ケアマネジャーは居宅介護支援事業所や特別養護老人ホームなどの入居施設で働くほかに、地域包括支援センターで働くという選択肢もあります。
介護の仕事に就いていても、地域包括支援センターがどのようなところか、よく分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。何をしているところなのか、ケアマネジャーとして働いたらどんな仕事をするのかなど、詳しくみていきましょう。
目次
地域包括支援センターとは
地域包括支援センターとは2005年の介護保険法改正に伴い創設された公的な機関です。
市区町村や、市区町村から委託を受けた社会福祉法人、医療法人、民間企業、NPOなどによって運営されています。
地域包括支援センターには保健師(または地域ケアの経験がある看護師)、社会福祉士、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)の専門的な知識と経験を持つ3つの職種が所属し、「介護」「医療」「福祉」のそれぞれについて連携を取りながら地域住民の支援にあたります。
地域包括支援センターの役割
地域包括支援センターの役割を理解するうえで、まず知っておきたいのが「地域包括ケアシステム」です。
少子高齢化が進む日本で、団塊世代が75歳以上となる2025年を目途に、それぞれの地域で高齢者を支えるための「地域包括ケアシステム」構築を目指しています。
この「地域包括ケアシステム」とは高齢者が要介護状態になっても、できるだけ住み慣れた地域で、その人らしい生活を続けられるように「住まい」「介護」「医療」「予防」「生活支援」に関して地域が連携を取り包括的に支援する仕組みです。
そして、「地域包括ケアシステム」を構築するにあたり、高齢者の暮らしを支える拠点として、中核的役割を担っているのが「地域包括支援センター」です。
総合相談支援業務、介護予防ケアマネジメント業務、権利擁護業務、包括的・継続的ケアマネジメント支援業務、地域課題の把握、地域資源発掘(地域診断)の5つを主な業務として、地域に暮らす高齢者やそのご家族、支援する周囲の方々を支える役割を担っています。
市町村ごとに1か所以上設置されており、平成30年4月現在では全国に5,079箇所あります。
地域包括支援センターの業務内容
①総合相談支援業務、②介護予防ケアマネジメント業務、③権利擁護業務、④包括的・継続的ケアマネジメント支援業務、⑤地域課題の把握、地域資源発掘(地域診断)の業務を行っています。それぞれがどのような業務かを説明していきます。
1.総合相談支援
地域の高齢者から、幅広く相談を受けつけ、問題を解決するために必要な情報や利用できる支援の把握、適切なサービスや関係機関、制度を利用するための支援を行います。
地域で暮らす高齢者とその家族や介護者、地域で気になる高齢者がいる地域住民やケアマネジャーなどが相談できます。要支援・要介護認定を受けていても、いなくても相談は可能です。相談には、主任介護支援専門員(主任ケアマネジャー)、保健師(看護師)、社会福祉士などが対応します。
2.介護予防ケアマネジメント
要支援認定となった方の介護予防ケアプランを作成します。その高齢者のニーズに応じて、自立した生活を続けるために必要で適切なサービスを受けるための援助を行います。地域住民が要介護となるのを予防するために、介護予防教室なども実施します。
3.権利擁護
高齢者の尊厳を守り、その人らしい生活を送るための支援を行います。具体的には次のような援助です。
- 高齢者が虐待を受けないための予防、虐待があったときに対応する
- 悪徳商法や詐欺などの消費者被害の防止や被害にあったときの対応
- 認知症や障害などで判断能力が低下している高齢者への支援
- 成年後見制度の活用を促す
4.包括的・継続的ケアマネジメント支援
高齢者が住み慣れた地域での暮らしを続けられるよう、地域のケアマネジャーの支援や、必要な機関と連携などを進める業務です。
具体的には、次のようなことを行います。
- 「地域ケア会議」などを通じた自立支援型ケアマネジメントの支援を行う
- 支援がうまくいかず困っているケアマネジャーに対して助言や指導を行う
- 公的な医療機関や介護サービス以外の地域住民や民生委員、ボランティア団体などの援助も含めて連携をとる
- 地域のケアマネジャーを支援するために、地域の主任ケアマネジャーと連携してネットワークづくりや指導などを行い、ケアマネジメント力の向上を図る
5.地域課題の把握と、地域資源発掘(地域診断)
地域ケア会議を地域包括支援センターで開き、地域の課題を見つけて把握します。課題を解決するために地域づくりや新しい資源開発の検討を行い、介護保険事業計画に反映させて地域包括ケアシステムの構築を進めていきます。
中学校区を基本とした日常生活圏域における問題を解決するために、次のことを把握する必要があります。
- 支援を必要としている人数
- 地域における課題は何か
- 地域にはどのような社会資源やサービスがあり、地域住民はどのように利用しているのか
- 既存の社会資源やサービス以外の新たな社会資源やサービスの開発の検討
- 地域の課題やニーズに合わせて必要な支援を政策へ盛り込み、地域の包括ケアシステムの体制を整える
地域包括センターで必要とされる3つの職種(専門家)
地域包括センターには、原則として保健師(地域ケアの経験がある看護師)、社会福祉士、主任ケアマネジャー(主任介護支援専門員)の3つの専門職が必要です。これらの専門職が中心となって、それぞれの専門性を活かし、業務を行います。
保健師などは保健医療、社会福祉士はソーシャルワーク、主任ケアマネジャーはケアマネジメントの専門性を活かして、チームとして地域の高齢者と家族を支援します。
主任ケアマネジャー
地域において包括的なケアマネジメントを継続的に行っていく役割を担っています。地域住民からのさまざまな相談を受けて適切な支援につなげることや地域で働くケアマネジャーへのアドバイスや指導、教育などを行います。
