365日朝昼夕と3食の大量のお食事の提供を行う施設においては、食中毒の発生及び蔓延防止の理解は、厨房職員だけではなく、配膳下膳のサポートも行う介護職員等も必要になります。今回は施設においての食中毒発生及び蔓延防止についてご紹介させて頂きますので、皆さんの業務の見直しにご活用頂けたら幸いです。
食中毒とは
食中毒とは
飲食物を介して体内に入った病原体(食中毒菌)や毒素(有害な物質)により、比較的急性に起こる胃腸炎症状等を主症状とする健康障害です。食中毒の原因物質は様々ですが、感染症法対象疾患のうち、細菌性食中毒により罹患するものが多く(90%以上)含まれています。予防対策として、食品の衛生管理や徹底した手洗いを行なうことで、細菌による食中毒を防ぐことが出来ます。
食中毒の分類
細菌性食中毒 | 感染型 | 腸炎ビブリオ・サルモネラ・カンピロバクター等 |
毒素型 | 黄色ブドウ球菌・ボツリヌス菌等 | |
その他 | 病原性大腸炎(O-157)・ウエルシュ菌等 | |
自然毒 | 植物性 | 毒キノコ(クサウラベニタケ・ツキヨタケ等) |
毒草(トリカブト・チョウセンアサガオ等) | ||
動物性 | ふぐ毒・貝毒・その他の有毒魚介類等) | |
化学物質 | 化学物質の不適正混入 | 添加物・農薬・重金属等 |
環境汚染物質による食品汚染 | 有機水銀・カドミウム等 | |
その他 | アレルギー性食中毒 | ヒスタミン |
小型球菌ウイルス | ノロウイルス等 |
おもな食中毒菌
【細菌型食中毒】
◎サルモネラ菌(感染型)
特 徴 | 動物や人に広く分布乾燥、低温に強い熱に弱い | 予 防 | 食肉の生食を避ける二次汚染防止(手指)十分な加熱 |
原因食品 | 鶏卵、食肉類とその加工品、二次汚染食品 | ||
潜伏期間 | 6~8時間(平均12時間) | ||
主症状 | 激しい腹痛、下痢・嘔吐、発熱 |
◎腸炎ビブリオ菌(感染型)
特 徴 | 好塩性増殖が速い真水、熱に弱い | 予 防 | 魚介類は真水で十分に洗浄低温管理二次汚染防止 |
原因食品 | 鶏卵、食肉類とその加工品、二次汚染食品 | ||
潜伏期間 | 6~8時間(平均12時間) | ||
主症状 | 激しい腹痛、下痢・嘔吐、発熱 |
◎病原性大腸菌(感染型)
特 徴 | 潜伏期間が長い | 予 防 | 十分な加熱二次汚染防止低温保存 |
原因食品 | 生食、汚染食品*ヒト・動物の糞便による二次汚染 | ||
潜伏期間 | 7~10時間(12~72時間:菌種による) | ||
主症状 | 激しい下痢・腹痛、嘔吐・血便、重症では尿毒症 |
◎黄色ブドウ球菌(毒素型)
特 徴 | 増殖時に毒素産生傷、鼻、髪に分布潜伏期間が短い | 予 防 | 手指の洗浄・清潔手指に傷のある人は調理しない室温放置しない |
原因食品 | おにぎり、弁当、サンドイッチ | ||
潜伏期間 | 30分~6時間(1~5時間) | ||
主症状 | 吐気・嘔吐、腹痛、下痢 |
◎ボツリヌス菌(毒素型)
特 徴 | 土壌に分布増殖時に毒素産生 | 予 防 | 十分な洗浄新鮮な食材を使用低温保存 |
原因食品 | いずし、缶詰、真空パック品、はちみつ | ||
潜伏期間 | 12~36時間(8~36時間) | ||
主症状 | めまい、呼吸困難、四肢運動マヒ、言語障害、嚥下障害 |
◎カンピロバクター・ジュジュニ・コリ(感染型)
特 徴 | 食肉・井戸水 | 予 防 | 十分な加熱 |
原因食品 | 食肉、特に鶏肉が関係した多様な食品 | ||
潜伏期間 | 24時間~36時間 | ||
主症状 | 腹痛、激しい下痢、発熱、嘔吐、筋肉痛 |
