入浴介助は介護職の仕事のなかで欠かせない重要なケアの一つです。利用者さんが病気にならず快適な生活を送れるように、体をきれいに洗って清潔な状態を保たなければなりません。とはいえ、高齢者の入浴介助は本人とスタッフの両方にとって大きな負担になります。転倒などの事故を防ぐには、しっかり準備をしたうえで細心の注意を払うことが大切です。この記事では、入浴介助で警戒が必要な事故の事例をご紹介するとともに、事故を防ぐためのチェックポイントを詳しく解説します。
目次
入浴介助の事故はどんなものがあるか
若くて健康な人なら当たり前のように行える入浴も、体力やバランス感覚が衰えている高齢者には簡単な作業ではありません。服を脱ぐことから始まる一連の作業はかなりの疲労を伴う重労働です。そのため、入浴中に何らかのトラブルが発生した場合、本人だけでは対処できないケースがよくあります。ここでは、入浴介助を行う際に注意したほうが良いよくある事故の事例をご紹介します。
お風呂場での転倒
発生する可能性と発生時の危険度の両方において、転倒はもっとも警戒が必要な事故の一つです。
乾燥している浴室を歩いても、あまり転びやすいとは感じないでしょう。しかし、湯で床が湿った状態になると非常に滑りやすくなっています。足腰が弱い人には不安定な環境であり、移動や姿勢の維持すら難しいため、転倒してしまう可能性が一気に高まるのです。石けんの成分が床に残っている状態だと、足との摩擦が減る分だけよく滑りますし、落ちている石けんを踏んで転ぶようなケースも見受けられます。
この事故では、裸で浴室の硬い床に体を打ち付けたり壁などに衝突したりするがケースが最も多く、保護するものを身につけていないことが、転んだときの危険度を大きくする要因となっています。衝撃が何にも遮られず体に伝わってしまい、骨折のような大きな怪我を招くことが多いので注意しなければなりません。
お風呂で溺れてしまう
健康な人がイメージしにくい事故として、お風呂で溺れることが挙げられます。水位が低いので油断しがちですが、利用者さんの健康状態などによってはそれでも溺れてしまう場合があるのです。たとえば、入浴中に具合が悪くなって意識障害が発症するようなケースもあります。意識がなければ、自然と前方に傾いて湯船に顔を浸けた状態になりかねません。また、浴槽に移るときにバランスを崩して頭から入ってしまうなど、発生を予測するのが難しいので警戒が必要です。
順調に入浴しているように見えても、スタッフが目を離したわずかな間に溺れてしまう可能性は十分にあります。介護施設で働いていると、入居している複数の利用者さんを同時にサポートする機会もあるでしょう。そのような状況で全員に意識を向けにくいと、普段よりもリスクが高まってしまうので細心の注意が必要です。
ヒートショック(血圧の急変動)
12月から2月にかけて増加するのがヒートショックです。
ヒートショックとは温度の高い場所ら低い場所への移動などにより、急激な温度の変化が発生した際に、血圧が大きく変動するなど、体への負担がかかることで起こります。
体がフラフラしたり、症状が重くなると失神や心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こしたりする場合もあります。
冬場の脱衣所は温度が低くなりやすく、急に熱い湯船につかると、急激な温度変化によってヒートショックが起こりやすくなります。
やけどや脱水症状
やけども入浴介助で起こりやすい事故であり、発生の要因として大きいのはスタッフが気付きにくいことです。シャワーの操作を誤って温度が上がっても、自分が浴びているわけではないので察知できず、そのまま続けてしまうことがあります。機械入浴で設定の確認を忘れ、高温の湯船で全身やけどを負わせてしまった事例などもあります。高齢になると皮膚の感覚が鈍くなり、やけどがひどくなるまで自覚できない場合もあるので気を付けなければなりません。
また、入浴介助では脱水症状になるという事故も発生しています。浴室は水分が豊富な空間であり、体の表面は潤っているので勘違いしやすいですが、汗をたくさんかくことによって体内の水分は失われています。その量が多いと脱水症状になってしまうので、気付いたときには遅かったという状況にならないように注意しましょう。
表皮剥離
高齢になると、皮膚が薄くなり乾燥が進みます。そして乾燥して弱くなった皮膚は弾力が失われ、わずかな摩擦やずれによって裂けてしまう場合があります。
そのため、衣類着脱の際は衣類と皮膚が擦れて摩擦が起きないように注意が必要です。アームカバーやレッグカバーを使用したりするなど、できるだけ摩擦による皮膚への負担を減らしましょう。拘縮の症状がみられる場合は、着脱しやすいワンサイズ大きめの服や前開きの服などがおすすめです。
洗体時はタオルでこすらず、泡立てた石鹸を手に取り、身体をなでるように優しく洗いましょう。
- 一番起こりやすくて危険度が高いのが転倒事故
