近年、業界を問わず「カスタマーハラスメント」といわれる言葉が取り沙汰されることをよく見かけます。介護業界でも施設の利用者や入居者、ご家族等からの「カスタマーハラスメント」に悩まされる職員は少なくありません。なぜ介護の現場ではカスタマーハラスメントが見受けられるのか解説します。また、管理者として、どのような対応策を講じることができるのかについても見ていきましょう。
目次
カスタマーハラスメントとは利用者による許容範囲を超えたクレームや迷惑行為
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、消費者や顧客からの暴言や暴力、許容範囲を超えるクレームなどの迷惑行為のことをいいます。介護業界でも利用者や利用者家族からのハラスメントは問題視されており、厚生労働省からも介護現場におけるハラスメント対策マニュアルや事例集などが公開されています。
利用者のご家族からもカスタマーハラスメントを受けることがある
介護の現場は、介護者と利用者だけの関わりからできているのではありません。利用者のご家族との関わりも大きい現場です。
しかし、ご家族によっては介護保険等の制度をよく理解せず、「これくらいはしてもらわないと困る」と介護保険で対応が出来ないことなど、介護者に無理な要求をすることがあります。また要求するだけではなく、度重なる暴言を繰り返し、精神的に追い詰めたりすることもあります。
ハラスメントの内容は施設などの事業形態によって違いも
厚生労働省の主導で平成30年度に実施された「介護現場におけるハラスメントに関する調査研究事業実態調査」によると、今までに利用者から何らかのハラスメントを受けたことがある職員は4~7割でした。また、利用者のご家族からハラスメントを受けたことがある職員は1~3割と報告されています。
サービス形態によってこの割合は異なり、利用者からのハラスメントを受けたこのとある職員の割合が高い順に、介護老人福祉施設が71%、認知症対応型通所介護が64%、定期巡回・随時対応型訪問介護看護が61%となっています。
ハラスメントの内容としては、訪問介護や通所介護は精神的暴力の割合が多く、一方で介護老人保健施設や特別養護老人ホーム、有料老人ホームなどの入所施設は、身体的暴力が多い傾向が見られました。
ハラスメントにより仕事を辞めたいと感じたことがある介護職員は、2~4割と決して少なくないことを示しています。
介護業界にカスタマーハラスメントが多い3つの理由
さまざまな職場においてカスタマーハラスメントがあるなかで、介護業界も頻繁にハラスメントが発生する理由としては、次の3つが挙げられます。
- 利用者やご家族が介護職員は何でもしてくれると誤解しているから
- 介護施設側が利用者やご家族の要望を聞く姿勢だから
- 介護職員が少々のことは耐えなければいけないと理解しているから
それぞれについて詳しく解説します。
利用者やご家族が介護職員は何でもしてくれると誤解しているから
介護職員は何でもしてくれるものだと、利用者やご家族が思い込んでいることがあります。また施設での入居前に家庭で介護をされた場合もあるでしょう。過去に家庭での介護を一生懸命され、さまざまな悩みに打ち明けられずに我慢されてこられた家族であれば、代わりに介護職員が何でもしてくれるはずと誤解していることもあります。
介護施設側が利用者やご家族の要望を聞く姿勢だから
ケアプランを作成する際には、ケアマネジャーは利用者やご家族の要望(ニーズ)をうかがい、これらを基に課題分析を行い、ケアプラン作成を行います。この際に一部の介護施設等のケアマネジャーは要望をただ聞くだけで、できることやできないことの説明を適切にしていないケースも少なくありません。そのため、「施設(事業所)側に要望すれば何でもしてくれる」と利用者やご家族が誤解する場合もあります。
介護職員が少々のことは耐えなければいけないと誤解しているから
認知症や精神疾患の症状として、暴言などが生じることもあります。また、施設入所等の環境の変化に順応できず、利用者がストレスを感じて暴力的になるケースもあるでしょう。
認知症や精神疾患などからの症状や一時的な変化としての行為ととらえてしまい、ハラスメントとの線引きが難しく、とにかく暴言や暴力は耐えなければいけないと理解している介護職員もいます。そのため、身体的かつ精神的に強いストレスを受けたとしても、周囲に相談出来ずにやり過ごしてしまうケースも珍しくありません。
カスタマーハラスメントに有効な3つの対応策
カスタマーハラスメントに対して知識や対応策を備えておくことで、ハラスメントを受けた際にはそれらを基に適切な対応ができるようになります。また備えておけば未然に防ぐこともできます。施設管理者、あるいは介護施設で仕事をする介護士や看護師などのスタッフが実施できる3つの備えを紹介します。
- 利用者とご家族に安心感を与えるように意識する
- ハラスメントに対するマニュアルを作成する
- 利用者やご家族にもハラスメントに対する内容を周知する
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
利用者とご家族に安心感を与えるように意識する
自尊心を傷つけないように注意する、尊厳を保つ声掛けをするなどにより、利用者の攻撃的な態度が和らぐこともあります。また、ご家族にも適時状況を報告して安心感を与え、介護サービスを提供する職員に対して攻撃的な気持ちが生まれにくい土壌を作ります。
ハラスメントに対するマニュアルを作成する
職員による利用者へのハラスメント(心身的虐待)、利用者やご家族による職員へのハラスメント、いずれも許さないという姿勢を施設側が示すことも大切です。ハラスメントへの内容や対応の仕方を明確にしたマニュアルを作成し、職員に配布しておきましょう。
夜勤や送迎といった限られた職員の対応などは、周囲に助けを求めにくくなることがあります。何をハラスメントと判断するのか、誰にどのように報告するのかなどのフローを詳細に定めたマニュアルを作成しておくことで職員が自主的に確認、対応を相談し、ハラスメントを回避しやすくなるよう職場内の環境整備を行いましょう。
利用者やご家族にもハラスメントに対する内容を周知する
利用者やご家族に対しても、どの行為がハラスメントに該当するのかをサービス開始時には契約書などで説明し、同意を得て、理解を得る環境も作りましょう。
カスタマーハラスメントのない介護の現場を目指そう
ハラスメントのない職場を目指すためには、どのような行為がハラスメントに該当するのか、何が行われると契約解除に繋がるのかなど、詳しい内容の理解を職員や利用者、ご家族に周知することが重要です。ただしカスタマーハラスメントは、施設や事業所が一方的にカスタマーハラスメントと決めつけるではなく、ケアマネジャー、介護職や看護職、医師などの多職種が連携し、行為を検証し、適切な対応が必要になるでしょう。
円滑にコミュニケーションに行われる介護現場に環境整備をすることで、利用者やご家族の満足度が向上し、カスタマーハラスメントの低減に繋がります。日頃から小さなコミュニケーションを大切にし、風通しの良い職場を作っていきましょう。
また、職場内ハラスメントがカスタマーハラスメントを増長させることもあります。管理職等の上司の態度、職員同士のコミュニケーションも今一度見直し、ハラスメントが起きにくい労働環境整備を心がけましょう。
カスタマーハラスメントだけではなく、様々な虐待につながらない利用者へのハラスメント行為にも留意することが必要です。職員が利用者やご家族に対して常に適切な言葉がけ、行動を行っているかについても常に研修等を活用し、振り返ります。そして利用者側によるハラスメント、利用者へのハラスメントのどちらもマニュアルで明文化し、ハラスメントが起きない職場を職員と共に協力して作っていきましょう。