「介護職はサービス業」という言葉を見聞きしたことはないでしょうか。介護施設で働く介護職員のなかには、「サービス業」という言葉に違和感を持つ方がいるかもしれません。本記事では「介護はサービス業なのか」という問題に着目しながら、資格や接遇マナーでスキルアップできる介護職の専門性について見ていきましょう。
目次
介護の仕事は「サービス業」?
日本標準職業分類において介護職は、「サービス職業従事者」に分類されています。しかし、「サービス業」というと、販売員や娯楽施設のスタッフ、客室乗務員にホテルのフロント業務など、「人と接する仕事」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
覚える原因のひとつとして、「サービス業」という言葉の先に「接客業」をイメージしている場合があります。接客業は、サービス業の中の一つで、顧客と直接的なコミュニケーションをとりながら、必要なもてなしを提供することが仕事だと考えられます。
その接客業をイメージしてしまうと、介護職はもてなすことよりも、高齢者の自立支援を行う職業だと考え、違和感が生まれてくるのでしょう。サービス業とは、商品のように形に残らないサービスや情報を提供する、農業や漁業、製造業以外の仕事を指しています。その範囲は広く、介護職はとして分類されています。
そもそも「サービス業」とは?
日本標準産業分類におけるサービス業とは
日本標準産業分類において、日本の産業は「第一次産業」「第二次産業」「第三次産業」の3つに分けられます。この「第三次産業」のうち、以下9つの産業がサービス業に位置付けられています。
・情報通信業
テレビ・ラジオ放送局、出版社、サーバー運営会社など
・運輸業、郵便業
鉄道や自動車、航空機など運送用具を用いて旅客や貨物の運輸を行う会社など
・不動産業、物品賃貸業
不動産売買や賃貸業、リース会社やレンタルビデオ店など
・学術研究,専門・技術サービス業
設計事務所やデザイン事務所、コンサルタント事業や法律事務所など
・宿泊業,飲食サービス業
ホテルや旅館、レストランや居酒屋、その他宅配ピザやケータリングサービスなど
・生活関連サービス業,娯楽業
美容院やネイルサロン、クリーニング、火葬業や映画館やフィットネスクラブなど
・教育、学習支援業
小・中学校や大学などの各種学校、公民館や図書館など
・医療、福祉
病院や歯科医院、老人福祉施設、訪問介護事業所、障害者福祉施設など
・サービス業(他に分類されないもの)
自動車整備業や機械修理業、イベントホール、職業紹介業など
日本標準職業分類における、サービス職業従事者とは
日本標準職業分類において、サービス職業従事者は以下の8つに分かれています。
・家庭支援生活サービス
家事代行員など
・介護サービス
老人ホーム等で働く施設介護員、訪問介護職員など
・保健医療サービス
看護助手や歯科助手など
・生活衛生サービス
理容師や美容師、クリーニング職など
・飲食物調理
調理人やバーテンダーなど
・接客、給仕
飲食店店主やウェイター・ウェイトレス、旅館・ホテルの支配人や接客係、乗物客室係など
・居住施設、ビル等管理人
マンション・アパート・ビル管理人など
・その他、観光案内人や火葬作業員等
添乗員や観光案内人、葬儀師や火葬作業員など
このように、一見サービス業とイメージしにくい産業や職業もサービス業には含まれています。サービス業は対面で顧客をもてなすだけでなく、それぞれの専門スキルを活かして、形のないサービスを提供する仕事であることがわかります。
サービス業の特徴
サービス業には、以下の5つの特徴があります。
- 無形性
- 同時性
- 新規性
- 個別製
- 非反復性
・無形性
「無形性」は、製造業のように商品そのものを販売するのではなく、形として残らないサービスの特徴です。
・同時性
生産と消費が同時に起こることを意味するのが「同時性」です。美容院のように、美容師がサービスを提供すると同時に顧客が享受している状態を表します。
・新規性
「新規性」とは、顧客のニーズに応じて次々と新しい市場が生まれる状態を意味しています。
