精神保健福祉士は、福祉系の3大国家資格の一つで、身体だけではなく心に何らかの病を抱える人が増加している現代において注目度の高い資格です。精神面に障害のある方が円滑に日常生活を送れるように支援するのがを主な仕事ですが、資格に興味はあってもその詳しい内容までは分からないといった方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、主な仕事内容を解説しつつ、受験資格や学習方法、取得後の就職先などについてご紹介します。
目次
精神保健福祉士とは精神科ソーシャルワーカー(PSW)のこと
精神保健福祉士は、精神障害や精神疾患を抱える人たちができる限り自立した生活を送れるように、専門知識や技術を用いて支援します。精神科ソーシャルワーカー(PSW=Psychiatric Social Worker)と呼ばれることもあるでしょう。
社会福祉士や介護福祉士と並び、三大国家資格の一つとしても知られています。精神面に障害のある人をサポートする重要な役割を担っており、精神障害への深い理解や忍耐強く向き合う姿勢、対人コミュニケーションスキルなどが求められます。
近年では、精神面の疾患や障害を抱える人に限らず、多くの人々の精神的な健康を維持するためにそのニーズが高まっています。
精神保健福祉士の主な仕事内容
精神保健福祉士の業務は、働く場所場所に応じて多岐にわたります。そこで、まずは主な仕事内容について見ていきましょう。
相談・助言
精神的な障害を患った方との定期的な面談や相談は、本人の気持ちを理解する上で何よりも大切です。本人の意志や自己決定権を尊重しながら、必要な支援や問題解決に取り組みます。
また、そのご家族に対して相談や助言を行うことも仕事のひとつです。精神障害を抱える本人だけではなく、支えるご家族がさまざまな悩みを抱えている場合も多くあります。
病気への理解を促すことや今後の生活に関することなど、双方の意見を聞きながら最善なのアドバイスと支援を行います。
日常訓練
精神に障害のある方の中には、長期入院などの影響から円滑に社会復帰ができない方もいます。社会復帰に向けた規則的な日常生活を過ごす訓練や会話練習、生活マナーの指導、なども仕事です。
就労支援
精神に障害のある方が仕事に就くために必要な知識の付与やスキル向上のために就業前訓練を行ったり、就職活動に関するアドバイスをしたりします。また、就職した以降も職場に定着できるような支援なども行います。
公的支援やサービスの紹介と手配
経済的な不安が大きくて治療に専念できない方に対して、医療費や生活費などの公的支援制度を紹介することもあります。また、休業や休学に関する手続きや必要と思われる各種支援、サービスを受けるための手配援助も精神保健福祉士の仕事に含まれます。
社会福祉士や介護福祉士と精神保健福祉士はそれぞれどう違うか
精神保健福祉士の他に、介護・福祉の仕事に関する国家資格として「社会福祉士」と「介護福祉士」があります。ここでは、具体的な違いについて見ていきましょう。
社会福祉士との違いは対象に限定があること
社会福祉士は、高齢者から児童までを対象者とした福祉全般を担います。突然の災害や失業、身体障害など、さまざまな事情から通常の社会生活を送ることが困難になった方に対する支援相談が主な仕事です。
精神保健福祉士も社会生活を困難とする方を対象としていますが、精神面に障害がある方に特化している点が社会福祉士との相違点です。対象者が限定されおり、より専門性が高いという点で大きく異なるのです。
国家試験では共通科目もあるので、併せて取得しやすい資格といえるでしょう。両方の資格を取得し、仕事の幅を広げて活躍している人も多くいます。
介護福祉士との違いはサポートの範囲
介護福祉士は、何らかの障害などにより通常の社会生活を送ることが困難になった本人やそのご家族などに適切な介護指導を行います。直接的なサポートを行うという点においては違いがありません。
しかし、介護福祉士の場合は精神面だけではなく、身体面の障害を抱えた人も対象となることが大きな違いです。
精神保健福祉士の主な職場とは?
