介護の「身体拘束」の定義とは?事例で解説!基本的な対策も紹介

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介護の「身体拘束」の定義とは?事例で解説!基本的な対策も紹介

介護現場では、一部のケースを除いて禁止されている身体拘束。身体拘束は利用者の尊厳を奪うだけでなく、QOLの低下にもつながる恐れがあります。よりよいケアを提供するには、現場での身体拘束ゼロを目指すことが大切です。

この記事では身体拘束の定義や禁止行為、その弊害についてわかりやすくまとめました。身体拘束をなくすための基本的な取り組みや、拘束しなくてもできる代替ケアについても解説しています。


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身体拘束とは?

身体拘束とは、さまざまな方法で身体の動きを封じて、行動を制限する行為です。車椅子で身体を固定したり、睡眠薬導入剤を使ったりする方法も身体拘束に当てはまります。

まずは、介護の現場で起こりやすい「身体拘束」のスリーロックや定義、具体的な禁止行為などについて解説していきます。

身体拘束の具体例・具体的な行為

実際にどんな行為が身体拘束にあたるか、まずは厚生労働省の「身体拘束ゼロへの手引き」から確認しましょう。

  • 徘徊しないように、車いすやいす、ベッドに体幹や四肢をひもなどで縛る
  • 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひもなどで縛る
  • 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む
  • 点滴・経管栄養などのチューブを抜かないように、四肢をひもなどで縛る
  • 点滴・経管栄養などのチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋などをつける
  • 車いすやいすからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型高速隊や腰ベルト、車いすテーブルをつける
  • 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるようないすを使用する
  • 脱衣やおむつはずしを制御するために、介護衣(つなぎ服)を着せる
  • 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひもなどで縛る
  • 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる
  • 自分の意志で開けることのできない居室などに隔離する

引用:【身体拘束ゼロへの手引き】|厚生労働省

もう少し具体的な事例もいくつか紹介します。

  • 突然車いすから立ち上がろうとし、転倒の危険があったため、車いすにY字ベルトを使用した
  • ベッドからの転落防止のためベッド柵をつけていたが、外そうとされるためさらにひもで固定した
  • 夜中に徘徊するため、寝る前に精神安定剤を毎日服用させた
  • 頻繁におむつの中に手を入れたり、外そうとしたりする行為が見られたため、つなぎ服を使用した
  • 夜中の徘徊を防ぐため、部屋の施錠をした

これらの身体拘束は介護施設だけでなく、在宅介護に関わらず起こりうるものなので注意しなければなりません。

身体拘束のスリーロック

介護の現場では「スリーロック」と呼ばれる、以下3つの身体拘束が存在します。いずれも相手の自由な行動を制限する行為で、原則禁止とされています。

  • フィジカルロック
  • ドラッグロック
  • スピーチロック

フィジカルロックはひもや腰ベルト、柵などを使って自由な行動を制限する行為です。ドラッグロックは睡眠薬導入剤や向精神薬などを使い、スピーチロックは言葉によって行動を抑制します。何か物を使う拘束だけでなく、言葉による心理的な拘束にも十分な注意が必要です。以下でひとつずつ詳しく説明します。

物理的に拘束する「フィジカルロック」

「身体拘束」という言葉で連想されることが多いのが、物理的に拘束する「フィジカルロック」です。フィジカルロックの一例として、ベッドや車椅子から立ち上がらないようにひもや抑制帯などで身体を固定したり、車椅子から立ち上がれないように車椅子テーブルや腰ベルトなどを付けたりする方法があります。

L字柵を閉じた状態にしたり、4点柵を用いたりしてベッドから降りられないようにする行為も、身体拘束に当たる行為です。そのほかにも、手にミトンを装着させて点滴や経管栄養のチューブを抜かないようにすることもあります。

また、食堂内で長時間椅子に座らせている状態も、一種のフィジカルロックです。

薬で制限する「ドラッグロック」

その名のとおり、薬の過剰投与や不適切な投与によって、要介護者の行動を制限するのが「ドラッグロック」です。夜間に大きな声を出したり、徘徊したりしてしまう方に睡眠薬導入剤や安定剤、泌尿器系の薬を投与して、行動をコントロールする場合がありますが、この場合も身体拘束に当てはまります。

薬の過剰投与は副作用によって心身機能の低下を招くことにもなりかねません。例えば睡眠導入剤を過剰投与してしまうと、昼間まで眠り続けて活動量が低下してしまうほか、起きていてもふらつきなどが起こって転倒する危険も増すでしょう。

言葉で制限する「スピーチロック」

「スピーチロック」とは、言葉による拘束です。いわゆる言葉の暴力に当たるほどの強い口調での叱責がスピーチロックに当たるのはいうまでもありません。また、普段何気なく使ってしまいがちな言葉でも、要介護者を心理的に拘束してしまうことがあります。

たとえば、「〇〇しちゃだめ」や「ちょっと待ってて」などのような言葉は、要介護者の行動を制限し、スピーチロックとなってしまいます。

今すぐ使える「スピーチロック言い換え表」
言葉による抑制とも言われる「スピーチロック」について、具体的な事例と言い換えの例文を一覧表にしました。スピーチロックを防ぐクッション言葉もまとめていますので、ぜひご活用ください。

