介護保険の各種サービスを利用するためには、ケアプラン(介護サービス計画書)の作成が必須です。介護サービスは施設利用や訪問、福祉用具のレンタルなど多種多様で、適切なサービスを選択するのが難しいため、専門家の力を借りてケアプランを作成する必要があります。この記事では、ケアプランの目的や作り方、作成する際の注意点について解説します。
目次
ケアプランって何?
ケアプランとは一人ひとりの利用者さんが、どのような介護サービスや支援を受ければ、自立した生活を送れるようになるのかを考えて、適切な介護サービスを組み合わせて作成した利用計画書のことです。まずは、ケアプランを作成する目的や種類、作成できる人について説明します。
ケアプランを作成する目的とは
介護保険は介護が必要な人(要介護者、要支援者)に、介護サービスの費用を給付し、利用者さんとそのご家族がより充実した生活を送れるように支援する制度です。各市区町村や専門機関で要介護または要支援の認定を受けた人が、介護保険を利用したサービスを受けられます。しかし、利用する方の家庭環境や状況、介護サービスの種類も様々です。そのため、どのようなサービスをどのように利用すれば最適なのか、利用者さん本人やご家族が判断するのは難しいでしょう。無計画に適当な介護サービスを利用しても、効果的な自立支援にはつながりません。
そこで、介護サービスを有効に活用するために作成する計画書がケアプランです。
介護保険の専門家が利用者さんやご家族の現状、将来的な望みを考慮して、介護サービスの提供業者選びから、各種サービスの組み合わせを検討してまとめます。ケアプランは要介護者と要支援者のどちらに対しても必要ですが、正確には要介護者を対象とした計画書がケアプランで、要支援者を対象としたものは介護予防ケアプランと呼びます。ケアプランの内容には、利用者さん本人とご家族の状況、受ける介護サービスの種類、頻度、具体的な介護内容を記載して、長期的及び短期的な目標を設定します。
ケアプランの種類
ケアプランの種類は介護認定の度合いやサービスを受ける場所により、以下のように3つに分けられます。
1つ目は「居宅サービス計画書」です。要介護1~5の認定を受けた利用者さんが対象で、自宅で受けられる介護サービスを中心にしたケアプランです。利用者さんの自宅に訪問して受けられる訪問サービスの他に、自宅から施設に通って受けられる通所サービス(デイサービス)や、施設に短期間入所してサービスを受けられる短期入所サービス(ショートステイ)が含まれます。
2つ目は「施設サービス計画書」です。こちらも要介護1~5の利用者さんが対象ですが、自宅ではなく施設に入所して受けるサービスが中心になるケアプランです。介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)、介護老人保健施設、介護療養型医療施設などの介護施設に入所するために必要になります。
3つ目は「介護予防サービス計画書」です。これは、要支援1~2の認定を受けた利用者さんが対象になります。要支援とは「今はまだ介護が必要な状態ではないが、将来的に介護必要になる可能性がある」という状態です。このような状態にある方が介護予防と自立支援を目的とした介護予防サービスを受けるために必要なケアプランです。訪問による介護予防サービスのほか、通所の介護予防サービスなどが含まれます。
ケアプランを作成できる人
要介護者に必要なケアプランは、居宅サービス計画書、施設サービス計画書のいずれかになります。居宅サービス計画書は民間事業者である居宅介護支援事業所のケアマネージャー(介護支援専門員)が担当するのが一般的です。施設サービス計画書は入所する施設のケアマネージャーが担当します。要支援者に必要なケアプランは、介護予防計画書になります。こちらは利用者さんが住む地域を担当する地域包括支援センターの保健師等が担当するのが一般的です。このようにケアプランの作成は介護保険の専門家に依頼することが一般的ですが、利用者さん本人やご家族、または支援者が作成することも可能です。専門家の力を借りずに作成するため、セルフケアプランと呼ばれています。
ただし、セルフケアプランの場合は、ケアマネージャーや保健師が行う作業をすべて自分でする必要があります。たとえば、居住地の市区町村への届け出、介護サービス事業者のリサーチ(情報収集)と利用手続き、サービス事業者や関係者との連携、毎月の利用実績の報告など、ケアプランの作成以外に必要な作業がたくさんあるので、作成者の負担になる場合もあるでしょう。
他人に自宅の状況を知られることに抵抗を感じる方もいますが、特別な事情がない限り、専門家に依頼する方がほとんどです。なお、ケアプランの作成は介護保険で全額がまかなわれるため利用者さんの自己負担はありません。
ケアプランの作り方
では実際に介護サービスを利用する場合、どのようにケアプランは作成すればよいのでしょうか。そこで本段落では、一般的なケアプランの作成方法について紹介します。
ケアプラン作成の流れ
ケアプランの作成作業は以下のような流れになります。
インテーク(相談・面接)
利用者さんやご家族からの依頼を受けて、インテークと呼ばれる最初の相談や面接を行います。介護の必要性や悩みを聞き、今後の進め方を説明します。ケアプラン作成のためには、利用者さんの置かれている状況を詳しく知る必要があるため、このときに自宅訪問の日程も調整しておきましょう。ご本人が入院している場合は、入院先へ訪問することもあります。
