必ず5日分を期間内に取得させなければいけません。
年次有給休暇管理簿の作成と保管
2つ目は、年次有給休暇管理簿の作成と保管義務について解説します。年次有給休暇管理簿とは、有給休暇を与えた基準日や取得した日、残りの日数などをまとめた書類です。従業員ごとに作成しなければならないうえに、書類は3年間保存する義務があります。
従業員の人数が多いほど、年次有給休暇管理簿の作成と保管は手間を要します。年次有給休暇管理簿には決まったフォーマットがないため、システムで管理する方法もひとつの手です。ただし厚生労働省では、必要なときにいつでも出力できるシステムで管理することを条件としています。
就業規則へ規定の記載
3つ目は就業規則へ規定の記載義務です。労働基準法第89条により、休暇に関する事項を就業規則に記載しなければなりません。具体的には時季指定の対象者や方法などを記載する必要があります。時季指定とは労働者の要望を聞いたうえで、有給休暇の取得日を決定する方法です。
就業規則への記載例として、以下の文章を参考にしてみてください。
(規定例)第○条
1項~4項(略)(※)厚生労働省HPで公開しているモデル就業規則をご参照ください。
5 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかか わらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社 が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただ し、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得し た日数分を5日から控除するものとする。
年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
基準日から1年の考え方
前述したとおり、年次有給休暇の取得義務に関する1年という日数は、10日間の有給休暇が付与された日を基準日にして数えます。年5日の有給休暇取得義務を果たすためには、管理する側が基準日から1年の期間を正しく把握することが重要となります。ただし基準日を前倒ししたり、有給休暇を分けて付与したりした場合は数え方が異なるので注意しましょう。ここではイレギュラーな事例を紹介します。
前倒しで有給休暇を付与した場合
まずは雇い入れから6ヶ月が経過する前に、10日間の有給休暇を与えた場合の事例を紹介します。基本的に有給休暇は雇用から6ヶ月後に、8割以上の日数を出勤した従業員に付与しますが、前倒しで与えることも認められています。
原則、基準日は10日間の有給休暇が付与された日となるので、入社と同時に有給休暇が付与された場合、入社日が基準日になります。この場合、入社日(基準日)から1年以内に有給休暇を5日分取得させなければなりません。
たとえば中途採用で2022年9月20日に入社し、2022年10月1日から有給休暇を10日付与した場合はどうでしょうか。この場合、2022年10月1日が基準日となります。
ただし上記の場合、翌年の有給休暇付与日は2023年10月1日か、それより前に設定しなければなりません。さらに前倒しして付与する場合でも「入社から6ヶ月目までの期間で、全労働日のうち8割以上出勤する」という条件は変わらないため、欠勤などで出勤日数が足りなくならないよう注意しましょう。
また、有給休暇の一部を前倒しで付与する方法もあります。分割付与と呼ばれる方法です。たとえば以下のケースの基準日はいつになるか考えてみましょう。
有給休暇付与日 | 2022年10月1日 | 2023年2月1日 |
---|---|---|
有給休暇の付与日数 | 3日 | 7日 |
この場合、付与日数の合計が10日に達した2023年2月1日が基準日となります。つまり、2023年2月1日~2024年1月31日までの1年間のうちに5日間の有給休暇を取得させなければならないということです。ただし、これより以前に消化した分も取得日数として数えても問題ありません。たとえば2022年11月24日、2022年12月15日にそれぞれ有休を取っていれば、2024年1月31日までにあと3日取得すればよいということになります。
2年目以降に期間が重複した場合
有給休暇は毎年付与されるため、2年目以降は基準日が複数存在することになります。ただし2年目以降に基準日を前倒しにした場合、取得義務の発生する期間が重複する場合が考えられます。
たとえば1年目は入社から6ヶ月後の10月1日に10日間の有給を与え、2年目は翌年の4月1日を基準日にする場合です。以下の画像を確認しましょう。
