「触れて」認知症の症状を和らげる!タクティール®ケアとは

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「触れて」認知症の症状を和らげる!タクティール®ケアとは

「触れる」ことで症状が和らぐタクティール®ケアをご存じですか?「手あて」という言葉があるように、手で触れて相手とコミュニケーションを図り、相手に寄り添うケア手法のひとつです。タクティール®ケアとは「触れる」という行為そのものが生み出す相手との信頼関係や、分泌されるホルモンの働きにより、認知症でみられる周辺症状の緩和が期待できるケアです。タクティール®ケアとはどのようなケアかを詳しく説明していきます。

タクティール®ケアとは

タクティール®ケアとはスウェーデン発祥の緩和ケアのひとつです。タクティール®という呼称は、ラテン語の「タクティリス(Taktilis)」=「触れる」からきています。

1960年代に未熟児のケアに携わっていたスウェーデンの看護師が赤ちゃんを包み込むように優しく触れると、赤ちゃんの体温が安定し、体重が増えたことからはじまったケアで、現在では認知症の方やターミナル(終末期)の方などに対する緩和ケアとして、多くの病院や施設などで取り入れられています。

言葉の語源が示す通り、介護者や看護者の手で相手の背中や手足に優しく「触れる」ことで、脳の視床下部から別名「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンが分泌され、ストレスや不安、痛みなどが緩和されると言われています。
また、身体に「触れる」こと自体が相手とのコミュニケーションとなり、信頼関係を育むことにもつながると言われています。ケアを行っている側もオキシトシンが分泌されて心地良い感情を得ることができ、ケアをする人とケアを受ける人の双方に良い点があるケアです。

タクティール®ケアの目的

認知症の方には、次のような目的でタクティール®ケアを行います。

  • 介護抵抗・閉じこもりなどに対し、言葉を介さないコミュニケーション手段で、相手との信頼関係を築く
  • 不安・抑うつ・イライラなどの症状を和らげる
  • 運動機能や感覚には問題がないのに、歩きにくい、箸を使いにくいなど、自分の身体を上手く使いにくいという症状に対し、自分の身体の部位への認識を高める
  • 不眠によって夜間よく眠れていない、不安やイライラがあって食事が十分に摂れない、落ち着いて過ごせないなどの症状を緩和し、生活の質(QRL)の向上を図る

認知症緩和ケア理念に基づいてタクティール®ケアを活用する

緩和ケアとは、医療を施しても完治することのない病気の患者さんとそのご家族の、痛みや心身の苦痛を和らげ、生活の質をより良く保つことです。
日本ではがん患者さんへのケアとして知られている緩和ケアですが、スウェーデンの財団が認知症に対しての緩和ケアを始めたことから認知症緩和ケア理念が生まれました。

認知症緩和ケア理念とは、症状だけにとらわれず、認知症の方とその家族を心身面、社会面などあらゆる側面から捉えて支援していくという考えに基づいています。
その理念を支えるのが、以下の4つの柱です。

  1. 本人の訴えや望むことを中心に症状のコントロールを図る
  2. 認知症の方の家族が無理なくケアや介助を行えるように支援する
  3. お互いを尊重するチームワーク
  4. 本人の望むコミュニケーションの手段で信頼関係を築いていく

これらの理念を土台に認知症緩和ケアの補完的手法としてタクティールケアを取り入れることで、認知症の方とそのご家族へより質の高いQOLを提供できるようになります。

タクティール®ケアに期待される効果

タクティール®ケアは、「不安・ストレスの軽減」と「痛みの緩和」の効果が期待できると言われています。

不安・ストレスの軽減

身体に触れる刺激によって、脳の視床下部からオキシトシンが分泌されます。オキシトシンは、出産時や産後、赤ちゃんと触れ合う際に多く分泌されるホルモンで、愛情や信頼の気持ちを強める働きがあると言われています。同時に、不安・ストレスの軽減にも関連していることがわかっています。

痛みの緩和

身体から入った刺激による痛みは、脊髄後角(せきずいこうかく)を通って脳へと伝えられます。身体に触れるなど、痛みとは別の刺激を入れることで、脊髄後角の痛み信号が通過するゲート(門)を閉じることができ、痛みを感じにくくなるというゲートコントロールの考え方に基づいています。

痛みは気持ちや認知の状態にも左右され、気持ちが安定している時は痛みを感じにくく、気持ちが荒ぶっている時は痛みを感じやすくなります。そのため、触れることでオキシトシンが分泌され、気持ちが穏やかになっている時は痛みを感じにくくなります。 

その他の効果

不安やストレスの軽減、痛みの緩和が図られることにより、よく眠れるようになる、胃や腸の調子が良くなる、活動的になる、暴言や暴力がみられなくなるなどの効果もみられます。ケアをされている人だけでなく、ケアをしている人も「触れる」ことを通してリラックス効果が得られます。

具体的には以下のような効果があげられています。

不安やストレスを和らげる

  • 家族や介助者に対して、暴言や暴力などの攻撃性がみられている場合に、怒ることが少なくなり、穏やかな表情がみられるようになる
  • 部屋をうろうろするなど、落ち着きのなさがある場合に、落ち着いて座っている時間が増える

