不適切ケアの具体的な事例集とチェック表

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不適切ケアの具体的な事例集とチェック表

「これって虐待まではいかないけど、どうなの?」「不適切なケアになるんじゃないの?」

介護現場で、先輩職員や同僚の行為にふとこんな疑問を感じたことはありませんか。
ケアを行う上で必要だと思ってやったことや、安全を守るためだと思って言った何気ない一言が「不適切なケア」にあたることがあります。

とてもデリケートな問題ですが、ほんの少しの手抜き、強引さが「不適切なケア」となり、いつしかエスカレートして「虐待」と呼ばれるケアにつながってしまわないとも限りません。
職場での虐待を未然に防ぐため、知らない間に自分が当事者にならないためにも、「不適切なケア」とはどのようなものなのかを理解しておくことが重要です。

そこで、本記事では「不適切なケア」の実態や具体例、起こる背景、改善・予防法について詳しく解説します。


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「不適切なケア」とは

介護職員による明らかな虐待(意図的な虐待)もありますが、たとえ自覚なく行っていたとしても、正しいとは言えないケアを「不適切なケア」と呼びます。
トイレの介助や食事の介助など必要なケアであっても、配慮が足りないばかりに利用者さんの心を傷つけた場合や、ご本人が嫌がっている場合なども「不適切なケア」となってしまいます。

日常の介護では、利用さんの安全や健康を考えやむをえず利用者さんが望まない対応をすることもあります。また、すべてが介護される側の思いどおりにならないこともあります。
しかし、このような不適切なケアを放置しておくと、虐待につながる危険性があります。高齢者虐待防止のためにも、介護される側の立場になってケアすることが大切です。

虐待を防止するためにも「不適切なケア」の段階で発見し、虐待の「芽」を摘むことが求められる

虐待につながる可能性のある不適切なケアの具体例

介護の現場では、明らかに不適切だとわかる場合もあります。しかし、介護者本人も知らないうちに不適切なケアを行ってしまっているケースもあります。

では、どのような場合が虐待につながる可能性のある不適切なケアとなるのか、具体的な事例を見てみましょう。

排泄介助での事例

  • 尿意を訴えているのに後回しにする
  • 「さっき行ったばかりでしょ」とトイレの使用を制限する
  • 「おしっこが出た」と訴えても紙おむつを交換しない
  • サイズが合わないオムツを使用する
  • 他の利用者さんがいる場所でおむつ替えをする
  • 夜は紙おむつを何枚もはかさせる
  • 尿意を訴えると「おむつをしているんだからそこにして」と言う
  • トイレの介助時、ドアを開けたまま、長時間放置する
  • 排泄が終わったと伝えると「すぐにまたトイレって言うんだからしばらく座っててよ」と言う

入浴介助での事例

  • 嫌がる理由を聞かず「何日も入っていないから」と無理に入浴させる
  • 自分で身体を洗えるのに職員が洗ってしまう
  • 陰部や脇、指先などの細かなところまで洗わない
  • 脱衣室のドアを開けたままで着替えさせる
  • 裸のまま入浴の順番を待たせる
  • 入浴後、バスタオル1枚のまま廊下を移動させる
  • いつもの温度から勝手にお湯の温度を上げる

食事介助での事例

  • 自分で食べられるのに時間がかかるからと食事介助する
  • 茶碗におかずを全部のせる
  • 認知症で口が開かないからと鼻をつまんで食事介助する
  • 注射器のようなもので、無理やり食事を口に入れる
  • 目の前でどんぶりにハサミを入れてうどんやラーメンなどを切る
  • 声掛けも行わずに流れ作業のように、利用者さんの口にスプーンで食事を入れる
  • 他の利用者さんばかりに食事が配膳されるので、「私のはまだ?」と聞く利用者さんに対し、理由の説明もなく「待っててくださいね」とだけ言う
  • 水分補給をなかなかしない利用者さんに「これ飲まないと次の食事はあげません」と言う