◎エルニシア・エンテロコリチカ(感染型)
特 徴 | ヒト、動物の糞便(特に豚)及び二次感染 | 予 防 | 十分な加熱 |
原因食品 | 豚肉 | ||
潜伏期間 | 2~5日 | ||
主症状 | 腹痛、下痢、発熱、その他虫垂炎様症状など多様 |
◎ウェルシュ菌(感染型)
特 徴 | 魚肉、魚介類、野菜を使用した加熱調理食品 | 予 防 | 調理後速やかに冷却させ冷凍保存し、再加熱する |
原因食品 | 魚肉、魚介類、野菜 | ||
潜伏期間 | 8~12時間 | ||
主症状 | 下痢、腹痛 |
◎セレウス菌-嘔吐型-(毒素型)
特 徴 | 焼きめし、ピラフなどの米飯類、パスタなど | 予 防 | 10~50度で増殖するので、長期間保存する場合は10℃以下か50℃以上で保存する |
原因食品 | 焼きめし、ピラフなどの米飯類、パスタなど | ||
潜伏期間 | 1~5時間 | ||
主症状 | 黄色ブドウ球菌食中毒の症状に酷似 |
◎セレウス菌-下痢型-(毒素型)
特 徴 | 食肉などのスープ類 | 予 防 | 嘔吐型と同様 |
原因食品 | 食肉などのスープ類 | ||
潜伏期間 | 8~15時間 | ||
主症状 | ウェルシュ菌食中毒に酷似 |
【自然毒による食中毒 】
◎ふぐ毒による食中毒
- 発症までの時間─食後20分~3時間
- 症状─麻痺(知覚麻痺、言語障害も含む)、呼吸困難、チアノーゼ
- 予防法─危険なので、家庭ではふぐの調理は行わない
◎きのこ毒による食中毒
- 主な症状-きのこを原因とする食中毒の症状は、きのこの種類によって下痢、嘔吐、発熱、麻痺などの様々な症状がある
- きのこを原因とする食中毒防止のポイント
知らない・見たことないきのこは採らない・食べない
誤った言い伝えや迷信を信じない!
「柄が縦に裂けるきのこは食べられる」とか「ナスと一緒に煮ると毒消しになるといったいい伝えは誤り
確実に鑑定された食用きのこ以外は絶対に食べない
図鑑の写真や絵にあてはめ、勝手に鑑定しない
【 ウイルスによる食中毒 】
◎ノロウイルス
特 徴 | 食品中では増えないヒトの腸管だけで増えるカキ等の二枚貝の体内に蓄積される | |
感 染 経 路 | *汚染されていた貝類を生あるいは十分に加熱しないで食べた場合*調理従事者などを介して二次汚染した食品を食べた場合*患者の糞便や吐物から二次汚染した場合 | |
潜 伏 期 間 | 24~48時間 | |
主 症 状 | 吐気・嘔吐、下痢、腹痛、軽度の発熱 |
※ノロウイルスによる食中毒防止のポイント
一般の食品衛生管理と健康管理がポイントとなります。
- 調理前は、健康チェックを行う。
(微熱、下痢、嘔吐等はないか。家族に同様の症状の人がいる場合もウイルスを手に付けて調理場に持ち込む可能性が高いので特に注意が必要です。) - 調理前、食事前、トイレの後には、十分に手洗いを行う。
- 布タオルなどの共用をしない。
- 調理器具はよく洗い、熱湯消毒や次亜塩素酸による消毒を行う。
- カキなどの二枚貝は、加熱して食べる。
(ノロウイルスは食品の中心温度85度以上で1分間以上の加熱を行うと感染性がなくなるとされています。) - 盛りつけのときは、料理を手や器具で汚染させないように注意する。
◎アデノウイルス
特 徴 | 50種類を越す型がある | |
症 状 | 咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、感染性胃腸炎、上気道炎、出血性膀胱炎など |
◎アストロウイルス
特 徴 | 50種類を越す型がある | |
症 状 | 咽頭結膜熱、流行性角結膜炎、感染性胃腸炎、上気道炎、出血性膀胱炎など |
