介護の仕事に従事するうえで、比較的早くから学ぶことになるのが「歩行介助」です。歩行介助はその名の通り「歩行」を「介助」することで、一見簡単そうにも思う方もいるかもしれません。しかし、歩行介助は正しい方法でなければ、利用者さんを転倒させてしまうなどの、危危険険な事故にもつながります。
本記事では、歩行介助の目的や方法、注意点、役割などを詳しく解説しますので、正しく理解し、て実際の介護現場で活用してみてください。
歩行介助の目的とは?
人は年を重ねるにつれて、少しずつ身体機能が衰えて、何らかの介助が必要になる場面が増えていきます。介助の中でも比較的早い段階で必要になるのが、歩行時の介助です。車いすを必要とするまでもないが、自力で歩行するにはふらつきなどで転倒のリスクがある方が安全に移動できるようにサポートします。
歩行介助の方法は5種類
歩行介助は介護を必要とする方の状態によって方法を変化させなければなりません。その種類における特徴を紹介します
初期段階で必要となる見守り歩行介助
初期段階となるのが「見守り歩行介助」です。杖などを利用すれば「自ら歩ける人」を対象とします。介護者は転倒の可能性がある補助器具の反対側、もしくは麻痺が見られる側につきましょう。
斜め後方より見守るようなイメージです。歩行の状況を常に確認し、バランスを崩しそうになれば即座に支えられるようにしておきましょう。
見守り歩行よりも密着した寄り添い歩行介助
「寄り添い歩行介助」は介護者が要介護者の側面に立ち、歩行をともにする方法です。右利きの方の場合は原則その左側に立ちます。体を寄せ、脇から右腕を回し、お互いに左手を握り合うのです。お互いに前向きであるので、ストレスが少ないことも特徴です。
特に長距離の移動を必要とする場合には適した方法といえるでしょう。また片麻痺の症状が見られる場合は、麻痺のある側に立ち、要介護者の腰に腕を回すことで支えます。転倒の可能性が高い場合、介助ベルトなどを使用することも有効です。
前後への転倒を防止できる手引き歩行介助
両手をとりあい、介護者と要介護者が向き合って歩行するのが「手引き歩行介助」です。両手を支えていたり、お互いに向き合ったりするので、前後への転倒防止の効果があります。ただし介護者が要介護者の方を向き、後歩きとなるため、進行方向の様子を把握できません。
介護者が転倒すれば、要介護者も同じく転倒する可能性は高くなります。また、前方の視認性が低い分、長い距離の歩行にはおすすめしません。トイレやお風呂場、車椅子までの移動など短い距離の歩行に用いるようにしましょう。
階段昇降時の歩行介助
階段の昇降は転倒した場合は大けがに繋がる可能性が高く、より注意を払う必要があります。もし転倒したとしても間違いなく支持できるよう、階段を昇る際は要介護者の「ななめ後ろ方向」階段を降りる際は「ななめ前方向」に立ちましょう。
また補助器具を利用し、杖歩行している場合、重心がいつも麻痺側ではない方の足となるように注意してください。
歩行器具の歩行介助
介護用高齢者歩行器で歩行する場合は、上半身を支持しましょう。廊下や大きなフロアなど床が平坦な場所で短い距離を移動するのに適しています。
特に要介護者の上半身が前や左右に倒れてしまう場合や麻痺などがある場合におすすめです。
歩行介助で注意するべきこととは?
