障がい者支援施設の外部侵入者による多数の方が死傷された大変痛ましい事件以来、運営指導(旧実地指導)でも防犯上の確認をされることが多くなり、合わせて施設内で起こる職員による利用者への虐待や、利用者から職員への暴力・ハラスメントやそれらに伴うご家族からの苦情など、トラブル防止を目的とした防犯・監視カメラの設置を検討する介護施設が増えています。
しかし、プライバシーの問題や違法性を懸念し、導入をためらわれている施設も多いのではないでしょうか。
そこで、専門家であるTTS法律会計事務所の弁護士である戸谷由布子先生にご意見をいただきながら、適切な施設運営の指針となるようまとめました。ご活用いただければ幸いです。
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目次
なぜ介護施設に防犯・監視カメラが必要なのか?
介護施設内で行われている介助などの詳細をご家族へ共有する手段は、口頭やメール、介護記録の開示などに限られています。信頼関係がいくらあっても、事実が明確に理解ができる証拠がない限り、入居者やそのご家族から何かを訴えられても実際起きた事実を説明する手段はありません。
虐待、ハラスメント、事故などのトラブルや疑いが発生すれば、事実の明確化のためのヒアリングや検証などで管理職や職員が疲弊し、退職や人員不足に繋がりかねません。このような背景からも、入居者ご本人、そのご家族、職員の安心・安全にもつながるため、防犯・監視カメラの導入件数が増加していると考えられます。
防犯・監視カメラは違法?プライバシーの侵害になるのか?個人情報保護法との関係は?
介護施設への防犯・監視カメラ設置の違法性
厚生労働省では、前述した障がい者支援施設の外部侵入者による多数の方が死傷された大変痛ましい事件から、平成28年に「社会福祉施設等における防犯に係る安全の確保について」の文中で、施設設備面における防犯に係る安全確保として介護施設へ防犯・監視カメラの導入を進めています。
また、同年の第二次補正予算では福祉施設の防犯対策として補正予算案が出ており、このことから防犯面での設置について進められていることがわかります。
ただし、介護施設で利用する場合は外部からの侵入者に対する防犯上以外にも、施設内の様々な事故防止やトラブル防止のために設置することも多く、その点については入居者や職員のプライバシー侵害になる可能性もあります。導入の際は入居者やご家族、職員へ適切説明と同意を行うなど、事前にプロセスを踏まえた対応が重要になります。
防犯・監視カメラ設置は肖像権侵害やプライバシー侵害になる?
防犯・監視カメラは、人の風貌や行動・音声などを録画する機能を有し、写真や録音だけの手段よりも情報量が多く、防犯・監視カメラの設置方法や録画されたデータの取扱方法によっては、肖像権(※)やプライバシーへの影響が大きい記録媒体です。
※「みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益」(最高裁平成17年11月10日判決参考)。
プライバシー保護は、従来、私事の公開や私生活への侵入から保護される権利として主張されていました。しかし、社会の情報化が進む中で、生活者の予期しない情報が他者に閲覧・収集・利用されることが増え、これについてもプライバシーに関わる問題として取沙汰されることが増えてきました。生活者の個人的な受け止め方の相違、社会的にどこまで許容されるかも、時間の経過や世代間の認識の違いなど、慎重な配慮が求められるようになっています。
肖像権・プライバシー侵害にならないための判断基準と配慮
カメラ媒体の取り扱いルール
カメラ画像の取り扱いについて、総務省・経済産業省は、IoT推進のため事業者向けに「カメラ画像利活用ガイドブック」(令和4年3月Ver3.0発表)を策定し、商用目的でカメラ画像を利活用するにあたって必要な配慮事項を整理し、配慮事項のポイントを解説しています。
カメラ画像の取り扱いは、他の情報(たとえば会員制の購買記録など)と比べて下記ような点に留意が必要と述べられています。
撮影範囲内への写り込みや、設備利用上避けられない経路等があり、被写体本人が常に事前の通知や個人情報の取得に同意を行っているわけではない状況で個人情報の取得が行われてしまう。そのため、可能な限りの誠実な通知を行うことを前提としても、常に「撮影されたくない者への配慮」を行うことが求められる。
