介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント(労働条件の明示・就業規則・労働時間・休憩・休日)

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介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント(労働条件の明示・就業規則・労働時間・休憩・休日)

2000年の介護保険法の施行以来、介護関係業務に従事する労働者や、これら介護労働者を使用する施設・事業所はいずれも大幅に増加しています。これらの施設・事業所の中には、事業開始後間もない、経営者や管理職が労務の知識が不足していたことにより、様々な労務トラブルが発生する現実もあります。

労働基準関係法令や雇用管理に関する理解が必ずしも十分でないものもみられますので、今回は、介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント~介護労働者全体(訪問・施設)に共通する事項(労働条件の明示・就業規則・労働時間・休憩・休日)~を法律の根拠を基にご紹介します。

労働条件の明示について

住宅型有料老人ホームと併設の訪問介護事業所の訪問介護員の業務を行う場合も、それぞれの業務内容が記載された労働条件の明示が必要になります。

また休憩時間の適用が、労働時間に対しての休憩時間と異なっていたりするケースもありますので、労働者の労働時間に対する適切な休憩時間の管理もされて下さい

◎労働条件は書面で明示しましょう (労働基準法第15条)
・労働者を雇い入れた時には、賃金、労働時間等の労働条件を書面の交付により明示しなければいけません。

○ 明示すべき労働条件の内容
書面で明示すべき労働条件の内容
・労働契約の期間(期間の定めの有無、定めがある場合はその期間)
・更新の基準(契約の更新に関する事項も明示しましょう:労働基準法施行規則第5条参照)
・就業の場所
・従事する業務の内容
・労働時間に関する事項(始業・終業時刻、時間外労働の有無、休憩、休日、休暇等)
・賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切・支払の時期に関する事項
・退職に関する事項 (解雇の事由を含む)

その他明示すべき労働条件の内容
・昇給に関する事項
・退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与、労働者に負担させる食費・作業用品、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁、休職等に関する事項

・・・これらについて定めた場合

○ 労働日(労働すべき日)や始業・終業時刻など下記①~③が月ごと等の勤務表により特定される場合の明示方法
勤務表により特定される労働条件
 ① 就業の場所及び従事すべき業務
 ② 労働日並びにその始業及び終業の時刻
 ③ 休憩時間
1) 勤務の種類ごとの①~③に関する考え方
2) 適用される就業規則上の関係条項名
3) 契約締結時の勤務表

について、書面の交付により明示しましょう

・66か月契約、1年契約などの期間の定めのある契約(有期労働契約)を結ぶ場合には、契約更新の都度、労働条件の明示(書面の交付)が必要です。

・上記以外の場面においても、労働契約の内容について、できる限り書面で確認しましょう。(労働契約法第4条第2 項)

◎契約の更新に関する事項も明示しましょう(労働基準法施行規則第5条)
・労働者と有期労働契約を締結する場合には、「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準」についても書面の交付によって明示しなければなりません(平成25 年4 月から)。

(1)更新の有無の明示
(具体的な例)
・自動的に更新する
・更新する場合があり得る
・契約の更新はしない  など
(2)更新の基準の明示
(具体的な例)
・契約期間満了時の業務量により判断する 
・労働者の能力により判断する
・労働者の勤務成績、態度により判断する 
・会社の経営状況により判断する
・従事している業務の進捗状況により判断する など

※ 有期労働契約の更新をしないことが明かな場合は、更新の基準の明示義務はありません。

有期労働契約について、3つのルールができました(H25.4.1 から全面施行)。(労働契約法)

① 無期労働契約への転換:有期労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えたときは、労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に転換できます。
② 「雇止め法理」の法定化:一定の場合には、使用者による雇止めが認められないこととになる最高裁で確立した判例上のルールが法律に規定されました。
③ 不合理な労働条件の禁止:有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることによって、不合理に労働条件を相違させることは禁止されています。

就業規則について

◎就業規則を作成し、届け出ましょう(労働基準法第89条)

・常時10 人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署長に届け出なければなりません。
・また、就業規則を変更した場合にも、労働基準監督署長に届け出てください。
・「10 人以上の労働者」には、介護労働者はもちろん、次の労働者の方も含まれます。
○ 事務職員、管理栄養士等、介護労働者以外の労働者
○ 短時間労働者、有期契約労働者等のいわゆる非正規労働者

就業規則は、非正規労働者も含め、事業場で働く全ての労働者に適用されるものでなければなりません。

○ 全労働者に共通の就業規則を作成する
○ 正社員用の就業規則とパートタイム労働者用の就業規則を作成する
などにより、全ての労働者についての就業規則を作成してください。

