介護職員処遇改善加算は、介護職員の働く環境や賃金の改善を図るために創設された加算です。申請するには算定要件を満たしたうえで、サービス種別ごとに決められた加算率で計算を行う必要があります。
この記事では、初めて処遇改善加算を申請する方にもわかりやすく解説しています。申請方法や、令和4年10月にスタート予定の新加算「介護職員等ベースアップ等支援加算」についてもまとめているので、ぜひご活用ください。
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目次
介護職員処遇改善加算とは
介護職員処遇改善加算とは、主に介護職員の賃金の改善を目的とした加算です。事業所は、支給された加算に相当する金額を介護職員の給与改善にあてる必要があります。
この制度は「介護職員処遇改善交付金」を前身とし、平成29年度介護報酬改定で新たに加算Ⅰが追加されました。さらに令和3年度介護報酬改定では、算定要件のひとつである職場環境要件の一部見直しが行われています。
区分 | 加算Ⅰ | 加算Ⅱ | 加算Ⅲ |
---|---|---|---|
加算額 | 月額37,000円相当/介護 職員1人当たり | 月額27,000円相当/介護 職員1人当たり | 月額15,000円相当/介護 職員1人当たり |
処遇改善加算を算定したい事業所は、上記の加算Ⅰ~Ⅲについて正しく理解しましょう。
介護職員処遇改善加算の算定要件
まずは処遇改善加算の全体像を把握しましょう。加算Ⅰ~Ⅲにはそれぞれ満たさなければならないキャリアパス要件と、職場環境等要件が決まっています。
区分 | 加算Ⅰ | 加算Ⅱ | 加算Ⅲ |
---|---|---|---|
キャリアパス要件① | 〇 | 〇 | 〇(①と②のどちらか) |
キャリアパス要件② | 〇 | 〇 | |
キャリアパス要件③ | 〇 | × | × |
職場環境等要件 | 〇 | 〇 | 〇 |
上記のように上位区分になるほど満たすべき条件が増えます。詳しいキャリアパス要件と職場環境等要件については次で解説していきます。
キャリアパス要件について
キャリアパスとは「職歴の道筋」を表す言葉で、前向きに働きやすい職場環境のために優れた人材の確保とその定着化を目的としています。
キャリアパス要件では職員が自身の経歴や能力に応じてキャリアアップできるよう、賃金体系や労働環境の整備を重視した要件が設定されています。具体的な要件は以下の通りです。
算定要件 | 補足 | |
---|---|---|
キャリアパス要件① | 1)職位、職責、職務内容などに応じた任用要件を定めること | 例えば、上級介護職員や中級介護職員、新人介護職員などに分け、職位に応じた職責や職務内容を明確にする。 また、上位職員になるための要件も定める必要がある。 |
2)1)に合わせた賃金体系を整備すること | 職位ごとの給与表を作る、または上位職位に手当を付けるなどで、賃金制度を明確にする。 | |
3)就業規則等の明確な根拠規定を書面で整備し、すべての介護職員に周知していること | 根拠規定には給与規程のほか、法人による内規等の書面に記載する職位、職責、職務内容、賃金体系の項目なども含まれる。 | |
キャリアパス要件② | 1)介護職員と意見交換をしながら、資質向上のための目標や具体的な計画を定め、具体的な取り組みを行うこと | 資質向上の例として、コミュニケーション能力やマネジメント能力の向上、資格取得などが挙げられる。 具体的な取り組みは研修の実施や、資格取得の支援など、いずれかひとつで構わない。 |
2)1)について、すべての介護職員に周知していること | ー | |
キャリアパス要件③ | 1)経験や資格などに応じて昇給する制度を作り、一定の基準に基づき定期的に昇給を判定する仕組みを設けること | 例えば、勤続年数や経験年数、介護福祉士や実務者研修修了者などに応じた昇給制度が該当する。 昇給は客観的な基準や条件などを明文化したうえで、実技試験や人事評価などで判断する。 |
2)1)について就業規則等の明確な根拠規定を書面で整備し、すべての介護職員に周知していること | ー |
職場環境等要件について
職場環境等要件ではキャリアアップをサポートする取り組みや、家庭と仕事の両立を図れる支援、ICTの導入などいくつか区分が分かれています。処遇改善加算に関しては、そのうちひとつ以上取り組む必要があります。
詳しい要件は以下の表を確認しましょう。
区分 | 具体的な内容 |
---|---|
入職促進に向けた取組 |
|
資質の向上やキャリアアップに向けた支援 |
|
両立支援・多様な働き方の推進 |
|
腰痛を含む心身の健康管理 |
|
生産性向上のための業務改善の取組 |
|
やりがい・働きがいの構成 |
|
介護職員処遇改善加算の計算方法
次に処遇改善加算の計算方法について詳しく解説します。加算の単位数を求める計算式は以下の通りです。