アセスメント(調査・課題分析)
利用者さんの自宅を訪問して、ご本人の現在の健康状態や介護状況、介護に関わる親族などの状況を聞き取ります。現状だけでなく、将来的にどうしたいのかという意向もしっかりと聞いておきましょう。表面的なことだけでなく、生活の背景や住まいの状況などの詳しい情報を把握することも大切です。アセスメントとは情報を収集して課題を分析することで、利用者さんに最適な介護サービスを見極めるための重要な作業です。
ケアプランの原案作成
自宅訪問で得た情報を元にして、必要な介護サービスを洗い出します。洗い出しが済んだら、各介護サービス提供事業者に照会して、サービスの詳細内容(利用回数、利用時間、料金など)をまとめます。そして、その中から最適なサービスを組み合わせて、ケアプランの原案を作成します。長期的な目標と短期的な目標を設定しておくことも必要です。ケアプランの原案を作成したら、ご本人やご家族の希望に合っているかどうかを確認してもらいます。
サービス担当者会議
ケアプランで選定した介護サービス事業者の担当者、利用者さんとご家族、主治医などの関係者を集めて、ケアプランの原案について協議を行います。各担当者の意見を聞いて、円滑なサービスが実施できるように、ケアプランの調整を行います。
利用者さんとの最終合意(最終契約)
サービス担当者会議の結果を反映すればケアプランの完成です。ケアプランが完成したら、利用者さんの最終合意を得て、介護サービス事業者と契約を行います。契約が完了すれば、ケアプランに沿った介護サービスが始まります。
モニタリング
介護サービスが始まった後は、ケアプランに沿った介護サービスが適切に行われているかどうか定期的なチェックが必要です。これをモニタリングといい、少なくとも月に1回以上は、利用者さんの自宅を訪問する必要があります。サービスが効果的に行われていない場合や、利用者さんやご家族の状況が変わった場合など、ケアプランの見直しが必要と判断したときは、ケアプランを修正します。
ケアプランの書き方
ここではケアプラン3種類のうち、居宅サービス計画書を例に、ケアプランの書き方を紹介します。
居宅サービス計画書の標準的な書式は、第1~第7表の7枚で1セットです。このうち、第1~3表の3枚と第6~7表の2枚の合計5枚が一般的なケアプランとなり、利用者さんと介護サービス事業者へ交付します。第4~5表はケアプランの作成者(ケアマネージャーなど)が所持します。以下にそれぞれの表に記載する内容を説明しましょう。
第1表の「居宅サービス計画書(1)」には、利用者さんの基本情報や意向と、介護サービスの基本方針を記載します。
第2表の「居宅サービス計画書(2)」には、利用者さんの課題やニーズに沿った介護サービスの内容や、長期目標と短期目標を記載します。
第3表は「週間サービス計画表」です。利用する介護サービスを組み合わせた、1週間のスケジュール表を作成します。ここまでの第1~第3表は、アセスメントの結果を元にして作成する書類です。
第4表は「サービス担当者会議の要点」で、サービス担当者会議で協議した内容や結論の要点をまとめます。
第5表は「居宅介護支援経過」で、インテーク(相談・面接)からサービス担当者会議までの経過や、モニタリングの状況、結果などを記録します。
第6表は「サービス利用表」です。利用する介護サービスの内容や提供時間帯など、1ヶ月のスケジュールを記載します。
第7表の「サービス利用表別表」には、事業所ごとサービスごとに、1ヶ月の介護サービスの利用単位数と費用を記載します。
第6~第7表は、保険給付の根拠として利用する書類です。
ケアプランを作成する際の注意点は?
最後にケアプランを作成する際の注意点を3つ紹介します。
第1は「利用者さんの希望をケアプランに反映させる」ことです。どのような作成の仕方をしても大事なのは、状況をはっきりさせた後に、どのような介護を受け、どのような生活を望むのかというところを、しっかりケアプランに反映させることです。ケアプランは利用者さんのために作成するものなので、介護サービスの都合に合わせたものではなく、利用者さんの希望に沿ったプランになるよう心がけましょう。
第2は「課題を明確化する」ことです。セルフケアプランを作成する場合は、利用者さんができることと、できないことを明確に区分しておく必要があります。介護保険の専門家であるケアマネージャーが作成する場合は、利用者さんとの十分な面談を行い、状況や問題点をできるだけ明確にしておくことが大切です。
第3は「ケアプランは常に見直しが必要」な点です。ケアプランの作成は介護サービスが始まれば終わりではなく、アフターケアが必要です。毎月1回以上の頻度で利用者さん宅を訪問して面談を行い、提供サービスが適切であるかどうかを確認(モニタリング)する必要があります。常に見直しを続けるとともに、必要であれば新しいケアプランを作り直すこともあります。
より良い介護をするためにケアプランを作成しよう
ケアプランというのは介護サービスの利用者さんが、より質が高く適切な介護を受けるために必要な介護計画書のことです。どのような作成の仕方をするにしても、利用者さんや家族の状況を明確に把握し続けて、利用者さんに最適なケアプランを作成することが大切です。利用者さんや家族の気持ちに寄り添い、信頼を築くことが重要なポイントになるでしょう。