介護事業においては人材の問題が大きな比重を占めますが、自宅に帰宅してからも職員の連絡を受けることも多い管理職は、不満を感じ、離職の際にトラブルになることも多いです。
今回は、介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント~介護労働者全体(訪問・施設)に共通する事項(賃金・年次有給休暇・解雇・雇止め・労働者名簿・賃金台帳・安全衛生の確保・労働保険)~を法律の根拠を基にご紹介します。
賃金について
労働時間に応じた賃金を、適正に支払いましょう(労働基準法第24条)
- 賃金は、いかなる労働時間についても支払わなければなりません。
- 労働時間に応じた賃金の算定を行う場合(時給制などの場合)には、交替制勤務における引継ぎ時間、業務報告書の作成時間等、介護サービスに直接従事した時間以外の労働時間も通算した時間数に応じた算定をしてください。
- また、使用者の責に帰すべき事由により労働者を休業させた場合には、休業手当を適正に支払わなければなりません。
介護現場では、実際は残業しているのに、出勤簿等に終業時間に終業したと偽った記載をされるケースもあり、残業のルールが適正に遵守されていないケースも見受けられます。それを防ぐには「ルール運用の仕組みづくり」が必要になります。
例えばどうしても労働者が残業したい場合は、上司に相談して判断を仰ぎます。別の日に他の労働者と手分けして行えば良い業務なのか、どうしても今日残業して行わなければいけない業務なのか、残業を防ぐことが出来る内容かをジャッジし、残業の日時や理由を明確にするために、申請書を用意して書かせると良いでしょう。
時間外・深夜割増賃金を支払いましょう(労働基準法第37条)
- 時間外労働に対しては、25%以上(※)の割増賃金を支払わなければなりません。
- ※1か月に60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率は50%以上です(中小企業については、当分の間、猶予されています。)。
- 深夜業(午後10 時から午前5 時までの労働)に対しては、25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
- 休日労働に対しては、35%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
最低賃金以上の賃金を支払いましょう(最低賃金法第4条)
- 賃金は、地域別最低賃金以上の金額を支払わなければなりません。
- 地域別最低賃金は、産業や職種にかかわりなく、都道府県内のすべての労働者に対して適用される最低賃金として、各都道府県ごとに定められています。
10月から各都道府県の最低賃金が変わりますので、施設・事業所でご確認され、適切なご対応されて下さい。
各都道府県別の最低賃金は下記を参照ください。
<厚生労働省HP> 「地域別最低賃金の全国一覧」
支払う賃金と最低賃金額との比較方法
時間によって定められた賃金(時間給)+[日、週、月等によって定められた賃金÷当該期間における所定労働時間数(日、週、月によって所定労働時間数が異なる場合には、それぞれ1週間、4週間、1年間の平均所定労働時間数)]≧最低賃金額(時間額)
年次有給休暇について
非正規労働者にも年次有給休暇を付与しましょう(労働基準法第39条)
- 非正規労働者も含め、6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては、年次有給休暇を与えなければなりません。
- 所定労働日数が少ない労働者に対しても、所定労働日数に応じた年次有給休暇を与える必要があります。
予定されている今後1年間の所定労働日数を算出し難い場合の取扱い
年次有給休暇が比例付与される日数は、原則として基準日(年次有給休暇付与日)において予定されている今後1年間の所定労働日数に応じた日数です。ただし、予定されている所定労働日数を算出し難い場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出することとして差し支えありません。
したがって、例えば、雇入れの日から起算して6か月経過後に付与される年次有給休暇の日数については、過去6か月の労働日数の実績を2倍したものを「1年間の所定労働日数」とみなして判断して差し支えありません。
・労使協定により、年次有給休暇について、5日の範囲内で時間を単位として与えることができます。
年次有給休暇の取得を抑制する不利益取扱いはしないようにしましょう¬(労働基準法第136条)
- 年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他の不利益な取扱いをしてはいけません。