◎インフルエンザウイルス
特 徴 | 現在流行タイプ:Aソ連型(AH1型)、A香港型(AH3型)、B型の3種類 | |
症 状 | 38℃以上の高熱、頭痛、関節痛、筋肉痛などの全身の症状が続き、も見られるのどの痛み、鼻汁、くしゃみやせきなどの症状気管支炎、肺炎、小児では中耳炎、熱性痙攣、まれに急性脳症などを併発し、重症化することもある |
◎ロタウイルス
特 徴 | 冬季、特に2歳以下の乳幼児に起こる形が車輪に似ていることからロタ(=ロータリなど回転を意味する)ウイルスと名付けられている | |
症 状 | 白色便と下痢 |
◎サポウイルス
特 徴 | 発見された場所(札幌)にちなんで名付けられた。稀に、食中毒などの集団発生を起こすことがある | |
症 状 | ノロウイルス、ロタウイルスと同様、乳児の嘔吐下痢 |
◎エンテロウイルス(エコーウイルス30型)
特 徴 | エンテロウイルスは、夏カゼ(ヘルパンギーナ、手足口病、無菌性髄膜炎など)の主要な原因ウイルス。70種類以上の型があり、年により流行する型が異なる。エコーウイルス30型は、主に無菌性髄膜炎の原因となる | |
症 状 | 発熱、嘔吐、頭痛 |
◎エンテロウイルス(コクサッキーウイルスA16型)
特 徴 | 夏カゼの一種(手足口病) | |
症 状 | 手のひら、足の裏、口の中の粘膜などに水泡性の発疹 |
◎エンテロウイルス(エンテロウイルス71型)
特 徴 | コクサッキーウイルスA16型と同様に、手足口病の原因 | |
症 状 | 無菌性髄膜炎を併発することがある |
食中毒予防について
食中毒予防の3原則
食中毒菌をつけない(手洗いの励行)
- 作業前(作業内容によっては途中)トイレの後には必ず、手洗い手指消毒を行う。手洗いについては洗い残しの多い、親指周り、爪、指先、しわの部分は念入りに洗う。また、トイレ時はエプロン、三角巾を外す事。
- 器具類は目的に合わせて使用し、使用後は洗浄、消毒、乾燥をする。
- 厨房内(厨房・食品庫・厨房事務所)は常に清潔を保ち、食品に細菌が付着しないようにする。
- 冷蔵庫の庫内の食材は配置を決めて毎日整理をする。肉・魚は汁が落ちない様にバットに入れて保管する。
食中毒菌を増やさない(常温放置しない)
- 食材を長時間室内に放置せず、速やかに冷蔵庫に保管する。
- 原材料を迅速に調理加工する。
- 調理した食品は、速やかに提供し2時間以内に喫食して頂く。
食中毒菌を殺す(加熱する)
・中心温度計できちんと食品の中心温度を測り、温度管理をしっかり行う。
食中毒菌(病原性大腸菌・腸炎ビブリオ・黄色ブドウ球菌・サルモネラ・ノロウイルスなど)の中でも、特にノロウイルスは熱に強いので必ず85℃以上で1分以上の加熱を行うこと。
細菌検査について
グループホーム職員 管轄行政の実施ルールに従う
厨房職員 6月~9月(月2回)その他(月1回)
衛生管理について
手洗い
a 水で手をぬらし石けんをつける。
b 指、腕を洗う。特に、指の間、指先をよく洗う。(30秒程度)
c 石けんをよく洗い流す。(20秒程度)
d 使い捨てペーパータオル等でふく。(タオル等の共用はしないこと。)
e 消毒用のアルコールをかけて手指によくすりこむ。
※aからcまでの手順は2回以上実施する。
器具等の洗浄・殺菌
a 飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)で3回水洗いする。
b スポンジタワシに中性洗剤又は弱アルカリ性洗剤をつけてよく洗浄する。
c 飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)でよく洗剤を洗い流す。