引用:「カメラ画像利活用ガイドブック」(令和4年3月Ver3.0発表)
また、被写体からはどのように撮影されているかわからないことや、撮影側が想定していなかったデータが後日技術の進歩により明らかになったり、流出する可能性があることにも留意すべきとしています。
肖像権・プライバシー侵害にならないためには
同ガイドブックでは、肖像権・プライバシー侵害にならないためには、主に下記について適切かどうかが重要であるとしています(肖像権やプライバシー侵害に関する種々の裁判例でも指摘される判断基準です)。
・カメラ画像を利用する目的が正当であり、撮影の必要性があること。
・撮影方法・手段や利用の方法が相当であること。
引用:「カメラ画像利活用ガイドブック」(令和4年3月Ver3.0発表)
日本の行政機関の一つである個人情報保護員会は、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編) 」(平成28年11月発表、令和3年1月に一部改正)の中で、「防犯カメラに記録された情報等本人が判別できる映像情報」を個人情報に該当する事例の一つとして挙げています。また、画像を解析して得られた顔認証データについての注意事項についてQ&Aとして解説しています。
Q1-12
店舗等に防犯カメラを設置し、撮影した顔画像やそこから得られた顔認証データを防犯目的で利用することを考えています。個人情報保護法との関係で、どのような措置を講ずる必要がありますか。A1-12
引用:個人情報の保護に関する法律についてのガイドラインに関するQ&A(令和4年5月26日更新時点の情報)
本人を判別可能なカメラ画像やそこから得られた顔認証データを取り扱う場合、個人情報の利用目的をできる限り特定し、当該利用目的の範囲内でカメラ画像や顔認証データを利用しなければなりません。また、個人情報の利用目的をあらかじめ公表するか、又は個人情報の取得後速やかに本人に通知若しくは公表する必要があります。
「犯罪予防や安全確保のためのカメラ画像利用に関する有識者検討会」(個人情報保護委員会,令和4年)では、「顔識別システムは、カメラ画角内に特定の人物が存在しているか瞬時に自動で把握できることから、犯罪予防の観点からは有効なシステムである。他方、遠隔で個人を識別することが可能であるという技術的特性上、その運用次第では、受忍限度を超える個人のプライバシー侵害等を生じさせるリスクをはらむ。」として、報告書を取りまとめている最中です(2022年8月時点)。
なお、カメラ画像を取得してこれを防犯目的のみに利用し顔認証データは取り扱わない従来型の防犯カメラの場合には、「取得の状況からみて利用目的が明らか」(法第21条第4項第4号)であることから、利用目的の通知・公表は不要と考えられます。
しかし、被写体からすれば撮影データをどのように活用されるのか予測しづらく、他の目的にも利用され得る個人情報であることから、防犯カメラが作動中であることを店舗の入口や設置場所に掲示するなど、防犯カメラにより自らの個人情報が取得されていることを本人において容易に認識可能とするための措置を講ずることが望ましいと考えられます。
なお、厚生労働省が作成する介護施設における「見守り支援機器」の関連の資料では、そのニーズと有用性について指摘される一方で、人権や個人情報保護とバランスを取る必要も指摘しており、厚生労働省「介護ロボット重点分野別 講師養成テキスト」「第4章 見守り支援機器(介護施設)」(2017年)では、「なお、保存媒体によっては画像で記録が保存されるため、人権および個人情報保護の観点から、ご家族への説明・同意を得ることが必要です。」(53頁参照)と記載されています。
なお、前述した有識者検討会の中では、消費者団体からの要望として、個人情報保護法などの法令遵守に加え以下の点が重要であると述べられました(令和4年5月時点)。
- カメラが設置されていることの周知
- 透明性の確保
- 実態を踏まえた正しいルール作り
- ルールを順守した適切な運用
- 情報開示などを含めた苦情・相談の丁寧な受付
これら項目は、従来型の防犯・監視カメラにも通ずる視点ですので、施設内の体制構築の際に参考になさってください。
介護施設などへ防犯・監視カメラの設置を行うことについては、上記のとおり、肖像権・プライバシー・個人情報の保護など法的問題があることに配慮しつつ、法に定められたルールを守りながら行うのであれば、違法ではないと考えられますが、慎重な判断が必要です。
