超高齢化社会となる2025年には、認知症患者が700万人を超えるといわれています。今後ますます増えていく認知症患者の対応のためには、認知症の正しい知識と質の高い認知症ケアを提供できる専門性を有した介護者の育成は、介護業界において急務といえるでしょう。
認知症ケア専門士は認知症ケアのスペシャリストであり、認知症ケアに力を入れる介護施設などで注目されている資格です。本記事では、認知症ケア専門士の資格を取得するメリットと資格を取得する方法、試験対策についてお伝えします。
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目次
認知症ケア専門士とは
認知症ケア専門士とは一般社団法人日本認知症ケア学会が認定する民間資格です。資格は5年ごとの更新制であり、所定の単位を取得しなければなりません。取得した単位数は、認知症ケア専門士学会のサイトで確認することができます。
認知症ケアについての高い学識と高度の技能、および倫理観を身につけた専門士を養成し、認知症ケア技術の向上、保健福祉へ貢献することが目的とされています。国内の65歳以上で認知症を有する高齢者の数は、2012年から増加傾向にあります。厚生労働省の発表では、2025年に認知症高齢者数が700万人を超え、65歳以上の高齢者5人に1人の割合になると推計されています。
利用者さんの介護を行う場合、「食事をするのが難しくなった」という同じ状況であっても、それが身体機能の衰えが原因なのか、はたまた認知症による影響なのかによって、求められる介護も変わるでしょう。認知症ケア専門士は、認知症のケアに関するさまざまな専門知識と介護技術、倫理観を兼ね備えた「認知症ケアのプロフェッショナル」として活躍が期待されているのです。
認知症ケア専門士公式サイトをみると、試験をどのように知ったかというアンケートに全体の45%が「職場からの紹介」と回答しており、認知症ケアを有する多くの医療機関や介護施設の現場で認められている資格だとわかります。介護福祉士や介護支援専門員、看護師、介護職員など、認知症ケアに従事するさまざまな職員が認知症ケア専門士の資格を取得しています。
より実践的なケアを学びたいということであれば「認知症介護実践者研修」もおすすめです。認知症ケア専門士として学んだ内容を、現場で実際に展開していく手法を学ぶことができます。認知症ケアに関するグループワークを経験することで、二次試験の面接対策にもなり有利に働きます。認知症専門ケア加算の対象にもなるので、事業所側からも歓迎される資格のひとつです。
認知症ケア専門士を取得する4つのメリット
介護職が認知症ケア専門士を取得すると、実際にどのようなメリットがあるのかをご紹介します。
- 認知症の方やそのご家族に対するケアの質が上がる
- 「認知症ケア専門士が所属する事業所」としてアピールできる
- 介護者としての負担を軽減できる
- 転職で有利になる
メリット1 認知症の方やそのご家族に対するケアの質が上がる
認知症ケア専門士を取得することで、認知症の方とそのご家族に対する理解が深まり、ケアの質が上がります。認知症ケアの基本、認知症の医学的・心理的特徴などについて深い知識を得て適切なケアを提供できるようになると、認知症の進行を遅らせることができる場合もあります。
メリット2 「認知症ケア専門士が所属する事業所」としてアピールできる
認知症ケア専門士として登録をすると、認知症ケア専門士学会ホームページ上で資格所持者として情報が公開されます。ここでは都道府県別に、資格所持者の使命と所属する勤務先を検索することができます。
もちろん掲載許可のあった専門士のみになりますが、事業所としても「認知症ケア専門士が所属している」ということは、自社におけるケアの質が高いことの証明にもなるので非常にメリットがあります。
メリット3 介護者としての負担を軽減できる
認知症に対する正しい知識を持っていない場合、ケアを行う際に不安やストレスを抱えてしまうこともあります。勘や経験に頼ったケアではなく、理論的に認知症を理解することで、自信を持って利用者さんの介護にあたれるようになり、介護者の負担も軽減されます。