精神保健福祉士は、病院や医療施設以外にもさまざまな職場で活躍しています。ここでは、主な5つの勤務先について見ていきましょう。
精神障害者の生活支援を行う精神科病院
代表的な職場として挙げられるのは精神科病院です。総合病院に開設されている精神科や精神科専門病院、心療内科クリニックなどがあります。
精神科病院では、医師や関連機関と協力しながら、精神障害者とそのご家族のサポート、日常生活を送るための訓練や社会復帰に向けた支援を行います。医療機関に併設されているデイケアでも、各種グループワークやレクリエーションといったリハビリテーション業務などを行うために、多くの精神保健福祉士が働いています。
高齢者のための介護施設
介護老人福祉施設、グループホームなどで勤務することもあります。リハビリや支援だけではなく、利用者さんごとに支援計画を作成や、各施設との連携や調整、本人やそのご家族からの相談援助やアドバイスを行います。
そのほか、契約代行など生活全般のサポートや、ケアマネジャーや介護スタッフと意見交換を行い、リハビリメニューを作成することもあります。
地域の生活支援施設
就労移行支援事業や自立訓練事業などにおいても、施設の目的に合わせて精神保健福祉士を配属しています。日常生活の支援訓練が目的の施設では、食事や家事などの生活能力を向上させるための支援を行います。
就労訓練を目的とする施設では、就職に関する相談や職場に定着するための支援などを行います。そのほかにも、相談支援事業所や地域活動支援センターでは、電話によるヒアリングや居宅訪問、外出への付き添い、各種サービスの提供など、業務範囲は多岐にわたります。
精神に障害のある方ができる限り自立した生活を送れるように、地域での活動を支援しています。
支援の手続きを担う福祉行政機関
地方自治体の福祉行政機関では、障害福祉サービスの企画や支援手続き、地域住民に向けた啓発活動などを通じて精神障害者の自立生活支援を行います。現状の分析や将来計画の立案にも関わるので、これからの福祉医療においても責任ある役割を果たしています。
精神保健福祉センターでは、国民の心の健康を維持するための業務を行います。たとえば、アルコール依存症や認知症の方、うつ病の症状を持つ方などに対して専門的かつ幅広い知識を活用した業務を行います。
社会復帰を支援する保護観察所
保護観察所において社会復帰調整官としても勤務するというケースもあります。社会復帰調整官とは、罪を犯した精神障害者が円滑に社会復帰できるようにサポートする人で、一般職の国家公務員になります。
高度な専門知識を必要とするため、採用には精神保健福祉士の資格はもちろん実務経験が求められます。
精神保健福祉士の給料
令和2年度障害福祉サービス等従事者処遇状況等調査(臨時調査)結果の概要を参考に、精神保健福祉士とそのほかの資格の給料平均をまとめてみました。
精神保健福祉士の給料は国家公務員に準じた賃金形態になっていることが多く、基本給はそれほど高くはないものの、各種手当やボーナスなどの面で優遇されています。また、ほかの福祉系資格と同様に平均給与額が上昇しています。
精神保健福祉士の資格を取得するメリット
これまで精神保健福祉士の主な職場は、精神科病院や福祉施設であることが一般的でした。しかし、最近では教育機関や民間企業からの求人も増加しています。
国家資格である精神保健福祉士の資格取得は就職にも有利です。また、資格を取得することで精神障害を持つ人を社会復帰させるために必要な専門性の高い知識を得ることができます。
今後ますます活躍の場が広がることが予想される専門分野なので、その分メリットも大きいといえるでしょう。
精神保健福祉士に向いている人
精神保健福祉士は、精神障害や精神疾患など心の問題を抱える方をサポートするという大きな役割を担っています。相手の思いや考えを正確に理解するために、高いコミュニケーション能力をもつことや親身になって意見に耳を傾けられる人が向いているでしょう。
