介護の事故報告書とは?書き方や事例を知って事故対策につなげよう

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高齢者の身体状況に応じたサービスを提供する介護現場では、思わぬ事故が発生することもあります。そのときに必要になるのが、事故の内容を記した「事故報告書」です。

さらなる事故を防止するためにも、事故報告書の内容や目的は正しく理解しておくことが大切です。本記事では、介護士が知っておきたい事故報告書の書き方や、具体的な事例を解説していきます。


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事故報告書とは?

介護保険法では、介護保険事業所で感染症や治療を要する事故が発生した場合、市町村の自治体に報告する義務があると定められています。事故報告書はそのための書類であり、介護事故報告書とも呼ばれるものです。

事故の発生は事業者だけではなく、当事者となった介護士の心身的負担にもつながります。発生原因を特定して改善を施し、安全なケアを提供するためにも事故報告書は重要な存在です。さらに、事故の隠蔽を防ぎ、発生時の状況や対応を詳細に記録することで、後々のトラブルを防止することにもつながります。

事故報告書が必要になる事例と対策

事故報告書は、大きなケガが生じるような人身事故だけが対象ではありません。事故報告書が必要になるさまざまな事例と、事故を防ぐための対策について確認していきましょう

転倒(尻もち)

高齢者の骨折や打撲につながるもっとも多い介護事故です。座った状態から尻もちをついた場合には、歩行を支える大腿骨を骨折する恐れがあります。

多くの事故には介護者がかかわっておらず、利用者さん自身がベッドから移動しようとしてバランスを崩したときなどに発生しています。事故防止のためには見守り体制の強化や、利用者さんとの密なコミュニケーションが求められます。

誤食や誤飲

視覚や味覚などの身体機能の低下や認知症などによる取り違えや思い込みで起こります。薬の包装シート、義歯・詰め物、洗剤や漂白剤等を誤飲・誤食した事故が多く報告されています。医薬品の包装シートは切り離さないようにし、食品の容器に食品以外のものを入れないといった配慮が必要です。

また認知症の方の場合異食事故にも注意が必要です。職員の目が行き届かない居室などには、ボタンやティッシュ、ペットボトルのキャップといった飲み込む恐れのあるものは置かないよう注意しましょう。

誤嚥

個々の能力に合った形で食事提供することで予防が行われていますが、イベントなどで普段と違う形態の食事が出たときに起こりやすい傾向にあります。また食堂などで複数名が並んで食事をしているときなど、間違って隣の利用者さんの食事を食べてしまい事故につながる場合があります。

表皮剥離、創傷

高齢者は代謝機能の低下や細胞の減少によって皮膚の乾燥が進み、弾力が失われていきます。そのため、ベッドから車いすへの移動や衣類着脱の際のちょっとした摩擦や圧迫が原因で皮膚が裂けたり、内出血したりします。

利用者さんを傷つけないよう爪を短く整えるだけでなく、要介助介護者に負担をかけない介護技術を身につけておくことも事故防止につながります。口の中を傷つけないよう、口腔ケアも適度な力で行いましょう。

誤薬

利用者さんが誤った薬を口にしてしまう事故です。事故を防ぐためには与薬マニュアルを作成し、職員全体に各利用者さんの薬を周知する必要があります。

食事前後の服薬はダブルチェックを行い、薬を口にしたか目視で確認するよう心がけましょう。認知症の方はほかの利用者さんの薬を飲んでしまうこともあるため、薬をテーブルに置いたままにしないことも大切です

離設

利用者さんが施設を出てしまうことを「離設」と呼びます。離設の原因の多くは、認知症患者の徘徊です。

事務仕事やほかの利用者さんへのケアで、フロアが手薄になる時間帯ほど注意が必要。スタッフ同士でコミュニケーションを取りながら、利用者さんの安全確認を怠らないようにしましょう。

感染症や食中毒

施設内で感染症や食中毒が発生したときは、速やかに市町村や保健所に連絡し、医療機関との連携をはかりながら必要な対応にあたります。さらに、施設内で提供したサービスが原因だと思われるときには事故報告書の提出が必要です。介護者は感染状況をしっかりと把握し、症状に応じたケアや衛生管理の徹底に努めます。

送迎中の交通事故

利用者の送迎業務がある通所介護で起こりやすい事故です。車いすの方の送迎時には、安全に固定されているかしっかりと確認。急ブレーキや急発進を回避しながら安全運転を心がけます。

訪問先の物品の紛失・破損

物品の破損は居宅で介護サービスを行う訪問介護で多く発生している事故です。狭い空間でベッドから移乗したり、車いすを使用したりすることが原因だと考えられます。

物品の破損や紛失を防ぐためには、訪問介護員同士が連携を取り合いながら、訪問先の注意点について情報共有することが効果的です。

事故報告書の目的とは?