- 例えば、精皆勤手当や賞与の額の算定に際して、年次有給休暇を取得した日を欠勤として取り扱うことは、不利益取扱いとして禁止されます。
2019年4月から、全ての企業において、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられましたので、適正な管理・取得を行える環境づくりをされて下さい。
解雇・雇止めについて
解雇・雇止めを行う場合は、予告等の手続を取りましょう(労働基準法第20条、労働契約法第19条、有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準第1条ほか)
- やむを得ず労働者の解雇を行う場合には、少なくとも30 日前までの予告が必要です。予告を行わない場合には、解雇までの日数に応じた解雇予告手当を支払う必要があります。
- 有期労働契約※を更新しない場合には、少なくとも30 日前までの予告が必要です。※3回以上更新されているか、1 年を超えて継続して雇用されている労働者に係るものに限り、あらかじめ更新しない旨明示されているものを除きます。
- 実質的に期間の定めのない契約と変わらないといえる場合や、雇用の継続を期待することが合理的であると考えられる場合、使用者が雇止めをすることが、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められないとき」は、雇止めが認められません。従来と同一の労働条件で、有期労働契約が更新されます。
- 労働者から請求があった場合には、解雇・雇止めの理由等について、証明書を交付する必要があります。
「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」(平成15年厚生労働省告示第357号)について
有期労働契約については、契約更新の繰り返しにより、一定期間雇用を継続したにもかかわらず、突然、契約更新をせずに期間満了をもって退職させるなどの、いわゆる「雇止め」をめぐるトラブルが大きな問題となっています。
この基準は、このようなトラブルの防止を図るため、労働基準法第14 条第2項に基づき、使用者が講ずべき措置について定めたものです。
解雇について労働契約法の規定を守りましょう(労働契約法第16条、第17条第1項)
期間の定めのない労働契約の場合
労働契約法の規定により、権利の濫用に当たる解雇は無効となります。
期間の定めのある労働契約(有期労働契約)の場合
労働者と有期労働契約を締結している場合には、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間中に解雇することはできません。期間の定めのない労働契約の場合よりも、解雇の有効性は厳しく判断されます。
ご相談のケースでは、法人の理事長が、管理職の一人が自分に意に沿わない言動を問題視し、突然解雇するケースがありました。
その法人は、毎週始業前に、理事長開催の勉強会を開催したりしていても参加者に残業代を適正に支払わないなどの問題もありました。
「解雇は不当だから復職させろ」と労働者は主張していましたが、理事長は断固拒否をされて、私の知り合いの労務専門の弁護士を紹介し、解雇処分を下された後も就労の意思があったこと、また、その解雇処分が無効であることが認められれば、「解雇されずに働いていれば、本来支払われるはずだった賃金」が支払われましたが、感情的な解雇は決して許されないことなので、ご留意下さい。
労働者名簿、賃金台帳について
労働者名簿、賃金台帳を作成、保存しましょう(労働基準法第107条、第108条、第109条)
- 労働者の労務管理を適切に行うため、労働者名簿を作成し、労働者の氏名、雇入れの年月日、退職の年月日及びその事由等を記入しなければなりません
- また、賃金台帳を作成し、労働者の氏名、労働日数、労働時間数、時間外労働時間数、基本給等を賃金の支払の都度遅れることなく記入しなければなりません。
- これらは労働関係に関する重要な書類ですので、それぞれ3年間保存してください。
行政の実地指導時に、処遇改善加算が適正に労働者に支払われているかを確認するために給与台帳を確認され、場合によってはそのコピーの提出を求められます。
安全衛生の確保について
衛生管理体制を整備しましょう(労働安全衛生法第12条、第12条の2、第13条、第18条ほか)
- 常時50人以上の労働者を使用する事業場は、衛生管理者や産業医を選任し、また、衛生委員会を設置する必要があります。
- 常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場は、衛生推進者を選任する必要があります。
- これらの衛生管理体制を整備し、労働者の健康障害の防止、健康の保持増進、労働災害の防止などを図りましょう。