- 加算単位数=1カ月あたりの総単位数×サービス別加算率
例えば、1カ月あたりの総単位数が8380、加算率が13.7%の場合は1148.06となります。小数点以下は四捨五入するため、加算単位数は1148です。
上記の計算式を用いるには、「1カ月あたりの総単位数」と「サービス別加算率」について理解を深める必要があります。次の章を参考にしてください。
総単位数の計算方法
まず、1カ月あたりの総単位数の計算方法は以下の計算式を使います。
- 1カ月あたりの総単位数=12カ月間の介護報酬総単位数÷12
上記の介護報酬単位数では、処遇改善加算を算定する前年(1月から12月まで)の単位数を用います。具体的な計算式は「基本サービス費+各種加算減算」で、処遇改善加算の単位数は含みません。
サービス別の加算率一覧
処遇改善加算の加算Ⅰ~Ⅲは、サービス種別ごとに加算率が異なります。具体的な加算率は以下の表を参考にしましょう。
サービス区分 | 加算Ⅰ | 加算Ⅱ | 加算Ⅲ |
---|---|---|---|
訪問介護 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 13.7% | 10.0% | 5.5% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 5.8% | 4.2% | 2.3% |
通所介護 地域密着型通所介護 | 5.9% | 4.3% | 2.3% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 4.7% | 3.4% | 1.9% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 | 8.2% | 6.0% | 3.3% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 10.4% | 7.6% | 4.2% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 | 10.2% | 7.4% | 4.1% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 11.1% | 8.1% | 4.5% |
介護福祉施設サービス 地域密着型介護老人福祉施設 (介護予防)短期入所生活介護 | 8.3% | 6.0% | 3.3% |
介護保健施設サービス (介護予防)短期入所療養介護(老健) | 3.9% | 2.9% | 1.6% |
介護療養施設サービス (介護予防)短期入所療養介護(病院や医療院など) 介護医療院サービス | 2.6% | 1.9% | 1.0% |
また、加算算定が非対象のサービス区分もあります。以下の7つの介護サービスは加算できないので注意しましょう。
- (介護予防)訪問看護
- (介護予防)訪問リハビリテーション
- (介護予防)福祉用具貸与
- 特定(介護予防)福祉用具販売
- (介護予防)居宅療養管理指導
- 居宅介護支援
- 介護予防支援
そのほかの処遇改善の加算について
現在、処遇改善にかかわる加算は、処遇改善加算以外により経験・技能のある介護職員に重きを置いています。その他の職員にも配分出来る「特定処遇改善加算」と令和4年度(2022年度)10月から始まり、その他の職員にも配分出来る「介護職員等ベースアップ等支援加算」があります。
全体の加算のイメージは下記を参考にしましょう。
どちらも処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを取得していることが条件となります。詳しくは以下で解説していきます。
特定処遇改善加算の算定要件と計算方法
特定処遇改善加算は加算Ⅰと加算Ⅱに分けられます。加算Ⅱは、職場環境等要件の「資質の向上」「労働環境・処遇の改善」「その他」の項目のうち、ひとつ以上取り組んでいることが条件です。さらにサービス提供体制強化加算の上位区分を取得している場合は、特定処遇改善の加算Ⅰを算定することができます。
特定処遇改善加算の見込み額の計算方法は次の通りです。
- 特定処遇改善加算の見込み額=1カ月あたりの総単位数×各サービス別加算率
各サービス別の加算率は以下を参考にしてください。
特定加算(Ⅰ) | 特定加算(Ⅱ) | |
---|---|---|
訪問介護 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 6.3% | 4.2% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 2.1% | 1.5% |
