体が固まって関節が動かしにくくなる状態のことを「拘縮」といいます。柔軟に体を動かすことができないため、十分に配慮しながら介護をしなければなりません。そこで、この記事では「拘縮」とは具体的にどのようなことかタイプごとに説明し、さらにケアのポイントについて解説していきます。
目次
拘縮とは
「拘縮(こうしゅく)」とは、関節が柔軟に動かせないために体が硬い状態になることをいいます。一般的に「拘縮」と呼ばれますが、正しくは「関節拘縮」という名称があります。関節が固まる原因はさまざまで、寝たきりで筋肉が縮んでしまったり病気やケガなど体の動きに制限が生じたりすることで、関節が十分に動かせないときに見られる症状です。「拘縮」を病理学的な面で見ていくと、靭帯や関節包、筋肉といった皮下組織に何らかの変化が生じることで関節の可動範囲が制限されてしまう状態になります。
関節は、腱や筋に皮膚のような軟部組織と呼ばれる組織に包まれています。通常は、これらの柔らかい組織によってスムーズな動きを可能にしていますが、軟部組織に変化が起こることで関節の可動範囲を狭めてしまうのです。柔軟に伸ばすことができない状態のことを「屈曲拘縮」といい、その逆で曲がらなくなる状態は「伸展拘縮」と呼ばれています。「拘縮」に似た言葉に「固縮」がありますが、「固縮」は筋肉がこわばることで基本的な意味は異なります。
拘縮の5タイプ
「拘縮」には5つのタイプがあります。ここでは、この5つのタイプについて紹介していきます。
筋性拘縮
病気など寝たきりでの状態が続くことで筋肉が緊張して萎縮し、関節が思うように可動できなくなる状態のことを「筋性拘縮(きんせいこうしゅく)」と呼びます。「筋性拘縮」は、原因となる特定の病気が存在するわけではありません。例えば、骨折や認知症など何らかの原因で寝たきりになり、十分に体を動かす機会がなくなれば誰でも「筋性拘縮」になる可能性は高まります。人間の体は、抗重力筋と呼ばれる筋肉の働きによって重力に対する適切な姿勢が維持されています。しかし、仰向けの姿勢で長く寝たきりになってしまうと背面の筋肉だけが抗重力筋の働きをし、その結果として硬くなってしまうのです。そして、この状況が「筋性拘縮」の原因につながります。
神経性拘縮
「神経性拘縮(しんけいせいこうしゅく)」はその名の通り、神経が原因となる拘縮のことです。例えば、脳卒中のような脳神経の病気を発症した場合に筋肉が麻痺したり異常に緊張したりすることで起こります。病気以外にも事故などにより脳神経が損傷することも「神経性拘縮」の原因につながります。介護の現場では、麻痺をした側だけ肘が曲がり、さらに手のひらを握った状態になっている人を目にすることも多いかもしれません。
このような、半身だけ麻痺した状態の人に多いのが「神経性拘縮」です。病気や損傷などで脳神経にダメージを受けた場合、ついつい健側の筋肉ばかり使ってしまうことがあります。しかし、これは決して良い状態とはいえません。健側の筋肉に頼りすぎることで、麻痺側の筋肉がつっぱってしまうからです。この現象のことを「連合反応」といい、つっぱった状態が強まることで拘縮状態を起こしやすくなります。
皮膚性拘縮
「皮膚性拘縮(ひふせいこうしゅく)」は皮膚が原因で起こる拘縮のことです。ヤケドや手術など皮膚の真皮が損傷する要因があると、ひきつって関節が引っ張られた状態になります。この現象が「皮膚性拘縮」です。皮膚挫創や熱傷の後は、瘢痕化といって陥没や隆起などの傷跡が残ります。瘢痕化で皮膚を構成する膠原線維が変化し、瘢痕場所の肥厚や皮膚の癒着という形で治癒に至るとひきつったままの状態になってしまうのです。このように、皮膚が著しい組織変化を起こした場合の自然治癒は期待できません。通常は手術を行うことで、拘縮の原因を改善していくことになります。
結合組織性拘縮
