少子高齢化に伴うさまざまな問題を受け、介護の目的が「できないことをお世話する」ことから「自立支援」や「予防」を中心としたものへとシフトしてきています。2018年の報酬加算に対する介護報酬改定では身体的自立を促す取り組みに重点が置かれ、厚労省老健局老人保健課による2021年に向けた方針では「自立支援・重度化防止に資するサービス」への評価を検討しています。そこで、この記事では介護の現場で重要とされている自立支援介護について解説します。
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目次
自立支援介護とは
自立支援介護とは、介護を必要とする人が自立した生活ができるように支援することです。自立に向けた支援の内容は大きく分けて身体的自立、精神的自立、社会的自立の3種類あります。介護を受ける人がこれらの3つの自立を達成したり、改善したり、維持したりできるようにすることが自立支援介護の目的です。従来の介護は、介護を受ける人ができないことを補完する「お世話」を行う介護でした。しかし、介護の在り方は変わり、介護を必要とする人が自主性を持って自分らしく生活できる「自立」に向けた支援に重点が置かれるようになっています。
自立支援介護に必要な4つの基本ケア
自立支援介護を行うにあたり必要なケアは主に4つあります。すべてのケアは関連しあっていて、いずれかだけを行うことでは不十分です。4つのケアは人が健康に生きるために欠かすことができない基本原則となっているため、介護する際には事前にしっかりと把握しておきましょう。
水分
人が生きるうえで必要不可欠なものに「水」があります。水は体の多くを占めていて、成人の体重の約60~65%、高齢者でも約50~55%は水分です。水分は筋肉を使って蓄えられるため、年齢とともに筋肉量が減りやすい高齢者の体内の水分は、子どもや成人に比べて少なくなっています。水分が不足したときに主に見られる症状が脱水症状です。具体的な症状は皮膚の乾燥といった軽度のものから失神や体の痙攣といった重度のものまでさまざまあります。
また、身体的活動性の低下は栄養不足や運動不足などからだけではなく、水分不足によっても起こります。さらに、脳の覚醒基準も低下しやすくなり、認知症や失禁の原因にもなり得るため要注意です。高齢者は1日に1500ml以上の量の水分摂取が必要といわれています。こまめな水分摂取が重要となります。しかし、高齢になると体の感覚が衰えてのどの渇きを自覚しにくくなるため、介護する人が気を付けてあげることも大事です。
食事
身体の礎となる食事に対するケアも介護では重要です。食事の摂取量や必要な栄養が不足すると、寝たきりや認知症になってしまう場合があります。身体を動かすときに必要なエネルギーや体力を十分に確保できなくなるからです。自立に向けた身体作りに欠かせない運動ができなくなって、筋肉や関節を使う機会が減ると、身体的な衰退も進みやすくなるため気を付けなければなりません。
また、筋肉は運動するときだけに使うものではありません。食べ物を咀嚼する際にも使用します。咀嚼時に使う筋肉の衰えが見られると、噛まなくてもよい食事に変えたほうがよいと考えることもあるでしょう。しかし、噛む必要のない食事に変えると口腔機能の低下を促し、嚥下機能障害や誤嚥性肺炎の原因になりかねません。そのため、自立を目指す介護では、噛める食事で、1日に必要となる1500kcal以上のエネルギーを維持することが理想です。
排便
排便の頻度や量が正しく行われていることは腸内環境が良好な証拠です。腸には気分を安定させる作用を持つセロトニンという神経伝達物質があります。セロトニンは腸の調子が良いと生成が促されるため、気分が落ち着き認知症の症状が軽減する場合もあります。このようなことからも、排便が正しく行われるようにケアすることは大事です。排便の適正頻度は食事内容や食べる量などによって変わります。ただし、一般的には、3日に1回以上あることが理想です。適した頻度で排便が行われるように、十分な水分摂取と適度な運動を行うようにサポートしましょう。
運動
食欲を促し、筋力の維持にもつながる運動は、自立生活に欠かせない大事な要素です。運動といっても、その内容には軽度なものから重度なものまでさまざまあり、たとえば、「歩く」という動作は誰でも簡単にできるように見えます。しかし、実際に歩くためには、全身の筋肉の活動が必要です。そのため、激しい運動をしなくても、歩くだけで脳に刺激を与えることはできます。脳が刺激を受ければ、脳が活発化して覚醒水準が上がり、便意や尿意に対して自らしっかりと意識できるようになります。本人が便意や尿意を意識し、抑制することができれば、失禁を防ぐことも可能です。
自立に向けて必要となる歩行の目安は1日2km以上です。ただし、一度にこの距離を歩く必要はなく、途中で休憩を入れながら行っても効果はあります。
老人ホームでの自立支援への取り組み