介護施設で防犯・監視カメラを設置する導入効果、注意点
介護施設に防犯・監視カメラを導入する導入効果
介護施設では、外部からの不法侵入のリスク以外にも、虐待、ハラスメント、事故、徘徊、金品などがなくなったなどの様々なトラブルが発生しています。
これらの多くは、第三者がいない場所で起こることや証拠がないことが多く、入居者やご家族に疑念を残したままになります。防犯・監視カメラを設置することにより、誰が何をどのように行ったのか映像などの証拠が残るため、速やかな明確な事実の確認とトラブルの解決に役立ちます。また、それ以外にも下記のメリットがあります。
- 因果関係を客観的なデータ(映像)から事実を明確化し、次に生かすことができる
- ヒヤリハットからトラブル発生を未然に防ぐ
- 不審な人物の存在を事前に把握したり、カメラが置いてあることで犯罪の抑制につながる
- 見られている意識から、虐待などのトラブルに発展しそうな行動を抑制する
- 速やかな事故の検証と解決の作業効率化により、入居者やご家族から信頼を得られる
- 施設内をモニタリングすることができ、介護現場のような限られた人数で業務を行う環境も施設のあらゆる場所まで目が届く
効率だけではなく、限られた人数での業務の中で職員がより安心して働くことができる環境となったり、徘徊や急変の入居者などに迅速に気づくこともでき、ヒヤリハットはじめ職員の観察だけでは把握できなかった原因がわかることで日頃の対応の改善に役立てることができるでしょう。
介護施設に防犯・監視カメラを導入する際の注意点
メリットが多い防犯・監視カメラの設置ですが、注意点としては下記が考えられます。
- 事前説明もなく設置した場合、それが不信感になり、それ自体がトラブルの発生につながる可能性
- いざトラブルが起きたときに証拠として提示しようとしても、事前の説明がなければ、施設側に都合良く利用されていると感じられてしまう可能性
- 職員のみが出入りしない場所に設置する場合には、常に見張られて、仕事を監視されているような気持ちにを抱いてしまう可能性
対策としては…
- 入居者、ご家族、職員への事前に誤解がないよう十分な説明と理解を得る
- 防犯・監視カメラによるモニタリングの目的、取得する個人情報の利用目的をあらかじめ特定するとともに、社内規程に定める
- モニタリングの実施に関する責任者と権限の内容を定め、適正に行われているか内部監査や確認を行う
防犯・監視カメラの設置は、一歩間違えれば肖像権やプライバシー侵害になってしまう恐れがありますので、事前に誤解がないよう準備の上の設置が必要になります。
カメラの導入で確認すること
防犯・監視カメラ運用面の整備
ただ設置すればよいというわけではありません。設置目的やカメラやデータの管理方法を明確にしておきましょう。あらかじめ想定し、万が一トラブルが起きた場合の対応を事前に定めおくことは、入居者やご家族、職員への信頼にもつながります。
防犯・監視カメラ設置に際して決めておく項目
①組織体制の整備
・撮影データの利用目的および開示方法を決定し、対象者に公表する。
・撮影データの取り扱いについてのルールを決定し、規程を整備する。
具体的には…
- 防犯・監視カメラの設置場所や撮影範囲
- 撮影データの保存方法・保存期間
- 不用意なアクセスや利用目的以外の活用禁止の徹底
- 責任者の選定
- 撮影データを閲覧・アクセスできる職員の範囲の制限
- 利用者やご家族から撮影データの開示を求められたときの対応
- 防犯・監視カメラについての相談や質問、苦情を受け付ける連絡先の設置
カメラの情報については、下記まで詳細に確認しておくことで、突然のトラブルにも対処しやすくなります。
- 防犯・監視カメラの映像は、常に上書き(記録しない)か、それとも記録されるか。
- 記録される場合、撮影データの保管場所はどこか。記録媒体は何か。
- 映像データが施設内でのみ保管・管理される仕組みか、それとも、カメラ設置・運営会社へデータ転送される仕組みか。
- 撮影されるデータは、クリアな映像か、それとも、顔などがモザイク加工されたデータか。
②撮影データ流出防止のためのセキュリティ面の整備
具体的には…
・カメラおよび画像データを保存する電子媒体などの盗難または紛失を防止するために、設置場所に応じた適切な安全管理を行う。
