感染予防に対策では、個別の感染対策の知識も必要になります。
今回は『感染症予防の対策~個別の感染対策~』についてご紹介しますので、感染症の内容と平時の対応、発生時の対応についてご確認の上、それぞれの感染症に対し、適切に対応できるようにご活用頂けたら幸いです。
目次
個別の感染対策(特徴・感染予防・発生時の対応)
感染には、① 空気感染、②飛沫感染、③接触感染などがあります。それぞれに対する予防策を、標準的予防措置(策)(スタンダード・プレコーション)に基づいて行いましょう。疑われる症状がある場合には、診断される前であっても、すみやかに予防対策措置をとることが必要です。
結核菌(結核)
【特徴】
結核は結核菌による慢性感染症です。肺が主な病巣ですが、免疫の低下した人では 全身感染症となります。結核の症状は、呼吸器症状(痰と咳、時に血痰・喀血)と全身症状(発熱、寝汗、倦怠感、体重減少)がみられます。咳と痰が2週間以上ある場合は要注意です。
高齢者では肺結核の再発例がみられます。高齢者では、全身の衰弱、食欲不振などの症状が主となり、咳、痰、発熱などの症状を示さない場合もあります。
【平常時の対応】
入居、利用時点で結核でないことを、医師の診断書、主治医意見書などに基づき確認しましょう。年に一度、レントゲン検査を行って、結核に感染していないことを確認しましょう。
【発生時の対応】
上記のような症状がある場合には、喀痰の検査及び胸部X 線の検査を行い、医師の診断を待ちます。
検査の結果を待つ間は、看護職員・介護職員は、マスクを着用し、可能であれば個室の利用が望まれます。症状のあるご利用者・ご入居者は直ちに一般ご入居者から隔離しマスク(サージカルマスク)を着用し、医師の指示に従うことが必要です。
施設からの結核患者の発生が明らかとなった場合には、保健所からの指示に従った対応をしましょう。
接触者(同室者、職員)については、接触者をリストアップして、保健所の対応を待ちましょう。 排菌者は結核専門医療機関への入院、治療が原則です。発熱、咳、喀血などのあるお客様は、隔離し、早期に医師の診断を受ける必要があります。
インフルエンザウイルス(インフルエンザ)
【特徴】
インフルエンザは全身に症状のでる感染症で、インフルエンザウイルスによって引き起こされる呼吸器感染症で、普通のかぜとは全く違う病気です。
発熱や頭痛などと一緒にのどの痛みや鼻水など風邪によく似た症状をもたらすため誤解されやすいのですが、インフルエンザの場合、40℃近い高熱が出るなど全身にさまざまな症状が現れます。重症化すると抵抗力のない高齢者では生命にかかわりますので、特に注意が必要です。
【平常時の対応】
インフルエンザウイルスは感染力が非常に強いことから、できるだけウイルスが施設内に持ち込まれないようにすることが施設内感染防止の基本とされています。施設内に感染が発生した場合には、感染の拡大を可能な限り阻止し、感染を最小限に抑えることが感染防止対策の目的となります。このためには、まず施設ごとに常設の施設内感染対策プロジェクトを設置し、施設内感染を想定した十分な検討を行い、
- 日常的に行うべき対策(事前対策)
- 実際に発生した際の対策(行動計画)
について、日常的に、各々のご入居者お客様の特性、施設の特性に応じた対策及び手引きを策定しておくことが重要です。
事前対策としては、ご利用者・ご入居者にワクチン接種を行うことが有効です。 ご利用者・ご入居者に対しては、インフルエンザが流行するシーズンを前に、予防接種の必要性、有効性、副反応について十分説明します。同意が得られ接種を希望するお客様には、安全に接種が受けられるよう配慮します。
また、定期的に活動しているボランティアや頻繁にご面会に来られるご家族にも同様の対応をお願いします。
【発生時の対応】
施設内の感染対策委員会で策定された、行動計画(実際に発生した際の具体的な対策)に従って、平素から発生を想定した一定の訓練を行っておくことが必要です。
特に関係機関との連携が重要であることから、日頃から保健所、協力医療機関、都道府県担当部局等と連携体制を構築しておくことが重要です。