メリット4 転職で有利になる
認知症の方に対して適切なケアが行える認知症ケア専門士は、職場でも優遇される資格です。2016年度の診療報酬改定で新設された認知症ケア加算の算定を目指す介護老人保健施設では、とくに認知症ケア専門士の資格取得を重視している傾向があります。
介護老人保健施設以外でも、認知症ケアに力を入れている認知症対応型デイサービスやデイケア、グループホーム、特別養護老人ホームなどでも、認知症ケア専門士の資格を持っていると就職の際に優遇されることがあるようです。認知症ケア専門士の資格を保有している場合、1,000円~5,000円程度の資格手当がつく職場も増えてきており、転職においてメリットとなります。
2020年1月時点での認知症ケア専門士は約3万5千人。160万人を超える介護福祉士と比較してもまだまだ少なく、大きなチャンスがあります。
その他のメリット
「認知症ケア専門士のいる職場で認知症ケアを学びたい」と思っている介護職員も少なくありません。認知症ケア専門士の資格を持っていることはステータスにもなります。認知症ケアのスペシャリストとしての基本的な姿勢や対応は、他の職員の見本となり、キャリアアップに繋がる場合もあるでしょう。
認知症ケア専門士の資格を取得するには
認知症ケア専門士の資格を取得する際の流れ、かかる費用、試験内容と合格率についてみていきましょう。
認知症ケア専門士の資格取得の流れ
認知症ケア専門士は実務経験の必要な資格で、その試験は一次と二次に分かれています。必要な実務経験と試験の詳細をご説明します。
受験資格
認知症ケアに関連する施設、団体、機関などで、試験を受ける年の3月31日から過去10年の間に、3年以上の認知症ケアの実務経験がある人が対象です。認知症ケアに携わっていれば、認知症専門の施設ではなくても実務経験として認められ、勤務先で「認知症ケア実務経験証明書」を発行してもらうことでそれを証明することができます。職種や職務内容、保有資格に決まりはありません。ただし、ボランティア活動や実習は実務経験にあたりません。
一次試験
一次試験は、マーク式の筆記試験です。認知症ケア標準テキスト第1巻~第4巻に準じた、以下4つの分野から出題されます。
- 認知症ケアの基礎
- 認知症ケアの実際Ⅰ:総論
- 認知症ケアの実際Ⅱ:各論
- 認知症ケアにおける社会資源
各分野から50問ずつ、合計200問の5者択一です。各分野の試験時間は1時間で、休憩や昼食の時間を含めて9時30分~16時10分の間に4分野が割り当てられています。
二次試験
二次試験は一次試験の合格者、または認知症ケアの実務経験が試験を受ける年の3月31日から過去10年の間に、3年以上ある認知症ケア准専門士が受験可能です。
二次試験は、論述と面接です。
受験にかかる費用
受験にかかる費用は、受験の手引き代と一次試験、二次試験の受験料です。
受験の手引き(願書)代
受検の手引きは受験願書となっていて、受験する人は、必ず1部購入する必要があります。価格は税込1,000円です。(2020年11月6日現在)
一次試験受験料
一次試験の受験料は各分野3,000円となります。初めて一次試験を受ける場合は、3,000円×4分野で1,2000円となります。
一次試験で出題される問題が載っている認知症ケア標準テキスト第1巻~第4巻の価格は、次のとおりです。価格はすべて税込です。(2020年11月6日現在)
第1巻「改訂4版・認知症ケアの基礎」1,834円
第2巻 「改訂4版・認知症ケアの実際I:総論」2,444円
第3巻 「改訂5版・認知症ケアの実際II:各論」2,444円
第4巻 「改訂5版・認知症ケアにおける社会資源」2,441円
一次試験を受けるために4巻すべてを購入すると、9,163円です。
二次試験受験料
二次試験の受験料は8,000円です。
二次試験の面接の受験参考書籍とされる「第5巻 改訂4版・認知症ケア事例集」の価格は1,885円(税込)です。(2020年11月6日現在)