・情報システムを使用したり、ネットワークを介してカメラ画像を取り扱う場合に、必要とされる当該システムへのパスワード設定などのアクセス制御や漏えい防止策を講ずる。
③研修体制の整備
従業者に対する適切な研修(肖像権・プライバシー・個人情報保護法に関する基礎知識、撮影データの取り扱いの留意事項・撮影データ流出時の対応など)を実施する。
防犯・監視カメラ導入時の入居者やご家族、職員への説明と同意の取得
防犯・監視カメラを設置することで施設を利用・訪問する方々が安心できることは非常に大事なポイントですが、一方で、日常生活を監視されていると感じて行動が制限されてしまう(委縮してしまう)可能性があることも十分に配慮する必要があります。
また、施設で働く職員にとっては、勤務時間だけでなく、施設内での休憩時間まで一挙手一投足まで撮影されることは過度なプレッシャーを与えることにもなりかねません。
そこで、防犯・監視カメラを設置するにあたっては、入居者やご家族、そして施設の職員に目的などをきちんと説明し、ご納得いただいたうえで設置します。
この点についても、弁護士の戸谷先生に意見をお伺いしました。
防犯目的が明らかな場合は通知は不要、ただし入り口付近に掲示するなどが望ましいと前述しました。しかし、プライベート空間を撮影するカメラ(いわゆる“見守りカメラ”)の設置について入居者やご家族から同意を得る場合、たとえば入居契約の締結時に、重要事項説明書に記載し、同意を得るパターンや、撮影データに顔画像などが映りこむ場合は個人情報としての取り扱いになりますので、個人情報保護規程とセットで説明し、同意の取得が必要です。職員の方々から同意を得る場合も同様です。
具体的には、前述した「運用面の整備」で取り決めた内容などを含め、事前に、詳細を記載した案内文を作成して配布し、周知を徹底することが重要です。加えて、プライベート空間へカメラを設置する場合には、同意書を作成し署名して頂いたほうがよいです。同意書を作成する場合は、内容に誤りがないよう、また、個人情報保護規程との整合性が取れているか、など、弁護士など法律の専門家にご相談されて下さい。
周知する内容、同意書には下記の内容を記載しましょう。
- 防犯・監視カメラの設置場所
- 撮影範囲
- 設置理由
- 画像データの管理・保存方法
- 施設内の問い合わせ先
また、同意に関しては、あくまで承諾いただいたうえでご納得いただくことが重要ですので、同意を強制しないことも大切です。
【規定するうえで参考になる資料】
この記事で紹介したガイドブック以外にも参考になる資料が複数ありますので、設置の際は照らし合わせてご活用ください。
「カメラ画像利活用ガイドブック」(令和4年3月Ver3.0発表)
施設設において防犯・監視カメラの設置を検討されていらっしゃる場合に配慮すべき視点・対策として参考になるので、ご一読されることをおすすめします。このハンドブックでは、カメラ設置を検討する段階から設置後まで、どのような点に配慮すべきかが記載されています。
自治体(市区町村)のガイドライン
住民のプライバシー保護の観点から、条例、規則、要綱、ガイドラインを制定して、防犯カメラの設置や利用に対して基準などを定めているケースもあります。
自治体が運営する特別護老人ホームなどにおいてなどが定められ、インターネット上でも公開されています。※例として船橋市特別養護老人ホームのものを記載
「個人情報の保護に関する法律についてのガイドラインに関するQ&A」
前述している内容に加えて、「Q10-8」では防犯カメラ設置の際の安全管理措置について解説がありますのでそちらもご一読ください。
防犯・監視カメラ設置場所
防犯・監視カメラは、利用目的に必要な範囲で、設置場所や撮影範囲を決めましょう。
このとき、「犯罪防止」「事故防止」という目的からは、撮影範囲にできるだけ死角のないように設置することは大切ですので、障害物の有無・どこまで撮影可能かを確認しつつ、必要な場所が撮影できないことのないように気を付けます。
一方で、撮影の対象となる入居者・ご家族・職員などの行動が過度に委縮することにつながることのないよう、プライバシーへの重要な侵害が懸念される場所への設置は慎重に検討してください。
プライベート空間かどうかの判断はケースバイケースのことも多いですので、「人々が行き来する場所かどうか(①)」、「委縮した日常生活・行動制限につながらないか(②)」、「人に見られたくない行為をする場所かどうか(③)」、など施設内の具体的な状況をふまえつつ検討することが大切です。