厚生労働省による身体拘束の定義と身体拘束禁止規定

次に身体拘束の定義について解説します。

「介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準」では、介護保健施設サービスの取扱方針第13条4項に以下の記載があります。

介護老人保健施設は、介護保健施設サービスの提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為(以下「身体的拘束等」という。)を行ってはならない。

引用:介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準

上記のとおり、介護施設や指定居宅サービスなどではやむを得ない理由がない限り、身体拘束は禁止されています。身体拘束等の適正化を図るため、その指針の整備や対策を検討を行う委員会の設置が義務付けられています。

定められた措置を講じていない施設は、基本報酬が減額されるので注意しましょう。これを身体拘束廃止未実施減算となり、2018年の介護報酬改定で減算率が1日あたり10%に見直されました。

なぜ身体拘束は禁止に?

精神的苦痛を与える身体拘束は、人権保護に関わる問題です。さらに高齢者のQOL(生活の質)を低下させる一因にもなります。たとえば動く力のある人を長時間縛りつけた場合、筋力が低下したり、関節が拘縮し、歩けなくなってしまう可能性があります。

身体拘束が常態化してしまうとさらに身体の機能低下が進み、生活不活発病のリスクも増加してしまうでしょう。結果、ケガをさせないために身体拘束をしたことが、認知症の進行や周辺症状の増悪、意欲の低下によるADL低下という悪循環に陥っていきます。

高齢者の自立を考えるためには、介護現場での身体拘束をゼロにすることが大事です。

介護保険指定基準上の「やむを得ない理由」とは

ただし、介護現場でも緊急を要する状況では、身体拘束が一部認められています。判断するために以下の3つの基準が設けられています。

【3つの条件の概要】

概要注意点やポイント
切迫性利用者の命や身体に危険が及ぶ場合
また、ほかの利用者にも危害がある場合
まずは利用者本人の日常生活に与える影響をよく考える
それでもなお生命や身体に危険が及ぶリスクのほうが高いかを見極める非代替性
非代替性代わりのケア方法がない場合必ず身体拘束をしないケア方法をすべて検討する
その際に代わりの方法がないことを複数のスタッフで確認することが必要
身体拘束はもっとも制限の少ない方法で行うこと
一時性一時的な身体拘束であることもっとも拘束時間の短い方法で想定しなければいけない

注意点として、上記の基準いずれかではなく、すべてを満たさなければなりません。その際は施設全体で慎重に身体拘束をする以外の対応方法を、カンファレンスで検証することが原則とされています。カンファレンスは介護職員や看護職員など複数の職種の方が集まり行います。その内容は介護支援経過記録に残します。 

それでも拘束が必要だと判断された場合、利用者本人と家族にしっかり説明することが重要です。「緊急やむを得ない身体拘束に関する説明書及び同意書」に、拘束が必要な理由や目的、拘束の内容などを詳細に記載し、十分に理解してもらったうえで同意を得てください

また、身体拘束を行う場合は、その内容や時間、利用者の心身の状況などの記録が義務付けられています。

身体拘束による弊害

身体拘束は本人だけでなく、その家族やケアにあたるスタッフ、介護施設にも悪影響を与えると考えられています。身体拘束がもたらす弊害について、3つの視点から解説していきます。

身体的弊害

身体拘束の影響として、まず一番に考えられることが身体的弊害です。身体の動きを制限することによる筋力の低下や関節の拘縮、圧迫された部位に褥瘡ができるなどの外的弊害がもたらされます。

車いすに身体を固定されている利用者が無理に立ち上がろうとして転倒、ベッドの策を飛び越えようとして転落などの事故のリスクも高まるでしょう。

外的な影響だけでなく、食欲低下による抵抗力が衰え、内臓の機能低下や感染症などの内的弊害も懸念されます。

精神的弊害

身体拘束をされた本人は、怒りや不安、屈辱などの精神的苦痛を感じます。さらに人間としての尊厳を傷つけることにもつながるでしょう。精神的苦痛が生じるだけでなく、身体拘束によって認知機能が低下し、認知症が悪化する恐れも考えられます。

利用者本人以外への悪影響にも注意する必要があります。自分の家族が身体拘束を受ける姿を見て、家族は罪悪感や後悔の念にさいなまれ、利用者同様に精神的苦痛を受けることにつながるでしょう。

社会的弊害

身体拘束は、利用者やその家族への悪影響だけでなく、社会的な問題も生じます。身体拘束を伴うケアによって、介護スタッフは自分の仕事に誇りが持てなくなり、働く意欲が低下してしまいます。結果、職場に対する不信感が募り、離職につながる可能性も考えられるでしょう。

さらに身体拘束によって心身の機能が低下したことで、さらなる医療的処置が必要になる場合もあります。本来必要のない治療や不安を与え、社会経済や介護保険制度等の信頼性を阻害することになりかねません。

