近年、訪問看護を利用する方が増え、訪問看護ステーションで働く看護師のニーズも高まっています。そもそも訪問看護とは何か、訪問看護の仕事内容にはどのようなものがあるの見ていきましょう。
また、転職先として訪問看護を考えている看護師が知っておきたい働き方や将来性についてもまとめています。ぜひ参考にして、納得できる転職を実現してください。
目次
訪問看護とは?
訪問看護とは、ケガや病気などにより継続して療養の必要があり、なおかつ通院が難しい患者さんを対象とした看護サービスです。訪問看護師は、患者さん本人や家族の「自宅で過ごしたい」という思いに沿った在宅療養生活の実現に向け、専門性を発揮して、健康の維持や回復、QOL(生活の質)の向上ができるように予防から看取りまで支えていきます。
拠点は訪問看護ステーションや病院・診療所
訪問看護の拠点は「訪問看護ステーション」と「病院・診療所」の2つです。第142回社会保障審議会介護給付費分科会の資料によると、平成28年5月時点では医療保険に対応する訪問看護ステーションが8,613ヶ所、病院・診療所が4,284ヶ所と、訪問看護ステーションが病院・診療所の訪問看護部署よりも約2倍多いことが報告されています。
看護対象者は通院困難な方や末期がんの方等
訪問看護の対象者は、通院が困難で自宅看護が必要な方です。ケガや病気のために一時的に自宅での看護が必要になる方もいますが、末期がんや筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの治療困難な難病の方も多くいます。
医療保険と介護保険が適用される
訪問看護サービスには、医療保険が適用される場合と介護保険が適用される場合があります。40歳未満の方や要介護者・要支援者以外の方には、医療保険が適用されます。平成27年に行われた保健局医療課の調査では、該当する方のうち、訪問看護サービスを利用している方は約17.1万人となっています。
一方、要介護者・要支援者で訪問看護サービスを利用している方は約39.6万人です。原則として訪問看護サービスには介護保険が適用されますが、末期の悪性腫瘍、難病患者等で主治医の指示があった場合などに限り、医療保険が適用されます。
訪問看護の仕事内容
訪問看護において、看護師はどのような仕事をするのでしょうか。主な仕事を7つ紹介します。
健康観察
訪問看護サービスの対象となるのは、医師の診断によって居宅による療養が必要だと判断された患者さんです。皆さん病気やケガを抱えているため、訪問したならばすぐに血圧や脈拍などの健康観察を実施します。
患者さんの病状が落ち着いているか、何か変化はないかを詳しく観察して記録しましょう。この記録は、今後の治療方針を決定する際の医師の診断においても重要な意味を持つため、できるだけ丁寧に患者さんの様子をチェックします。
医療ケア
看護師は医師の指示に基づいて医療ケアも実施します。患者さんの病状や医師の指示によっても異なりますが、インシュリン注射や点滴、カテーテルの交換などを行うこともあります。
緩和ケア
訪問看護サービスを利用している患者さんには、末期がんの方など痛みをコントロールする緩和ケアが必要な方も多いです。医師の指示に従い、麻酔薬の投与なども訪問看護師が実施します。
リハビリ
機能回復のためのリハビリが必要な患者に対しては、簡単なリハビリも看護師に求められる場合があります。嚥下訓練や歩行訓練、そのほかにも患者さんに必要な訓練をサポートします。
患者さんや家族の精神的サポート
訪問看護サービスの中で、看護師は患者さんを精神的にも支えていきます。患者さんの悩みや不便に感じている点、困っていることなどを丁寧に聞き、サポートできることはサポートし、介護サービスなどで解決できることについては看護プランの変更を提案することもあります。
主治医やケアマネジャーとの相談が必要ですが、より良い看護を提供するためにも、患者さんや家族の不便を丁寧に聞き取りましょう。また、患者さんが自宅療養を行うことで、「外出の機会が減ってしまう」「相談する相手がいないために、精神的に追い詰められている」といったご家族も少なくありません。悩みを丁寧に聞き、共感を示して家族の気持ちが楽になるようにサポートすることが大切でしょう。
日常生活のサポート
訪問介護においては、看護師は爪を切る、歯を磨く、体位変換、入浴、食事の介助など日常生活のサポートも担当します。患者さんが暮らしやすくなるように、衛生面や栄養面、健康面に配慮していきましょう。
医師やリハビリスタッフ、ケアマネージャーなど、多職種との連携
訪問看護は、看護師だけで行うのではありません。ほかのスタッフとの連携が必要です。患者さんに関するあらゆる情報を収集し、スタッフと共有するようにしましょう。
訪問看護ステーションには看護師以外にも理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などのリハビリスタッフが所属しています。同じ患者さんを担当するスタッフとこまめに情報を交換し、より良い看護を実践できるようにしていきましょう。
また、患者さんの主治医やケアマネジャーとの連携も必要です。患者さんの正確な情報を共有し、今後の治療方針や看護プランに役立てていきましょう。
訪問看護の働き方
訪問看護において看護師はどのような働き方をするのでしょうか。病院やクリニック、介護施設などと比べてどのような違いがあるのかについて見ていきましょう。
基本的には一人で利用者さん宅を訪問
訪問看護では、医師や介護福スタッフと同伴して患者さんの居宅を訪問することもありますが、基本的には看護師一人で訪問することになります。そのため、看護師としての臨床経験が3年程度あるほうが良いといわれています。
また訪問看護では、看護師も看護の枠を超えて幅広い業務に従事します。リハビリを行ったり、介護度が高くなるに従い身体の清潔保持や排泄援助、家族への介護指導などの業務も増えてきます。幅広いスキルを身につけたい、患者さんのQOL向上全体に向き合いたい方にも、訪問看護は適した職場といえるでしょう。