【①撮影対象者に周知が必要な設置場所】
- 不特定多数が出入りする玄関・受付・通用口などの出入口
- 駐車場
- エレベーター
- 階段(非常階段)
- 廊下
- レクリエーションや食事を行う共有スペース
- 事務所(特に、貴重品を管理する場所) など
入居者・ご家族、職員への同意を取得することは必須ではないと考えられます。ただし、この場合も、前述の通り、防犯・監視カメラ作動中であることを示す掲示を出入口や設置場所の近くに明示する必要があります。
ただし、廊下に関しては、プライベートな空間につながる廊下は撮影対象者からの同意を取得しておいたほうが安心です。食事場所についても、自分が食事をする姿を撮影され続けることについて嫌悪感を持つ方もいらっしゃいますので、撮影アングルの工夫や入居者への丁寧な説明が大切です。
なお、侵入者を警戒するあまり、施設前の道路の通行人や施設周辺の住戸まで不必要に映り込む形でカメラを設置しますと、逆に、近隣トラブルになる可能性がありますので、カメラのアングルなどはきちんと確認することが大切です。
【②周知だけではなく撮影対象者の同意が重要な設置場所】
- 居室スペース(居室前の廊下、浴室の脱衣所の出入口の廊下などを含む)
- 面談室
- スタッフルーム(着替えなどはせず、休憩をするだけの場所) など
入居者の居室スペース内への見守り目的でのカメラ設置については慎重な対応が必要です。高齢者の方々の体調管理・安全確保の観点から「見守り支援機器」としてのカメラやセンサーの設置のニーズはある一方、「監視されている」「自分の行動が見られている」と受け止める方もいらっしゃいます。
撮影対象となる入居者の「目に見えない拘束」として心理的な負担を軽減する工夫として、設置するカメラなども「シルエット映像」が映るだけのものにする、撮影時間は夜間のみとする(夜間巡回見守りの補助ツールとして用いる)などの工夫も一案です。入居者やご家族の書面による同意の取得がない限り、設置は控えたほうがベターです。
また、他の利用者が訪問し入室できる場合には、訪問者となる他の利用者の行動も撮影されることになりますので、この方の同意も必要になると考えたほうがよいです。
居室内のカメラ設置について、現時点では国からの明確な指導はありませんが、兵庫県明石市が「介護保険施設における居室へのカメラ設置について」(令和元年10月9日)という運用ルールを発表しており、実務的な対応例として参考になりますのでご参照ください。
【③撮影対象者の同意があったとしても設置すべきでない場所】
- 浴室
- トイレ
- 職員更衣室(着替えなどの行為を行うところ) など
これらの場所は、排泄・入浴・着替え行為など撮影されることを想定していない行為を撮影することになり、映像が第三者に閲覧されることはプライバシー侵害のレベルが大きいからです。入退室の管理のために、これらの場所の入り口の廊下に防犯・監視カメラを設置することは許容範囲と考えられますが、室内が映りこんでしまうようなアングルになってしまっていないかの確認も必要です。
なお、トイレや浴室などは事故が起きやすい場所ではありますが、排泄行為や裸を撮影されることはプライバシー侵害の程度が大きいため、これらの場所については、入居者やご家族の同意の有無にかかわらず、設置することはおすすめしません。
同様に、職員の更衣室はたとえ盗難防止という理由であっても職員の着替えなどの録画することになり、こちらもプライバシー侵害の程度が大きいため、設置は望ましくないと考えられます。
また、設置を計画する際には、下記のような画像を作成しておくと、死角がないかどうかの再確認や、入居者やご家族、職員に説明する際に活用できて便利です。
防犯・監視カメラ導入タイプ
一言に防犯・監視カメラといっても様々なタイプがあります。
【タイプ】
主にボックス型、ドーム型と呼ばれるものが代表的です。ボックス型は防犯・監視カメラがついていることが明確にわかるので、防犯意識を高めたい出入り口におすすめです。ドーム型は存在を感じさせにくい形状ですので、屋内におすすめです。
タイプ | 撮影範囲 | 見た目 | 使われるシーン |
バレット(ボックス)型 | 長距離も可能 | ついていることがわかりやすい | 玄関先や施設の出入り口 |
