介護職員採用でミスマッチはなぜ起こる?その原因と対策法

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介護事業所にとって人材の確保は施設を運営するために必要不可欠なことです。しかし、「採用活動が上手くいかない」「せっかく雇用した人材が定着せずに、早期離職してしまう」と困っている管理者や経営者の方も多いのではないでしょうか。

早期離職が起こる原因として考えられるのが、採用における「ミスマッチ」です。
そこで、今回は早期離職を予防するために知っておきたいミスマッチとは、一体どういったことを指しているのか、その原因と対策、注意を払いたいリスクにスポットを当てて紹介していきます。

介護職の採用ミスマッチとは

平成30年度「介護労働実態調査」(Ⅱ 雇用管理の状況 1. 採用率及び離職率)の結果によると介護職員の離職率は15.4%となっています。そのうち、38%が1年未満の退職してしまうという結果になっています。

期待して採用した人材が1年も経たずに退職してしまう大きな理由の一つに、入社前後のギャップによって起こる「採用ミスマッチ」があります。

転職者は入社後にどのようなギャップを感じているのでしょうか?具体的な採用ミスマッチの内容について、よくある事例を通して説明します。

採用ミスマッチの事例① 雇用条件や仕事内容のギャップ

雇用される側は、採用前後に聞いていた雇用条件や仕事内容にギャップがあると不信感を感じてしまいやすいものです。不信感は仕事へのモチベーションの低下につながり、結果として離職してしまうケースがあります。以下に具体例を紹介します。

雇用条件が事前に聞いていた条件と異なるケース

  • 給与が事前に聞いていた額より低い
  • 有給休暇の消化率が聞かされていたものと異なる
  • 残業はないと聞いていたが、実際はサービス残業を強要される

仕事内容が説明されていた内容と異なるケース

  • 身体介護の経験を活かせると聞いていたが、実際は介護度の低い方が多く経験を活かせない
  • 個別ケア中心と聞いていたが実際は集団的なケアが中心
  • 未経験のため研修あると聞いていたのに、いきなり一人で現場に入ることになった

採用ミスマッチの事例② 労働環境のギャップ

労働環境のギャップはミスマッチの原因によくあがります。これは職場の人間関係に起因している場合が多く、具体的には次のような例があげられます。

  • 企業の社風や施設の雰囲気が合わない
  • 一緒に働く職員たちと合わない
  • 利用者さんへの介護のやり方や考え方が異なる
  • 入職前に人間関係は良好であると聞いていたのに、実際は派閥があり陰口を言う職員が多い

採用ミスマッチの事例③ 採用側から見た能力のギャップ

介護経験のある者を採用し、即戦力となることを期待していたが、実際にはそうはいかなかったという経験をしたことはないでしょうか。これは、能力のギャップが原因と言えるケースです。具体的には次のようなものです。

  • 三大介助の経験があるということで採用したが、実際は対応を一人で任せられる状況ではなかった
  • 入浴介助の方法が前の職場と大きく異なり、施設に応じた入浴介助のスキルや経験を持ち合わせていない(例 前の職場では機械浴はしない方針でケアをしていたので、機械を使った入浴の経験に乏しく必要なスキルが備わっていない)

介護職の採用ミスマッチが起こる原因と防止策

採用ミスマッチが起こってしまう大きな原因に、企業側、求職者の双方、もしくはどちらかが入社前に抱いていた「期待」と入社後の「現実」のギャップが生まれているということがあります。採用ミスマッチを防ぐためには、いかにこの入社後のギャップを少なくするかが大切です。

採用ミスマッチが起こる4つの原因とその対策法をご紹介しますので、参考にしてみてください。

自社が求める人物像が明確になっていない


介護の業界は常に人手不足の状態です。しかし、「誰でもいいから採用したい」と考えて職員の採用を急いでしまうと採用のミスマッチが起こりやすくなります。

そこで、企業が候補者の選考や面接の前に必ずしておきたいのが「採用ターゲットを明確にする」ことです。自社に合った人物像、求める人物像を明確にしておきましょう。
採用担当者は現場の求めるニーズを理解し、さらに、求める人物像を言語化しておくことが大切です。どのような人物を採用したいのか現場と採用担当者間で共有することで、ミスマッチを減らすことができます。

自社のいいところやメリットしか伝えていない

企業側が求職者に対して自社のメリットだけを伝えていると、相手はよいイメージばかりを想像してしまい、ミスマッチを生む原因となります。

採用された者はメリットのみをもとにして企業や働き方をイメージしているので、実際に勤務するようになって仕事の厳しさやネガティブな情報など、マイナスのイメージを感じたときに「聞いていた話と違う」となってしまいます。