主に、地域住民の相談を受け付けます。
社会福祉士
社会福祉士は、社会福祉サービスの提供を担っています。地域住民からの総合的な相談を受け付け、個々のケースへの対応や、権利擁護に関する対応も行っています。
主な業務は以下のとおりです。
- 介護保険について、介護施設や福祉用具、住宅改修などの社会資源についての相談と対応
- 高齢者の虐待や悪徳商法などの被害についての相談を受け、対応する
- 介護施設や高齢者のいる自宅へ訪問し、安否や生活の状況を確認する
- 成年後見制度の利用につなげるための相談にのり、援助する
- 家族に関する相談の受付
- 認知症カフェなど、認知症に関する事業への取り組み
- 介護予防のための講座などを地域で開く
- 民生委員会などの集まりに参加し、地域住民とのネットワークをつくる
保健師
保健師は、地域住民からの医療や介護の相談を受け付け、医療機関や保健所などと連携を図って保健医療に関することへ対応します。
主に、以下のような業務を行います。
- 医療機関や保健所と連携を図って、医療、介護に関する相談にのる
- 主任ケアマネジャーと連携して、介護予防ケアプランの作成を行う
- 施設や高齢者の自宅を訪問し、健康相談を受ける
- 介護予防教室や口腔ケア教室などの企画・運営を行い、地域住民の介護予防への意識を高める
- 地域住民との関係づくりを図り、地域について民生委員やボランティアと情報の交換を行う
- 行政からの依頼で、地域住民の疾患予防のための処置を行う
- 健康診断の受診をすすめる
居宅介護支援事業所との違い
地域包括支援センターと居宅介護支援事業所はどちらも介護に関する相談を受け付けており、一部提供するサービスの内容が重複していますが、大きな違いは、利用する人と働く人の職種が異なることです。
地域包括支援センター
利用対象はご高齢者本人やご家族はもちろんのこと、地域に暮らす住民全てが対象となります。
介護のほかに福祉や医療の相談も受けつけており、主任ケアマネジャー、社会福祉士、保健師(看護師)の3職種が包括的に問題解決にあたります。
居宅介護支援事業所
利用対象は基本的には要介護認定を受けた方で、ケアマネジャーや主任ケアマネジャーが利用者さんのニーズを聞き取り、自立した生活に必要な介護サービスを組み合わせたケアプランを作成することが主な業務です。
ケアマネジャーの働き方の違い
居宅介護事業所のケアマネジャーは、個人を対象にケアプランを作成します。地域包括支援センターのケアマネジャーは、個々の相談に対応することもありますが、専門職や関係機関への取り次ぎ、地域で働くケアマネジャーの支援、介護予防や健康増進への取り組みなど、地域住民とコミュニケーションを図りながらネットワークをつくり、地域全体を支援します。
居宅介護事業所と地域包括支援センターで働くケアマネジャーの違いとして、以下のことが挙げられます。
介護予防のケアプラン作成
ケアプランを作成する際の対象者は、居宅介護事業所では要介護の方ですが、地域包括支援センターでは、要支援1、2の方、予防介護・生活支援サービスが必要な方となります。介護予防のケアプランは、すでに介護を必要としている要介護の方へのケアプランとは目的や支援方法が異なります。
地域づくり
居宅介護事業所のケアマネジャーが個々のケースの問題解決や支援に取り組むのに対し、地域包括支援センターでは地域が抱える課題の解決に取り組みます。
営利法人とは異なる目標設定
営利法人が運営する居宅介護事業所の場合は、ケアプランを受託して売上げを上げることも少なからず考えなければなりません。しかし、地域包括支援センターは、地方自治体が運営元であり、法人の利益にとらわれることなく、本当に役立つ支援を行うことが可能です。
介護保険利用以外の相談対応
地域包括支援センターでは介護保険サービスを利用する目的で相談されるわけではないので、相談内容を把握することから始まります。介護だけではなく、行政サービスや制度に関することなど幅広い知識が必要となります。高齢者に限らず小児から障害持った方までを対象としている地域もあり、対象範囲も多岐にわたります。
- 大きな違いは利用者さんが「要介護認定」を受けているかどうか
- 地域包括支援センターは要介護認定にかかわらず、地域に暮らす住民全てが対象なので相談内容が多岐にたる
地域包括支援センターで働くメリット・デメリット
地域包括支援センターで働くメリット、デメリットをそれぞれ説明します。
メリット
地域包括支援センターで働くと、次のようなメリットがあります。
- 日勤のみ、土日祝休みの求人もあり、プライベートな時間を確保しやすい
- 専門職としての知識、スキルを活かすことができ、勉強会開催など、さらなるスキルアップが図れる
- 地域全体を対象とするため、行政や制度、他職種の専門性など、働きながら幅広い知識を習得できる
- 民生委員や町内会の集まりへの参加など、地域との関わりが増える
デメリット
地域包括支援センターで働くと、次のようなデメリットがあります。
- 個人へ直接的にケアを行うことはできない
- 一人の対象者の長期的な経過を追うことができない
地域全体に関わる仕事がしたい方は、地域包括支援センターのケアマネジャーがおすすめ
地域包括支援センターで働くケアマネジャーは、地域の高齢者がより良く過ごしていくための相談窓口として全体的な支援や環境調整を行う役割です。個人に寄り添って支援を行う居宅介護支援事業所のケアマネジャーとは違って、地域全体が対象となるため、地域に積極的にかかわる姿勢が必要です。また、相談内容や対象者の範囲も多岐にわたるため、幅広い知識が求められ、介護予防の観点からケアプランを考える必要もあります。地域の住民や他職種といった大勢を相手に仕事を行うので、フットワークの軽さやコミュニケーション力があり、地域のために働きたいという想いが強い人に向いているといえるでしょう。