○ 就業規則に規定すべき事項
必ず規定すべき事項
・労働時間に関する事項(始業・終業時刻、休憩、休日、休暇等)
・賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切・支払の時期、昇給に関する事項
・退職に関する事項 (解雇の事由を含む)

定めた場合に規定すべき事項
・退職手当、臨時の賃金等、労働者に負担させる食費・作業用品、安全衛生、職業訓練、災害補償、表彰・制裁等に関する事項

◎適正な内容の就業規則を作成しましょう(労働基準法第92条)
・就業規則の内容は、法令等に反してはなりません。
・また、就業規則を作成しているのに、その内容が実際の就労実態と合致していない例がみられます。このような状況にあっては、労働条件が不明確になり、労働条件をめぐるトラブルにもつながりかねません。労働者の就労実態に即した内容の就業規則を作成してください

○ 使用者が、就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、次のことが必要です。(労働契約法第10条)
① その変更が、次の事情などに照らして合理的であること。
労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況
② 労働者に変更後の就業規則を周知させること。

◎就業規則を労働者に周知しましょう(労働基準法第106条)
・作成した就業規則は、以下の方法により労働者に周知しなければなりません。
○ 常時事業場内の各作業場ごとに掲示し、又は備え付けること
○ 書面を労働者に交付すること
○ 電子的データとして記録し、かつ、各作業場に労働者がその記録の内容を常時確認できるパソコン等の機器を設置すること
・労働者からの請求があった場合に就業規則を見せるなど、就業規則を労働者が必要
なときに容易に確認できない方法では、「周知」になりませんので注意してください。

就業規則が、鍵がかかったキャビネットに入っているケースも見受けられます。
就業規則は、労働者がいつも閲覧しやすい場所に、問題行動のある労働者には、終業規則を基に面談行い、指導すると良いでしょう。

労働時間について

◎ 労働時間の適正な取扱いを徹底しましょう(労働基準法第32条など)
・労働時間とは、使用者の指揮監督の下にある時間をいい、介護サービスを提供している時間に限るものではありません。
・特に、次のような時間について、労働時間として取り扱っていない例がみられますが、労働時間として適正に把握、管理する必要がありますので留意してください。
○ 交替制勤務における引継ぎ時間
○ 業務報告書等の作成時間
○ 利用者へのサービスに係る打ち合わせ、会議等の時間
○ 使用者の指揮命令に基づく施設行事等の時間とその準備時間
○ 研修時間
研修時間については、使用者の明示的な指示に基づいて行われる場合は、労働時間に該当します
また、使用者の明示的な指示がない場合であっても、研修を受講しないことに対する就業規則上の制裁等の不利益な取扱いがあるときや、研修内容と業務との関連性が強く、それに参加しないことにより本人の業務に具体的に支障が生ずるなど実質的に使用者から出席の強制があると認められるときなどは、労働時間に該当します。

処遇改善加算要件、情報公表制度等にいても、定期的な研修は求められています。急な開催ではなく、早めに日時を知らせるなどを行いながら、家庭や体調等の事情がない限りは、研修参加を促していきましょう。

◎労働時間を適正に把握しましょう(労働基準法第32条、労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準)

・「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」に基づき、適正に労働時間を把握してください。

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」
(平成13 年4 月6日付け基発第339 号)の主な内容
・使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録すること
・始業・終業時刻の確認・記録に当たっては、原則として
① 使用者が、自ら現認して、
② タイムカード等の客観的な記録を基礎として、確認・記録すること
・自己申告制によりこれを行わざるを得ない場合には、
③ 適正な自己申告等について労働者に十分説明する、
④ 自己申告と実際の労働時間とが合致しているか必要に応じて実態調査を実施する、等の措置を講じること 等

出勤簿等を毎日適正に記載しておらず、月末に一気に記載しているケースも見受けられます。
出勤の際に出勤の時間の記載、退勤の際に退勤の時間を適正に記載、定期的にチェックをする仕組み作りをされて下さい。

◎変形労働時間制等は正しく運用しましょう(労働基準法第32条の2、第32条の4 ほか)

○ 1年単位の変形労働時間制※1を採用する場合には
→ 毎年※2、労使協定を適切に締結し、労働基準監督署長に届け出ましょう。

また、就業規則等により、適切に枠組みを定めましょう。
※1 1年以内の期間を平均して週40時間を達成する方法です。
※2 対象期間ごとに労使協定の締結、届出が必要です。

○ 1か月単位の変形労働時間制※1を採用する場合には
→ 労使協定、就業規則等により※2、適切に枠組みを定めましょう。

各日ごとの勤務割は、変形期間の開始前までに具体的に特定してください。
※1 1か月以内の期間を平均して週40時間を達成する方法です。
※2 この労使協定は届出が必要です。
・ その他の労働時間制度を採用する場合にも、法定の要件に基づき正しく運用してください。

