介護現場のハラスメントに限界!セクハラ・パワハラ被害実態と対策方法

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介護職が抱える悩みの中でも、近年問題視されているのが「介護ハラスメント」です。利用者さんやそのご家族からの暴力や暴言、セクハラが主なもので、ハラスメントを受けた職員が退職に追い込まれてしまうケースもあります。
しかし、介護ハラスメントは受けた職員がひとりで抱え込んでしまうことが多く、問題が表面化せずにうやむやになることも少なくありません。
本記事では、介護現場で起こるハラスメントの実情を理解するとともに、ハラスメント問題が起きてしまう理由や原因を知り、自分が被害者とならない為の防止策や、被害者になってしまった場合の対処法について詳しく解説いたします。

利用者さんからのハラスメント(暴力・暴言)、介護職員の50%以上が被害者

介護の現場では利用者さんさんやそのご家族からのハラスメントが深刻化しています。サービスによってばらつきはあるものの、2019年の厚生労働省が公表した「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究 報告書」よると、介護職員の約50%以上が過去に利用者さんからのハラスメントを受けたことがあると回答しています。
サービスごとの内訳を見ると、介護老人福祉施設では70.7%、次いで認知症対応型通所介護で64.3%、最も低い訪問リハビリテーションでも38.8%となっています。身体介助など直接触れるサービスや、一緒に過ごしている時間が長いサービスほどハラスメントを受ける機会が多くなる傾向があります。

介護現場の2大ハラスメント!パワハラとセクハラ

パワー・ハラスメント

介護サービスを利用する高齢者のなかには、社長や学校の先生など、社会的に高い立場で働いていた方もいます。こうした方から、過去に自分が働いてい職場と同じように無理な命令をしたり暴言をかけたりする、精神的暴力「パワー・ハラスメント」を受ける職員が増えています。

なかには殴る蹴るなど、身体的暴力を振るう方もおり、弱い立場の職員への威圧的な行動に、精神的に追い詰められてしまう職員もいるほどです。また消費者意識が高い利用者さんやご家族も、同様に過度な要求を訴えてくることがあります。

セクシャル・ハラスメント

介護現場は女性が多く働いており、体を拭いたり着替えを手伝ったりと、利用者さんとの距離が非常に近くなります。こうしたときに男性利用者さんからお尻や胸を触られる「セクシャル・ハラスメント」が増えています。とくに職員は強い言葉で利用者さんへ注意できないため、嫌がっていることが伝わらず、セクシャル・ハラスメントが長期化することもあります。

介護現場で起きているハラスメント被害の事例

介護現場で実際に起こったハラスメントには、次のような事例があります。

  • 介助中に胸やお尻を触られる
  • アダルトビデオを無理やり見せられる
  • 学歴が低いことをバカにされる
  • 職員へ命令し、思いどおりに動かないと殴ったり蹴ったりする

また、男性利用者さんから女性職員へのハラスメントが多い一方で、男性職員のハラスメント被害も深刻です。なかでも、女性利用者さんからのいわれもないセクハラ被害の訴えなど、必要なケアをしているだけなのに加害者だと言われた事例もあります

なぜ介護ハラスメントは起こるのか?

介護ハラスメントが起こる背景として、利用者さんがハラスメントという言葉もなく問題意識が低かった時代を生きてきたことや、一部の男性利用者さんの場合、男尊女卑の考えを今でも持っていることなど、個人的な価値観による問題があると考えられます。また、利用者さん自身が自分の行動をきちんと律せなくなっていることも影響しています。

年齢を重ねるとさまざまなことができなくなり、体の衰えを実感します。できていたことができなくなる苦しみがストレスとなり、そのイライラを職員にぶつけてしまうのです。

とくに認知症を発症すると感情のコントロールが難しくなり、ダメなことだとわかっていても暴言や暴力が止まらない「不穏行動」が現れてしまう方もいます。普段は穏やかな方でも、不穏行動によって人が変わったように暴言や大声を出すこともあります。この不穏行動は認知症の進行を防ぐ薬の影響で起きる場合もあり、必ずしも本人がしたくてしているわけではないことを知っておきましょう。

