「介護職としての仕事にはやりがいを感じるけれど、職場の人間関係に悩んだりストレスを感じたりしている」という人は少なくありません。実際、介護職の離職理由トップは「職場の人間関係」だといわれています。
人間関係のストレスは心身への負担も大きく「辛い状況から抜け出したいけれど、どうすればいいか分からない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
本記事では介護の職場で人間関係がうまくいかないとお悩みの方に、ケース別の対処法をご紹介いたします。
目次
そもそもなぜ介護職には人間関係の悩みが多いのか
介護の現場では、利用者さんやそのご家族、スタッフ、外部関係機関の担当者など、多くの人間がかかわるため、人間関係の悩みが多くなります。
利用者さんのことをよく理解し、性格や体の状態にあった最適な介護サービスを提供するためには、すべてのスタッフのチームワークが必要になります。それぞれ立場の違う人間が意見を交換しながら仕事を進めるため衝突してしまうことや、無理難題を押し付けられても、チームワークを乱さないように我慢してしまうといったことが積み重なり、うまく信頼関係を築けないことも少なくありません。
さらに、介護業界が慢性的な人手不足であることも、人間関係に悩んでしまう要因の1つです。一人ひとりの業務量が増えて精神的な余裕がなくなってしまい、ちょっとしたことでもイライラしてしまいます。心に余裕がないと言葉がきつくなることもあり、きつく言われた方は相手への苦手意識につながり人間関係に悩んでしまうのです。
また、女性職員同士でグループを作る傾向にある職場の場合、グループに入れないと業務上でも連携がうまく取れないといった支障が出るなど、ストレスを感じる機会が増えるでしょう。男性は女性ばかりの職場で肩身の狭い思いをすることも多く、人間関係での悩みを増やす要因になってしまいます。
人間関係の苦しい状況を変える3つの方法
介護職の人間関係での悩みは、「職員同士」「ほかの機関の関係者」「利用者さんとそのご家族」の3つのケースに大きく分けられます。なかでも、職員同士の悩みは仕事をしていくなかでとくにストレスを感じてしまうため、職員同士のケースを中心に、改善策をご紹介します。
悩みの問題点を整理する(課題の分離)
ベストセラーの「嫌われる勇気」で多くの人に知られるようになった「アドラー心理学」では、人間関係の悩みを解決する手段として「課題の分離」を唱えています。
人間関係の悩みは自分と相手との間に生まれる悩みです。悩みの問題点はすべて自分にあるわけではなく相手にも要因があります。「課題の分離」とはこの悩みを、自分で「コントロールできる悩み(自分の課題)」と「コントロールできない悩み(他者の課題)」に分け、「コントロールできることについては、結果にげるように努力をし、コントロールできないことには囚われない」といった考え方です。
悩みの問題点を整理して、まず自分だけで改善できる課題があるかを見つめなおしてみましょう。
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同僚が仕事をしない
この場合、同僚を注意して状況を改善しようと考えてしまいます。しかし、この悩みは仕事をしない同僚の課題です。もし、同僚の怠慢によってあなたの業務に支障が出るといった場合、それは管理者である上司の課題となります。自分でコントロールできる課題ではありません。
自分で同僚をなんとかしようと思わず、仕事をしない同僚のことを上司へ伝え、後は同僚のことを考えずに自分の仕事に集中することでストレスを軽減することができるでしょう。
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職場の研修制度(教育体制)が整っておらず、誰も仕事を教えてくれないのに、ミスをしたら怒られる
この場合、会社や上司に「きちんと教えてください」とお願いしても状況が変わるかどうかは分かりません。
しかし、自分の努力で正しい知識と技術を身に着けてしまえば、教えてもらう必要もなくなりますし、怒られる機会も減るでしょう。そのため、「仕事を覚える」という自分でコントロールできる課題に向き合い、努力することが大切です。
問題は経験の一つと捉え、自分を責め過ぎず、前向きに自分の課題を解決するために行動を起こしましょう。[/box05]
適度な距離を保つ
自分のやるべき課題や改善すべき問題に対して努力しても、人間関係の悩みが解決しないことがあります。このような場合、悩みに対して自分の課題や問題は関係しておらず、そもそもその人との相性が悪いのではないかと考えてみましょう。
経済分野で用いられている「パレートの法則」や「262の法則」では、1つの商品に対する良い意見と悪い意見は8:2のバランスに分けられ、これはさまざまなことに当てはまると考えられています。たとえば、自分に好意的な感情を持つ人と普通な人が周囲の人の80%を占め、何をやっても合わない人は20%いると考えられます。