事故報告書には、以下のような3つの目的があります。事故報告書の作成は決して気分がよいものではありませんが、しっかりと目的を把握し、安心で安全なケアへとつなげていきましょう。

原因分析

いつ、どのような状況で事故が起きたのかを総合的に分析することで、事故の発生原因を突き止めることができます。多くの事故原因は、当事者である介護士だけによるものではありません。

事業所や施設の環境が影響している場合もあるため、職員全体が危機意識を高める必要があります。介護事故について共通認識を持つためにも、事故報告書は重要な役割を持つと考えられます。

再発防止

事故報告書をもとにした事故の原因分析は、再発防止へとつながります。「どのような場面で転倒が起こりやすいのか」、「誤飲・誤食のリスクが高いのはどんな場面か」といった具体的な事例が分かれば、次回からリスクを回避できます。

同じような事故が発生したときにも反省点を活かし、より適切な対応を取ることができるでしょう。

事故後のトラブルへ備える

事故報告書は、その後のトラブルを回避する役割も担っています。たとえ事故発生時に適切な対応をとっていたとしても、その証拠がなければ事業所の管理能力が十分だったとは証明できません。

事故による被害が大きければ、訴訟へと発展することも考えられます。そのため、事故報告書にはより細かく正確な記載が求められます。

事故報告書の書き方のポイント

市町村へ報告する事故報告書は、介護に携わる人だけでなく、誰が見ても分かりやすい内容であることが重要です。ここからは、事故報告書を書くために大切な4つのポイントについて見ていきましょう。

5W1Hが基本(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)

事故の内容を整理し、分かりやすく伝えるためには5W1Hが基本となります。事故の発生日時、場所、誰がどのような事故を起こしたのか、その理由や対応を時系列で伝えましょう。文章は短く、誰もが読みやすい内容を意識します。

客観的な視点で書く

事故報告書の内容は、自分の目で見た印象ではなく、客観的な視点で記載します。「自分がうっかりしていた」、「利用者さんが朝から落ち込み気味だった」というような内容だけでは、事故分析に役立てることはできません。現場で起こったことを第三者的な目線でとらえ、客観的に記入するように心がけましょう。

専門用語は使わない

「側臥位(そくがい)」、「患側(かんそく)」といった専門用語は、介護に携わらない方には伝わらない可能性もあります。事故報告書には、「あおむけの状態」や「麻痺のある右腕」など分かりやすい言葉で記入しましょう。血圧や体温を意味するBPやKTといった略語も使用しないようにします。

事故報告書を書くタイミング

正確な事故内容を家族や行政に伝えるためにも、事故報告書は発生から数日以内を目安に作成する必要があります。内容によってはケアプランや業務の見直しも求められるため、ほかの業務に優先して作成しましょう。

一度作成した報告書は、家族とのやり取りやスタッフの対応を確認しながら、追記修正を行って完成させます。

ケース別、事故報告書の書き方

介護事故報告書の主な内容は以下のとおりとなっており、各市町村が定める「介護保険事業者事故報告書」の様式にそって記入します。

  • 利用者さんの情報
  • 事故の概要
  • 事故発生時の対応
  • 原因分析、再発防止策

利用者さんの情報欄には氏名や住所のほか、要介護度や保険者名などを書き入れます。事故の概要欄には、発生日時や場所、内容や原因を分かりやすく記載しましょう。

また、医療的処置のほか、今後の予防策についても詳しく記入します。以上をふまえ、「転落、転倒」、「誤嚥」が発生したときの具体的な書き方を見ていきましょう。

転落、転倒

転落や転倒は介護事故でもっとも多く、骨折から寝たきりへとつながる恐れのある事故です。日常のさまざまな場面にリスクがあるため、事故報告書をもとに原因と予防策についてしっかりと検討する必要があります。

