「こんなはずじゃなかった」
「入職先を間違えた・・・」
せっかく苦労して資格を取得したのに、思い描いていた働き方ができずに悩んでいる作業療法士は少なくないのではないでしょうか。人によっては、今すぐに辞めたいと思っている方もいるかもしれません。
「作業療法士を辞めたい」理由はさまざまです。ここでは、作業療法士を辞めたくなる理由にどのようなものがあるのかを整理し、なぜそう思うのか、そして辞めたいと思ったときにはどうすればよいのか、解決策をご紹介します。
目次
作業療法士を辞めたい本当の理由とは
安くない学費を払い、高い志をもって取得までの長く辛い道のりを乗り越え、やっと手にした国家資格。「辞めたい」には、それ相応の理由があります。以下に、作業療法士を辞めたいと思う理由で多く聞かれるものをご紹介します。
「思っていた作業療法と違う」ので辞めたい
本来、作業療法士の治療は身体機能のみならず、食事や整容、更衣動作などの日常生活動作、料理や掃除、洗濯など家庭内での役割活動、そして趣味活動を対象としています。つまり、生活に働きかけるのが本来の作業療法であり、大学や専門学校でもそのように教育されています。
そのようななか、よく起きがちなのがリハビリ職として理学療法士と混同され、ストレッチやマッサージばかりを求められてしまうことです。作業療法士の専門性を活かせないため、やりがいを見出せずに辞めようかと悩んでいる方は多くいます。
「上司の管理・指導」が嫌で辞めたい
作業療法士は、利用者さんの精神面へのアプローチも行います。そのため、治療手段として時間をかけて話を聞いたり、一見遊んでいるような作業を行ったりしてリハビリする場合があります。
しかし、それが必ずしも上司の理解を得られるとは限りません。「なに遊んでるんだ」、「話ばかり聞いてないで手を動かせ」などと指摘を受けることもあります。
上司が理学療法士の場合、同じリハビリ職であっても専門性の違いから意見が衝突することがあり、それが嫌で辞めてしまいたいという思いになってしまう方も少なくありません。
「残業の多さ・長時間労働」で辞めたい
職場にもよりますが、残業の多さに不満を抱えている方も少なからずいます。理学療法士や言語聴覚士もそうですが、勉強会や学生指導、カンファレンス等の資料準備は時間外に行われることがほとんどです。
学ぶ機会が多いのは良いことですが、慢性的な残業や長時間労働が続いてしまうと、家族や友人と接する時間や趣味に没頭したり休息したりといった時間が持てないことに悩んで辞めてしまいたいと思う人もいます。
「指導者・相談相手がいない」ので辞めたい
人数が多い職場であればあるほど、人間関係の悩みは尽きません。その一方で一人職場もまた辞めたい理由のひとつとなっています。「指導してくれる先輩や上司がいない」、「仕事で悩んでいても相談相手がいない」といったことは、知識不足の補完やスキルアップを図りたい方にとって大きな悩みとなります。
指導者や相談相手がいない状態、つまりは十分な人材を確保していない背景には、その病院や施設がリハビリに積極的ではなかったり、理解が薄低かったりする場合もあります。そのため、そこで働いていてもやりがいを見出せず、辞めたいという気持ちが強くなることがあるのです。
作業療法士を辞めたいときの4つの選択肢とは
作業療法士を辞めたいと思ったときに、それを解決するための4つの選択肢をご紹介します。
問題の改善策を考えて、職場に働きかける
料理や手工芸、園芸などを行う治療場面は、ほかの医療職からすると「遊んでいる」ように見えることでしょう。しかし、その重要性や専門性への理解は、「なぜ今行うのか」、「なぜ必要なのか」をしっかり言葉にして説明することから始まります。カンファレンスや勉強会を通じて、必要性を認めてもらう努力も重要です。
また、経験を積んだ上司や先輩は、これまでの成功体験から治療スタイルを確立して自信を持っています。確固たる自信とリハビリへの強い思いから、新人作業療法士や若手療法士のやり方に厳しくなってしまいがちです。一度、相手の価値観ややり方を受入れてみると、自分では気付かなかったことを見つけることができる可能性があります。
異なる分野で作業療法を続ける
リハビリは、患者の状態や回復段階によって急性期、回復期、維持期(生活期)、終末期と4つのステージに分類できます。また、脳血管疾患や心疾患、運動器疾患など対象とする疾患も様々です。
活躍できる分野は幅広く、それぞれの医療機関で注力する治療内容が異なるので、異なる分野で自分が興味ある作業療法を試してみるのもひとつの選択肢です。興味のある分野で目標としたい先輩がいるとキャリアアップのイメージがしやすくなり、日々の自己研鑽にも力が入るでしょう。
思い切って作業療法の領域を変える
作業療法の「専門」を障害領域別でみると、身体障害、精神障害、老年期障害、発達障害に分類できます。身体障害領域と精神障害領域がまったくの別領域というわけではありませんが、最近では専門領域の分担が明確になりつつあります。
「心に寄り添う」アプローチが得意であれば、「身体」の機能回復訓練を実施する身体障害領域から、精神障害の領域に大きく変えてみるのもひとつの選択肢です。
作業療法士以外の職業へ転職する
知識や経験を活かして一般企業へ転職することもできます。医療機器や介護福祉製品などを扱う企業の営業職やフィットネスジムでのトレーニング指導、スポーツメーカーの社員として活躍する場もあります。
機器の研究や開発に興味がある方や体を動かすのが好きな方におすすめです。ただし、一般企業で働く場合には、ビジネス経験のないことがハンディキャップとなるでしょう。
