福祉系の資格において、介護支援専門員(ケアマネジャー)の試験は非常に合格率が低く、難関といわれています。直近の令和2年10月に実施された第23回試験では、全国で17.7%という合格率でした。全ての受験生のうち、6人中1人だけが合格した計算になります。
この合格率は福祉系資格のなかでも群を抜いて低い数字といえますが、なぜケアマネ試験は合格率が低いのでしょうか。その理由を各種データをもとに徹底分析し、その対策も合わせてお伝えします。
目次
ケアマネの試験とは?
ケアマネの試験は、正式名称を「介護支援専門員実務研修受講試験」といい、例年10月前半の日曜日に実施されます。試験は都道府県別に行われ、居住地ではなく勤務地での受験となります。各都道府県で申込期間や受験申込書が異なる場合があるので注意が必要です。
問題は全国統一で、出題数は60問、試験時間は2時間になります。1問あたり2分という短い時間なので、時間配分が非常に重要になる試験です。試験科目は大きく2つにわけられており、介護支援分野から25問、保健医療福祉分野から35問出題され、1問1点の配点となります。
出題方式は五肢複択のマークシートで、5つの選択肢のなかから2つ、もしくは3つを選ぶという形式です。合格基準は各分野の正答率70%を基準とするほか、問題の難易度に応じて補正された点数を超えることとされています。
そのため、両方の分野で合格基準点を超えることが必要です。どちらかの分野が合格基準点に達していても、もう一方の分野で満たすことができなければ不合格となってしまいます。過去10年の合格基準点を見ると、介護支援分野は13~16点、保健医療福祉分野は22~26点となっています。
難関といわれるケアマネ試験、合格率はどのくらい?
ケアマネ試験は、合格率が低いことで知られています。そのために大変難しい資格試験というイメージを持たれる方も多いでしょう。ではケアマネ試験の合格率はどのくらいなのでしょうか。ほかの福祉系資格と比較して説明します。
福祉系資格の合格率を徹底比較!
福祉系の資格はたくさんありますが、それぞれどのくらいの合格率なのでしょうか。直近の試験の合格率を表にまとめてみました。
資格 | 合格率 |
介護支援専門員(令和2年) | 17.7% |
介護福祉士(令和3年) | 71.0% |
社会福祉士(令和3年) | 29.3% |
医師(令和3年) | 91.4% |
看護師(令和3年) | 90.4% |
理学療法士(令和3年) | 79.0% |
作業療法士(令和3年) | 81.3% |
保健師(令和3年) | 94.3% |
ほかの資格試験と比較すると、ケアマネ試験の合格率は格段に低いことが見てとれます。ただし、ここで注目したいのは合格率が試験の難易度とは比例しないということです。
科目の多さや問題の難しさでいえば、上表のなかでは医師の国家試験が一番の難関といえるでしょう。しかし、医師国家試験の合格率はほかの資格と比べても大変高くなっています。これはなぜでしょうか。
医師になるためには、6年制の医科大学を卒業する必要があります。医科大学に入学するだけでも相当の勉強が必要になるので、入り口の段階から狭き門となっているのです。
そして無事に入学してからも厳しい勉強を続けていく必要があり、成績が悪ければ追試や留年などを課せられます。したがって、医師国家試験に合格できるレベルに達していないと医科大学を卒業できないということがいえます。資格のなかでも最難関に近い医師国家試験の合格率が非常に高い理由はそこにあるでしょう。
養成のために学校卒業が求められる資格は、ほかにもいくつかあります。看護師もそのなかのひとつですが、非常に高い合格率になっています。
また、養成学校を卒業して受験する方は年齢的にも若い方が多く、社会人の受験に比べて学習に集中できる環境が整っている場合が多いということも合格率を上げる要素だと考えられます。社会福祉士試験も難関といわれますが、養成学校卒業生と社会人受験が混在しているだけに、ケアマネジャー試験よりも合格率が高くなるのでしょう。
ケアマネ試験の合格率と合格ライン
第23回の合格率は17.7%という数字でしたが、過去の合格率を見ると実施年度によってかなりばらつきがあることが見てとれます。
試験回(実施年度) | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
第23回(令和2年) | 46,415人 | 8,200人 | 17.7% |
第22回(令和元年) | ※注 41,049人 | 8,018人 | 19.5% |
第21回(平成30年) | 49,332人 | 4,990人 | 10.1% |
第20回(平成29年) | 131,560人 | 28,233人 | 21.5% |
第19回(平成28年) | 124,585人 | 16,280人 | 13.1% |
第18回(平成27年) | 134,539人 | 20,924人 | 15.6% |
第17回(平成26年) | 174,974人 | 33,539人 | 19.2% |
※注 第22回試験は10月と3月の合計
上表で注目すべきは、第21回の合格率10.1%という数字です。これは当時の介護業界でも衝撃的な数値としてニュースで報じられました。
平成29年までは無資格者でも実務経験があれば受験資格を得られましたが、平成30年からは国家資格所有者または相談援助業務についている人が要件となり、さらに実務経験が5年以上と変更されたのです。
この受験資格の厳格化によって第21回以降の受験者数が大幅に減っています。しかしながら第20回の受験者数を見てみると前年よりも増えており、合格率も高い水準になっています。
これは、翌年になると受験資格を失ってしまう方たちの「駆け込み受験」とみられ、1発で合格しなければならないという危機感をもって十分に試験対策を取ってきたことが考えられます。加えてもう1つ注目したいのは、第18回で受験者数が減っていることです。
