フレイルとは、年齢を重ねることで心身が衰えてきた状態を指す言葉です。フレイルの状態をそのまま放置していると要介護状態になってしまったり、死亡率の上昇を招いたりすることもあります。
本記事ではフレイルかどうかを判断する方法、またフレイルになりやすい環境や予防する方法について解説します。介護サービスを提供する際の利用者さんの介護予防やアドバイスにお役立てください。
フレイルとは加齢により心身が衰えた状態のこと
英語のfrailtyを語源とするフレイルとは、加齢によって心身が衰えた状態を指します。語源となったfrailtyは「か弱さ」や「こわれやすさ」、あるいは「老衰」などと訳される言葉です。しかし、日本語で用いられるフレイルにはこれらの意味に加えて、「正しく対応することで元に戻れる」というニュアンスが含まれています。
つまり、加齢からくる衰えによって心身が弱ってはいるものの、早めに気付いて正しい処置を施すことによって、元の健康な状態に戻れるのがフレイルです。ただし、フレイルに気付かないときや適切な対応をしなかったときは、心身の衰えが進んで要介護状態にいたってしまうことがあります。
フレイルになるとどうなる?
フレイルの状態になると身体能力が低下し、要介護状態にいたることもあります。また「病気になりやすくなる」、「ストレスへの耐性が低くなる」などにより、死亡率が上昇してしまうこともあるでしょう。
たとえば風邪にかかったとしても、心身ともに特に問題のない人であれば、数日間で元どおりの健康な状態に戻ります。しかし、フレイルに陥っている人の場合は、風邪が長引いて肺炎など別の病気を発症したり、体の動きが緩慢になって転倒などの際に体を支えられずに骨折したりすることがあるのです。
病気やケガの程度によっては入院することになりますが、環境の変化に対応できず、より深刻な状態に陥ったり、場合によっては寝たきりになったりするかもしれません。
サルコペニアとは?
フレイルと混同されることがある状態のひとつに、サルコペニアがあります。サルコペニアはフレイルと同様、加齢に伴って生じる状態です。しかし、心身全体の状態を示すフレイルとは異なり、サルコペニアは主に骨格筋量と骨格筋力の低下を指します。
筋力の衰えから、転倒の原因になることも珍しくありません。転倒によって怪我をして入院することになったり、状況によっては寝たきりになってしまったりすることもあるので、フレイルと同様に予防を心掛けることが大切です。
ロコモティブシンドロームとは?
ロコモティブシンドロームも、フレイルと混同されることがある状態です。「ロコモ」と略称で呼ばれることもあります。
ロコモティブシンドロームとは、骨や筋肉、関節などに問題が生じ、立つことや歩くことが難しくなった状態です。体が動かしにくくなるため、自然と運動量が減り、要介護状態にいたることも考えられます。
フレイルの特徴と判断基準
フレイルには統一された判断基準がなく、米国のリンダ・フリードという先生が提唱したCHS基準(the Cardiovascular Health. Study)を基準とした日本版CHS基準(J-CHS基準)を用いて判断することが一般的です。たとえばCHS基準では、以下の項目のうち3つ以上に当てはまるとフレイル、1つあるいは2つに当てはまるとフレイルの予兆としての段階であるプレフレイルと判断します。
- ダイエットなどをしたわけではないのに1年間で4.5kg以上、あるいは5%以上の体重減少が起こった
- 疲れやすく、何をするのも面倒だと感じる日が1週間のうち3~4日以上ある
- 歩く速度が遅くなった
- 握力が下がった
- 活動量が減った
また、J-CHS基準の場合は、以下の項目のうち3つ以上に当てはまるとフレイル、1つあるいは2つに当てはまるときはプレフレイルです。
- 6ヶ月の間に2~3㎏以上の体重減少が起こった
- 握力が28㎏未満の男性、18㎏未満の女性
- 最近2週間を振り返ると、特に理由はないのに疲れていたような気がする
- 普段の歩行速度が1秒あたり1.0m未満である
- 軽い運動や体操、定期的な運動を週に1回もしていない
それぞれの項目について詳しく見ていきましょう。
特にダイエットをしているわけでもないのに体重が減った
食事制限をしたときや大きな病気をしたとき、体重が減るのは不思議なことではありません。しかし、特に理由もなく体重が減ってきているときは、フレイルの可能性があります。
週の半分は動くのが面倒だと感じる
大きなイベントに参加したり、激しい運動をしたりしたことなどによる疲労で、少しの間動きたくないと感じるのは当然のことです。しかし、週の半分以上も何もしたくないと感じるのは、もしかしたらフレイルなのかもしれません。また、何か特別なことをしたわけでもないのに疲れを感じるときも、フレイルの可能性を疑う必要があるでしょう。
歩く速度が遅くなった