なぜ身体拘束は起こる?具体的な事例から解説

身体拘束をゼロにするためには、身体拘束が起きる原因について理解する必要があります。

先にも説明したとおり、身体拘束は手や胴体を固定したり、向精神薬を過剰に摂取させたり、部屋に隔離したりなど身体の自由を制限する行為が該当します。これらの行為にはベッドからの転落や、徘徊等による事故を防止する目的があり、利用者の安全を図るために行われることが多い傾向にあります。

たとえば厚生労働省の資料では、アルツハイマー病を患った利用者が点滴を外さないように両手を縛った事例や、徘徊させないために部屋の施錠や向精神薬の使用を行なったケースが紹介されています。

家族は仕方ないという気持ちから身体拘束を了承したが、ひどく傷ついたり、自責の念に駆られたりなど精神的な苦痛を受けたとも報告されています。

身体拘束ゼロに向けた基本の対策5つ

身体拘束の廃止は、決して簡単なことではありません。具体的にどんな取り組みが必要か、厚生労働省の資料から5つの方針について解説します。

トップの決意のもと一丸となって取り組む

第一に、施設全体で共通認識を持って取り組むことが重要となります。一部のスタッフだけが取り組んでいても、現場が混乱するだけで、思うような効果は期待できないためです。

責任者が「身体拘束廃止」を固く決意したうえで、事業所の方針を取り決め、施設全体で一丸となって取り組むことが大事でしょう。さらに身体拘束を廃止するためには、改善策を検討する「身体拘束廃止委員会」の設置が必要不可欠です。

共通意識を持ち、職員全員で議論する

施設全体で一丸となって取り組むためには、身体拘束の弊害を従業員一人一人がしっかりと理解することも大切です。ミーティングの機会を設け、トップも含めスタッフみんなで議論し、問題意識を高めていくようにしましょう。

さらに利用者本人やその家族の理解も必要です。特に利用者の家族に対しては、身体拘束に対する事業所の基本的な考え方や、事故の防止策などについてしっかり説明し、理解と協力を得るようにしてください。

利用者の状態を把握する

身体拘束を必要としないケア方針を考えるには、利用者の個別の状況をよく理解することが欠かせません。徘徊をはじめとした問題行動にも、利用者の不安や心身の不快など何か原因があると考えられます。心身の状態を把握したうえで、適切なケアを模索することが重要です。

厚生労働省の資料から一例を紹介します。体動が激しい利用者に腰ベルトをつけていた事例では、恐怖感や不安感が問題行動につながっていると考えました。日々の声かけをわかりやすい言葉に変えたり、施設で飼っている魚の餌やりの役割を与えたりすることで、言動が落ちつき、身体拘束を必要としないケアに切り替えられたといいます。

事故を未然に防げる環境を作る

身体拘束を廃止するには、同時に事故防止策を講じる必要があります。たとえば転倒や転落を防止するために、手すりをつけたり、ベッドの高さを変えたりなどの対策が考えられます。

また、スタッフ全員で助け合える環境を作ることも大切です。夜間や休日も含め、すべてのスタッフが即時応援に入れるよう、柔軟な体制を整えるよう工夫しましょう。

代替案を常に考えておく

どうしても身体拘束をしなくてはいけない状況でも、代替案がないか施設全体でよく考えることが大切です。「なぜ身体拘束する必要があるのか」を利用者の心身の状態や、環境などから考え、解決策をいくつも用意しておきましょう。

もし解決策が見つからない場合は、ほかの介護事業所の事例をみたり、専門の研究会に参加したりなど、外部の情報を参考に対策を練るようにしましょう。身体拘束をしないケアの工夫については、次に詳しく紹介します。

身体拘束をしない介護のポイント

身体拘束をしないケアについて、課題ごとに実例を紹介します。以下の表を参考にしてみてください。

【工夫例】

徘徊原因や理由を探り、対応策をとる例)夕方になると家に帰りたくなる利用者の場合、話しかけたり、手を握ったりなどして情緒の安定を図る
転倒してもケガをしない環境を整える例)クッション性のあるカーペットを配置したり、つまづきそうなコード類を片付けたりなど
ベッドからの転落動くことの多い時間帯を探り、対応策をとる例)夜中に動き出す利用者の場合、日中に離床を促して、生活リズムを整える
転落してもケガをしない環境を整える例)ベッドの高さを低くする、床マットを敷くなど
おむつを外す行為おむつを頼らない排泄を目指す排泄パターンを理解し、適宜トイレへ誘導を行う
点滴のチューブを抜く点滴を行う時間や環境を工夫する例)処置中は会話をして利用者の気を紛らわす、入眠時間に点滴を行うなど

取り組みや工夫次第で身体拘束ゼロは目指せる

介護の現場ではやむを得ない場合をのぞき、原則禁止となっている身体拘束。利用者の権利擁護に関わるうえ、QOLの低下にもつながる恐れがあります。緊急の事態でどうしても身体拘束が必要な場合でも、施設全体で慎重に判断すべき問題です。

ちょっとした発想の転換や、日々の取り組み次第で身体拘束ゼロを目指すことはできます。この記事でまとめた工夫例を参考に、施設でも在宅介護でも身体拘束をしない介護を実践してみましょう。

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