実は、この年から基礎資格による免除科目が撤廃されています。それまで介護福祉士は「福祉」、看護師は「医療」というように所有している資格によって免除される科目がありましたが、この年からは全ての受験者が全科目を受験することになったのです。
このように、徐々にケアマネ試験はハードルを高くしている様子が見てとれます。その理由としては、ケアマネの資質向上を目的としていることが考えられ、より専門性を高めようとする意図がうかがえます。
徹底解説!ケアマネ試験の合格率が低い理由
ケアマネ試験の合格率がほかの資格に比べて非常に低いのはなぜでしょうか。それが試験の難易度と比例するものではないことは前述のとおりですが、そのほかにも要因があるのか筆者の分析を解説します。
実務経験が必須の資格は非常に珍しい
医師や看護師になるには養成のための学校を卒業する必要があるので、難易度は高いものの合格率も高いといえます。対してケアマネ試験は、実務経験が必須ということもあって学生の受験生はいないことになります。
社会人受験においては働きながら学習時間を確保する必要があるので、人によってはその環境づくりが困難なことも多いでしょう。家庭や育児、介護などを行う方など、日々の生活で試験勉強の時間を確保するのが難しい方も多いかもしれません。
また、学生と違って受験生の平均年齢が高くなることが予想されます。当然、学生よりも学習に集中できる環境が整っていないため、実力不足の受験生が多くなりがちといえます。そのため、合格率が低くなってしまう傾向があるのでしょう。
福祉系の資格に限らず、実務経験が必要になる資格にはさまざまなものがあります。例えば介護福祉士もそのうちのひとつであり、実務試験ルートで受験される方が一番多いのではないでしょうか。
とはいうものの、ほかにも介護福祉士養成施設を卒業して受験資格を得るルートがあるので、必ずしも実務経験がないと介護福祉士になれないというわけではありません。また、実務経験が求められるのは上位資格が多く、下位資格では経験を問われないパターンが多くみられます。
介護福祉士も、その前段階である初任者研修や実務者研修は未経験でも受講できる資格です。しかし、ケアマネ試験のようにはじめから国家資格に基づく実務経験か、相談援助業務の経験が必須である資格というのは大変珍しいのです。このように、受験資格を得るための要件が厳しいのがケアマネ試験の大きな特徴です。
ケアマネ試験は複雑?独自の解答方式と合格基準
ケアマネ試験の特徴には、その独自の解答方式も挙げられます。五肢複択という解答方式は医師国家試験でも採用されていますが、偶然による正解率が下がるもので、より知識量が必要とされています。
介護福祉士のように五肢択一であれば20%の確率で偶然正解することができますが、五肢複択の場合は組み合わせの数が増える分だけ偶然での正解率は下がることになります。試験範囲に対して深い理解が求められるものだといえるでしょう。
範囲の広い試験であるだけになかなか深いところまで学ぶのは難しい側面があります。現場で関わる業務と直結しない他分野の知識も求められるため、理解が難しい部分もあるでしょう。
そういう面で大変得点が取りにくく、俗にいう「記念受験」では合格が難しい解答方式であるといえます。合格基準についても、ケアマネ試験はハードルが高くなっています。
ケアマネ試験に合格するためには正答率70%が基準とされていますが、これはほかの資格試験と比較しても高い数字となっています。介護福祉士や社会福祉士の合格基準は60%なので、確実に正解を導き出す知識量が問われることになります。
試験制度の変更は最大の壁
ケアマネ試験は、第18回試験から基礎資格による免除科目が廃止となる大幅な変更がありました。また、21回試験においても受験資格の厳格化という変更があり、試験制度の見直しが頻回に行われています。
ケアマネ試験の受験生全体の5~6割を介護福祉士が占めていますが、それまでは介護支援分野の科目が免除となっていました。介護支援分野の出題傾向は、介護職の普段の業務内容に直結しない知識も求められるので、これが免除にならないことによって本来は一番得意分野でなければならないはずの分野で苦戦するという矛盾もおきてしまいます。
このように、試験制度が頻繁に見直されることが合格率を引き下げている要因のひとつであるとも考えられます。また、受験資格の厳格化によって経験のある有資格者だけが受験資格を持つことになりました。
そのような方たちは、現場で中堅としてリーダー職や役職についているケースが多いでしょう。重要なポジションの職員が一斉にケアマネ試験を受けてしまうと、現場の人材不足がさらに深刻になってしまいます。
あくまでも推測ではありますが、合格率を下げることでそのような事態を避けたいという思惑がはたらいているようにも思えます。
ケアマネジメントの質の向上
在宅介護の良し悪しは、ケアマネジメントの質と直結するといっても過言ではありません。今後ますます高齢化社会が進み、高齢者のみの世帯や独居の高齢者数はますます増えると予想されています。
介護が必要となっても、自宅で生活をしたいと考える方も多くいるはずです。そのような利用者さんにふさわしい適切な介護サービスや保健医療サービス、インフォーマルサービスを包括的に提供していくことが望まれます。
そのために、ケアマネジメントの質の向上が強く求められるようになってきています。さらに、ケアマネジャーの資質を向上する目的で資格のあり方や研修カリキュラムの見直しが行われています。受験資格を厳しくした上に試験の合格率も低い水準とし、それをくぐり抜けた合格者にはしっかり研修を受けてもらい、質の高いケアマネジメントが実践できるようにしたいという考えがあるのです。
難関のケアマネ試験を突破するには
難関のケアマネ試験に合格するためには、出題の傾向を知り、その対策を取ることが大変重要になってきます。頻出問題は合格後の研修でも必要となってくる知識でもあるので、しっかり押さえておくようにしたいですね。
1点に泣かないために、過去問や予想問題を解きまくる!
