利益率は、売上高に対する利益の割合のことで、企業が収益性を把握するための重要な指標です。介護事業の場合は「収支差率」と呼ばれています。
厚生労働省の「令和4年介護事業経営概況調査結果」によると、2021年度の介護施設・事業所の平均収支差率(利益率)は3.0%で、前年度の3.9%と比較して、0.9ポイント減少しています。事業継続に必要な人件費や光熱費等の物価の高騰、また、近年においてはコロナによる感染症防止対策に伴うマスクや消毒液などの支出の増加に加え、利用者の介護サービス利用控えによる減収が利益率の低下に繋がっていると考えられます。
本記事では、介護事業における利益率の計算方法、利益率に影響を与える要因4つ、利益率を上げるためのポイント4つを解説します。これから介護施設・事業所を開業しようと検討している方、利益率の改善や既存介護事業を拡大しようと検討している方はぜひご活用ください。
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目次
2021年度の介護事業所・施設の平均利益率は3.0%
厚生労働省が公表した「令和4年介護事業経営概況調査結果」によると、2021年度の介護施設・事業所の利益率(収支差率)は平均3.0%で、前年度より0.9ポイント低下という結果でした。
サービスを個別に見ると、利益率の上がり幅が最も大きかったのは夜間対応型訪問介護で、令和2年度の利益率が-8.6%のところ、令和3年度は3.8%と上昇しました。一方で、最もマイナスが大きかったのは介護療養型医療施設で、令和2年度で9.7%だったところ、令和3年度は0.6%と落ち込みました。
同じ調査結果の各サービスにおける「収入に対する給与費(給与などの人件費)の割合」を見てみると、令和2年度と比較して夜間対応型訪問介護が3.3%低下、介護療養型医療施設が5.4%上昇という結果であったことから、人件費の増減が利益率に大きく影響したと考えられます。
利益率の計算方法と指標について
介護業界では利益率のことを収支差率と呼び、介護施設・事業所の収益性を測るための重要な指標です。以下の計算式で求めることができます。
(収入-費用)÷収入×100=利益率(収支差率)[%]
この利益率(収支差率)は、介護施設・事業所の経営状況を把握するための指標となり、経営改善や持続可能な成長に向けた取り組みに活かすことができます。
介護施設・事業所の利益率に影響を与える要因3つ
では、介護施設・事業所の利益率に影響を与える要因は何なのでしょうか。ここでは、主な4つの要因について説明します。
運営費の増大
一般的に介護施設・事業所設の運営費には、職員への給与の他に、求人広告などにかかる採用コスト、建物の維持管理費、光熱費、物品の調達費などを含みます。
特に職員の給与・賞与などを含む給付費が運営費の70 %程度を占めており、利益率に大きな影響を及ぼすことがわかります。しかし、給与・賞与は職員のモチベーションにつながるポイントであり、無暗に削る部分ではないので、費用対効果を確認しながら求人広告を掲載したり、光熱費を削減するためのルールを事業所内で制定したりして対策を講じるようにしましょう。
競争の激化
高齢化に伴い、介護施設・事業所の利用者数は年々増加しているのに比例して、競合となる介護施設・事業所の数も増加していることから、地域によっては価格競争による収益の減少につながる可能性があります。
このような事態を避けるためには、価格以外に独自サービスを発掘するなどして競合他社と差別化を図る必要があります。日頃のアセスメントやアンケートを通じて、細かいニーズを汲み取り、利用者とそのご家族に選ばれるようなサービスを提供できることが、サービス業としての使命です。
需要の変動
介護サービスは周辺地域の環境の変化などによって需要が変動することも考えられます。たとえば、地域に新たな介護施設や事業所等が開設されたり、コロナ禍が要因で遠方に住んでいたご家族と暮らすことになった、その近くの施設に入居となったことによる終了などが想定されます。また、従来の利用理由として多い怪我や疾患の悪化などによる入院や施設入所、死亡なども予測が出来ます。
日頃からこのような変動を予測し、リカバリーの対応ができなければ、収入の減少につながる可能性があります。常にアセスメントや地域ネットワークで、利用者やご家族、地域の需要に対して臨機応変に対応できるかどうかが、競合他社と差をつけるポイントになるでしょう。
また、過去のコロナウイルスの蔓延や自然災害による被害などの事例からも「介護施設の利用を控える」「介護施設を利用できない」という状況に陥ってしまうことで収益の減少につながることも予測できます。
介護施設・事業所の利益率を上げるためのポイント4つ