上記の場合、2020年4月1日~2020年9月30日まで6ヶ月間の重複が見られます。管理を簡単にするのなら比例按分がおすすめです。「全体の月数÷12×5日」の計算式で、2019年10月1日~2021年3月31日までに取得させるべき有給日数が割り出せます。なお、1日未満の端数が出た場合は基本的に切り上げます。
実例の計算式は「18ヶ月÷12×5日」となり、答えは7.5日です。つまり2019年10月1日~2021年3月31日までの18ヶ月間で7.5日の有休を取得させれば、有給休暇取得義務違反にならないということです。
もうひとつ比例按分の一例を紹介します。
例)
1年目:2020年8月1日に年次有給休暇(10日間)を付与
2年目:2023年4月1日に年次有給休暇(10日間)を付与
→2023年4月1日~2023年7月31日で期間が重複(4ヶ月間の重複)
計算式:20ヶ月÷12×5日=8.3日
※端数は切り上げるので、期間内に9日間の有給休暇の取得が必要
抜け道はなし!NG例や罰則・罰金について
年次有給休暇の義務化は、有給休暇の取得促進を目指すための制度です。そのため企業で定めた法定休日や特別休暇の一部を平日に変え、その日を有給休暇にするなどといった方法は違反行為になる可能性があります。たとえば週休2日制の企業が月の何日かを平日にし、その分有給休暇を取得させる行為はNGです。
年5日の有給休暇を取得させないなどの義務違反が認められた場合、状況を改善するよう労働基準監督署から監督指導が入ります。場合によっては、労働者1人につき30万円以下の罰金、または6ヶ月以下の懲役が科される場合があるので注意しましょう。これは企業側が時季指定をしたのに、従業員が有給休暇の取得を拒否した場合でも同様です。
同じく就業規則に休暇に関する事項を記載していない場合も罰則が生じます。この場合、30万円以下の罰金が科される場合があります。
有給休暇を取得させるための対策
最後に有給休暇を確実に取得させるために、企業ができる対策について紹介します。
計画的付与制度
計画的付与制度(計画年休)とは、企業側が事前に有給休暇の取得日を割り振ることができる制度です。労働者が自由に取得できる5日を除いた付与日数を、計画年休に当てることができます。導入には就業規則の規定と労使協定の締結が必要です。
計画的付与制度には主に以下の方法があります。
- 企業や事業場全体の休業による一斉付与方式
- 班・グループ別の交替制付与方式
- 年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式
たとえば一斉付与方式と交替制付与方式では、年末年始や夏季に有給休暇を組み合わせ、大型連休にする手法がよくとられています。個人別付与方式では、誕生日や結婚記念日などをアニバーサリー休暇として付与する方法も可能です。
個別指定方式
個別指定方式とは時期指定のことで、企業側が従業員の希望を聞いたうえで有給休暇の取得日を決める方法です。基準日から1年の間に適宜実施します。
具体的には有給休暇を付与後、半年が経過したタイミングで取得日数が5日未満の従業員に声をかけます。ただし時期指定する際は企業側が勝手に取得日を決めてはなりません。必ず従業員の意見を聞くようにしましょう。また、5日分の有給休暇を取得した時点で、企業側は従業員に時期指定を行うことができなくなります。
スムーズに行うためにも、従業員ごとの有給取得状況を管理し、把握することが大切です。勤怠管理システムを使って効率よく管理する方法もひとつの手です。最後に、時期指定を行うには就業規則への規定が必須となりますので、忘れずに作成するようにしましょう。
有給休暇義務化のルールを理解して違反しないようにしよう
労働基準法の改正により、有給休暇の取得は義務化されました。守らないと労働者1人につき30万円以下の罰金、または6ヶ月以下の懲役が科されるなど、罰則があるので注意しましょう(※)。
何より有給休暇は従業員の心身のリフレッシュになり、結果的に企業の生産性向上につながるものです。罰則があるかないかに限らず、有給休暇を取りやすい環境を作り、企業の価値を高めていきましょう。
※外国人雇用と有給休暇の取得については、取得義務だけではなく、時季変更権(労基法39条5項但書)の要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」について、技能実習生に年次有給休暇を取得させることが「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当する例は少ないのではないかなどの論点もあります。
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