医療現場では、電話対応や名刺交換、メール返信、営業や接待のやり方などを教わることがないため、言葉の言い回しから学ばなければなりません。ノルマや売り上げといった数字に追われる可能性があり、資格保持者だからといってあぐらをかくことなどできないのです。
作業療法士を続ける場合におすすめしたい介護領域での「機能訓練指導員」
介護分野において活躍が期待されている機能訓練指導員。作業療法士の資格を取得していれば、機能訓練指導員として働くことが可能です。通所介護事業所には必ず一人以上配置する決まりとなっており、ニーズの高い職種です。
機能訓練指導員としての作業療法士の仕事内容とは
主な仕事の内容は、利用者さんの身体機能や生活状況をチェックし、その人に合った機能訓練計画を立て、実施することです。計画に沿って必要な機能訓練を行い、できる限り身の回りのことができるように支援することが基本となります。
それ以外にも、バイタルチェックや集団練習内容の考案、リハビリ機器の使用説明、利用者さんに適した補助具や車椅子の選定、介護職員に対する練習メニューの指導、利用者さんの送迎など多岐にわたります。
作業療法士が機能訓練指導員として働くメリット
機能訓練指導員であるとはいえ、看護師や柔道整復師、鍼灸師など保有する資格によって学んできた知識や経験にも違いがあるため、利用者さんに対するアプローチにも若干の得意不得意があります。
作業療法士は、リハビリの専門職です。「立つ」や「歩く」という運動や機能訓練だけでなく、入浴や食事、掃除など応用的な動作練習も得意としており、その専門性を活かしたリハビリを行うことができます。
趣味活動やレクリエーションなど多岐にわたる活動でメンタル面へのアプローチも行える作業療法士は、機能訓練指導員として重宝される職種といえるでしょう。
機能訓練指導員に向いている人
介護施設やデイサービスなどの利用者さんは高齢者です。心身の機能が劇的に改善されるケースは少ないため、利用者さんの症状や疾患とうまくつきあいながら、自立した生活が送れるように支援することが求められます。
筋力や持久力、立つ、歩く訓練だけでなく、入浴や更衣、食事といった日常生活動作訓練も行いつつ、趣味やレクリエーションなど様々な作業活動を通じて心と体のケアを行います。生活のなかで治療を行い、援助し、支援していくことが重要であり、「困りごとは何か」、「したいことや叶えたいことはなにか」を丁寧に聞き取ることが重要で、「生活リハビリ」に興味ややりがいを感じることができる方は非常に向いているでしょう。
また、多職種が連携しながら利用者さんの生活を支援する介護施設では、多くの職種としっかりコミュニケーションが取れる方も向いているといえます。
作業療法士としての経験が浅くても働ける?
機能訓練指導員は、施設において一人以上の配置が義務付けられています。慢性的な人手不足、経営難が影響し、機能訓練指導員を増やしたくても増やせないという施設が多いのが実状です。
そのため、一人職場であることが多く、先輩から指導を受けたり、悩んだときに相談したりする相手がいないのが現状です。一人職場ではないとしても医療職が少ないため、自身の判断で進めていくことが多く、ある程度のスキルと経験を積んでキャリアが成熟している人のほうが向いているといえるでしょう。
しかし、ある程度の経験やキャリアがないと働けないかというとそうではありません。仕事内容は、作業療法士の得意分野です。専門性を活かしやすいため、経験が浅くても少しずつ慣れてくればやりがいを感じて働くことができます。
転職を決意した場合に、成功させるポイント
転職が初めてという方やすでに経験済みの方も、失敗したくない気持ちは同じでしょう。ここでは、転職を成功させるためのポイントについてご紹介します。
転職で何を実現したいのか?優先順位をつける
転職を考えるならば、辞めたいと思った理由が解決される転職先を探すことが肝心です。人間関係を優先するのか、仕事内容を選びたいのか、はたまたどんな働き方をしたいのかなどを具体的にイメージし、叶えたいことに優先順位をつけて転職先選びの軸にすることが大切です。
「給料が良いから」といったような単純な理由で目的を持たずに決めてしまうと、また同じような不満が出てきてしまい、すぐに辞めたい気持ちになってしまうので注意が必要です。
次の職場を見つけてから今の職場を退職する
「すぐに次が見つかるだろう」と衝動的に辞めてしまったものの、思っていたよりも希望の求人が少なく、次の職場が決まらないといったケースはよくあります。その結果、収入源がなくなってしまうという焦りから妥協を重ねて希望とは異なる職場に転職してしまい、後悔する羽目になってしまっては大変です。
不満ですぐに辞めたい気持ちがあっても、作業療法士として働きながら焦らず慎重に転職先を探すことをおすすめします。
「どうにもならない?」辞める決断をする前に改めて考えよう
「仕事を辞めたい」という衝動に駆られてしまうことは、色々な場面であるでしょう。しかし、考えてみてください。作業療法士としての仕事が本当に嫌になったのでしょうか、それとも労働環境に不満があるのでしょうか。
まずは一旦冷静になって、なぜ辞めたいのかを考えてみることが大切です。
作業療法士の仕事を続けたとしても、環境が大きく変わることでやりがいを見つけ、働くのが楽しくなるかもしれません。
辞める決断をする前に、今いる職場の問題の改善策を考えて働きかけてみたり、分野を変えてみたりすることも視野に入れてみてはいかがでしょうか。特に今後の介護業界はリハビリテーション専門職のニーズが高まることが予想されているため、思い描いた働き方や自己実現を果たすことができるかもしれません。