第1巻~第5巻までの書籍もすべて購入し、二次試験まで受けた場合の受験にかかる費用は、32,048円です。
この二次試験に合格すると、理事会の議を経て専門士の認定証が交付されます。所定の書類を提出し、認定料として15,000円の支払いが必要です。資格取得までにかかる費用は総額で47,048円です。
試験内容
一次試験、二次試験の内容と合格ポイントについてみていきましょう。
一次試験の内容
認知症ケア標準テキストに準じた内容で、認知症ケアの基礎、認知症ケアの実際(総論と各論)、認知症ケアにおける社会資源から出題されます。出題は5者択一で、マークシート方式で解答します。
- 認知症ケアの基礎
認知症についての知識や認知症ケアに関する基本的な理解のための内容です。 - 認知症ケアの実際(総論)
認知症ケアをどのように進めていくか、実践するかについての内容です。 - 認知症ケアの実際(各論)
医療やBPSD、薬物療法、リハビリテーション、非薬物療法、環境支援、終末期ケアなど、各分野における認知症ケアの実際についての内容です。 -
認知症ケアにおける社会資源
フォーマルケア、インフォーマルケアなど、認知症ケアにおける社会資源についての内容です。
一次試験の合格要件
4分野すべてにおいて70%以上の正答率を得ると一次試験の合格となります。各分野の合格有効期間は5年間あり、不合格分野のみの再受検が可能です。つまり、最初に4分野すべてを受験する必要はなく、5年間かけて計画的に受験することもできます。
二次試験の試験内容
二次試験は論述と面接です。論述は、認定委員会から出題される事例問題に対して論ずるもので、二次試験の申請時に提出します。面接は、6人1グループの集団面接で、当日発表されるテーマに対する1分間の個人スピーチと20分間のディスカッションです。
二次試験の合格要件
論述と面接の総合評価において、適切なアセスメント能力、認知症の理解、適切な介護計画の立案、制度・社会資源の理解、認知症の方の倫理的課題の理解の5つの要件を満たしていることが合格の要件となります。
2020年度認定試験の実施方法変更について
認知症ケア専門士公式サイトによると、2020年度の試験は、新型コロナウイルス感染症の影響により「web試験(インターネットを介しパソコン等を用いて行う試験)」に変更となりました。(2020年9月24日発表)
一次試験はweb形式で行われ、二次試験は論述のみとなり出題が1問増えています。濃厚接触を避けるために面接試験は実施されないことになりました。次年度の試験形式は未定ですが、今後の状況により変更される可能性がありますので、最新の情報をチェックすることをおすすめします。
合格率
合格率の推移は次のとおりです。
- 第12回試験(2016年)49.3%
- 第13回試験(2017年)56.5%
- 第14回試験(2018年)54.7%
試験年によって合格率が50%を切る年と超える年とがありますが、第1回から第14回までの合格率の平均は約52.2%であり、受験者の約半数が受かる程度の合格率といえるでしょう。
認知症ケア専門士試験の対策方法
認知症ケア専門士試験は他の介護系資格試験とは少し違い、筆記試験だけではなく論述や面接などもあるため、試験対策を意識した勉強方法が大変重要になります。どのように対策をとるとよいのかをご紹介します。
一次試験対策
一次試験は認知症ケア標準テキスト第1巻~第4巻までから出題されるので、テキストを熟読して内容を理解しましょう。過去問は公開されていませんので、予想問題集で実際の試験形式に慣れておくのもよいでしょう。
自分で勉強する場合
認知症の基本的な知識に関してはある程度覚える必要がありますが、認知症ケアの内容に関しては、ケアを行うにあたってどのような姿勢や対応が必要であるのかということを自分の中でしっかりと理解し、それぞれの分野の内容を頭の中で繋げていくように理解していく必要があります。
