介護福祉士に限らず、施設や訪問先で利用者さんの介護に従事する介護職員は、基本的には医療行為を行うことは認められていません。しかし利用者さんやそのご家族、職場から依頼をされ、医療行為に準じる働きを求められることも多いのではないでしょうか。どこまでケアとして行うことができ、何が医療行為にあたるのでしょうか。注意が必要なことは何なのでしょうか。介護の現場ではその線引きが曖昧でわかりにくく悩んでしまうこともあるでしょう。
本記事では介護現場での医療行為に関してまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
介護の現場で行える医療的ケア
厚生労働省が平成17年7月、原則として医療行為にはあたらないとする具体的な項目を提示しました。
介護福祉士ができる医療的行為一覧
- 体温計(水銀体温計・電子体温計・耳式電子体温計)を用いた腋下・外耳道での体温測定
- 自動血圧測定器を用いた血圧測定
※水銀血圧計による測定を除く - パルスオキシメーターによる動脈血酸素飽和度の測定(新生児以外で入院治療が必要ないもの)
- 専門的な判断や技術を必要としない軽微な切り傷や擦り傷、やけどなどの処置
- 汚物で汚れたガーゼの交換
- 湿布の貼付
- 軟膏塗布(床ずれの処置を除く)
- 目薬の点眼
- 服薬介助(一包化された内用薬の内服・舌下錠を含む)
- 坐薬の挿入
- 鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助
規制対象外となる医療行為
医師法や歯科医師法、保健師助産師看護師法等の法律では医療行為とされているものの、規制対象外として介護職員が対応できるものがあります。
- 耳垢の除去(耳垢塞栓の除去を除く)
爪切り、爪やすりかけ - 歯ブラシや綿棒による口腔のケア(歯、口腔粘膜、舌など)
- ストーマのパウチにたまった排泄物の処理
自己導尿補助におけるカテーテルの準備、体位保持 - 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いた浣腸
これらの行為は、病状が不安定な場合など専門的な管理が必要な際は、医療行為とみなされることもあるため、注意が必要です。医師、歯科医師または看護職員に専門的な管理が必要な状態かどうかを確認して、指示を得る必要があります。また、本人や家族の依頼や同意が必要です。
研修を受けた介護職員が行える医療行為
平成24年4月より社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正によって、医療や看護との連携による安全確保が図られていることなど、一定の条件のもとで介護福祉士や介護職員等(平成27年以前に介護福祉士資格を取得していたり、実務者研修を終えているなどの介護職員)による以下の医療行為が認められるようになりました。
- たんの吸引等の行為(喀痰吸引:定期的に痰を取り除く行為・口腔内、鼻腔内、気管カニューレ内部)
- 経管栄養(体外から管を通して栄養や水分を投与する行為・胃ろうまたは腸ろう、経鼻経管栄養)
介護福祉士の場合は平成27年度以降に取得している方は養成課程で実習を受け、介護職員等は都道府県、登録研修期間で喀痰吸引等研修(基本研修と実地研修)を受講・修了し、痰の吸引等に関する知識や技能を修得したうえで行うことができます。
※痰の吸引等を業務として行うには、一定の要件を満たした登録事業者である必要があります。
介護職員が行えない医療行為
一部の医療行為に関しては介護職員による対応が認められていますが、医療従事者ではありません。
実際に介護現場で求められることがある行為として、下記の医療行為などがあります。
これらの医療行為は介護職員が行うことは禁止されています。
- インスリン注射
- 摘便
- 床ずれの処置
- 血糖測定
- 点滴の管理
これらの行為が必要な際には看護師を呼び、対応してもらう必要があります。介護職員が行うと違法行為となるので注意してください。実際にこれらの医療行為を行い、警察によって書類送検となったケースもあります。
介護職員が医療的ケアを行うにあたっての注意点
医療的ケアは医療行為に該当しないものや法律で認められている行為ですが、さまざまな注意点があります。ここでは具体的なポイントをご紹介します。
多職種との連携を大切にする
医療的ケアを行う際は、利用者さんの観察を怠らないようにする必要があります。ケアの最中に異常を感じれば、すぐに医師や看護師に連絡する必要があります。利用者さんの様子を普段からしっかりと観察して、異常があれば速やかに気づけるように準備しておきましょう。
感染の予防に努めた安全なケアを心がける
感染を予防する意識を持つことも大切です。ケアの前後には感染予防の基本である手洗いをしっかりと行い、利用者さん・介護者本人を感染症から守るようにしてください。
慣れた行為であっても、気を抜くことなく安全なケアを提供できるようにしましょう。
介護職員が医療知識を身につける意味
介護職員は医療従事者ではないから医療知識を身につける必要はない、ということはありません。特別養護老人ホームなどの夜勤は介護職員のみで対応していますし、訪問サービスで利用者さんの自宅へ行くのは介護職員です。そんなときに利用者の異変に気づくことができるのは、介護職員だけなのです。
たとえば利用者さんの意識がもうろうとしているのを発見したとします。そのときに「何か様子がおかしい気がする」ではなく「利用者さんのろれつが回っていない」「右手がしびれているようだ」「刺激への反応が弱い」「血圧が高い」など具体的な症状に気づき、それらの症状を医療従事者に報告できれば、適切な対応につながるでしょう。
医療行為を行うことはできませんが、医療知識を身につけることで利用者さんの変化に対して気づきやすくなり、適切な対応や報告ができるようになるのです。
介護職が許可されていない医療行為を求められた場合の対処法
- 家族や利用者から求められた場合は違法であることを理由にきっぱりと断る
- 勤務先から求められた場合は、その上司や同僚などが違法であることを知らないこともあるので、行為そのものが違法である点を伝える。
- 違法な医療行為を強制する職場で改善が見られない場合は退職を考える。
違法な医療行為を行った場合は、上でもお伝えしたとおり逮捕される可能性があります。自身の身を守るためには違法性を訴え、断ることが必要です。そのためにも何が医療行為になるのか正しく理解しておきましょう。
まとめ
介護職員の療的ケアや医療行為に関しては、まだまだグレーゾーンが多いのが実態です。
たとえば巻き爪になっており痛くて歩けないという利用者さんがいたときに、どのように対応するのが正解なのでしょうか。すぐに看護師が対応できればよいのですが、必ずしも可能なときばかりとは限りません。利用者さんを苦痛から解放したいあまりに、ちょっとくらいならという意識が生まれてくることは想像できます。
ただしまずは自身がしっかりと正しい知識を身につけ、できることとできないことを認識し、介護と医療の線引きをすることが重要です。