元々は歩くのが遅いわけではないのに、「最近家族と一緒に歩くときも遅れ気味である」、あるいは「ついていくのがしんどい」と感じるときは、フレイルの可能性を疑うべきでしょう。人にもよりますが、1秒に1m未満程度がフレイルやプレフレイルの基準です。
握力が低下した
フレイルになってしまうと、握力の低下を招くことがあります。「力を入れようと思ってもしっかりと握れないことがある」、「握る力が弱い」と自分自身で感じるときは、もしかしたらフレイルなのかもしれません。
運動することが減った
元々運動習慣がない人は体力が衰えやすく、フレイルになりやすいといわれています。また、以前と比べると活動量が減った人、あるいは動きたいという気持ちが起こらない人も、フレイルの可能性があるでしょう。
フレイルの状態を生み出す要因
フレイルは老化によって引き起こされる状態ですが、生活習慣が原因になることもあります。主な要因としては次の3つが挙げられるでしょう。
- 運動量の低下
- 筋肉量の低下
- 社会的な繋がりの減少
それぞれどのような状態なのかを詳しく解説します。
運動量の低下
運動量が低下すると、フレイルに近づくことがあります。たとえば仕事を辞めると、意識的に動かないと運動量が減ってしまいます。普段どおりの運動量を確保するためにも散歩をしたり外出したりと、意識的にアクティブな活動を行うべきでしょう。
また運動量が低下すると、気持ちが落ち込む、運動が面倒になるなどの悪循環を生みます。さらにフレイルへと近づくことになるので注意が必要です。
筋肉量の低下
筋肉量が低下したサルコペニアの状態になると、動きづらくなったり疲れやすくなったりすることがあります。動くことがおっくうになり、さらに運動量が減ることもあるでしょう。
社会的な繋がりの減少
社会的な繋がりが減少することも、フレイルの原因です。出かける用事が減るため、つい家のなかにこもりがちになり、筋肉量や運動量の低下を招くことがあります。
また、社会的な繋がりが減ると人付き合いがおっくうになり、人と関わりたい、話したいという気持ちが衰退するかもしれません。さらに社会的な繋がりが減るなどの悪循環を生むこともあります。
フレイルを予防する方法
加齢を止めることはできませんが、フレイルは予防することができます。主な予防方法としては次の3つが挙げられるでしょう。
- 持病のコントロールと感染症予防
- 運動と食事を意識する
- 社会的な繋がりを持つ
それぞれについて具体的な例を挙げて解説します。
持病のコントロールと感染症予防
持病がある場合は、悪化させないように治療することが大切です。定期的に医師の診断を受け、常に体の状態を把握しておくことでフレイル予防を目指します。
また予防接種やうがい、手洗いなどの感染症予防も大切です。高齢になると免疫力が落ちやすくなるため、若いときと比べるとインフルエンザなどにかかりやすくなります。適切な予防活動をすることで、病気にかかりにくい状態にしておくこともフレイル予防のポイントです。
運動と食事を意識する
適度な運動をすることで、フレイルを予防することができます。とはいえ急に運動をすると、かえって疲れてしまったりケガをしたりするかもしれません。運動習慣を身につけて、毎日体を動かすことを意識します。日光に当たることも意識しましょう。ビタミンDが形成され、カルシウムの吸収を良くします。
バランスの良い食事を摂ることも大切です。糖尿病などの生活習慣病を予防するためにカロリーをコントロールすることも大切ですが、栄養分を控えすぎて低栄養状態になってしまうのでは健康的とはいえません。魚や肉、卵、大豆などのタンパク質をたっぷり摂り、野菜、海藻類、芋類、果物などをバランスよく食べ、フレイル高齢者にならないように予防活動を進めます。
また、しっかりと食べるためには口腔ケアが必要です。歯科クリニックで定期的に口腔内をチェックしてもらい、問題があれば早めに治療を受けることもフレイル予防のひとつです。
社会的な繋がりを持つ
社会的な繋がりが減ると、フレイル状態に陥りやすくなります。友人と出かける、サークルや町内会の活動を積極的に行うなどにより、社会的な繋がりを作ることが大切です。
社会参加をすることで運動量を増やせるだけではなく、脳を刺激することにもなるでしょう。いつまでもアクティブに活動するためにも、意識的に社会的な繋がりを構築することが必要です。
介護職員として利用者さんのフレイル予防に努めよう
フレイルは日常生活において予防することが可能です。バランスの取れた食生活や運動習慣、そして社会参加を意識的に心掛けることで利用者さんのフレイル対策を進めていきましょう。
もしもフレイルになったとしても、生活習慣などの見直しによって健康な状態に戻れることがあります。
そのためにも、早めの気付きが重要です。紹介した5つの項目を定期的にチェックする、持病の治療をする、感染症予防に取り組むなどにより、利用者さんの健康を増進していくことが重要です。