言語聴覚士(ST)とは?仕事内容や給与について解説

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

言語聴覚士とは

言語聴覚士(Speech Therapist:ST)は、話す、音を聞く、ことばを理解する、書く、読むといったコミュニケーション機能や、食べる・飲む・飲み込むといった摂食・嚥下(えんげ)機能に障害がある人に対して、機能の回復・改善を図るリハビリテーションの専門職です。食べる・飲む機能の障害は生命に直結した問題であり、話す・聞く・ことばの機能の障害は、社会生活へ影響します。言語聴覚士は、安全によりよい生活ができるように、機能訓練や動作訓練、アドバイスなどを行います。

脳卒中や脳挫傷、認知症などで注意や記憶に障害が生じる高次脳機能障害の検査や訓練も行います。子どもから高齢者まで幅広い年齢を対象とし、生きるために必要な摂食・嚥下の機能の回復や人との関わりに必要な言語機能の回復に携わります。

言語聴覚士の仕事内容

子どもから大人まで、言語障害、音声障害、摂食・嚥下障害、聴覚障害のある人に対して検査や評価を行い、それぞれの機能の改善や、今ある機能を使ってできる方法を提案・指導して生活の質を高めていくことが言語聴覚士の仕事内容です。言語聴覚士の業務全般を見ていきましょう。

言語障害(失語症、構音障害)の改善

話すことがうまくいかない、話を理解しにくい、文字を読むことができない、書くことができない、声を出しにくいなどの症状に対して、何が上手くいかないのか詳しい検査・評価を行います。声・音を出す練習や、カードなどを使って話す、読む、書く訓練や今まもっている機能でコミュニケーションがとれるような練習をします。

高次脳機能障害の改善

失語症以外にも脳の障害により、覚えられない、忘れてしまう、集中できない、ひとつのことにしか注意を払えない、物の使い方がわからない、身体を指示どおりに動かすことができないなどの高次脳機能障害がある人に、検査・評価、訓練、環境調整や代替手段の獲得などを行い、日常生活での困りごとを支援します。

摂食・嚥下障害の改善

食べ物や飲み物を口へ取り込む、噛む、飲み込むなどの動作に障害がある人に対して、口の機能や飲み込みの機能の改善を図ることや、安全な摂食・嚥下方法の指導等を行います。

聴覚障害の改善

補聴器のフィッティング、聴力検査や補聴器を装用した訓練を行います。

他職種との連携

リハビリテーションは理学療法士、作業療法士、看護師、医師など、多くの人が関わります。他職種と連携して、日常生活の質の向上を目指します。

記録や各種書類の作成

カルテ記載や報告書、計画書、情報提供書などの作成といった業務もあります。

会議、研修、委員会への参加

患者さん、利用者さんの現状や今後の方針について話し合う会議、職場の運営会議や委員会への出席、研修への参加なども業務のひとつです。

言語聴覚士と理学療法士、作業療法士の違い

言語聴覚士と理学療法士、作業療法士は同じリハビリテーション専門職ですが、仕事内容や医師の指示の必要の有無といった部分が異なります。

  • 言語聴覚士は聞く・話す・読むなどのコミュニケーション機能、食べる・飲むといった摂食・嚥下機能の改善を主に行います。対して理学療法士は起き上がる・立つ・歩くなどの基本的動作能力の改善を図り、作業療法士は日常生活を送るために必要な応用的動作や社会生活を送るために必要な社会適応能力の獲得を目指します。
  • 言語聴覚士は、嚥下訓練、人工内耳の調整以外の仕事は医師の指示がなくても行うことができます。一方で、理学療法士や作業療法士が、理学療法、作業療法を行うには医師の指示が必要です。
  • 言語聴覚士は患者さんの介助や身体を直接的に動かす機会もありますが、理学療法士や作業療法士に比べると机上での訓練が多いため、リハビリテーション専門職のなかでは体力の心配は比較的少ないといえます。
https://care-infocom.jp/article/1697/
https://care-infocom.jp/article/1828/

言語聴覚士が活躍する職場

言語聴覚士が活躍しているのは次のような職場です。働く職場によって仕事内容も異なります。

医療

リハビリテーション病院、大学病院、総合病院、クリニック(リハビリテーション科、耳鼻咽喉科、小児科、形成外科、口腔外科など)