また、じっくり時間をかけて意思疎通をはかる根気強さ、こちらから積極的に手を差し伸べて信頼関係を構築するような行動力のある人も有用といえます。人と接することが好きな人や臨機応変に冷静な判断ができる人が適しています。
精神保健福祉士になるための方法
精神保健福祉士になるためには、国家試験に合格する必要があります。受験資格や取得の流れ、合格基準などについて確認しておきましょう。
受験資格と取得までの流れ
資格の取得方法には、全部で11通りのルートが存在します。たとえば、保健福祉系の大学・短大等で「指定科目」を履修している場合、4年制大学であれば卒業時すぐに受験資格を得られますが、短大であれば相談援助実務を経験する必要があります。
また、社会福祉士の資格をすでに保有しており、登録も完了している場合には、短期養成施設等に6ヶ月以上通って卒業すると受験資格が得られます。自分の状況と照らし合わせて最も適したルートを選びましょう。
国家試験は年に1回、1月下旬から2月上旬ごろに「公益財団法人社会福祉振興・試験センター」で行われます。出願は、9月上旬~10月上旬です。
試験合格後は、活動するための登録が別途必要となります。必要書類を「公益財団法人社会福祉振興・試験センター」に簡易書留で提出しましょう。審査に通って受理されれば、約1ヶ月程度で登録証が送られてきます。
精神保健福祉士の合格率と合格基準
直近の2020年に行われた試験の合格率は62.1%でした。それ以前の過去4年間を見ても、6割強の推移で合格者を得ています。同じく国家資格である社会福祉士の合格率は、2020年で29.3%程度であることからすると比較的高い合格率であることが分かるでしょう。
合格基準は、「問題の総得点の60%以上を獲得すること」と「試験科目群すべてにおいて得点を獲得すること」です。試験は筆記のみで、無資格者の場合は全17科目から出題されます。社会福祉士の資格を持っている場合には一部免除があり、5科目群で受験を行うことが可能です。
精神保健福祉士の資格取得に向けた学習方法
最後に、資格取得に向けた学習方法を紹介します。
まずは試験内容を全体的に把握する
試験では、全17科目の中から幅広く出題されます。試験科目は次のとおりです。
- 人体の構造と機能及び疾病
- 心理学理論と心理的支援
- 社会理論と社会システム
- 現代社会と福祉
- 地域福祉の理論と方法
- 社会保障
- 低所得者に対する支援と生活保護制度
- 福祉行財政と福祉計画
- 保健医療サービス
- 権利擁護と成年後見制度
- 障害者に対する支援と障害者自立支援制度
- 精神疾患とその治療
- 精神保健の課題と支援
- 精神保健福祉相談援助の基盤(基礎・専門)
- 精神保健福祉の理論と相談援助の展開
- 精神保健福祉に関する制度とサービス
- 精神障害者の生活支援システム
全ての科目で点数を得ることが合格基準のひとつなので、全科目をまんべんなく勉強しておく必要があります。
過去の問題を解いて苦手分野を克服する
試験は、過去の問題に類似した内容が出題される傾向にあり、過去の問題集を何度も解くことが実力アップにつながるでしょう。「公益財団法人社会福祉振興・試験センター」のWebサイトでは、直近の試験内容をPDF形式で閲覧できるようになっているので活用してみてください。
国家試験対策の無料アプリも活用
資格取得に向けた学習方法に国家試験の対策アプリを活用している人もいます。いつでもどこでも自分のペースで勉強することができるのでおすすめです。
精神保健福祉士の資格は最短1年で取得可能
精神保健福祉士は、保健福祉系大学で指定科目を履修していなくても目指すことが可能です。ただし、医療福祉系の国家資格であるだけに、資格取得が高難度であることに不安を覚える人も多いのではないでしょうか。
精神保健福祉士になるには、一般養成施設などに最短1年勤務することで受験資格を得ることが可能です。平均合格率も約60%前後なので、決して難しい試験ではありません。
精神障害の分野で「社会や人のために役立つことがしたい」という強い想いを持っている人には適職といえるでしょう。