残業は労働基準法の規定内で、労働者側、使用者側の双方が納得のうえ、残業代がきちんと支給されるのであれば行っても構いません。しかし、介護職の4人に1人は無償で残業を余儀なくされているという調査結果があります。サービス残業は法令違反にあたります。それでもサービス残業がなくならない原因はどこにあるのでしょうか。介護職のサービス残業の実態と、ルールを守っていない残業をなくすための方法について、この記事を参考に対策を練りましょう。
目次
介護職のサービス残業の実態
全国労働組合総連合が発表している「介護労働実態調査 報告書」によると、介護職の25%はサービス残業をしており、その内でひと月に5時間以上のサービス残業を行っている人は16.2%という調査結果があります。これは労働組合のある施設・事業所のみの結果であるため、労働組合のない事業所や施設での割合はもっと多い可能性もあります。
サービス残業の内容
「情報収集・記録」がサービス残業の内容の7割近くを占めています。そのほかには、「利用者へのケア・家族等への対応」や「職場ミーティング」、「ケアの準備」、「レク・施設行事の準備」など、本来は就業時間内に組み込まれるべき業務がサービス残業で行われているのです。
通常勤務時間後の延長労働
介護職のサービス残業としてよくあるパターンが、通常勤務時間を過ぎての延長労働です。日勤が17時までであっても17時ちょうどには帰れず、通常勤務時間後に記録を書くことはよくみられます。
自分の職場が人手不足だと認識している介護職の正規職員は約8割にのぼります。「通常勤務時間になったからといって、周りの同僚が働いているなか、自分だけ帰ることは申し訳ない」と残って仕事を続けることや「職場が通常時間勤務を過ぎても働くのが当たり前の雰囲気である」など、人手が足りず、仕事が回りきらない背景から、サービス残業が横行されることがあります。
通常勤務後のミーティングなど
ミーティングの時間を勤務時間内に設定することが認められず、勤務時間外に時間をとらなければならないケースもよくあります。ミーティングは業務の一環として、勤務時間内に行うことが原則です。出席者の時間が合わないなどのやむを得ない場合に時間外で行われることもありますが、残業代は支払われるべきです。残業代を払わずに勤務時間外で行っている場合は経営側がルールを守っていないと捉えられます。
勤務日以外でのミーティングなど
介護職はシフト勤務のため、職員全員が参加するような事業所全体でのミーティングの場合など、誰かが休日や勤務時間外になるなど、調整が必要になってきます。この場合も休日出勤や時間外労働となる職員については、割増賃金が支払われる必要があります。勤務日以外のミーティングの賃金を支払わないという経営側の甘えた対応はあってはならないものです。
残業代が支払われない理由
残業代を「自分から請求していない」ケースが7割と多く、「請求できる雰囲気にない」という意見もみられます。「請求できる時間の上限が決まっている」、「支給されない業務や会議がある」、「請求しても削られる」など、経営側のルールで請求できる状態にないという理由も約4割におよびます。時間外労働による残業代を受け取ることは労働者の当然の権利です。残業代が支払われない職場では、経営側の対応に問題があると考えられます。
なぜサービス残業が発生してしまうのか?
介護業界は人手不足でありながら、限られた人員で仕事を回しているため、1人あたりの仕事量は必然的に増え、残業が発生します。介護職の給与となる事業所の収入源は「介護報酬」がほとんどを占めます。介護報酬は介護保険で要介護度やサービス内容によって公定価格が定められているため、事業所の収入が大きく増加することは見込めません。
平成29年の実績調査によると、介護事業所の収入に対する人件費率は67.7%です。経費削減をするとなると7割近くを占める人権費がいちばん削りやすく、残業代をカットするという流れになっていると考えられます。
残業に関する正しいルールとは
2020年4月より時間外労働の上限規制が中小企業にも適用となりました。法律で定められている労働時間、残業について正しい知識を持っておきましょう。厚生労働省の働き方改革特設サイトでも確認できます。
労働基準法では1日8時間を超えた労働はすべて残業
労働基準法により、「1日8時間、週40時間」、「休日は毎週少なくても1日」という法定労働時間が決められています。労働者がこの基準を超えて働く場合には、労働組合や管理監督者でない労働者側の代表と使用者の間で36協定の締結をし、所轄労働基準監督署長への届け出が必要です。事業者側は職員が残業した分の割増賃金を支払わなければなりません。
法で定められている残業の上限規制とは
2020年4月から、働き方改革法で、中小企業の残業の上限規制が設けられました。残業時間の上限は、原則として「月45時間・年360時間」と定められており、介護事業所も月45時間以上の残業は行えなくなりました。
働き方改革法適応でますますサービス残業やステルス残業が増える?