「結合組織性拘縮(けつごうそしきせいこうしゅく)」は、靭帯や腱などの癒着や収縮によって起こります。その他、皮膚を形成する軟部組織の収縮や癒着も原因になります。「結合組織性拘縮」は病気やケガが原因で起こるわけではなく、手の使い方など習慣的なことが要因と考えればいいでしょう。例えば、手を酷使することで起こりやすい「ばね指」などがそうです。他には、「デュピュイトラン拘縮」と呼ばれる、腱膜の収縮によって手指が曲がってしまう現象も「結合組織性拘縮」としてあげられます。「結合組織性拘縮」の治療法としては、整形外科で対応し改善を図るのが一般的です。
関節性拘縮
「関節性拘縮(かんせつせいこうしゅく)」とは、靭帯や関節包などが炎症または損傷に至ったときに起こる拘縮のことです。「関節性拘縮」は、他にも捻挫や骨折、脱臼などの治療として長期間固定したときにも起こります。また、ギブスの固定が適切に行われないときにも起こりやすいので注意が必要です。「関節性拘縮」も、「結合組織性拘縮」などと同じように介護の現場では対応できません。発症してしまうと、通常は整形外科で治療を行います。
介護職における拘縮ケアのポイント
拘縮ケアする際のポイントについて解説していきます。
ゆっくりと行う
拘縮のある利用者さんは、すべてにおいてゆっくりした動作でのケアを心がけましょう。ゆっくり動かすことで、拘縮した部位に痛みや不快感を覚えることを回避するのがポイントです。痛みや不快感は、利用者さんにつらい思いをさせるだけではありません。実は、交感神経の働きを強めてしまい、それによって拘縮の症状がさらに進んでしまうのです。
拘縮のある利用者さんを介助するときは、常に声がけを行うことで次の動作や触れる部位をしっかり伝えましょう。声をかけるだけでなく、アイコンタクトをとりながら意思疎通を行うことも大切です。腕や足などを持つ際にも注意し、上から持つのではなく下から支えるなど丁寧な介助を心がけましょう。こうすることで、利用者さんの痛みをやわらげることができます。
リラックスできる姿勢を保つ
利用者さんがリラックスできるように気を配るのも大切なことです。リラックスするためには痛みを感じさせないことがポイントですが、利用者さんを不安にさせないことも重要といえます。そのためには、体に負担がかからないような姿勢を維持できるようにしましょう。
例えば、寝ているとき体に浮いている部位があると姿勢が安定せず、利用者さんにとって不安になります。寝ているときは体とベッドに隙間ができないよう配慮し、必要に応じてクッションや枕を使うのもいいでしょう。点で支えるというより、面で支えるという考え方で介助を行うことがポイントです。
同じ姿勢を続けない
ここまで説明してきたように、「拘縮」は体が硬くなることで起こります。できるだけ体が硬くならないようにするには、同じ姿勢を長く続けないよう工夫をすることがポイントです。特に寝たきりの状態になると、長時間姿勢を変えずにいれば体の同じ部位にばかり圧力がかかり、床ずれの原因にもつながります。体が硬くなることを抑え、さらに床ずれを防ぐためにはこまめに体の向きを変えてあげましょう
体位を変えてあげるだけでなく、快適に使える寝具選びをすることもポイントです。例えば、エアマットレスなどを使うことで体圧を分散することもできます。補佐的にクッションを併用するなど、細かい気づかいが大切です。
介護者の負担を少なくすることがポイント
「拘縮」とは、寝たきりなど何らかの原因で体が硬くなり、関節を柔軟に動かせない状態になることをいいます。「拘縮」には5つのタイプがあり、それぞれに原因や改善方法は異なります。タイプによっては介護の現場では改善できないケースもありますが、無理をさせるなど負担をかけると悪化するので注意が必要です。「拘縮」のある利用者さんはゆっくりと丁寧に思いやりを持ってケアしてあげましょう。