4分野から各50問ずつとかなりボリュームがある内容ですので、認知症ケアに携わって働くなかで知識がある分野や、得意な分野がある人は、苦手分野を中心に進めると効率よく勉強できるでしょう。また時間配分も重要になってきますので、時間をはかって問題集に取り組むのも効果的です。
対策講座で勉強する場合
「自分ひとりで勉強するのは不安」「どこから勉強を進めていいのかがわからない」という人は、日本認知症ケア学会が主催する受験対策講座を受講するのがおすすめです。
これは、横浜と京都の2会場で2日間実施される講座で、認知症ケア標準テキストをもとに重要ポイントに絞った講義が行われます。講義終了後には分野ごとの模擬試験と解説も行われます。
対策講座2日間の受講費は15,000円です。日程が合う方、お金に余裕がある方は対策講座を活用するのもよいでしょう。
二次試験対策
二次試験は、論述と6人1グループの面接が行われます。論述問題は、一次試験の合格通知と一緒にテーマが送られてきます。二次試験用論述用紙に記入して、二次試験の受験申請書類と一緒に郵送で提出します。
論述試験対策
論述試験では、職務経験やテキストを読んで学んだことから、自分の倫理観をしっかり持って考えを述べることが大切です。初めに自分の意見をはっきりと述べ、その理由や根拠となることについて説明していくと良いでしょう。この試験には文字数制限があるので、最も伝えたいことと文章の構成は、初めに決めておくようにしましょう。下書きをして一度自分で読んでみると、読み手に伝わりやすく書けているかが確認しやすくなります。
面接試験対策
面接試験は、6人グループが作られた後、試験会場に入る直前に問題が発表されます。問題は、認知症のBPSDに対する対応や、認知症ケアに関わる上での考えを問われるといったものが多く、業務上の経験で回答できる部分が大きいでしょう。
個人のスピーチは1分間ですので、言いたいことを相手に伝わりやすく、その場でまとめる力も必要となります。事例を参考に自分で問題をつくって1分間で答えるという練習をするのもよいですね。
グループディスカッションでは、自分以外の方の意見もしっかりと聞いたうえで、自分の意見を伝える必要があります。自分ばかり話してしまうことは避け、グループの方と有意義なディスカッションしましょう。グループが作られてから試験会場に入るまでの間にほかのメンバーと自己紹介を済ませておくと、緊張がほぐれて発言しやすい状況が作れるでしょう。
認知症ケア専門士は5年に一度の更新が必要
認知症ケア専門士の一次試験、二次試験に合格し、認知症ケア専門士の資格を取得したあとは、5年に一度の更新が必要となります。日本認知症ケア学会の学術集会や生涯学習プログラムなどに参加して、5年間で30単位以上の専門士単位を取得し、5年目の3月31日までに必要単位を取得したことを証明する書類を認定委員会に提出しなければなりません。
各地域にある専門士会が開催する研修会で単位を取得することもできます。たとえば、宮崎県や大分県の認知症ケア専門士会ではスキルアップ研修会が定期的に開催されています。また、有料の動画視聴によって年間5単位まで単位を得る方法もあるので、近くで学術集会や研修会が行われないときには活用するのも良いでしょう。
5年間で30単位以上に満たない場合、所定の書類を提出して単位の保留を申し出ると、最長1年間は取得単位を保留することができますが、保留期間内に取得単位に満たなければ認知症ケア専門士の資格は消失します。
自分の取得した単位数の確認は、日本認知症ケア学会のサイトで確認することができます。
認知症ケア専門士は質の高い認知症ケアを提供できるメリットがある
認知症を有する高齢者が増加し続けるわが国では、認知症の方に対する質の高いケアが求められています。介護者側の都合で認知症の方の行動を制限するような行為を行わないためにも、認知症の方の状況を理解し、一人ひとりに合ったケアを行う姿勢が大切です。
認知症ケア専門士には、優れた知識と介護技術、倫理観を持って認知症の方やご家族に質の高いケアを提供できるメリットだけではなく、周囲からの評価も高く転職する際に有利となるメリットもあります。