つまり、統計的に周りにいる人の20%は自分が努力しても理解しあえず、仲良くなりづらいといえます。こうした方に対しては何をしても関係が改善しないため、自分が不快にならないよう、適度な距離をとることが大切です。
ただ、職場によっては距離をとるのが難しい場合もあるでしょう。そういった場合は次にご紹介する方法を使って、考え方を変えてみることをおすすめします。
相手の立場になって考えてみる
相手に対して苦手意識を持っていると、その相手の言動に無意識に否定的な考えを持ってしまうことがあります。そこで、相手の立場に立ち、どうしてその意見が出てくるのかを考えてみましょう。
たとえば、看護師とケアの方法で意見が合わない場合、相手の意見が間違っていると感じたとしても、一度冷静になって相手の立場から意図を考えます。すると、自分では分からなかった面に気付き、意見を押し付けられたという見方がなくなり意見を受け入れやすくなります。
また、自分が注意する場合にも、一度注意される側になって考えてみましょう。相手が受け入れやすい言い方や上から目線にならない言葉を選ぶと、しこりが残りづらくなります。悩みを客観的に考えて自分の考えを押し付けることがなくなれば、人間関係を良好に保てるようになるでしょう。
介護職によくある人間関係の悩みと、ケース別の対処法
最後に、介護職でよくある人間関係の悩みを、ケースごとの対処法とともに紹介します。
職員同士の人間関係の悩み
職員同士での人間関係の悩みで多いのは、人間関係がギスギスしてしまい居心地が悪く感じてしまうことです。このようなケースでは、悩みの問題点を整理して、自分が解決できる問題かどうかを知ることが大切です。たとえば、ミスを注意されることが多いなら仕事でのミスを減らす、態度が悪く見えるなら挨拶を忘れないなど、自分に問題点がある場合はしっかりと改善していきましょう。
ただし、相手が自分を好きになってくれないなど相手側に要因がある場合には、自分が努力しても改善できません。こうした問題点に関しては悩まないようにして、自分が改善できる問題にだけ向き合うようにすると、悩みが軽くなります。
ほかの医療関係職との人間関係の悩みと対処法
ほかの職種の方と意見がぶつかるようなケースでは、お互いの価値観などが合わないことが原因となっているときがあります。こうした場合にも、自分と相手のどちらが改善すべき問題なのかを分けて考えるようにすると、悩みが軽くなります。
また、このケースで大切なのは専門外のことを自分が背負わないようにすることです。たとえば、医療的なケアに関しては専門資格を有する看護師の意見を尊重する姿勢が大切です。介護職員として、日頃利用者さんと接しているからこそ気付ける点は多いので、その役割には自信を持ちつつ、医療的なケアは看護師に頼ると意見の衝突がなくなりストレスを感じにくくなるでしょう。
利用者さんとの人間関係の悩みと対処法
利用者さんとの人間関係で多いのは、うまくコミュニケーションがとれずに悩んでしまうケースです。何を言っても無視されたり会話が続かなかったりすると、自分のケアや接し方が間違っているのかと考えてしまいます。しかし、大切なのは、本当にその方が会話したいと思っているのか、その話題に興味があるのかということです。
そこで、その利用者さんの立場に立って最適な接し方を考えてみましょう。1人の時間を大切にする方なら無理に話しかける必要はありませんし、話題に興味がない方なら日頃の生活から話題を選択すれば話しやすくなります。自分が楽しいことではなく相手が楽しめることは何かを考えると、利用者さんとの間に生じる悩みを改善しやすいでしょう。
利用者さんのご家族との人間関係の悩みと対処法
利用者さんのご家族との関係では、実際の介護とご家族が理想とする介護のなかで意見が対立してしまうことが、悩みの原因になることが多いでしょう。無理難題を押し付けられて、実現できずにご家族から注意されることも少なくありません。
こうしたケースで重要なのは、自分一人で介護をしているわけではないということです。利用者さんへの対応は職員全員で考えるべきことなので、自分で判断できなければほかの職員やリーダーに相談して解決策を見つけましょう。もし、その決断を自分の口から言えなければ、リーダーなどにお願いするのもおすすめです。一対一の介護にならないようにご家族と接すると、柔軟な解決策が見つかり人間関係の悩みも軽くなるでしょう。
まとめ
介護現場での人間関係の悩みは、仕事のやりやすさなどに大きくかかわります。そのため、悩みを減らしたりストレスを小さくしたりすることが、その職場で長く働き続けるためにも重要です。自分がどれだけ頑張っても相手の対応や言葉遣いなどが変わらず、人間関係が改善しないこともあります。このような場合には、その職場から離れて人間関係が良好な新しい職場を探すことも一つの選択肢として考えておくといいでしょう。