残業した場合や、休日出勤した場合は割増料金が払わなければなりませんが、ひと月で45時間以上残業をしている人は1.8%存在し、残業代をもらっていない職員も多くいます。
こういった状況下で、働き方改革法が適応されることで「ステルス残業」の増加が懸念されています。サービス残業は働いた分の賃金が支払われない残業に対し、ステルス残業は、隠れて行う残業です。終業時間にタイムカードを刻印して退勤したようにみせかけておいて、こっそりと職場に戻って仕事をすることや、家に持ち帰って仕事をすることを指します。残業はせずに職場から定時で帰るように言われても、現場の仕事が終わらないので職員が隠れて残業せざるを得ない状況が生じることが危ぶまれています。
介護職員がサービス残業に応じてしまう理由
責任感やサービス残業せざるを得ない職場の雰囲気などの理由から、介護職員がサービス残業に応じています。
責任感
「自分の仕事は最後までやらなければならない」、「中途半端に仕事を終わらせることはできない」、「自分が残業しなければ誰かがしなければならなくなる」と責任を感じ、勤務時間を過ぎても仕事が残っている限り働き続ける。「自分のやるべき仕事を時間内に終わらせられなかったのだから、残業代を請求するのは申し訳ない」、「同僚も同じ条件で働いているのだから、自分だけ請求するわけにはいかない」と暗黙の了解でサービス残業が行われていることがあります。
慣習・社風、断れない
職場全体が当たり前のようにサービス残業に応じている社風や、上司から残業を頼まれると断ることができない雰囲気、強制的に残業を強いられる慣習があるといった場合には、サービス残業が横行しやすくなります。
サービス残業をしないためには
納得のいく働き方をするための4つの選択肢をみていきましょう。
サービス残業を断る
たとえ、契約書に残業しても給与が出ない旨が明記してあっても、労働基準法に違反していればその契約は無効となります。サービス残業は違法なのでやらないと堂々と断ってもまったく問題がありません。勇気を持ってきっぱり断ることもひとつの手段です。
とはいえ、ひとりではなかなか言い出せない場合も多いでしょう。介護職の労働環境をよりよいものにするため、全国労働組合総連合では、ヘルパーネットを立ち上げています。ヘルパーネットでは、同じ悩みを持つ人で交流を持つことや、労働相談を聞いてもらうこともできます。
会社と相談する
残業は、労働基準法の残業の上限範囲と割増賃金の規定内で、かつ雇用者と従業者の双方の合意があれば問題はありません。自分が対応できる時間を事業所と相談し、残業代を支給してもらって残業するという手段もあります。
残業しているのに残業した分の給与を受け取っていない場合は、残業代を請求するのもひとつの方法です。労働審判を利用して請求することもできます。労働審判については、労働問題に詳しい弁護士に相談してみてもよいでしょう。
サービス残業のない職場へ転職する
職場の慣習や社風でサービス残業が当たり前になっている場合は、残業代を請求することや残業を断ることが難しく、職場に相談することさえ叶わない場合もあります。こういった場合には、サービス残業がない職場へ転職するという選択肢もあります。
サービス残業のない職場に転職することもひとつの選択
介護職の7割が残業をしており、そのなかで、4人に1人は残業代を受け取らずに働いています。残業は法律で定められた上限時間内で行うことが守られるべきであり、残業した時間分はその分の報酬が支払われるのが当然です。サービス残業をしている人の多くは、職場でサービス残業が横行している環境にあり、泣き寝入りをしているのが現状です。職場への相談が難しい場合には、サービス残業のない職場に転職するのもひとつでしょう。