介護ハラスメントへの対処法

介護ハラスメントを受けた場合に、個人としてはどのような対応すればよいのでしょうか。やってはいけないことは、力や強い言葉で対抗することです。相手の暴力に暴力で返す行為は、相手に不快感を与えるだけでなく職員側が悪く見られてしまうので状況が改善しません。

パワー・ハラスメント(パワハラ)の場合

暴力や暴言など身の危険を感じるハラスメントの場合は、まず可能な限り利用者さんと距離を置きましょう。身の安全を確保することが第一に必要です。手が届かない範囲へ逃げることは体への被害を防ぐことにつながります。そして、周りの職員に助けを求めて状況の改善に努めましょう。

セクシャル・ハラスメント(セクハラ)の場合

その場では優しい言葉で注意しながら、どういうことをされたのかを覚えておく必要があります。利用者さんと距離ができたら速やかに上司へ報告し、どのような対策を講じるべきなのか指示を仰ぎましょう。

介護ハラスメントの予防と対策

介護職員が我慢を辞める

介護ハラスメントはお客様である利用者さんやそのご家族から行われるため、介護職員が我慢してしまいがちです。しかし、我慢してしまうと介護ハラスメントが表面化せず、ハラスメントが続いたり、ほかの職員も同じような被害を受ける可能性があります。

介護ハラスメントは我慢して受け流さずに、「やめてください」「イヤです」と自分の意思をはっきり伝えましょう。そして、信頼する上司などへ相談や報告をすることが大切です。相談することで事業者単位の対応ができ、ハラスメントを受けたときのマニュアルの作成など、今後も含めた介護ハラスメントの対策に役立ちます。

日頃のコミュニケーションやケアを見直す

介護ハラスメントを受ける原因には、職員の対応が関係している場合があります。たとえば、利用者さんができると言ったことに対してすぐに「できない」と否定したり、「わからないでしょう?」とバカにするように接したりすると、利用者さんの自尊心を傷つけて怒らせ、暴言などのきっかけになってしまう場合があります

そこで、利用者さんに対する日頃のコミュニケーションの方法やケアの内容を見直してみましょう。利用者さんの意見を尊重し、不安なことを取り除くように接することで、介護ハラスメントの予防につながり、お互いによい関係性を保てます。

専門機関に相談する

介護ハラスメントには介護士だけで対応できないものも多くあります。その場合には上司や管理者に相談して、より実践的な対応策を講じてもらうことが必要です。しかし、なかには被害を深刻に考えず、調査を行わずに放置したり、我慢を強要したりする上司や管理者もいます

このような場合には、労働基準監督署や弁護士の無料相談、自治体の相談窓口など、外部の専門機関に相談するのがよいでしょう。専門機関に相談することで、上司や管理者に対しても本気で改善したいという気持ちが伝わります。また、通達や指導などが行われることで介護ハラスメントの改善に動かざるを得ない状況を作り出せます。

まとめ

介護ハラスメントを受けている方の中には、「相談しても何も変わらないだろう」「認知症だから仕方ない」と考えたり、「うまくあしらえない自分の技量が足りない」と考えてしまい、誰にも相談せずにひとりで抱え込んでしまうケースも見受けられます。強いストレスを感じているのなら、適切に対処することが改善への第一歩です。もし、今回ご紹介した対処法でも改善されない場合は、勤務するフロアや事業所の異動や担当者を変えてもらうことなどを提案して、働く環境を変えるのもひとつの手段です

個人としては、我慢せず自分だけで背負いこまないこと。事実を伝えて、周囲の協力を仰ぐことが大切です。また、関わり方自体への見直しも実施してみてください。会社や事業所といった組織としては、毅然とした態度で利用者や家族と向き合いつつ、配置転換等も含めたフォローを実施することが求められます。
いくつも対策を講じてもハラスメントがなくならず悩んでしまうときには、転職も視野に入れて、働きやすい環境で不安なく働くことを目指すのもよいでしょう。

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