レジオネラ(レジオネラ症)
【特徴】
レジオネラ症は、レジオネラ属の細菌によっておこる感染症です。レジオネラは自然界の土壌に生息し、レジオネラによって汚染された空調冷却塔水などにより飛散したエアロゾル(※)を吸入することで感染します。
※エアロゾル:気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子。
その他、施設内における感染源として多いのは、循環式浴槽水、加湿器の水、給水・給湯水等です。
レジオネラによる感染症には、急激に重症となって死亡する場合もあるレジオネラ肺炎と、数日で自然治癒するポンティアック熱とがあります。
【平常時の対応】
レジオネラが増殖しないように、施設・設備の管理(点検・清掃・消毒)を徹底することが必要です。
毎日完全に湯を入れ換える施設では毎日清掃し、1カ月に1回以上消毒することが必要です。消毒には塩素消毒剤を使い、浴槽の壁面、底面に噴霧し一定の時間放置したのち、出来るだけ熱湯に近い高温のお湯で流します。なお、塩素消毒剤を使用しての消毒の際には換気、マスク着用、手袋使用、清掃用の靴の使用など、十分に配慮した上で行います。
【発生時の対応】
患者が発生した時は、施設・設備の現状を保持したまま速やかに保健所に連絡します。
浴槽が感染源とは限りませんが、感染源である可能性が高いので、浴槽は直ちに使用禁止とすることが必要です。
レジオネラ症は、人から人への感染はありません。
レジオネラ症は、4類感染症で診断後直ちに届け出ることになっています。
肺炎球菌(肺炎、気管支炎など)
【特徴】
肺炎球菌は人の鼻腔や咽頭などに常在し、健康成人でも30~70%は保有して います。しかし、体力の落ちている時や高齢者など、免疫力が低下しているときに病気を引き起こします。
肺炎球菌が引き起こす主な病気としては、肺炎、気管支炎などの呼吸器感染症や副鼻腔炎、中耳炎、髄膜炎などがあります。また、日本においてペニシリン耐性肺炎球菌が増えており、臨床で分離される肺炎球菌の30~50%を占めているといわれています。
【平常時の対応】
肺炎などの病気から身体を守るためには、うがいをすること、手を洗うことが大切です。感染経路としては、飛沫感染が主ですが、接触感染などもあります。介護施設などでは、インフルエンザウイルスなどの感染時に二次感染する頻度が高くなっています。
慢性心疾患、慢性呼吸器疾患、糖尿病等の基礎疾患を有するお客様は、肺炎球菌感染のハイリスク群です。ハイリスク群であるお客様には、重症感染予防として肺炎球菌ワクチンの接種(ご利用者の希望、自費にて施行)が有効です。
【発生時の対応】
標準的予防措置(策)(※3頁参照)で対応します。手洗い・手指消毒の徹底やうがいの励行が必要です。
ペニシリン耐性肺炎球菌感染症は、5類感染症であり、定点医療機関から保健所へ月単位で報告することになっています。
ノロウイルス(感染性胃腸炎)
【特徴】
ノロウイルスは、冬季の感染性胃腸炎の主要な原因となるウイルスで、集団感染を起こすことがあります。ノーウォークウイルスや小型球形ウイルスと呼ばれていましたが、2002年にノロウイルスと命名されました。ノロウイルスの感染は、ほとんどが経口感染で、主に汚染された貝類(カキなどの二枚貝)を、生あるいは十分加熱調理しないで食べた場合に感染します。(なお、ノロウイルスは調理の過程で85℃以上1分間の加熱を行えば感染性はなくなるとされています。)
介護施設においては、お客様の便や嘔吐物に触れた手指で取り扱う食品などを介して、二次感染を起こす場合が多くなっています。特に、おむつや嘔吐物の処理には注意が必要です。
主症状は、吐き気、嘔吐、腹痛、下痢で、通常は1~2日続いた後、治癒します。
【平常時の対応】
ご利用者・ご入居者の便や嘔吐物などを処理するときは、使い捨て手袋を着用することが必要です。
おむつの処理も同様です。嘔吐の場合には、広がりやすいのでさらに注意しましょう。
(附録 嘔吐物処理手順 参照)