介護

介護老人保健施設、デイケアセンター、訪問看護・訪問リハビリテーション事業所

福祉

特別養護老人ホーム、肢体不自由児施設、重症心身障害児施設

教育

特別支援学校、小中学校、研究機関、言語聴覚士養成校

行政

保健所、精神保健福祉センター

言語聴覚士になるには

言語聴覚士になるには、言語聴覚士の国家試験に合格しなければなりません。

言語聴覚士の国家試験の受験資格を得る

  • 高校卒業後の場合は、文部科学大臣指定の3年制の短大または4年制の大学、もしくは都道府県知事指定の3~4年制の言語聴覚士の専門学校で言語聴覚士になるのに必要な教科を履修し、卒業して国家試験受験資格を得ます。
  • 4年制大学卒業後の場合は、指定の大学・大学院の専攻科か2年生の専修学校を卒業して、国家試験の受験資格を得ます。
  • 言語聴覚士になるのに必要な科目の習得が終わっている場合は、1年生の指定校を卒業することで受験資格が得られます。外国で言語聴覚士に必要な科目を習得している場合は、厚生労働大臣の認定があれば受験資格が得られます。

言語聴覚士の国家試験に合格する

年に1回行われる言語聴覚士の国家試験に合格することが必要です。

言語聴覚士の免許登録を行う

言語聴覚士の国家試験に合格したら、言語聴覚士の免許登録の手続きが必要です。理学療法士・作業療法士は保健所や都道府県衛生主管部局などでの免許登録となりますが、言語聴覚士の場合は、公益財団法人医療研修推進財団が免許登録の窓口です。

言語聴覚士の給料

言語聴覚士に限ったデータではありませんが、平成30年度介護従事者処遇状況等調査結果によると、介護現場で機能訓練指導員として働く場合の平均月収は34万4110円となっています。

平均月収は手当てやボーナスなどの一時金も含まれている金額のため、平均年収は34万4110円×12ヶ月で412万9320円となります。

職場によって給与額は異なります。経験年数を重ねると、給与はアップする傾向にあります。言語聴覚士として開業して働く場合は自由診療となるため、給与は自分の経営によって変わります。

言語聴覚士は大変?やりがいと魅力とは

言語聴覚士が担うコミュニケーション機能や摂食・嚥下機能の改善は、短期間では大きな改善が目に見えないことも多く、根気よく長い目で継続することが必要です。摂食・嚥下機能の評価では、判断を誤ると窒息や誤嚥性肺炎につながるリスクもあり、責任も大きな仕事です。言語聴覚士の仕事は大変な面もありますが、やりがいや魅力もたくさんあります。

言語聴覚士のやりがい

  • 食べる・飲むことができるようになった喜び、言葉が出るようになった喜び、相手に自分の意思が伝わる喜びなどを間近で感じることができる
  • 食べる・飲むといった人が生きていくために必要不可欠な機能の回復に関わることができる
  • 利用者さんやご家族から感謝の言葉をもらうことができる
  • 摂食・嚥下、言語障害、高次脳機能障害、聴覚障害、ことばの発達など、自分の興味のある分野を掘り下げて関わっていくことができる

言語聴覚士の魅力

  • スキルアップとして日本言語聴覚士協会の「基礎プログラム」と「専門プログラム」を受け、6年以上の臨床経験を積むと認定言語聴覚士講習会へ参加できる
  • ケアマネジャーや手話通訳士の資格取得を目指せる
  • 言語聴覚士として開業できる(嚥下訓練、人工内耳の調整は医師の指示が必要)
  • 他職種とチームとして連携することで、さまざまな価値観や視点を知ることができ、視野も広がる
  • キャリアを重ねると、施設長や管理者としてマネジメント業務などにも携わることができ、仕事の幅が広がる
  • 利用者さんやご家族との関わりにより、自分も成長できる
  • 言語聴覚士は国家資格であるため、再就職するときに、比較的容易に職場を見つけやすい。転職時にはこれまでの経験を次のステージに活かすことができる。
  • 夜勤がない
  • 言語聴覚士は比較的新しい領域であるため、新しい技法や発見が導き出されており、まだまだこれから発展していく職業である

言語聴覚士に向いている人

言語聴覚士には次のような人が向いています。

根気強く温厚な人

言語や摂食・嚥下機能は訓練していてもすぐに結果が出にくいため、根気強く、穏やかに経過を見ながら進めていくことのできる人が求められます。

相手に共感できる人、相手の気持ちを考えられる人

相手の立場に立って辛さやもどかしい気持ちなどを共感しながら、何が必要か、何を目標とすべきかを考えられることが大切です。

人と関わるのが好きな人

人相手の仕事のため、人と関わることが好きな人が求められます。

協調性があり、コミュニケーションをとることが好きな人

患者さんや利用者さんとはもちろん、他職種とコミュニケーションをとりながら働くので、協調性があり、コミュニケーションをとることが好きな人が向いています。

向上心のある人

言語聴覚士の分野自体が新しい領域であることに加え、日々の仕事で疑問や悩みにぶつかることもあるので、自分で向上心を持って勉強していく姿勢が必要です。

細かい変化に気づくことができる人

言語聴覚士は微細な口の動きの変化などを見極めて評価や訓練を進めていくため、些細な変化に気づくことができる人が求められます。

https://care-infocom.jp/article/1586/

  • このエントリーをはてなブックマークに追加