私たちの移動の際には、様々な行為を伴います。それと同様に、利用者のケアにおいてもそれぞれの行為動作を理解し、適切なケアを行う必要があります。今回は『介護現場で活かす!端座位を伴う移動と歩行』をご紹介しますので、皆さんのケアの質の向上にご活用いただければ幸いです。
介護事業所の面倒なシフト・勤怠管理がらくらく
人員基準や加算要件は自動でチェック!CWS for Careはシフト表作成、勤怠管理、勤務形態一覧表作成をワンストップで提供する、介護専門のシフト・勤怠管理サービスです。
⇒ 「CWS for Care」公式サイトへアクセスして、今すぐ資料を無料ダウンロード
目次
立位から端座位へ
自然な動き・重心の動き
私達は普段、ドスンと尻餅をつかずに座っています。なぜなら、人は座るとき、前屈みになり膝を曲げて体重をしっかりと膝に乗せ、臀部と頭でバランスをとりながら、徐々に重心を後方に移動させているからです。
危険予測
重心の動きから予測される危険性は以下の3点です。
- 立位から座位に移動するとき、膝の曲がり具合が足りず、頭と臀部のバランスが崩れてしまい、重心が基底面から外れ、転倒の危険性があります。
- 前屈みが足りず臀部の方に重心が傾き、頭と臀部のバランスが崩れて椅子にドスンと尻餅をつく可能性があります。
- 前に屈みすぎて、重心が前方に傾き、前に倒れる危険性があります。
介助の手順
- 介助者はがに股となり、しっかり腰を落とした安定姿勢をとります。
- 利用者には、バランスを崩さないように、膝を曲げ、十分前屈みになってもらいます。このとき介助者は、利用者に奥へ座ってもらおうと意識しすぎると、重心が後方に移り、尻餅をつく危険性があります。
- 利用者には一旦浅く座ってもらい、その後、後ろから身体を引き深く座ってもらいます。
※腰を軽く押して立位を崩したり、利用者の膝を軽く引いたりなどの工夫をするのもよいでしょう。
立位から端座位の移動介助と、端座位から立位の介助は逆の動作であり、重心の移動も全く逆の順序になります。しかし、「前屈みになる」という動作はどちらにも共通した自然な動きです。
ベッド端座位から車椅子へ
車椅子の設置
車椅子は利用者の「健側」に設置しましょう。健側に設置することで利用者自身が現有能力を活用しながら移動をすることが可能になります。
※健側:麻痺の無い側、患側:麻痺のある側
また、車椅子の設置角度はベッドの側面に対して「20度~30度」にしましょう。その理由は以下の2点です。
- 臀部の移動距離を短くするため
- フットレストに足を巻き込む危険性を防ぐため
車椅子には車輪があるため、平行に設置してしまうと、ベッドとフットレストの間に足を巻き込んでしまう危険性があります。
適度な角度をつけることによって、ベッドと車椅子との隙間が少なくなります。さらに奥のアームレストに掴まりやすく、手前のアームレストは邪魔にならない環境をつくることができるのです。
「座る」と「立ち上がる」の連続動作
「ベッド端座位から車椅子へ」という動作は、基本動作「座る」と「立ち上がる」の組み合わせです。これを「連続動作」と呼びます。
連続動作においても、自然な動きが重要です。
- ベッド上で臀部の角度を変えます。これは、少しでも車椅子に近づいておき、体の中で一番重い臀部の移動距離を最小限にするためです。このような姿勢を「つなぎの姿勢」と呼びます。この姿勢をとることで、足の踏み変えの必要がなくなります。
- 遠い方のアームレストに手をかけ、足を車椅子に近づけます。これも「つなぎの姿勢」です。
- 十分に前屈みの姿勢をとり、最短距離で臀部を車椅子に移動させます。
- 最初から奥に座ろうとはせず、一度浅く座ってから、車椅子に深く座りなおします。これが車椅子に移乗をする際の自然な動きです。
危険予測
介助の際に予測される危険性は以下の2点です。
- 立ち上がる際に、前後に転倒する危険性があります。
- 車椅子の方向に重心が横移動することから、左右に転倒する危険性があります。
つなぎの姿勢
「ベッド端座位から車椅子」のような連続動作では「つなぎの姿勢」が、安全な介助を実践するポイントです。
- 不安定な姿勢での移動距離を最小限にするために、利用者の臀部を車椅子に近づけます。
- つなぎの姿勢を取った後、不安定な姿勢での移動距離が極力少なくなるよう、車椅子を更に手前に近づけます。
- 車椅子に移乗する際に、膝のねじれが少なくなるように、あらかじめ車椅子に座った際の足の位置に近づけます。
このように、「つなぎの姿勢」を取り、2段階・3段階に分けて移動してもらうようにしましょう。
介助の手順
- 車椅子のブレーキがかかっているか、必ず確認します。
- 利用者の臀部を、車椅子に近づけ角度を変えます。
- 利用者の足を、車椅子に座ったときの足の位置に近づけます。足がねじれないよう注意し、痛みがないかを確認しましょう。
- 車椅子を更に利用者の方に引き寄せ環境を整えます。
- 利用者に「遠い方のアームレスト」または「介助者の肩」につかまってもらいます。
- 利用者が万一バランスを崩したときにも支えられるように、安定した姿勢を取ります。
- 介助者は大きく足を広げ「がに股」で腰を低く、安定した姿勢を取ります。
- 介助者は両腕を利用者の背に回します。
- 利用者の楽な姿勢で、最短距離を最小の力で移動します。