【記入例】

  • 発生日時  〇月〇日 15時40分
  • 利用者情報 〇〇〇〇(名前)、79歳、女性、要介護度2
  • 事故の種別 転落
  • 発生場所  利用者の居室(〇〇号室)
  • 事故の内容 
    利用者さんの居室からドスンという物音あり。スタッフが居室へ向かったところ、トイレの前でうつぶせに倒れているAさんを発見する。「Aさん大丈夫ですか」の問いかけに「大丈夫」と回答あり。スタッフに支えられながら立ち上がり、ベッドまで移動し座る。「トイレの前でふらつき転んでしまった」とのこと。「おでこが痛い」との訴えがあり確認すると、額半分が赤くなっている。そのほかの箇所には痛みの訴えなし。
  • 行った対応
    フロアにいた看護師に報告し、状態を観察。その後ケアマネジャーとご家族にも報告しただちに医療機関で受診する。

  医療的な処置の有無   〇〇医院を受診。前頭部打撲と診断。

  家族、行政への連絡日時 〇月〇日 〇時

  原因分析

  • 排泄は自立で可能だが、下肢機能低下によりバランスを崩す恐れがあった。
  • 職員の見守り体制が不十分であった。

  再発防止策

  • トイレに行く際は職員に声をかけてもらう。また、職員からの声かけを徹底する。
  • 日常動作でも転倒の恐れがあるため、見守り体制を強化する。

誤嚥

誤嚥により食べ物が気管に入ると、肺炎を引き起こす恐れがあります。飲み込む力が弱まっている高齢者は、誤嚥のリスクが高いため特に注意が必要です。

【記入例】

  • 発生日時  〇月〇日 18時00分
  • 利用者情報 〇〇〇〇(名前)、85歳、男性、要介護度3
  • 事故の種別 誤嚥
  • 発生場所  食事フロア
  • 事故の内容 
    Aさんと同席している利用者さんの食事介助中、自立で食事していたAさんのむせを確認。「大丈夫ですか」と声をかけ、背中をさすりながらお茶を飲んでもらう。数秒後「大丈夫」と返答あり。ほかの職員がAさんを見守りながら食事20分ほど続ける。3分の1ほど残して「今日はもうやめておく」といわれる。
  • 行った対応
    フロアの看護師と担当〇〇医師へただちに報告。受診の必要はないと判断される。栄養士、調理スタッフ、ケアマネジャーへ報告(各担当者名、時刻を記載)。〇時〇分の見回り時に状態確認するも、「大丈夫」と回答あり変化はなし
  • 発生原因
    ・嚥下能力の低下が疑われる。
    ・他利用者さんの介助で見守りがしっかり行えていなかった。
  • 再発防止策
    ・栄養士やリハビリ担当者、ケアマネジャーと相談し、食事内容を検討する。
    ・食事介助中の見守り体制を強化する。
    ・レクリエーションに口腔体操を取り入れる。

事故報告書は誰が書くのか?

事故報告書の作成は、第一発見者や当事者が担当するものだと思われがちです。しかし、当事者が作成すると客観性が保たれないだけでなく、スキルや知識によって内容に偏りが出る可能性もあります。

そのため、本来は事故の当事者ではなく、主任やリーダーといった第三者が客観的に事故を検証し、報告書を作成することが望ましいとされています。報告書は「今後は目を離さないように気を付ける」、「日頃から危険管理意識を高く持つ」といった反省文のようなものではなく、再発防止へつながる内容であることが重要だと覚えておきましょう。

介護現場の安心安全を守るための「事故報告書」

介護事故報告書は、同じような事故を繰り返さないための重要な書類です。第一発見者が事故に遭遇するまでには、現場のさまざまなミスが重なったとも考えられます。

ひとつの事故をチーム内で共有し、再発防止策を検討してこそ実現するのが安心安全なケア。利用者さんだけでなく現場で働く介護士のためにも、事故報告書の目的や内容を正しく理解し、日々の介護へと活かしていきましょう。

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