車いす介助での事例

  • 自分で歩ける利用者さんにも、転倒させないようにと車いすで移動させる
  • 動きだしそうな利用者さんを低いソファーに座らせ、自力で動けない体勢にしておく
  • 低いイスで立ち上がりにくくして、広いフロアーにずっと座りっぱなしにされる
  • 無言で車いすを動かす
  • 階段の出入り口にソファーを二重に置いて出入りしにくくする

その他

  • 「立たないでくださいね」「動かないで」「座っていて」などと利用者さんの行動を制限する
  • 質問をすると「何度も言ったでしょ」とそっけない返事をする
  • 忙しいときに呼ぶと無視される
  • 利用者さんが真剣に訴えているのに冗談や軽口で返す
  • 「リハビリしないと寝たきりになるよ」と不安になるようなことを言う
  • 数日ぶりに便通があると、「〇〇さんやっと便が出ました」と他の利用者さんがいる前で職員同士で話している
  • 「トイレは行きましたか?」「本当に大丈夫ですか?」と同じことを何度も重ねて確認する
  • 部屋のドアにカギをかける
  • 「〇〇ちゃん、すごいね」などとちゃんづけで呼ぶなど、なれなれしい態度で接する

ベッドや車いすに縛る身体拘束とは異なりますが、「動かないで」「立たないで」といった利用者さんの行動を制限することは、言葉の拘束による「スピーチロック」になります。

今すぐ使える「スピーチロック言い換え表」
言葉による抑制とも言われる「スピーチロック」について、具体的な事例と言い換えの例文を一覧表にしました。スピーチロックを防ぐクッション言葉もまとめていますので、ぜひご活用ください。

不適切ケアチェックリスト(一例)

以下のような行為は不適切ケアに該当します。自分の職場で不適切なケアが行われていないか、自分自身も知らない間に不適切なケアを行っていないかチェックしてみましょう。

  • 利用者さんに友だち感覚で接したり、子ども扱いしたりしていませんか?
  • 有料老人ホームなどの入居者の方に対して、声がけなしに介助したり居室に入ったり、勝手に私物に触ったりしていませんか?
  • 利用者さんに対して「ちょっと待って」を乱用し、長時間待たせていませんか?
  • 利用者さんに対して威圧的な態度や、「〇〇して」「ダメ!」と命令口調で接していませんか?
  • 利用者さんの呼びかけやコールを無視したり、意見や訴えに否定的な態度をとったりしていませんか?
  • 利用者さんに対して乱暴で雑な介助や、いい加減な態度・受け答えをしていませんか?
  • 利用者さんやそのご家族と、物やお金の貸し借り・授受をしていませんか?
  • 利用者さんの参加しやすさや尊厳の保持、自立支援を考えずに、流れ作業的にレクリエーションを実施していませんか?
  • ご家族が行っている不適切ケアについて、誰にも連絡・相談せずにそのままにしていませんか?
  • 他の職員が行っているサービス提供・ケアに問題があると感じることがありませんか?

詳しくは以下のサイトでご確認ください。
参考:虐待の芽チェックリスト(入所施設版)|東京都福祉保健財団

介護現場における不適切なケアの実態

では、実際に介護現場で不適切なケアが行われているかどうか、施設ごとの比率もあわせ、介護相談員が発見した状況について、厚生労働省の調査結果を見てみましょう。

介護相談員の約1/3が不適切なケアを発見

「虐待や身体拘束につながる可能性があるとされる不適切なケア」について、「あった」とする介護相談員は36.5%(1,414件)、「なかった」は54.4%という結果になりました。

半数強は「なかった」となっていますが、介護相談員の約1/3が不適切なケアを発見したことになります。

施設ごとの比率

不適切なケアがあったとされる施設ごとの比率については、「老健」が47.7%、「特養」が43.0%と半数近くになっています。次いで「ショートステイ」が40.0%、「療養病床」が38.2%、「グループホーム」が35.7%、「小規模特養」が31.5%となっています。