介護現場は、変形労働時間制を用いて、運営をしていますので、就業時には、この内容の説明を適正にされるようにされて下さい。

◎36協定を締結・届出しましょう(労働基準法第36条)
・ 時間外労働・休日労働を行わせる場合には、時間外労働・休日労働に関する労使協定(36 協定)を締結し、労働基準監督署長に届け出る必要があります。
・ 労使は、36 協定の内容が、限度基準に適合したものとなるようにしなければなりません。

時間外労働の限度に関する基準(限度基準:平成10 年労働省告示第154 号)の主な内容
○  業務区分の細分化
容易に臨時の業務などを予想して対象業務を拡大しないよう、業務の区分を細分化することにより時間外労働をさせる業務の範囲を明確にしなければなりません。
○  一定期間の区分
「1日」のほか、「1日を超え3か月以内の期間」と「1年間」について協定してください。
○ 延長時間の限度(限度時間)
一般の労働者の場合1か月45時間、1年間360時間等の限度時間があります。

延長時間の限度
(限度時間)
① 一般の労働者の場合
  1週間 15時間
  1か月 45時間
  1年間 360時間 等
② 1年単位の変形労働時間制※の対象者の場合
  1週間 14時間
  1か月 42時間
  1年間 320時間 等
  ※ 対象期間3か月超

○  特別条項
 臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない「特別の事情」が予想される場合、特別条項付き協定を結べば限度時間を超える時間を延長時間とすることができますが、この「特別の事情」は、臨時的なものに限られます。なお、限度時間を超えて働かせる場合、法定割増賃金率(25%)を超える率とするように努める必要があります。

○  適用除外
 工作物の建設等の事業、自動車の運転の業務等、一部の事業又は業務には上記の限度時間が適用されません。
・時間外労働・休日労働は必要最小限にとどめられるべきものであり、労使は、このことを十分意識した上で36 協定を締結する必要があります。

◎時間外労働等は、36協定の範囲内にしましょう(労働基準法第32条、第36条)
・ 時間外労働・休日労働を行わせる場合には、 36協定を締結・届出(労働基準法第36条)で締結した36 協定の範囲内でなければなりません。

休憩・休日について

◎休憩は確実に取得できるようにしましょう¬(労働基準法第34条)

・労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分、8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩が、労働時間の途中に必要です。
・休憩は、労働者の自由に利用させなければなりません。
・特に、次のような例がみられることから、夜間時間帯や利用者の食事時間帯においても、休憩が確実
に取得できるよう徹底してください。

○ 代替要員の不足等から夜勤時間帯の休憩が確保されていない例
○ 正午~午後1時などの所定の休憩時間に利用者の食事介助等を行う必要が生じ、休憩が確保されていない例

急な職員の退職や休みなどで、休日や休暇が取れていない現状も見受けられます。半日の休暇や時間を分けた休憩も実施するなど、休暇、休憩を取得しやすい環境づくりに努めましょう

◎夜間勤務者等の法定休日を確保しましょう(労働基準法第35条)

・使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければなりません。(4週間を通じ4日の休日を与えることも認められます。)
・この「休日」とは、単に連続24時間の休業を指すのではなく、原則として暦日(午前0時から午後12時まで)の休業をいいます。
・したがって、いわゆる「夜勤明け」の日は、法定休日には該当しませんので注意してください。

※勤務表と法定休日の考え方
・暦日(午前0時から午後12時まで)としての休業が確保され、「法定休日」と評価することができます。
・夜勤明けの日が、例えば9時30分まで勤務している場合は、暦日としての休業が確保されておらず、「法定休日」と評価することができません。

労働基準法を適切に理解されておらず、夜勤明けを休みとして扱っている施設も未だに見受けられますので、適正な法令遵守の確認、運用を行って下さい。

まとめ

今年度に入ってから、お客様の施設の実地指導に立ち会った際に、行政の担当者から、

・なぜ手書きの出勤簿なのか、手書きの出勤簿だと実際の正確な勤務した時間が分からないのではないか?
・Aさんの勤務実績、出勤簿の実態が異なる。
・Aさんの夜の勤務実績はあると言われるが、出勤簿を見ると退勤したことになっている。
・手書きの出勤簿だからこのような勤務実績・出勤簿の異なりが出来るのではないか?

と指摘を受けました。

勤務表がエクセル、勤務実績を手書きの出勤簿を確認しながらエクセルで入力を行うのは、このような間違いが生じ、行政の実地指導の際も不正の疑いを指摘されます。業務の効率化は、適正な法令遵守の対応だけでなく、適切な労務管理にも必要となりますので、皆さんの運営改善にご活用頂ければ幸いです。

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