ここまで利益率に影響を与える要因について見てきましたが、それを踏まえて実際に利益率を上げていくためにはどうしたらいいでしょうか。
ここでは介護施設・事業所の利益率を上げるポイント4つをご紹介します。
コスト管理と業務効率の改善
主なコストといえば先述した人件費や光熱費などの運営費ですが、特に人件費が運営費の大部分を占めるため、人件費に関する指標である「売上高と人件費率」を把握しておく必要があります。
売上高と人件費比率は、売上高に対する人件費の割合のことを指し、以下の計算式で求めることができます。
人件費(※)÷売上高×100=売上高人件費比率[%]
※役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費
介護労働安定センターの「令和3年度介護労働実態調査」によると、2020年度の売上高人件費率の平均は64.3%という結果でした。
売上高人件費比率が高いほど人件費が介護施設・事業所の利益を圧迫しているといえ、この比率を抑えるためには、直接業務・間接業務の業務内容の分析を行い、職員の配置を見える化し、適正な人員配置で運営することが有効です。また、採用にかかるコストも大きな負担となっているため、職員の離職を防ぐ職場環境を整えることも重要です。
更に業務効率を改善することで職員の作業時間の短縮や作業量の削減、生産性の向上につながるため、利益率の上昇が期待できます。業務効率の改善には、介護ソフトやシフト管理サービスなどのICTツールの導入による間接業務の効率化がおすすめです。
シフト管理サービスを導入することで、これまで時間と労力がかかっていたスタッフのシフト作成や管理を効率化することができます。残業時間の削減や人件費の節約にも繋がっていきます。
「介護ソフトがたくさんあってどれを選べばいいかわからない」という方は、以下の比較記事をご覧ください。
スタッフのトレーニングとサービスの質の向上
質の高いサービスは顧客満足度を向上させ、新規利用者をソーシャルワーカーやケアマネジャーから紹介してもらいやすくなります。
利用者へ施設を紹介することが多いソーシャルワーカーやケアマネジャーなどと日頃からコミュニケーションを取っておくことで、より多くの新規利用者を紹介してもらえるようになれば、安定的な収入が想定でき利益率の上昇が期待できます。
質の高いサービスを提供するためには、スタッフのスキルアップや継続的な教育・トレーニングが必要です。勉強会の開催や資格取得の支援などを継続的に行うことでスタッフのレベルアップを図りつつ、仕事や給与に対するモチベーションが高まる環境づくりが大切です。
収益の多様化と新たなサービスの提供
介護事業の枠組みを超えた付加価値の高いサービスや関連事業の展開など、収益の多様化を図ることで利益の安定化や増収が期待できます。
例えば、要介護者が自宅にいながらさまざまな介護サービスを受けることができる「居宅介護サービス」や、介護保険では受けることができない食事の宅配や家事代行、外出の付き添いなどを提供する「介護保険外サービス」などがあります。高齢者が日常生活の中でお困りごとを支援してほしいというような需要は多く、最近ではこのようなサポートを事業とする事業者も増えています。
介護報酬の加算を確実に取得する
介護事業は公益性の高い事業のため、介護保険制度のもとで実施されます。つまり、介護保険制度の定める介護報酬が収益に大きく影響を及ぼします。
介護事業者の収益は、基本報酬と介護報酬の加算合算額から介護報酬の減算が行われた額です。一人当たりの介護報酬の加算は少なくても、複数の利用者数分となると大きな収益になるため、介護事業を経営する上で介護報酬の加算は確実に取得しないといけません。
また、介護保険はケアマネジャーが立案するケアプランを基に実施します。つまり「安定的な経営には、継続的な営業が重要」ということです。
利益率を最大化するための施策を積極的に講じましょう!
介護施設・事業所だけではなく、利益率は事業を継続していくなかで常に意識しておくべき指標です。利益率を最大化するためには、職員のモチベーションや作業効率を保ちつつ、顧客数を増やし、加算を取得すると共に、経費を抑えることと、業務の効率化が大きなポイントになるといえるでしょう。
昨今では、人が行っていた業務をICT化して作業時間を短縮することができるようになりました。たとえば、シフト作成ができる介護ソフトを導入したことで作成時間が月に6時間減った、などという事例もあります。他にも介護保険外サービスを検討するなど、利用者の需要の変化を汲み、変化を恐れず新しいことにチャレンジすることも大切です。これまでの常識にとらわれず、積極的に業務改善を図りながら、利益率の高い介護施設・事業所を目指しましょう。