健康診断を確実に実施しましょう(労働安全衛生法第66条、労働安全衛生規則第43条、第44条、第45条ほか)
非正規労働者も含め、常時使用する労働者に対しては、
○ 雇入れの際
○ 1年以内ごとに1回 ※
※ 深夜業等の特定業務に常時従事する者については、6か月以内ごとに1回定期に健康診断を実施しなければなりません。
・短時間労働者であっても、下記①②のいずれにも該当する場合は「常時使用する労働者」として健康診断が必要です。
① 期間の定めのない労働契約又は期間1年以上の有期労働契約により使用される者、契約更新により1年以上使用され、又は使用されることが予定されている者
② 週の労働時間数が、通常の労働者の週の労働時間数の4分の3以上である者
・なお、健康診断の実施は法で定められたものですので、その実施に要した費用を労働者に負担させることはできません。
過重労働による健康障害を防止しましょう(過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置、労働安全衛生法第66条の8ほか)
・「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」に基づき、過重労働による健康障害防止措置を講じてください。
「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」
(平成18 年3 月17日付け基発第0317008 号)の主な内容
・時間外・休日労働の削減
○ 時間外・休日・労働協定は、限度基準((3)Point4参照)に適合したものとしてください。
○ 月45時間を超える時間外労働が可能な場合にも実際の時間外労働は月45時間以下とするよう努めてください。
・労働者の健康管理に係る措置の徹底
○ 時間外・休日労働が1月あたり100時間を超え、疲労の蓄積が認められる(申出をした)労働者などに対し、医師
による面接指導等を実施してください。
労働災害の防止に努めましょう
・労働者の安全と健康はかけがえのないものであり、常に労働災害の防止に努めましょう。特に、災害が多発している腰痛災害や交通事故の防止に取り組んでください。
・労働者に対しては、雇入れ時及び作業内容変更時の安全衛生教育を実施しなければなりません。安全衛生教育の実施に当たっては、業務の実態を踏まえ、上記災害の原因、その防止等に関する項目を盛り込むよう配意しましょう。
コロナ禍においては、労働者の体調管理が、労働者が媒介になり、ご利用者に感染させる等の蔓延防止の要になります。労働者任せの体調管理を信頼し、実は体調が悪くても出勤していたという事例もありますので、体調管理チェックシートの確認も行うようにして下さい。
労働保険について
労働保険の手続を取りましょう
・労働保険とは、労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険の総称です。介護労働者を含め労働者を一人でも雇っていれば、その事業場は労働保険の適用事業場となりますので、労働保険の手続を取る必要があります。
・労災保険とは
労災保険とは、労働者が業務上の事由又は通勤により負傷等を被った場合等に、被災した労働者や遺族を保護するため必要な保険給付等を行うものです。
労災保険の対象となる労働者:労働契約の期間や労働時間の長短にかかわらず、全ての労働者が労災保険の対象となります。
・雇用保険とは
雇用保険とは、労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難となる事由が生じた場合に、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、再就職を促進するために必要な給付等を行うものです。
雇用保険の対象となる労働者:次のいずれにも該当する労働者が、原則として雇用保険の対象となります。
① 1週間の所定労働時間が20 時間以上であること
② 31日以上の雇用見込みがあること
まとめ
令和3年度介護報酬改定でも、介護人材の確保・介護現場の革新では、『喫緊・重要な課題として、介護人材の確保・介護現場の革新に対応すること』を目的とした改定が行われました。
介護事業者による職場環境改善の取組をより実効性が高いものとする観点、介護職員等特定処遇改善加算を小規模事業者を含め事業者がより活用しやすい仕組みとする観点、サービスの質の向上や職員のキャリアアップを一層推進する観点、仕事と育児や介護との両立が可能となる環境整備を進め、職員の離職防止・定着促進を図る観点、介護サービス事業者の適切なハラスメント対策を強化する観点から改定が行われ、益々適切な労務管理が求められています。労務管理の改善にご活用頂ければ幸いです。