ドーム型 | 360°広範囲 | 目立ちにくく圧迫感を感じない | ATMや景観を損ないたくない店舗 |
【データ保存】
大きく分けてサーバー上にデータを保存するクラウド型、レコーダーに保存するHDD型が挙げられます。それぞれメリット・懸念点はありますが、入居者の動向をモニタリングする場所は離れていても映像が確認できるクラウド型、施設内のトラブル防止で設置する場所はHDD型など場所や目的によって選ぶとよいでしょう。
タイプ | 初期費用 | ランニングコスト | メリット | 懸念点 |
クラウド | ・カメラ ・配線工事(無線の場合は不要) ・給電設備 など | ・ネットワーク回線の契約 ・クラウド利用料 | ・スマートフォンやPCからの映像確認ができる | ・ネットワーク環境が悪いと画質が落ちる、撮影されていないといった可能性 |
HDD | ・カメラ ・レコーダー ・モニター ・ケーブル ・配線工事 など | ・機器の補償費 など | ・容量が大きい ・衝撃に強い | ・数年で交換する必要がある ・チェックする場合は直接見に行く必要がある ・物理的に破壊されるとデータが破損する |
【その他の機能】
・音声付き
音声付きタイプであれば、会話した内容も残すことができます。話の齟齬からトラブルになりやすいケアプランや介護計画について話す面談室におすすめです。
・赤外線センサー
夜間になると電気を付けない場所や、施設の外の防犯用に設置する監視カメラには暗くてもきちんと映る機能があると安心です。
・会話ができるタイプ
見守り用として会話ができるタイプもあります。居住スペースに設置する場合はこういった機能のものを選ぶと入居者の安心感もより増すでしょう。
一言で防犯・監視カメラと言っても様々なタイプがあります。目的や用途に合っているのはどんな機能の防犯・監視カメラなのか、専門の業者へ問い合わせるとよいでしょう。
防犯・監視カメラにかかる費用
補助金費用は導入タイプによって違う
スペック・タイプによりますが、防犯・監視カメラ1台当たりの値段は1万円以下から5万円程度です。購入した場合はランニングコストはかかりませんが、故障した場合や状況が変わったときの買い替えなど、都度費用負担が必要になります。
一方、サブスクリプション(月額利用サービス)の場合は、毎月のランニングコストはかかりますが、初期費用が抑えられ、設置台数にもよりますが毎月1万円以下で利用できるケースが多いようです。また、モニタリングをしたい、スマホで見たい、などの希望も業者が対応してくれるため知識がなくても問題ありません。
防犯・監視カメラ補助金も活用しよう
厚生労働省は、平成28年の補正予算案に防犯・監視カメラ設置に対する補助金の予算案を組み込みました。関心を持つ施設が増えたことの表れだといえます。
防犯・監視カメラ設置を検討している場合は、各自治体で違ってきますが「高齢者施設の防災目的の補助金申請」などと問い合わせれば伝わりやすいでしょう。
見守りカメラに使える補助金については下記もご覧ください。
防犯・監視カメラ設置以外にもできることがないか考えよう
ここまで、防犯・監視カメラの設置について解説してきました。
各行政からも要綱が定められ、設置について検討することは防犯上も必要ですが、入居者、ご家族、職員と日頃からのコミュニケーションが適切かどうかを見直すことも重要です。
今までは、職員の巡回や声掛けなどによって、利用者と職員との間で行われていたコミュニケーションが、防犯・監視カメラを使用することで、職員との関わりが薄くなり、コミュニケーションの機会が減ることが考えられます。
苦情があった際にご家族に対し、クレーマーと決めつけていないか、入居者のご要望に真摯に耳を傾け、適切な対応が出来ているかなど、日頃からの目配り・気配り・心配りがあれば、何か誤解があった場合も、ほとんどは話し合いで解決できるはずです。
また、入居者やご家族ばかりに気を向けるのではなく、現場で働いている職員一人一人が、安心して働けているか、どうすれば前向きに働けるのかについても協力を得る組織作りのためにも考えましょう。職員の心に余裕ができれば、トラブルの防止や質の高いサービスの提供にもつながるのではないでしょうか。
防犯・監視カメラが設置されれば万事解決ではありません。導入を進める際には、「カメラ任せ」にせず、人間関係の下地ができているかどうかも、今一度振り返る必要があるでしょう。