企業側はメリット・デメリットの両方を踏まえ、企業や事業所のありのままの状態を伝えることがミスマッチを防ぐための大切なポイントです。自社のよい点をアピールすることは求人への応募者を募るために必要なことですが、ネガティブな情報も素直に伝える事で求職者から信頼を得ることができるでしょう。

求職者への情報提供不足

企業の情報が求職者に的確に伝わっていないことや、情報量が少ないことからもギャップは生まれます。

ここで言う情報とは、研修の体制や、残業に関すること、職場のルール、労働条件の詳細などです。求人票に掲載しきれないことでも事前に詳細な情報を伝えておくことで、企業と求職者との間にギャップが生まれにくくすることができます。

具体的には、雇用条件を書面で提示し、面接官は質疑応答の時間を多めにとるなどしてお互いに理解がすすむようにするとよいでしょう。

面接時のお互いの理解不足

採用担当者が候補者の経歴やスキルにばかりにポイントを当てているとミスマッチが起こってしまいます。同様に候補者が労働条件や待遇の確認ばかりをしているとミスマッチが起こります。大切なのは候補者を採用し、入社した後にどのような成果を出しながら活躍をしてくれるのかということです。

採用後に活躍してもらうためには、企業の理念や業務内容、介護観を共有することが必要です。人事選考に関わる採用担当者は、自社の理念や仕事の進め方などの説明を交えながら、面接をおこないましょう。候補者が活躍するシーンを具体的にイメージできるように質問し、お互いの理解が深められるようにしてください。

採用ミスマッチによるリスク

ここでは、視点を少し変え採用のミスマッチによって発生するリスクについて考えてみます。

採用コストが無駄になる

企業が人材を採用するためにはコストが発生します。
たとえば、広告の掲載料や採用担当者の人件費、研修費用、人材紹介サービスの利用料などです。企業での戦力となる前に離職されると、その間に支払う給与や育成にかけた時間が無駄になってしまいます。また、新たな人材を雇用するにも上記と同様のコストがかかり、トータルで見ると多額の無駄なコストが発生になります。

現場の混乱や職員のモチベーション低下

早期退職で起こる弊害として、残っている社員のモチベーション低下があります。短い期間であっても一緒に働いた社員が辞めていくのを見るのは残る側にするとつらいものです。また、抜けた人材の穴を埋めるために業務そのものが増えてしまいます。結果、残された社員は仕事に対するモチベーションが低下してしまいます。

施設・事業所の評判が落ちる

職員が退職した後、企業は職員を求めて求人票を出しますが、常に出している状態が続くと「ブラック施設なのではないか?」という悪い印象を持たれてしまうことがあります。また、早期退職した元職員が口コミやインターネットの掲示板などへ企業にとってよくない印象の書き込みをすることが起きても不思議ではない時代です。狭い業界なのですぐに噂は広まってしまい、人材の確保が難しくなることが起こりうるのです。

ミスマッチによる早期離職を避ける2つの方法

早期離職につながる採用ミスマッチが起こる原因と防止策についてお伝えしてきましたが、一番大切なことは求人を募集する段階で対策をとることです。
入社後のフォローでは手遅れというケースが多いので注意しましょう。

ネガティブな情報も包み隠さず、ありのままを伝える

たとえば、求人票に記載している業務内容と実際の業務が異なっていたとします。入社した職員にしてみれば「だまされた」と思いかねません。そのように思っている職員にどのようなフォローをしても心には届かないのではないでしょうか。

業務内容や事業所の抱える課題、現場の厳しさ現状についてネガティブな情報も事前に正確に理解してもらうことがミスマッチを防ぎます。

体験入社を導入する

施設見学だけではなく、実際に現場に入って業務を体験してもらいます。
1日、1週間など、双方にとって一番良い形になるよう相談しながら実施すると良いでしょう。限られた期間であっても職場の雰囲気や仕事のやり方などに触れることで、ミスマッチを減らすことができます。

採用において一番大切なことは、採用することではなく、採用後に自社で活躍して貢献してもらうことです。企業側は募集の段階で自社に合った人に長く活躍してもらうことを目的にすえ、入社後に起こり得る問題なども想定して伝えましょう。丁寧な準備をすることがミスマッチを防ぎ、自社へのマッチ度を高めることに繋がります。

それでもミスマッチが起きてしまった場合の対処法

入社前に互いが理解しあえるようにどれだけ配慮したとしてもミスマッチが起こる可能性はあります。実際にミスマッチが起きたときにどのような対処方法があるかまとめたので参考にしてみてください。

  • 雇用した職員の能力が低い場合には、教育(研修や指導)を通して必要なスキルを身につけてもらう
  • 人間関係のミスマッチが起こった際には所属する部署やチームなどの配置を変更する
  • 本音を聞き取りやすい直属以外の上司が定期的(入社直後や3か月後、6か月後など)に面談をおこない、必要に応じて現場の管理者と対策をとる