「デイサービス」や「デイケア」もそれぞれ17.3%、19.5%と2割程度ですが、決して少ないとは言えない結果になりました。

参考:身体拘束及び高齢者虐待の未然防止に向けた介護相談員の活用に関する調査研究事業報告書|厚生労働省

就業環境の”見える化”で実現する介護の働き方改革
長時間労働の是正を中心とした、介護業界における働き方改革対応のための「就業環境の”見える化”」と「就業管理業務の”標準化”」についてお伝えします。

不適切なケアが起こる背景としてのストレス

介護の現場では、人員不足や業務量の多さ、一部の利用者さんからの暴言や暴力など、多くの職員がストレス抱えています。

利用者さんの笑顔に喜びを感じる一方で、日ごろのストレスからつい感情的になってしまうこともあるかと思います。また、利用者さんと向き合うことを面倒に思って手を抜いてしまったり、時間内に仕事を終わらせることを優先させていしまったり、時には利用者さんのためにと意思確認を行わないまま強引にケアをしてしまったこともあるのではないでしょうか。

これらの行動は強いストレスの表れかもしれません。
このようなストレスが原因で不適切なケアを行ってしまう場合、不適切なケアの内容だけに目を向けて改善しようとしても、また同じことを繰り返してしまう可能性もあります。
不適切なケアがおこる根本的な原因に目を向け、改善することが大切だと言えるでしょう。

不適切なケアの改善・予防法

次に高齢者の虐待防止につなげるため、不適切なケアの改善・予防法についてお伝えします。

この問題については、該当する行為を止めることだけでは解決しません。その背景にある介護従事者のストレスを軽減し、その他の問題点を改善することが重要です。
そのためには「組織の運営を健全化すること」「接遇の意識を高めること」「介護スキルを高めること」の3つが求められます。

組織運営の健全化

組織運営を健全化するため、養護施設や介護事業所の介護理念や組織運営の具体的な方針を明確にし、職員間で共有するようにします。同時にそれぞれの責任や役割を明確にし、職員のストレスを軽減するため柔軟な人員配置などの取り組みも導入しましょう。

「見て見ぬふり」や「安易なケア」「身体拘束の容認」などが起こらぬよう、風通しの良い職場づくりを目指すことが大切です。職業倫理や高齢者の尊厳などを守り、不適切なケアを行わないように施設内での研修会を開催し、施設外の研修などにも積極的に参加できる体制を作りましょう。

接遇の意識を高める

接遇とは「おもてなしの心」ですが、介護の現場でも接遇の意識を高めることが大切です。言葉遣いや身だしなみ、挨拶をはじめ、利用者さんに対する接し方など、介護施設にふさわしい接遇スキルを身に付け、実践していくことが不適切なケアの改善・予防につながります。

介護スキルを高める

認知症ケアにおいては、特に不適切なケアにつながる可能性が高くなります。自分でできることを本人のためと思い介助してしまうことは、寝たきり老人にしてしまう可能性もあることから不適切なケアとなってしまうのです。

まずは認知症について正しく理解し、職員同士で共有しましょう。ケアの質を高める教育として、アセスメントとその活用方法についても具体的に学び、介護のスキルを高めることで不適切ケアの改善と予防になります。

「不適切なケア」を防止するためには、行為に至った背景を理解し、職場環境の改善や接遇意識、介護スキルの向上に取り組むことが重要

まとめ

無意識や悪気なく行ってしまった不適切なケアは、高齢者の身体ばかりでなく心を傷付けてしまうケースが少なくありません。不適切なケアは虐待の前兆でもあり、早期に対処することが必要です。

改善のポイントは、介護者の接遇意識と介護スキルを高め、組織運営を健全化することです。そのためにも大切なのが、利用者さんと介護従事者、職員同士、職員と介護事業者という、人と人との信頼関係を最優先にすることです。

いずれにせよ、自分のケアに不安を感じたらひとりで抱え込まず、職場の同僚や先輩・上司などに相談すると良いでしょう。

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