介助前後・配膳前・食事介助時には必ず手を洗いましょう。手袋を脱いだときも必ず手を洗いましょう。
【発生時の対応】
「感染症発生時の対応」の「行政への報告」の項を参照してください。
感染性胃腸炎は5類定点把握疾患で、定点医療機関から保健所へ週単位で報告することになっています。
腸管出血性大腸菌(腸管出血性大腸菌感染症)
【特徴】
O157は、腸管出血性大腸菌の一種です。大腸菌自体は人間の腸内に普通に存在し殆どは無害ですが、中には下痢を起こす原因となる大腸菌がいます。これを病原性大腸菌といいます。このうち、特に出血を伴う腸炎などを引き起こすのが、腸管出血性大腸菌です。
腸管出血性大腸菌は、人の腸内に存在している大腸菌と性状は同じですが、ベロ毒素を産生するのが特徴です。ベロ毒素産生菌は、O157が最も多いですが、O26、O111などの型もあります。感染が成立する菌量は約100個と言われており平均3~5日の潜伏期で発症し、水様性便が続いたあと、激しい腹痛と血便となります。
【平常時の対応】
少量の菌量で感染するため、高齢者が集団生活する場では二次感染を防ぐ必要があります。感染予防のために、
【平常時の対応】
感染は、手指を介しておこることが多いため、接触感染に注意することが必要です。使用した物品(汚染されたおむつ、ティッシュペーパー、清拭布など)を取り扱った後は、手洗いと手指消毒の徹底が必要です。
【発生時の対応】
褥瘡・創部などから緑膿菌が検出された場合には、周囲に拡散しないように努める必要 があります。
介護・看護の後は、手指消毒が必要です。感染者のリネン類は、他のものと別にして洗濯することが必要です。
薬剤耐性緑膿菌感染症は5類全数把握疾患であり、診断した医師から 保健所へ月単位で報告することになっています。
疥癬虫(疥癬)
【特徴】
疥癬は、ダニの一種であるヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)が皮膚に寄生することで発生する皮膚病で、腹部、胸部、大腿内側などに激しいかゆみを伴う感染症です。直接的な接触感染の他に、衣類やリネン類などから間接的に感染する例もあります。また、性感染症の1つにも入れられています。疥癬の病型には通常の疥癬と重症の疥癬(通称「痂皮型疥癬」、ノルウェー疥癬ともいわれ る)があります。痂皮型疥癬の感染力は強く、集団感染を起こす可能性があります。通常の疥癬は、本人に適切な治療がなされれば過剰な対応は必要ありません。
疥癬虫は皮膚から離れると比較的短時間で死滅します。また、熱に弱く、50℃、10分間で死滅します。
【平常時の対応】
疥癬の予防のためには、早期発見に努め、適切な治療を行うことが必要です。疥癬が疑われる場合はクロタミン軟膏を塗布し、医師の診察を受けましょう。衣類やリネン類は熱水での洗濯が必要です。ダニを駆除する為、布団等も定期的に日光消毒もしくは乾燥させましょう。
職員の感染予防としては、手洗いを励行することが大切です。
【発生時の対応】
痂皮型疥癬の場合は、施設内集団発生することがあり、以下のような対応が必要です。個室管理する必要があります。介護職員がサービスする際には、ガウン、使い捨て手袋等を着用し、ケア後は石けんと流水で手を洗わなければなりません。衣類、リネン類は、毎日交換し、熱水洗濯機で洗濯します。
トイレの便座はアルコール含浸綿により清拭します。居室の清掃は、湿式清掃を行います(ほこりを舞い上げないことが基本)。
まとめ
新型コロナウイルスの感染原因は、接触感染・飛沫感染が経路となると言われています。
- 人の咳やくしゃみを浴びない
- 複数の人が触れるような蛇口・ドアノブや自分の衣類・顔・髪等を触った手で目や口、鼻に触れないことを徹底する
ことが感染予防には重要になります。
介護現場においては、お互いがマスクを着用して飛沫感染を防ぎ、手袋・ガウンを着用した上で、手洗い・手指消毒を徹底することにより感染を防ぐことができると言われています。
基本に忠実に行うことで予防出来ますので、引き続き気を引き締めて業務にあたるように互いの声がけをされて下さい。