歩行介助を行うときは、常に意識するべきポイントがいくつか存在します。それぞれのポイントについて見ていきましょう。
転倒の恐れがある障害物は事前に片付けておく
室内に移動において、ちょっとした段差や電気配線などは転倒を引き起こす要因となり、思わぬ事故にもつながり兼ねません。移動する前には、周囲に障害物となるものはないかを必ず確認しましょう。
移動できそうなものであればあらかじめ移動させ、通路を確保することが大切です。屋外の場合、雨天などの影響を受けて転倒の危険性がさらに高まります。
靴の種類や服装によっても転倒リスクが上がる
靴や服装にも転倒を引き起こす要因が潜んでいます。スリッパやサンダルのようなものは簡単に脱げたり、滑ったりするなど、転倒の危険性が高まります。要介護者の足のサイズに合う軽くて滑りにくい靴が理想的です。
また室内においても靴下での歩行は転倒の可能性が高いため、滑り止め防止が施された靴下や室内履きを履くか、裸足がよいでしょう。靴と同様に服装にも注意が必要です。ズボンの裾が長すぎるものや、ウエストが緩んでずり落ちてくるようなものの場合、裾を踏んで転倒する可能性があるので注意しましょう。
補助器具の定期メンテナンスを実施
杖や歩行器、歩行車、車椅子、介助車などを使用する場合、破損や劣化の影響で事故や怪我につながることがあります。そうならないためにも、歩行補助具は定期的なメンテナンスの実施が必要です。
杖先のゴムであればそれほど販売価格も高くはないでしょう。また歩行器の場合、車輪の歪みなども起きます。ネジの緩みやタイヤの回転不良、フレームの歪みなどがないか気を付けましょう。
最低でも1ヶ月に1回は定期的にメンテナンスをおこなえば、事故の未然防止につながります。
事前に休憩できる場所を調べておく
屋外などの場合は、事前に休憩できる場所を調べておくようにしましょう。普段なら歩けている距離でも、体調次第では急に歩けなくなる可能性もあります。
たとえ短い距離であっても、休憩場所はあらかじめ確保しておきましょう。どうしても確保が難しい場合は、あらかじめ他のスタッフに周知しておいたり、緊急連絡ができるように携帯を持参したりするなどの対策が必要です。また、行き先によってはエレベーターやエスカレーターの有無も確認しておきましょう。
補助器具の有無による歩行介助の違いとポイント
補助器具の有無によっては歩行介助の方法を変える必要があります。補助器具を使用する場合としない場合のそれぞれについて見ていきましょう。
補助器具を使用する場合
補助器具を使用する場合、介護者は斜め後ろの位置に立ちます。要介護者さんの脇の下に手を添え、なにかあればすぐに支えられるようにしてください。
歩行の手順は「補助器具を移動→動かしにくい足を出す→動く方の足を出す」の順番です。補助器具とは一定の距離をとり、要介護者に合わせてゆっくり進みます。
また車輪を有する補助器具の場合、前方ではなく後方へ転倒することが多くなります。後ろ側から腰か両脇を支え、要介護者が一歩進んだら介護者も同じように進むようにしましょう。ペースと歩幅を合わせることで要介護者も安心して進むことができます。
補助器具を使用しない場合
補助器具を使用しない場合、歩行のペースにも気を配りましょう。無理に引っ張ったりすると、バランスを崩し、転倒する可能性が高まります。
また、重心移動や声掛けも重要です。要介護者の残る機能を活かし、重心となる足に体重をのせるように支え、歩く動きを介助することで次の一歩が出しやすくなります。
歩くペースに合わせた声掛けなどもすることで、リズミカルに歩くことができるでしょう。他にも、介護者のは自身のポジションにも気を配りましょう。人は前後左右に重心移動しながら歩きます。
過剰に密着したり、腕の振りを妨げられたりするとバランスがとりづらくなります。歩行者の動きを邪魔することなく、バランスを崩せばすぐに支えられるポジションが大切です。
正しい歩行介助で歩行機能の低下を防ごう
高齢になると、少しずつ体力が低下し、歩行に何らかの課題を持つ方が増えてきます。一人での歩行が難しいからといって、歩く機会を減らしてしまうと、歩行能力はさらには低下してしまいます。
正しい歩行介助により、できるだけ自分の足で歩いてもらうことはADL低下の防止にも直結します。またADLの低下を防ぐことが、QOLを高め精神的にも満たされた状態に繋がります。
個人を尊重し、できるだけ自立した生活を長く過ごせるための第一歩が「歩行介助」ともいえるのではないでしょうか。