「感情労働」とは?介護士が知っておきたい介護職の現状とストレス対策

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利用者さんやご家族と接する機会の多い介護士の仕事は「感情労働」だといわれています。利用者さんとの心のかかわり合いにやりがいを感じられる一方、理不尽な状況においても自分自身の感情をコントロールし、相手の感謝や安心の気持ちを掻き立てる対応が求められるため、ストレスが溜まりやすいといった側面もあります。

こちらの本記事では、感情労働と呼ばれる介護の現状とともに、介護士が知っておきたいストレス対策について解説します。

「感情労働」とはどのような仕事?

「感情労働」とはどのような仕事?

「感情労働」とは、自分の感情を抑えて我慢したり、他者の言動に耐えたりすることが必要とされる労働のことです。社会学者A・R・ホックシールドが提唱した用語であり、当初は女性の客室乗務員(CA)を対象としていたといわれています。

現代社会では、CAのような接客業だけではなく、保育士や教員、そして看護師や介護士の仕事も感情労働に挙げられます。顧客の要求や主張、クレームを受け止め、たとえその内容が理不尽なものであっても自分の感情をコントロールし、的確な対応を行いつつ良質なサービスを提供しなければなりません。

感情労働に対し、アイデアを生み出す仕事は「頭脳労働」、体力が必要な仕事は「肉体労働」と呼ばれています。近年では、各企業で顧客満足度の向上が重視されており、感情労働的な業務は多方面で求められています。

「感情労働」の2つの分類

「感情労働」の2つの分類

感情労働には、自分本来の感情を適時適切に管理し、抑制したり抽出したりする能力が求められます。そのために必要となるのが、「表層演技」と「深層演技」と呼ばれる2つの手法です。

表層演技

「表層」の文字が示すとおり、表層演技とは他者の目に映る表面的な感情を顧客のニーズに合わせて変化させる行為です。対人サービスが主となる感情労働者は、自分本来の気持ちをそのまま顧客にぶつけるわけにはいきません。

理不尽なクレームに怒りや悲しみを感じたとしても、表面上は丁寧で冷静な対応が求められます。このように、表層演技では本来の感情と表情にズレが生じることになります。

深層演技

気持ちと行動にズレが生じる「表層演技」に対し、「深層演技」は感情自体を仕事で望まれるものに変える行為です。表面上の演技ではなく、感情自体を演じることになります。

「自分はどんなときにも笑顔で丁寧に対応するスタッフ」だと、俳優が役になりきる様にも似ているでしょう。前向きな感情を意図的に生み出せる一方、気付かぬうちに本来の自分にフタをしてしまう可能性もあります。

「感情労働」の介護ではこんな場面がストレスに

「感情労働」の介護ではこんな場面がストレスに

介護士の仕事は、介護が必要な方の身体的・精神的な自立を支援することであり、感情労働に分類されます。さまざまな人と関わる必要があるため、感情労働によるストレスを受ける場面が数多く訪れます。

利用者さんやご家族からのパワハラ

認知症には、進行の度合いによって徘徊や暴言、暴力といった症状が現れます。家族であれば怒りや苛立ちをあらわにする場面でも、介護士はプロとして冷静に対応しなくてはいけません。また、利用者とサービス提供者という関係性は介護士の立場を弱め、精神的ハラスメントにあうリスクを高めています。

厚生労働省の調査(介護現場におけるハラスメントに関する調査研究報告書)によると、利用者さんから精神的暴力を受ける割合は、訪問看護と訪問リハビリを除いて居宅サービスや介護施設で7割以上となっています。特に、施設の職員は、精神的暴力に加え身体的暴力を受ける割合も7〜9割となっており、利用者さんからのハラスメントは避けられない状態にあると言えます。一方で居宅でサービスを行う訪問介護員は、ご家族からの精神的ハラスメントを受けやすい傾向にあります。

また、女性介護士にとって大きなストレスとなるのが、利用者さんからのセクシャルハラスメントです。利用者さんからセクハラを受けたことがある介護士は、全体の3割以上。第三者がいない訪問介護や、利用者さんの自立度が比較的高い通所介護では特に問題視されています。