- 若くて健康な人には想像できない事故の危険性が潜んでいるので、細心の注意が必要
事故を起こさないための入浴介助の6つのポイント
前述のような事故を回避するためには、正しい知識を身につけて準備を怠らないことが大事です。入浴介助の安全性を高められるように、実施にあたって注意したほうが良いポイントを具体的に挙げていきます。
健康状態を把握する
最初のステップとして重要なのは、利用者さんが入浴できる状態かどうかを判断するために、健康状態の把握に努めることです。本人に体の具合を尋ねるだけでなく、体温や血圧などのバイタルチェックによって、体に異変がないことを客観的な確認が必要です。体調が優れないと言っている場合や異常が見られた場合は、たとえ体が汚れていても無理に入浴をさせるのは厳禁です。利用者さんから体をきれいにしたいという要望を受けたら、温めた濡れタオルで拭くなどの代替手段で対処するようにしましょう。
移動時に注意を払う
入浴介助では利用者さんの体を支える場面がとても多いです。それが分かっていても、利用者さんがふらついたり滑ったりして思わぬ方向に倒れそうになると、とっさに支えきれない場合があります。そのため、床の状態を確認するなど、移動時にバランスを崩さずに済む対策をしておくことが大事です。手すりやスタッフが十分な支えになっているか利用者さんの視点で考えてみましょう。浴槽の出入りは体の大きな動きを伴うので、転倒の可能性が高まるタイミングとして細心の注意を払わなければなりません。
また、寒暖差によるヒートショックを防ぐために、入浴前に脱衣所や浴室を温めておくことも重要です。浴室内に暖房がない場合はシャワーなどを使って蒸気で温めておくと良いでしょう。
湯加減に注意する
利用者さんに湯をかけるときは、体への負担が少なくなる手順を踏む必要があります。最初に行うのは、スタッフが湯に触れて温度を確認することです。そのうえで利用者さんにも触れてもらい、熱すぎたり冷たすぎたりしないか尋ねる必要があります。適温にしたら足先など心臓から遠い部位に湯をかけ、そこから少しずつ範囲を広げて慣らしていきましょう。また、シャワーや浴槽の温度は常に一定であるとは限りません。何らかの原因で途中から変わってしまうトラブルも見受けられるので、こまめにチェックするような配慮も必要です。
入浴時の状態をしっかり確認する
利用者さんが浴槽に入った後も油断せず、細かな変化に気を配りながら見守り続ける必要があります。溺れないように警戒することが大事ですが、それだけでなく持病の影響で体調が悪くなる可能性や、長く浸かってのぼせる可能性なども考慮しなければなりません。入浴中は湿気によって体の表面の状態が分かりづらいので、脱水症状を防ぐために発汗の具合をよく観察することも大事です。いろいろな事態を想定して、素早く対応できるようにしておきましょう。
しっかりとタオルで拭き取る
入浴後のケアも入浴介助に含まれています。足の裏が濡れていると転倒しやすくなるので、水分を残さないように拭き取りましょう。皮膚が弱くなっている利用者さんの場合は、表皮剥離を起こさないように柔らかいタオルを使用し、力を入れすぎないように注意しながら、軽く押さえるようにして水分を拭き取ります。
その後、必要に応じて保湿剤などを用いて失われた水分を補います。
また、入浴直後は血圧が変化してふらつくことが少なくありません。無理に動くと倒れてしまうケースもあるので、移動が必要でも急がさないように注意が必要です。苦しくなる前に休憩を入れるなど、ゆっくり進めることを意識したサポートが求められます。
利用者さんに合った介助を行う
介護用の器具にはさまざまな種類があるので、利用者さんの状態に合ったものを選ぶことも重要です。たとえば、横になったり座ったりしたままでも入浴できる浴槽もあります。浴槽に関しては、出入りの際につかめる手すりや縁をまたぎやすくする補助台のように、関連する器具が豊富です。その他にも、滑りにくい椅子のように高齢者を補助するものも多く、うまく利用すれば立ち上がりの動作などが苦手でも安全に移動しやすくなります。
上記のような器具を活用することはADL※の維持にもつながります。器具の使い方も教える形で、なるべく自力で入浴できるように導いていくのが望ましいです。
※ADLとは「日常生活動作」のことであり、日々の暮らしで必要となる「起居動作・移乗・移動・食事・更衣・排泄・入浴・整容」の最低限の動作を指します。
- 入浴介助・更衣介助時は絶対に「目」と「手」を離さない
気持ちの良い入浴時間を過ごしてもらおう
入浴は衛生面を良好に保つだけの作業ではありません。食事と同様に、暮らしを豊かにするような快適な時間を過ごせるのが理想です。それが利用者さんの活力にもつながるので、浴室で気持ち良く過ごせるように、正しく安全性の高いサポートをしていく必要があります。このような意識を持って、生活の改善に貢献できる入浴介助を目指しましょう。