ICFが介護現場で必要なときとは?対象者の理解と包括的なケアのために

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ICFが介護現場で必要なときとは?対象者の理解と包括的なケアのために

介護現場では、さまざまな方を相手にそれぞれ別の段取りや手法で千差万別の介護サービスを提供します。これは、利用者さんによって身体的、精神的な違いがあるためです。

利用者さんのこのような「特徴」を知ることは、普段のケアにおける細かなサービスレベルや、包括的なサービスの方向性に大きく影響することもあるため非常に重要です。

介護関連資格取得のためのテキストに必ず出てくる「ICF」は、介護サービスを提供するうえで利用者さんの健康状態や生活状態を把握するために、大きな役割を担っています。ここではそのICFについて、詳しく解説していきます。

ICFとは何か

ICFは「International Classification of Functioning, Disability and Health」を略した言葉で、日本語では「国際生活機能分類」と訳されます。これは、平成13年にWHO(世界保健機構)で採択され、より正確には人間における「生活機能や障害・健康の国際分類」とされています。

人間が健やかに生活するためには、心身の機能の状態、生活環境、社会とのつながりの3つの要素が大きく関係します。しかし、すべての人が同じ状況にあるわけではありません。

たとえば、糖尿病で定期的な検査と通院が必要で、毎日食事前に血糖値を測定してインスリンを注射する人は、既往歴が一切ない人とは生活の様子が違います。また、それによる不満や不安といったストレスを高く受ける期間が長いと、特に介護現場では介護ニーズに関連する生活上の課題が大きく変わります。

このような生活上の課題を、公正・公平かつ客観的に分析するための基準となるのが「ICF」なのです。

ICFの3要素と具体例

対象者を分析するにあたり、ICFでは基準をおおまかに「健康状態」、「生活機能」、「背景因子」に分けたうえでさらに細分化され、最終的には合計1500に枝分かれしています。

ここではおおまかな3つの分類の内容について解説します。

健康状態

健康状態とは、文字どおり対象者の現在の健康状態をいいます。

高齢者であることそのものや、現在罹患している疾病、過去の疾病による後遺症、骨密度や肥満のレベル、ケガなどが含まれ、女性の場合は妊娠もこれに分類されます。

また、身体上の状態だけでなく、精神上の健康状態も含まれます。統合失調症やうつ病といった精神病だけでなく、過度なストレス状態や不穏も健康状態の項目とされています。

生活機能

生活機能とは、生活を構成する「心身機能・構造」「活動」「参加」といった要素を包括した概念をいいます。生活する上で必要とされる機能の状態から「課題」を見出す、まさにICFの中心的な概念なのです。

心身機能・構造:心と体の働き

これは、人間が生きるためのもっとも基本的な身体や精神の機能、構造についての分類です。具体的には次のような項目が挙げられます。

  • 心身機能:手足の動きや精神の働き、視覚や聴覚、内臓の働きなど
  • 身体構造:体の一部や手足だけでなく心臓の弁、目の水晶体といった一部分も含まれる

活動:ADLの状態

活動とは、いわゆるADL(日常生活動作)の状態です。生活の中で、活動には「している活動」と「できる活動」があります。

  • している活動=現在実際にしている活動
  • できる活動=現在はしていないが、できると考えられる活動

具体的には、している活動が「近所のお店まで歩いて買い物に行っている」のなら、「そのお店より近い公園までリハビリのために散歩する」ことはできる活動だといえます。

このように、活動には現在生活する上で行っていない活動も含まれるのです。

参加:家族や社会のつながりの中で役割を果たすこと

高齢者もたった一人で生活しているわけではなく、何らかの組織や社会に属し、さまざまな役割を果たしています。参加とは、このような「役割を果たしている状態」をいいます。

たとえば、企業に勤務して職務を遂行することや、地域の自治会役員、スポーツ愛好会への参加、政治的・宗教的な集まりへの参加がこれに含まれます。

背景因子

背景因子とは、生活機能に大きな影響を与える要因をいい、場合によっては生活機能を低下させる原因となる、ICFにも非常に重要な要素です。

大きく「個人因子」と「環境因子」に分類され、それぞれ次のような因子とされています。

個人因子:対象者固有の特徴のこと

個人因子とは、対象者の固有の特徴を指します。年齢や性別、民族、宗教や、これまでの人生で培われた価値観やライフスタイルがこれにあたります。

たとえば、男性なら家事全般が苦手、女性なら世間話が好きといった要因があり得ます。また、地域や民族、宗教上の習慣や決まりごとから生活様式が限られる場合もあります。

加えて、生活機能や健康状態に影響を与えていることも考えられます。介護対象者を包括的に分析するためには重要な要素だといえます。

環境因子:周囲の環境からくるすべての要因

環境因子とは、その人を取り巻く人的、物質的環境のすべてを指します。具体的な項目はさらに以下の3分類に分けられます。

  • 物質的環境:道路の状態、階段や通路の段差、車いすなどの福祉用具など
  • 人的環境:家族や友人といった周囲の人、生活機能が低下した方に対する人社会の意識など
  • 社会制度的環境:医療や介護サービス、自立支援法などの法的環境など

介護現場においてICFはどんな場面で活用されるか

ここでは、ICFによる分類が実際の介護現場でどのように活用されているか、その一例を紹介します。

介護認定のための認定調査

介護サービスを受けるためには、介護保険制度を利用してどの程度の要介護状態なのか、または要支援状態であるのかを判定してもらう必要があります。

判定は、市町村担当者による聞き取り調査と主治医意見書をもとにコンピューターが分類する1次判定、市町村に設置された介護認定審査会による2次判定で構成されます。

ここでは、認定対象者のことをよく知るご家族や友人による主観の入る余地は少なく、極めて客観的に現状を分析する必要があります。

ICFは、このような分析にとってまさにうってつけの基準です。

カンファレンスやケアプランの作成・改善

介護現場では、介護対象者に対してどのようなサービスを提供するかが非常に重要です。

介護サービス提供開始時点でのケアプランに加え、刻々と変わる身体的、精神的、環境的要因に逐一対応し、対象者のQOLを維持向上する必要があるからです。

このときの「変化」の分析に役立つのがICFです。介護スタッフが、主観に加えてICFによる客観的な視点で分析すれば、変化をいち早く捉えて改善することも可能になります。

また、ICFはスタッフに対するカンファレンスや勉強会でも大いに役立ちます。介護対象者はまさに十人十色ですから、その一人ひとりにベストなサービスを検討するよい材料になります。

ICFはケアを総合的・客観的に分析する基準

ICFの詳しい内容や具体例、利用されている状況の例を紹介してきました。ICFはともすれば主観的になりがちな「人間の状態の分析」に極めて役立つ基準だといえます。

とりわけ介護においては、介護スタッフは「サービススタッフ」という一面も持ちながら、科学者のように客観的に現状を分析する必要があるのです。

ICFは、介護対象者を客観的かつ包括的に分析、把握することを可能にします。ケアマネジャーや責任者だけでなく、現場介護スタッフも身につけておくべき視点だといえます。

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