高齢者に介護サービスを提供している老人ホームでは、自立できる力の維持や向上を目指したさまざまな取り組みも行っています。
たとえば、筋力を高めるためのトレーニングの指導です。介護予防運動指導員を配置し、目標に対する到達度や効果などの測定を行っています。介護予防運動指導員とは、財団法人東京都健康長寿医療センター研究所認定の民間資格で、介護予防を目的とした運動を指導する専門家です。介護予防運動指導員が必要に応じてほかのスタッフとともに、リハビリの個別相談から介護予防につながる機能訓練まで行います。機能訓練として行われるのは、咀嚼などで必要となる力を付ける口腔体操や機器を使ったトレーニングなどです。 一方、実践的な生活リハビリも自立支援に向けて行われている取り組みのひとつです。簡単な調理を行ったり、アクティビティを体験したりするなかで、身体機能や筋肉の衰えを防ぎ、自立力を鍛えます。また、高齢者は刺激や社会との交流が途絶えると心身共に衰えやすいため、季節感を覚えるようなイベントやほかの入居者などと接する機会が持てるさまざまなイベントやレクリエーションも実施しています。
自立支援介護のメリット
自立支援介護によるメリットのひとつが、介護にかかるコストの削減です。排泄における自立が実現すれば、おむつを使う必要がなくなり、おむつ代が不要となれば、それにかかるコストの負担は軽くなります。また、施設の食事は普通食や流動食など複数の形状から入居者に応じて用意することが一般的です。刻みタイプや流動食などは普通食からひと手間かけた準備が必要となります。そのため、普通食で対応できれば用意の手間が減り、介護施設にとってはコストの削減につながります。普通食を食べられるようになると食事の見た目や味などへの楽しみも生じやすくなるため、利用者さんにとってもメリットです。
さらに、自立支援介護により自分で行動できるようになると運動量が増え、便通もよくなって、日々の生活が活発化します。活発に行動するようになれば、自然と利用者さん同士のコミュニケーションも多くなることでしょう。一方、介護施設やスタッフにとっても自立支援介護はメリットのあることです。その場限りで役割が終わるのではなく、長期的な目標を持って自立支援に携わることにより、介護スタッフのなかにやりがいが芽生えやすくなるからです。
介護に対する国の姿勢の変化
少子高齢化による高齢者の増加や労働人口の減少といった問題に伴うさまざまな課題を前に、介護の在り方も変革のときを迎えています。2014年の介護保険制度の改定では、要支援1~2の人に対する介護保険の対象が変わりました。デイサービスはこれまで介護保険による給付金の対象内でしたが、改定により対象から外されています。また、2006年に新設された介護予防訪問介護などの介護予防サービス(居宅介護サービス)についても対象外となりました。
さらに、2018年の介護報酬改定では、重点を自立支援に置き、ADL維持等加算が新設されています。ADL維持等加算とは、通所介護利用者の心身における機能の維持や改善につながったケースが多くあった事業所に対して、報酬が加算されるシステムです。今後も国は介護の状況に応じた対策を取ることが予想され、介護業界も国の方針に即した対応が求められます。介護の現場を支える多くの事業所も、国や介護業界の動きに合わせて、自立支援により一層の力を入れていくことでしょう。
自立支援介護の注意点
あらゆるメリットを持つ自立支援介護ですが課題点や注意点もあります。たとえば、介護サービス事業者が利用者さんを選別してしまう可能性があることは重大な課題です。
要介護度の改善見込みが低い高齢者は介護サービス事業者にとって介護報酬の評価ポイントになりません。そのため、受け入れを拒むこともあり得ます。また、利用者さんに対して自立支援の強要を行わないように注意することも必要です。自立に向けた支援を積極的に行うことは間違った対応ではありません。
しかし、本人が望んでいないにもかかわらず栄養の摂取やリハビリテーションの実施などを課すことは、利用者さんへ苦痛を与えるため適正な介護とはいえません。さらに、本人の意思や身体能力的を理由に在宅生活が難しい利用者さんに対して 、在宅復帰を無理に進めるような行動も避ける必要があります。そもそも、年齢とともに健康状態や体力が衰えるのは自然なことです。利用者さん本人ではどうにもならないことや利用者さんの意思に反するような自立支援介護の押し付けは決して行ってはなりません。生活の質の向上と利用者さんの尊厳に重点を置き、要介護度の改善だけを判断基準に置かないようにしましょう。
高まる自立支援介護の需要!
自立支援介護によるメリットを受けられるのは介護される本人だけではありません。その家族にとっても介護するスタッフにとってもメリットがあります。少子高齢化が進む日本では、介護をする側にも受ける側にもさまざまなメリットがある自立支援介護のニーズは、今後も一層高まっていくことが予想されます。そして、それに伴い自立支援介護を支えるスタッフに対する需要もさらに増えていくでしょう。