d 部品は80℃で5分間以上又これと同等の効果を有する方法で殺菌を行う。
e よく乾燥させる。
f 機械本体・部品を組み立てる。
g 作業開始前に70%アルコール噴霧又はこれと同等の効果を有する方法で殺菌を行う。
ふきん、タオル、スポンジタワシ等
a 飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)で3回水洗いする。
b 中性洗剤又は弱アルカリ性洗剤をつけてよく洗浄する。
c 飲用適の水(40℃程度の微温水が望ましい。)でよく洗剤を洗い流す。
d 100℃で5分間以上煮沸殺菌を行う。
e 清潔な場所で乾燥、保管する。
3.食中毒が発生したら
食中毒発生時のフローチャート
① 食中毒発生
↓
② 状況の把握
↓
③ 対 応
↓
④ 感染の防止
保健所への報告
- 何らかの理由で体調が悪い人が多数でた場合
- ある時点において、10名ないし利用人数の半数に症状が出た場合
- 状況の悪い人が時間をおうごと・日数を追う毎に増えた場合
- 死者・重症者が一週間に2名以上出た場合
食中毒発生時の厨房の対応
- 調理業務の中止・調理上の現状維持
- 食材・保存食の保管状態の確認(2週間保存)
- 保存食の破棄処分の中止
- 前2週間分の献立を確認
- 代替え食の確保
- 食材納入業者の納入停止
厨房の運営体制の確認
- 納品状況(納入業者記録簿)
- 厨房職員の健康状態 (細菌検査結果・個人衛生点検票)
- 厨房職員の出勤状況
- 業務停止への対策
- 所管保健所への調査協力(保健所への説明)
保健所の対応(立ち入り調査)
- 喫食状況調査
- 原材料調査
- 食品保管状況の調査
- 献立表の提出(保健所が指定した期間)
- 厨房職員の緊急腸内細菌検査の実施
- 保存食(原材料・調理済み食品)の提出(保健所が指定した期間)
- 厨房図面提出
- 対象者の食中毒症状調査
- 対象者の腸内細菌検査
- ご利用者と職員の名簿提出
行政処分
3・4日間の営業停止
(調理室内外の清掃・消毒の実施。 実施後に保健所の巡視を受ける)
再発防止策の検討
業務の見直し・衛生管理の徹底
【食中毒を発生させない為に】
野菜・果物
- ①検収がすんだ材料は、流水でよく水洗いする。特に葉菜類の根元、土物などは念入りに水洗いし、泥を落とす。
- ②清潔な容器に洗い上げ、水を切る。
- ③専用のまな板、包丁でカットする。
- ④清潔な容器に入れる。
- ⑤清潔なシートで覆い、調理まで30分以上を要する場合には10℃以下で冷蔵保存する。
生野菜、生果物の提供方法について
ミニトマト、パセリ、サラダ菜、生果物など生食する食材に関しては、次亜塩素酸ナトリウム溶液等で殺菌。
※次亜塩素酸ナトリウム溶液
200mg/ℓで5分 または 100mg/ℓで10分間で殺菌を行う。
魚介類・食肉類
- ①他の食品に触れることのないよう、専用の清潔な容器に入れ替えるなどをして、食肉類10℃以下、魚介類5℃以下で保存する。(冷凍で保存する物は-15℃以下)
- ②魚介類は必要に応じてよく洗う。
- ③専用のまな板、包丁でカットする。
- ④速やかに調理へ移行させる。
卵類
- ①他の食品に触れることのないよう、冷蔵庫で保存する。(-10℃以下)
- ②流水でよく水洗いする。
- ③割卵する場合は調理直前に行う。
- ④速やかに調理へ移行させる。
まとめ
食中毒の防止においては、日頃の職員の体調管理と衛生管理の徹底が、要になります。感染症予防同様に正しい知識で、適切な食中毒防止の管理を行い、お客様の安心・安全のお食事の提供を心がけて下さい。