入浴拒否と認知症の関係とは?その原因から対処法まで徹底解説

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入浴拒否と認知症の関係とは?その原因から対処法まで徹底解説

入浴は体の衛生面において不可欠なものであり、心の健康面に関しても重要な役割を果たしています。心身を良好な状態に保つためには定期的な実施が必要ですが、認知症の方は入浴を拒んでしまうケースが少なくありません。そこで今回は、そのような入浴拒否の原因を具体的に紹介し、拒まれた場合の対処法も詳しく解説していきます。

入浴拒否の原因

何がきっかけとなって入浴拒否にいたるのでしょうか。それを知っていれば、利用者さんに拒まれた際に適切な対処ができるようになります。
ここでは入浴拒否の原因を4つのパターンに分けて紹介していきます。

入浴自体を必要だと思っていない

認知症の主な症状として記憶障害が挙げられます。前回いつ入浴したのか覚えておらず、あまり時間が経っていないような気がして、まだ不要であると考えてしまうことも多いです。思考力や判断力が低下していると、臭いや汚れといった体の状態を把握できず、入浴の必要性を正しく感じとれません。そのような人を説得しても、たいていの場合は反感を買ってしまうだけで、なおさら強く拒まれるケースも見受けられます。ですから、入浴を前面に押し出すのではなく、何かのついでというスタンスで誘うことが望ましいでしょう。

また、認知症が進行していると「お風呂」の意味を理解できないことがあります。その場合は「疲れをとるためにお湯につかりませんか」「汗を流してすっきりしましょう」などと、入浴の気持ちよさをイメージしてもらえる声かけが有効です。

入浴が面倒くさい

移動や脱衣をはじめとして、入浴はさまざま手順が組み合わさった複合的な行為です。健常者は単純なひとつの作業と捉えがちですが、認知症の人はそれほどシンプルには感じられません。記憶障害や実行機能障害により、自分で考えながら手順をこなしていくことは、非常に難しいと認識している場合があります。そのイメージが強すぎると、入浴は気持ちがよい行為だとわかっていても、わずらわしいと思って拒みやすくなるのです。

また、物事を始める決心をしづらいという認知症の症状も関係しています。手順に煩雑な印象のある入浴に関しては、その症状が顕著に表れる傾向があるため、心理的なハードルを下げる配慮や工夫が必要です。

入浴介助の必要性を感じていない

入浴自体を拒もうとする意思はなくても、入浴の介助を受けることに拒否反応を見せるケースがあります。認知症が進行して認知機能が低下していくと、介護されている事実や介護の意味すら理解できなくなることもあるのです。その場合は、自分一人で可能な作業とそうでない作業の区別も難しくなってきます。一人で入浴できると誤解している人は、それが自信となって聞く耳を持たなくなり、介助に抵抗を示してしまうというわけです。

また、単純に拒否するだけでは済まないケースもあるので注意しなければなりません。介助しようとする職員に対して怒りを覚え、暴言や暴力に発展してしまうリスクもあります。そのため、安易に指示をしたり手を貸したりしないなど、冷静な観察にもとづく慎重な接し方が求められます。

入浴に負のイメージがある

認知症の記憶障害が発症した場合、本人の感情が大きな要因として残っているケースが多いです。たとえば、下着を脱ぐときに失禁の汚れを目撃された経験があると、その羞恥心が強く刻まれてしまうことがあります。そのほかにも、入浴中に何度も声をかけられてリラックスできないなど、さまざまなシーンで感じた不満が定着しているような状態です。このように嫌な経験が積み重なるにつれ、入浴自体に負のイメージを抱くようになりやすいのです。

しかし、職員がその変化に気づかず、利用者さんのストレスになるような言動を続けてしまうケースも見られます。そうしてネガティブな感情が膨らんでいくと、最終的に入浴拒否を招くこともあるので要注意です。