- 十分に前屈みになって、腰を浮かしてもらいます。
- 利用者がバランスを崩さないよう支えながら、ゆっくり方向転換します。
- 利用者の臀部は、上下に「弧を描く」ように移動します(足の踏み替え不要)。
- 十分な前屈みを維持し、車椅子に腰を降ろしてもらいます。
- かかとを引き、お尻を後ろにずらして深く座ってもらいます。
※利用者の移動の姿勢は立位でも中腰姿勢でも構いません。利用者の身体状況に合わせ、利用者が楽な姿勢にします。
・中腰状態の場合…移動距離は短く済みますが、立位に比べ不安定で下肢に負担がかかります(膝と腰を曲げバランスをとる姿勢のため)。
・立位の場合…安定しますが、移動距離が長くなります。
状況に応じた介助方法の工夫
(1)利用者自身が上半身を支えられる場合
利用者自身で上半身を支えられ、椅子を置くスペースがある場合
- 椅子(台)の上に肘をついてもらい、より深い前傾姿勢になってもらう
- 介助者は利用者の後ろ(ベッド上)から利用者の臀部及び大腿部全体を前に押し、車椅子へ移乗する
※体格差のある利用者を介助する際に有効的です。
【ポイント】
- 椅子(台)の位置…重心を安心して乗せることができる「ズレない」位置に置く。
- ベッドの高さ…椅子(台)よりも高い位置に調節する(足が床につく程度)。
- 介助のポイント…利用者の臀部を持ち上げるのではなく、頭側に押すようにする。
(2)利用者自身で上半身を支えられない場合/椅子を置くスペースがない場合
- 介助者は、利用者の前方で片膝立ちになります(利用者が十分な前かがみ姿勢をとってもらうため)。
- 介助者の肩に利用者の上半身をのせる。そして、利用者の臀部を手前に引きながら車椅子へ移乗する。
【ポイント】
- 車椅子と反対側の膝を利用者の膝に添え、利用者の上半身を肩に乗せた状態で片膝(車椅子側)をつきます。
- そこからさらに引き、利用者の臀部を浮かします。
※体格差があり危険な場合は、介助者は椅子に座って介助を行う。
(3)スライディングボードの活用
(1)(2)いずれの方法でも危険性がある場合。または全く立てない方の場合は、スライディングボードの導入を検討してみましょう。
①導入の条件
- 高さ調節可能なベッドがあること
- アームレストが外れること
- フットレストが外れること
②利用者の動きのポイント
- 足の角度
- アームレストを握ってもらうまたは、上半身を移乗側に傾ける
③介助のポイント
- 片膝立ち
- ゆっくり
- 移乗後ベッド側に傾け臀部の位置を整える
④スライディングボードの位置
片方の座骨が乗る程度で、反対側は車椅子の対角線に合わせましょう。
『福祉用具は要介護度の高い方を介助する際の最終手段』というイメージを捨てましょう。早い段階から正しい知識と技術を持ち、取り入れることで、利用者の自立支援の効果を高めることができます。
歩行介助
「歩く」という動作は、基底面が狭く重心が高いため、5つの基本動作の中で最も転倒する危険性の高い動作です。そのことを念頭に置きながら、介助を行いましょう。
自然な動き・重心の動き
人は歩くとき、足を交互に踏み出し、足と反対の手を前に振りながら進みます。左足を上げると重心が右側に動き、右足を上げると重心が左側に動きます。つまり「重心は体を支える側に移動している」ということです。
危険予測
麻痺のある利用者の歩行介助を行う場合、介助者は利用者の「健側」に立ちましょう。
重心は体を支える側に交互に移動しています。麻痺のある利用者は、健側の足でバランスを保っているため、重心は健側にあります。ただし、片足では基底面が狭いためバランスを崩しやすく、健側・患側の両方に転倒する危険性があります。
そこで介助者の立つ位置の決め手は、「いかに転倒を防止するか」という視点です。具体的には「利用者が掴まりやすい」「介助者が支えやすい」ということです。利用者に麻痺がある場合、利用者が掴まりやすく介助者が支えやすいのは、「健側」になります。
介助の手順
- 介助者は「健側」に立ち、利用者に介助者の肘の内側を掴まってもらいます。さらに、利用者の肘を介助者がしっかりと支えることで、利用者が安心して体重をかけられます。
- ※利用者が安心して体重を掛ける場所がなくなってしまうので、介助者は、利用者の腕を掴まえながら介助してはいけません。
- 転倒の危険性に備えて、もう一方の手を利用者の患側の骨盤に添えます。
介助者が「手すり」の役割を果たすことで、利用者に主体性を持ってもらいながら歩行介助を実践することが可能になります。
杖や歩行器を使用されている場合は介助の方法が変わってきますが、どのような介助方法でも大切なことは、転倒などの事故防止に努めることです。また、介助手順や関わりに迷ったときは、必ず「人間の自然な動き」から考えましょう。私達のケアが利用者の生きる力・意欲を引き出すことにつながります。
本来の目的を念頭にケアする
利用者は転倒を繰り返すと自信喪失から意欲低下に伴い、それらが認知症の進行なども招いてしまいます。介助者が単にケアを行うのが適切なケアではなく、リハビリテーションや機能訓練を行いながら利用者自身が自信を持って移動を行うことで、本来の介護保険の目的である『尊厳の保持と自立支援』『重度化防止』を目指すことができます。施設や事業所の研修なども活用し、周知徹底するように努めていきましょう。