ケアマネ試験で多く聞かれるのが「1点で泣いた」という言葉です。介護支援分野と保健医療福祉分野、両方で正答率70%以上が合格ラインとなります。
両方の分野で合格基準点を満たす必要があり、どちらかが1点でも足りなければ不合格となってしまいます。ですから、幅広い分野でまんべんなく点数を取れるような学習をする必要があるのです。
合格基準点は毎年変わりますが、それ以上の点数を取れば合格することは間違いありません。1点でも点数を落とさないように、しっかりと内容を理解することが重要です。
そのために一番おすすめの方法は、過去問や予想問題を解きまくることです。そして必ず採点をして、自分の苦手分野を把握しましょう。そしてテキストなどで苦手分野をしっかりと読み込み、得点の底上げを狙うとよいでしょう。
何度も繰り返しているうちに、頻出問題や傾向が見えてくるかもしれません。介護保険法の条文や、主治医意見書についての問題は出題の頻度が高いので、しっかりと内容を押さえておきましょう。
今はスマホアプリなどでも問題集があり、間違えた問題を繰り返し出題したり、分野ごとの成績表が出たりするものもあるので、すきま時間などに有効活用するのもおすすめです。資格試験となると、つい「短期間で効率的な学習法」に目が行ってしまいがちですが、ケアマネ試験に関しては「合格するためだけの学習方法」だと後の研修で苦労をすることになりかねません。
十分な学習期間を確保して毎日少しずつでも継続して問題に取り組み、しっかりと内容を理解するようにしましょう。
直近の改定は、問題の宝庫
介護保険法の改正は、3年ごとに行われることになっています。直近では昨年の令和2年に法律が改正され、今年の4月から施行されることになっています。
法律が改正される部分は、世間でも話題になっているような時事的な要素も含んでおり、ニュースで目にすることも多いことでしょう。そのような部分は問題として取り上げられることも大変多く見られるので、しっかりと把握しておくことをおすすめします。
変更になった部分については、どのように変わったのかだけではなく、なぜ変更になったのかという根拠もセットで覚えるようにすると理解が深まるはずです。新設されたり、要件が変わったりした加算も注目するようにしましょう。
特に保健医療分野における在宅医療との連携はケアマネの実務上で必須の知識となるため、新しい加算については出題されやすい傾向があります。特に今回の法改正では、居宅介護支援事業所の管理者要件や通院時の同行に対する加算など、直接ケアマネ業務に関わる変更点が多くみられるので特に注目しておきましょう。
直近の法改正は、ケアマネとして覚えていなくてはいけないことばかりなので、「問題の宝庫」であるともいえるでしょう。
ケアマネ試験は、ケアマネになるための試験ではない
ケアマネ試験は、正式名称を「介護支援専門員実務研修受講試験」といい、あくまでも実務研修を受講する権利を得る試験です。実務研修は課題も多く、短い日程で多くの演習を行います。
ケアマネジメントの質の向上を目指して、年々厳しい内容になってきています。受講した方の中には「落ちても地獄、受かっても地獄」という方もいるくらいです。
その厳しい研修を修了した後に資格証の申請を行い、その資格証が手元に届けばようやくケアマネになることができます。ケアマネとして実務が行えるのは介護支援専門員証を持っていることが条件となり、試験に合格しただけではケアマネとして働くことができないので注意が必要です。
難関といわれるケアマネ試験ですが、普段から介護関連のニュースに注目して最新の情報に触れるようにすることでより理解が深まることでしょう。その理解は、試験合格後の研修やケアマネとしての実務でも役に立つことは間違いありません。しっかりと学習に取り組み、ぜひ合格を勝ち取ってください。
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