痛みを緩和する

  • 普段口癖のように「痛い、痛い」と言っているが、ケアをしている間は「痛い」と言わなかった
  • 肩や腰の重だるさが軽くなっ
  • ケアをした日は痛みが軽い

良質な睡眠を促す

  • ケアを受けた日はよく眠れる
  • 夜のトイレに何度も起きることがなかった
  • 夜によく眠れるようになる

高齢者の活動性を高める

  • 閉じこもりがちの人が部屋から出てくるようになる
  • 歩く機会が増える
  • 活動的になる
  • 家族や介助者に自分のことを話すようになる、気持ちや要望を伝えるなど、コミュニケーションが増える

温かさが持続する

  • ケアをしている時に触っている部分を温かく感じる
  • ケアが終わってからも温かい感じが続く
  • 冷えを感じにくくなる

胃・腸器官の機能改善

  • ケアを行うと腸がグーグーと動いている音が確認できる
  • 便通が良くなる
  • ガスが出る胃腸の働きが活発になる
  • タクティール®ケアの効果は大きく二つ「不安・ストレスの軽減」と「痛みの緩和」
  • 「触れる」ことを通じて、幸せホルモン「オキシトシン」はケアを受ける人だけでなく、ケアをしている人も分泌されるので、双方にリラックス効果が期待できる

タクティール®ケアの特徴

ケアを始める際には、相手の了解のもとにケアに移ることが大切です。
終わる時は「終わります」と相手に言葉で伝え、最後は「ありがとうございました」と相手への感謝の気持ちも忘れずに伝えましょう。
ケアはお互いの協力、信頼関係の下で行っているため、相手に了承を得て、始めと終わりを知らせ、感謝の気持ちを伝えることが大切です。

ケアを行う際には終始、触れている手が相手から離れないようにします。触れ方は、筋肉をほぐすマッサージのように、さすったり、揉んだり、押したりするのではなく、同じ動き同じ力で、ゆっくりと優しく包み込むように触れます。

タクティール®ケアのやり方

タクティール®ケアには手・足・背中・お腹・頭・顔へのケア方法があります。なお認知症の方へ業務としてケアを行うには、認定資格の取得が必要です。

ここではタクティール®ケアとはどのようなケアであるか、例として10分程度行う手のケア方法について説明します。

  1. ケアを始める前に手を温めます。手と手を密着しやすくし、滑りを良くして心地良く触れられるようにオリーブオイルを手になじませます。
  2. 向かい合って座ります。机やクッションなどを台にし、タオルをひいた上に手をのせます。
  3. 自分の左手のひらの上に相手の右手のひらをのせ、その上から自分の右手のひらを重ねます。
  4. 自分の右手のひらを相手の右手の甲に優しく密着させ、両手で包み込むように10秒程度触れ続けます。
  5. 両手で包み込んだまま、ゆっくりと指先まで移動します。
  6. 指先まで移動したら、どちらかの手は相手の手から離さないようにして、片手ずつ、始めの位置まで両手を戻し、相手の手を優しく両手で包み込みます。
  7. (4)~(6)を何度か繰り返し、反対の手も同じように行います。

タクティール®ケアを学ぶためには

タクティール®ケアを学ぶには、株式会社日本スウェーデン福祉研究所(JSCI)の開催している教育研修プログラムを受けます。講座は複数あり、学べる内容が異なります。

認知症緩和ケア初級

認知症緩和ケア理念について学ぶ講座でタクティール®ケアの実習はありません。

タクティール®ケアⅠ

認知症の方に職場で業務としてケアを行う際には、まずはこちらの受講が必要です。基本理論と手・足・背中のケアを学びます。

タクティール®ケアⅠ|フォローアップ

タクティール®ケアⅠを受けた人が復習するための講座です。

タクティール®ケアファミリーハンドコース(ご家族向け)

介護者が家族にケアを行いたいという場合に実習を受けられる講座です。

タクティール®ケアⅡ

タクティール®ケアIの資格を持っている人のステップアップ講座で、お腹・顔・頭のケア方法を学びます。

タクティール®ケアⅡフォローアップ

タクティール®ケアⅡを受けた人の復習講座です。

タクティール®ケアとユマニチュードの違い

タクティール®ケアとは、スウェーデン発祥の、相手に「触れる」ことを通して、不安やストレス、痛みの緩和を図るタッチケアのひとつです。

ユマニチュードはフランス発祥のケア技法のひとつです。ケアを行う際に、同じ人間として相手を大切に思っているということを「見る」「話す」「立つ」「触れる」を通して伝え、お互いの信頼関係を築いていくというケア技術です。相手との出会いから次回のケアの約束まで、一つのケアを5つの手順で完成させるケア・コミュニケーション技法です。

タクティール®ケアを通して認知症の方への関わり方を考えるきっかけに

タクティール®ケアとは、言葉でコミュニケーションをとりにくい認知症の方でも「触れる」ことでコミュニケーションが図れ、不安やストレス、痛みの緩和が期待できるタッチケアです。不安やストレス、痛みを抱えていると、暴言や暴力、閉じこもり、夜間の不眠などの周辺症状(BPSD)として強く現れることがあります。

「触れる」ことで寝つきが良くなる、活動的になる、介護者への暴言や暴力が落ち着く例もあり、ハラスメントや閉じこもりの予防ともなります。ケアについて学ぶことは、認知症の方への関わり方を学ぶきっかけにもなるのではないでしょうか。