通所介護 地域密着型通所介護 | 1.2% | 1.0% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 2.0% | 1.7% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 | 1.8% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 3.1% | 2.4% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 | 1.5% | 1.2% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 3.1% | 2.3% |
介護福祉施設サービス 地域密着型介護老人福祉施設 (介護予防)短期入所生活介護 | 2.7% | 2.3% |
介護保健施設サービス (介護予防)短期入所療養介護(老健) | 2.1% | 1.7% |
介護療養施設サービス (介護予防)短期入所療養介護(病院や医療院など) 介護医療院サービス | 1.5% | 1.1% |
【新設】介護職員等ベースアップ等支援加算の算定要件と計算方法
介護職員等ベースアップ等支援加算は、令和4年(2022年)10月からスタートする新制度です。処遇改善加算の加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを取得、および加算額の2/3を賃金のベースアップにあてることが条件となります。なおベースアップの対象は介護職員が基本ですが、ほかの職員の処遇改善に使用することも可能です。申請には介護職員等ベースアップ等支援計画書の作成が必要となります。
介護職員等ベースアップ等支援加算の見込み額は次の計算式で算出できます。
- 介護職員等ベースアップ等支援加算の見込み額=1カ月あたりの総単位数×各サービス別加算率
各サービス別の加算率は以下を参考にしましょう。
訪問介護 夜間対応型訪問介護 定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 2.4% |
(介護予防)訪問入浴介護 通所介護 地域密着型通所介護 | 1.1% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 1.0% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護 地域密着型特定施設入居者生活介護 | 1.5% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 2.3% |
(介護予防)小規模多機能型居宅介護 看護小規模多機能型居宅介護 | 1.7% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 2.3% |
介護福祉施設サービス 地域密着型介護老人福祉施設 (介護予防)短期入所生活介護 | 1.6% |
介護保健施設サービス (介護予防)短期入所療養介護(老健) | 0.8% |
介護療養施設サービス (介護予防)短期入所療養介護(病院や医療院など) 介護医療院サービス | 0.5% |
申請の流れと必要な書類について
最後に処遇改善にかかわる加算の申請方法についてまとめます。いずれの加算も、期日までに必要書類を都道府県または市町村に提出します。
処遇改善加算と特定処遇改善加算を4月または5月から取得したい場合は、毎年4月15日までに提出が必要です。6月以降は取得したい月の前々月の末日が締め切りとなります。介護職員等ベースアップ等支援加算も同様に、10月から取得したい場合は2カ月前の8月末まで提出しましょう。主な提出書類は次の通りです。
【提出書類一覧】
- 介護給付費算定に係る体制等に関する届出書
- 介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算処遇改善計画書〈別紙様式2-1〉
- 介護職員処遇改善加算(施設・事業所別個表)〈別紙様式2-2〉
- 介護職員等特定処遇改善加算(施設・事業所別個表)〈別紙様式2-3〉
- 介護職員等ベースアップ等支援加算(施設・事業所別個表)〈別紙様式2-4〉
その後、加算請求は支払いの委託を受けている国民健康保険団体連合会に行います。最終の加算額が支払われたら、翌々月の末日までに都道府県知事や市区町村に実績報告書を提出しましょう。必要書類は下記です。
- 介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算実績報告書〈別紙様式3-1〉
- 介護職員処遇改善実績報告書・介護職員等特定処遇改善実績報告書(施設・事業所別個表)〈別紙様式3-2〉
- 介護職員等ベースアップ等支援実績報告書(施設・事業所別個表)〈別紙様式3-3〉
詳しくは自治体のホームページを確認してください。