しかし、ハラスメントを受けた1~4割の職員は、利用者さんやご家族の病状や性格を理由に他者への相談を行っていません。ハラスメントの問題はひとりで抱え込まず、上司や同僚といった第三者に相談しましょう。

利用者さんとの最期の別れ

要介護度の高い方が入居している施設では、利用者さんの最期の別れを迎える場合もあります。大きなショックや悲しみを感じていても、業務は通常どおりこなさなくてはいけません。特に、介護士としての経験が浅い時期には感情の切り替えがうまくいかず、大きなストレスを抱える可能性があります。

「感情労働」が介護士にもたらすストレス症状

感情労働」が介護士にもたらすストレス症状

ストレスによる精神的負担は、労働者自身に以下のような症状をもたらします。心当たりがある場合には、なるべく早く医療機関を受診しましょう。

バーンアウト(燃え尽き症候群)

自分でも気付かないうちに仕事に熱中してしまう人に多い症状が「バーンアウト」です。燃え尽き症候群ともいわれるように、ある日突然燃え尽きたように意欲を失ってしまいます。対人サービス業などで常にストレスにさらされる人に多く、「朝起きられない」「人に会いたくない」といったうつ病にも似た症状がみられます。

うつ病

うつ病の発症メカニズムは解明されていませんが、過度のストレスが大きな要因であると考えられています。全産業のなかで社会保健や福祉、介護事業における精神障害の労災認定数はもっとも多く、ストレスを抱えやすい仕事だと考えられます。医療機関でうつ病の診断を受けたならば、無理をせずにしっかりと休養することが大切です。

介護士ができるストレス対策

介護士ができるストレス対策

前述したように、介護士の仕事はさまざまな場面でストレスを受けやすいものです。「感情労働」とされる仕事であっても、介護士としていきいきと働くためにストレス対策について確認しておきましょう。

「怒ってもいい」心の中のネガティブな感情を認める

「介護士だから利用者さんに不満を持ってはいけない」、「介護士として立派に努めなければ」と、自分の仕事に誇りを持つ方ほど実際の感情とたてまえにストレスを感じる場面も多いのではないでしょうか。

怒りや悲しみ、不満といった感情は、ごまかしたままでいると大きなストレスにつながる可能性があります。介護士もひとりの人間ですから、たとえそれがネガティブなものであっても、自分の感情はきちんと認めるように日頃から意識していきましょう。

ストレスコーピングを見つけオンとオフを切り替える

ストレスをためないための対処療法を「ストレスコーピング」と呼びます。「おいしいものを食べる」、「ドライブをする」、「好きなだけ本を読む」など、自分なりのストレス解消法を見つけておくことは大切です。

「職場を離れたら仕事のことは忘れたい」と思っていても、ストレスが大きいほど思うようにいかない場合もあります。自分なりのストレスコーピングを見つけると、オンとオフをうまく切り替えることができるでしょう。

※ストレスコーピングの記事へ内部リンク

不満や悩みは他者へ相談する

労働安全衛生法により、一定規模の事業所にストレスチェック制度が義務付けられていることからも、職場のストレスは企業全体で考えなければいけない問題です。ひとりで悩まず上司や同僚に相談すれば、思いもよらない言葉で心が楽になることもあるかもしれません。

他人にとっては些細なことかもしれないと遠慮せず、心のモヤモヤはなるべく口に出すことが大切です。介護とはまったく関係のない友人に話を聞いてもらうのもよいでしょう。

上手にストレス解消し、「感情労働」の介護士としていきいきと働こう

上手にストレス解消し、「感情労働」の介護士としていきいきと働こう

介護士は、その仕事の特性上さまざまな人との関わりを持ちます。利用者さんの喜びや笑顔を身近に感じられる一方、不満や怒りを受けやすい環境に身を置かれることの多い職業です。他職種と連携をはかったりご家族に配慮したりするなかで、多くのストレスを抱えることもあるでしょう。

自分自身を守り、より良いケアを提供するためにも、ひとりでストレスを抱え込んでいてはいけません。感情労働において上手なストレス解消法を見つけ、介護士としていきいきと働きましょう。

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