・個別性
「個別性」とは、顧客に合わせた臨機応変な対応が求められるサービス業ならではの特徴です。サービスは、顧客だけではなく、提供者によってもその都度内容が異なります。
・非反復性
「非反復性」は、顧客と提供者のそれぞれによってサービスが異なることを意味しています。
実は、ほかのサービス業に比べて離職率が低い介護職
介護業界は、常に人手不足が続いており、離職率が高いイメージを持たれる場合があります。しかし、近年は介護職の離職率は横ばい状態であり、令和元年度では15.4%という結果が出ています。
この数値は、生活関連サービス業・娯楽業の離職率28.1%、宿泊業・飲食サービス業の29.3%と比較しても低い数値となっています。各事業所で労働環境改善の取り組みがなされていることが、介護職の離職率の低下、人材定着につながっていると考えられるでしょう。
参考:介護労働安定センター「令和元年度 介護労働の現状について
専門的サービス業である介護職に「接遇」が求められる理由
介護職には、「接遇」を求められる場面が多々あります。生活の質「QOL(クオリティオブライフ)」を向上させるためには、個々の尊厳を重視し、敬意を払いながら接することが第一です。
また、接遇は利用者さんや仲間との信頼関係構築にも役立ちます。利用者さんに安心感を持ってもらうことは、介助中の事故を防ぐことにもつながるでしょう。
さらに、職員が接遇を身につけることでほかの介護事業所との差別化が図れるはずです。介護ニーズが多様化するなかで、選ばれる介護施設になるためにも必要なスキルだと言えるでしょう。
「接遇」と「接客」はどう違うのか
「接遇」とは、おもてなしの心を持って相手に接することを意味します。一方の「接客」は、顧客のニーズに応じたサービスを提供することです。
つまり、接遇は顧客に対してニーズを越えた喜びや満足感を提供することだと考えられます。介護サービス業では、利用者さんの気持ちに寄り添う「接遇」の姿勢が求められます。
介護士が知っておきたい「接遇」の内容
介護士が知っておきたい接遇の基礎的な内容は、以下の5点です。
- 身だしなみ
- あいさつ
- 言葉遣い
- 表情
- 傾聴
身だしなみやあいさつは、接遇の基本。利用者さんが感じる第一印象を左右するものとも考えられます。
また、言葉遣いは相手を尊重する姿勢をもっとも表すものです。利用者さんだけではなく、ご家族に対しても丁寧な言葉づかいを心掛けましょう。
利用者さんに打ち解けてもらうためには、にこやかな表情も大切です。相手の心に寄り添って傾聴する姿勢が、利用者さんのニーズをくみ取ることへとつながります。
介護士としてメリットも得られる「接遇」
接遇を身につけることは、介護士として大きなメリットも得られます。利用者さんやご家族との信頼関係が生まれれば、より良いサービスを提供することができるでしょう。
また、スタッフ間のコミュニケーションも円滑になるため、職場には良い雰囲気が生まれます。「接遇」は利用者さんのためのものだと考えられがちですが、介護士自身にも働きやすい環境と仕事のやりがいを与えてくれます。
介護は資格でキャリアアップできる専門的サービス業
介護職は、資格取得がキャリアアップにつながる専門的サービス業です。施設や事業所によっては、無資格からでもチャレンジできます。
無資格から介護の仕事にいた場合でも、その後は介護の入門編とも言える介護職員初任者研修を取得し、そのあとには介護福祉士実務者研修へとステップアップすると良いでしょう。経験を重ねて介護福祉士を取得すれば、給与アップも見込めます。
キャリアアップするごとに、介護士としての専門性が高まるのが大きなポイントです。ほかに代わりのきかない仕事として、転職時にも大きな強みとなるでしょう。
専門知識を活かして働くサービス業の介護職
介護職は、介護の専門スキルを活かして働く仕事です。大切なのは、接客業ではなく介護の専門のサービス業であるということ。専門スキルを活かし、介護職のプロフェッショナルとしていきいきと活躍していきましょう。