今後ますます増加していくことが確実な高齢者、そして介護を必要とする方々。一方で、財政上はそれを支えるだけの余力がなくなってきています。
そんな中、地域での繋がりによって課題を解消しようという方針が打ち出されています。今回ご紹介する藤沢市の取組はそれに留まらない、どこの地域でも実践できる目から鱗の”あたりまえ”な取組でした。
定員の80席も告知後すぐに埋まるほどの大人気となった今回のイベント。代表取締役社長加藤忠相氏より株式会社あおいけあで実際に起きていることについてご講演頂きました。
あおいけあは、湘南藤沢地域で小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」などの介護事業所を運営しています。「小規模多機能型居宅介護」というのは馴染みのない方もいらっしゃるかと思いますが、簡単にいえば「通って利用するデイサービス」「ヘルパーさんが訪問してくれる訪問介護サービス」「短期間の宿泊利用ができるショートステイ」などの機能を併せ持った「多機能」な一体型サービスのことです。
各サービスが一体的に提供されているので、非常にスムーズな連携と柔軟な対応が可能です。また、このサービスが特徴的なのは、利用回数に関わらず月額の費用が一定だという点です。
目次
「あおいけあ」の何がすごいのか
そのような小規模多機能型居宅介護サービスを提供するあおいけあは、藤沢地域は勿論のこと全国的にも非常に注目される存在です。その理由は、主に次のような点にあります。
- 利用されている個々人に合わせた自立支援のサポートを実現
- 地域の方の出入りが頻繁にある、開かれた交流の場となっている
- 高齢者が「地域の負担」ではなく「地域の力」となって活躍
- 高齢者自身も地域に出ていき地域づくりに貢献
- 何より、高齢者が主体的な活動を行い自立心、尊厳が守られている
- 結果として、高齢者自身の介護度が維持・改善されている
このように、あおいけあの取組は介護事業所を利用されている方に過ごしやすい空間を提供しているだけではなく、近隣地域の方々や行政負担軽減の面でも大きく影響を及ぼしています。また、それが好循環のサイクルとして実に上手く機能しています。
このような実績は、どのようにして実現することができたのでしょうか。以降では、イベントの内容からその取組の詳細をご紹介していきます。
地域に開くために、「壁」を取り払う
まずあおいけあでは、敷地を取り囲む壁を物理的な意味で本当に取り払いました。あおいけあの事業所がある敷地は、住宅地と国道に挟まれたエリア。(図のオレンジ色の部分の)壁を取り払うことで、今まで大きく迂回して街道に出ていた住宅地の子供やサラリーマンがショートカットとして敷地内を通るようになりました。
さらにあおいけあでは敷地内に汲み取り式の井戸や池を設置。事業所にはウッドデッキを構え、建物の周辺を通って屋根まで登ることの出来る探検心をくすぐる設計となっています。
あおいけあの敷地内は遊び場スペースとしていつも子供たちで溢れかえっています。
またウッドデッキでは若いカップルが腰掛け、話に花を咲かせています。
天気のいい日には住宅地の家族がレジャーシートを広げます。
さらに、事業所の入り口の脇には漫画棚があります。駄菓子屋もあります。子供たちは、朝の待ち合わせ時に漫画を読んで友達を待ちます。帰りには駄菓子屋でお菓子を買い、中に上がって高齢者の方々と会話を交わすことが日常になっています。
取組はまだあります。事業所の2階は地域に貸し出しています。そこは地元のお母さんたちの集まりとしても利用され、高齢者による子供への習字教室にもなっています。高齢者、子供たち、そしてお母さんたちの中には自然に交流が生まれ、子育てなどについて多世代での情報交換や相談が日常的に行われています。
利用されている方々に相談する、助けてもらう
聞けば聞くほど地域との強い結びつきを感じるあおいけあ。しかし、何故こんなことが可能なのでしょうか。その理由の一つに、介護サービスの提供スタンスがありました。
あおいけあでは、例えばお鍋を一緒に作る際に「一緒に料理しましょう」というような呼びかけはしません。「こんにゃくは切ったほうがいいのか、手でちぎったほうがいいのか」と相談をします。しまいには、「男が台所に立つもんじゃない」と職員を押しのけて包丁を持ち調理を始める始末です。
ほかにも、あおいけあでは利用されている方が車のタイヤ交換をしてくれます。木々の剪定もしてくれます。前述の駄菓子屋も、商品の選定から戸棚の配置まで高齢の番頭さんがすべて取り仕切っています。
施設で花を植えればレク、公園で植えればボランティア
「もしかすると、認知症の方に鉈を持たせるのは危険だと思われるかもしれません。」加藤氏は語りかけます。
「ただ、ちょっと待ってほしい。鉈なんて、使ったことのない若者に持たせるほうがはるかに危険です。包丁だって、料理をしたことが殆どないような人よりも長年台所に立ってきた方の方が上手に、早く、安全に扱える。認知症であっても、中々消えないのは手続き記憶。長年の習慣の中で体が覚えていることなんです。」
あおいけあで剪定をやってくれている方は、実際に庭師だった方。駄菓子屋も、まさに駄菓子屋経営をしていた方が行っています。タイヤ交換も同様です。
「アセスメントの際に、その人の職歴や今までのことはきちんと聞いているはずです。それであれば、この人は何が出来るのか、何が得意なのかを理解するのは難しくないはずでしょう。」
加藤氏の取組は、事業所の敷地内に留まりません。サービスを利用されている方々は地域の清掃活動などにも参加しています。「地域の清掃活動を手伝ってください」とお願いすると、「しょうがないねえ」などといいながらも主体的に敷地外の活動に参加してくれるのです。
「花は施設で植えればレクリエーションです。しかし、地域へ出て例えば公園で埋めれば、それだけでこれはボランティア活動になるんです。」と加藤氏は語ります。
公園で花を植える中で、そこに来ていた親子から高齢者が「ご苦労様です」と声をかけられるといったことが起きている。広がる地域との交流、主体性の発揮。
「そしてこのとき、お年寄りは被介護者から地域資源になるのです。」
なぜあおいけあは人を集めるのか
これまでの内容は称賛に値するものではあるものの、実現するのは並大抵の苦労ではないという印象が生まれてきます。なぜあおいけあはここまでやるのでしょうか。
これらの取組が実行できる秘訣はどこにあるのでしょう。
果たしてあおいけあは、「特別で例外的な存在」なのでしょうか。
「地域を巻き込むと、個々の問題が助け合いで解決できるんです。」と加藤氏は言います。
例えば、子育ての悩みが解消すれば働ける人が増える。それが介護従事者なら、労働力不測の問題解決につながる。高齢者にも、子供の見守りなど役割が増える。それが自立を促す活動になる。
「小規模多機能型居宅介護は365日。いつでも人がいるところ。だからこそ、いざというときに逃げ込める場所になれるんです。大切なのは、すべての機能・活動が目的に沿ってリンクしていることです。」
また加藤氏は、小規模多機能型居宅介護を始めた理由について次のように語ります。
「地域にはデイサービスや訪問介護、ケアマネジャーなど様々なサービスがあります。これらは例えれば靴下屋や帽子屋といったワンアイテムショップ、さしずめケアマネジャーがレジといったものでしょう。ただ、これらのサービスがいくら地域にあってももし分断されていたとしたら使う側にとっては非常に不便が大きい。必要なのはワンストップサービスなんです。また、ワンストップサービスを実現する上では共通的なマネジメント機能が必須なんです。」
後編では、あおいけあの具体的なマネジメント機能やその背景にあるコンセプト、そして今後の展開についてご紹介します。