24時間対応の場合は夜勤がある
訪問看護ステーションによっては、24時間対応の看護サービスを提供していることがあります。そのため、24時間対応の拠点で働く場合には、看護師も夜勤の対応が求められます。
また、病院や診療所の訪問介護部署で働く場合も、24時間対応になることがあります。いずれの拠点でも病棟等と比べて所属している看護スタッフが少ないため、夜勤の担当になる日が多めになることもあります。夜勤を希望しない場合には、日中のみ営業している訪問看護ステーションを探すのがいいでしょう。
訪問看護で働くメリット・デメリット
訪問看護師として働くことには、どのようなメリットがあるでしょうか。また、デメリットについても見ていきましょう。
メリット
病棟勤務の場合は、退院後の患者さんに寄り添うことはできず、対処療法に対して無力感を抱きがちです。しかし、患者さんの居宅を訪問し、定期的な看護を提供する訪問看護では患者さんの生活に寄り添うことができます。
また、医師からの指示を待つだけでなく、主体的に患者さんと向き合えるのも訪問看護のメリットです。そのほかのメリットとしては、日勤だけでも賃金が高めに設定されていることを挙げられます。家事や育児と両立していきたい方も、訪問看護ならば効率の良い働き方をしやすいでしょう。
デメリット
訪問看護は基本的に一人での訪問となるため、責任が重いと感じる場合があります。また、対応エリアが広域のこともあり、移動が大変な場合もあるでしょう。勤務先によってはオンコール体制があるため、生活が不規則になったり、長時間張り詰めた状態で過ごす必要が生じたりすることもあります。
訪問看護の将来性
平成23年 (2011年) | 平成27年 (2015年) | 令和元年 (2019年) | |
介護保険利用者 | 28.7万人 | 39.6万人 | 55.4万人 |
医療保険利用者 | 9.9万人 | 17.1万人 | 28.9万人 |
訪問看護利用者の推移を見ると、8年間で介護保険が適用されている方は約2倍に、医療保険が適用されている方は約3倍に増加しています。高齢化が進み、今後も自宅療養を行う方が増えると考えられるため、訪問看護は看護領域の中でもニーズの高い分野であるといえるでしょう。
いま働いていない種類の職場での就業意向 | 「働いてみたい」「条件が合えば働いてみたい」の合計割合(複数回答) |
訪問看護などの在宅医療・看護 | 60.0% |
介護保険施設等(老健施設、特養など) | 55.5% |
病院(療養が中心) | 52.9% |
地域保健 | 52.3% |
へき地医療 | 39.1% |
看護系教育機関での看護教育 | 33.4% |
病院(急性期医療が中心) | 14.7% |
参考:日本看護協会「「2017年看護職員実態調査」結果報告P.8」
日本看護協会の調査によると、今は働いていないけれども就業してみたいと考える転職先として「訪問看護」を挙げている方が60.0%もいました。この結果からも訪問看護に興味がある看護師が多いことがうかがえます。
また、介護保険施設への就業を希望している方は55.5%です。介護までの幅広い業務を担当したいと考えている看護師が多いこと、病院やクリニックとは異なる形態の機関で働きたいと考えている方も多いことが推察されます。
訪問看護に向いている人の特徴
次の要素に当てはまる方は、訪問看護の適性があると考えられます。
- 患者さんの生活に寄り添う看護がしたいと考えている
- 人から指示をされるより自分で考えて行動したい
- 臨機応変な対応ができる
- 利用者さん(患者さん)の生き方や考え方など、いろんな話を聴くのが好き
また、訪問看護はターミナルケアに関わることが多いという特性上、次の要素に当てはまる方も訪問看護の適性があると考えられます。
- 利用者さんの生活に向き合える人
- 単なる病態管理ではなく本人の希望を踏まえて最期まで生き切ることを支えられる人
- 自ら考えて実践できる人
訪問看護への転職の際に確認しておきたいこと
訪問看護では、拠点によって提供しているサービスや対応時間、スタッフの構成などが大きく異なります。訪問看護への転職を考えている方は、かならず複数の訪問看護ステーションや病院・診療所の訪問看護部署を訪問し、どのような働き方ができるのか確認しておきましょう。
特に夜勤の有無、一人での居宅訪問が多いのかあるいは複数での居宅訪問をするのかなどは、職場によって大きく差があります。求人情報だけでは分からない部分も多いので、職場訪問で確認するようにしてください。
例えば訪問看護ステーションでは、スタッフが5人以下のところが全体の約6割です。職員数が3人未満とさらに小規模な訪問看護ステーションが全体の14%ある一方で、職員数が10人以上の大きめの規模の訪問看護ステーションも5%ほどあります。職員数と利用者の数のバランスが取れていないと業務過多となり、残業が多く休日も思うように取れないなどの弊害も生まれるので注意しましょう。
また、数字では分からないこととして「職場の雰囲気」を挙げられます。どのようなスタッフが働いているのか、管理者は親切そうかなど、転職を決める前に実際にご自身の目で見るようにしてください。
訪問看護の仕事内容を理解し自分に合った働き方を選ぼう
訪問看護は、ニーズが増えているというだけでなく、看護師たちからも注目を浴びている分野です。将来性も高いので、転職先としても良い選択肢のひとつといえるでしょう。
しかし、当然のことではありますが、訪問看護が向いている方もいれば向かない方もいます。また、訪問看護に向いていても、職場や働き方が合わずに長く勤められないといった場合もあります。
まずは気になる訪問看護ステーションや病院・診療所の訪問看護部署をピックアップし、職場訪問をして自分に合うか確かめることが大切です。病棟看護の経験しかない場合でも、研修制度がしっかりしている訪問看護ステーションを選べばより不安なく働くことができるでしょう。