入浴拒否が意味すること

入浴は全裸になることが前提となる行為であり、心身ともに無防備な状態になります。そのため、プライバシーが守られた環境で、好きなように入りたいというのは当然の心理です。認知症になると、その願いが叶えられなくなり、尊厳や自己流の入浴を否定されたように感じることもあります。そして、希望と現実のジレンマが、怒りや苛立ちとして職員に向けられ、それが顕著な形で表れると「入浴拒否」となってしまいます。そのため、怒りや苛立ちを刺激しないように、このジレンマと付き合っていく必要があります。羞恥心にも十分に配慮し、利用者さんがこだわる入浴の仕方を取り入れながら介助しなければなりません。

入浴拒否の対処法

入浴拒否の原因や意味を理解したら、次はどうすれば上手に対処できるのか一つずつ確認していきましょう。ここからは、その具体的な方法を詳しく挙げていきます。

お風呂の伝え方を工夫する

認知症の人は、体に異常がなくても、以前までできていた動作を行えなくなることがあります。また、感覚器は正常なのに状況把握能力が落ちることも珍しくありません。それぞれ「失行」「失認」と呼ばれる症状であり、これらの場合は伝え方に工夫をする必要があります。
単純に入浴を促すだけでは、利用者さんは手順がわからなくて混乱してしまうことが多いです。心情や状況を察して負担を減らしてあげることが重要であり、一つひとつの動作に対する丁寧なサポートが求められます。

また、知覚に訴えかける形でお風呂の存在を教えることもひとつの手です。たとえば、お湯を張った湯船を見せたり触らせたりすることで、感覚的に気持ちよさを思い出してもらえる可能性があります。

暖かいタオルや足浴などから始める

入浴の声かけをしたときに拒否反応を示すなら、別のステップから始めるようにしましょう。温かいタオルを用意して、顔や手などを拭くように優しく促しながら、そっと手にかけてあげます。また、足浴からスタートする方法などもありますが、いずれにせよ大切なのは利用者さんの意識を入浴に結び付けていくことです。体が温まると気持ちがよいことや、清潔になると爽快であることを体感してもらって、入浴のメリットをイメージできるように導いていきます。湯船につかることに抵抗があるなら、まずはシャワーを目指して取り組むとよいでしょう。このように、段階を踏む形でアプローチしていくことも有効な対処法です。

無理強いをせず本人の意思を尊重する

認知症の利用者さんが入浴を拒否した場合、職員が強引に実施しようとするのは厳禁です。二度と入浴したいと思わなくなるおそれがあるので、本人の気持ちに寄り添うスタンスを見せる必要があります。自然な形で促す場合でも、あくまでも最終決定は本人にゆだねることがポイントです。そうすると、意思を尊重されたように感じてもらえるため、職員に対する信頼感の強化を期待できます。その繰り返しによって、利用者さんの態度は介護の方針を受け入れる方向に変わっていき、入浴を拒否しなくなるケースもあるのです。

本人の記憶スイッチを見つけながら介助する

お風呂の存在や気持ちよさを理解できなくなっている場合は、思い出すきっかけになる記憶スイッチを探しましょう。人によって記憶スイッチにつながるポイントは異なるため、入浴を促す際はいろいろなパターンを試してみることが大事です。たとえば、言葉だけでは伝わらないなら、文字で説明するという方法もあります。写真やイラストを見せるなど、さまざまな手段で知覚にアプローチして、記憶スイッチを刺激することが効果的です。また、記憶スイッチ探しに楽しさを見いだすと、介護を続けるモチベーションを長く保てるようになります。

認知症の方の心に寄り添いながら介護をしよう

認知症の方は、自分の置かれた状況や日常行動ができない理由を理解できず、多かれ少なかれジレンマを持っています。ですから、その心情を察したうえで、しっかりと寄り添いながら接していくことが重要です。もちろん、これは入浴拒否の対処に限った話ではありません。ほかの症状に関しても寄り添う精神を忘れず、相手の気持ちを尊重して介護に取り組んでいきましょう。