数年前から利用者や家族等による介護職員等によるハラスメントが問題になっています。令和3年介護報酬改定により、「介護職員の処遇改善や職場環境の改善に向けた取組の推進」として、「全ての介護サービス事業者に、適切なハラスメント対策が規定」が明記されました。利用者や家族による介護職員等に対するハラスメントが、様々な疾患や離職の原因になることがあります。
今回は、『アンケートの職員の声も踏まえ、施設・事業所のハラスメント対応に必要なことは何か』をご紹介します。今後の皆さんの職場の『カスタマーハラスメントの対策』にご活用頂ければ幸いです。
目次
これまでに受けた介護現場で受けたハラスメント
石川県ホームヘルパー協議会会員、非会員に対し、アンケート『令和2年度石川県ホームヘルパー協議会~働きやすい職場って?~』 を実施しました。そこで、「どんなハラスメントを受けたことがありますか?」といった質問に対し、いただいた回答をご紹介します。
身体的暴力
身体的な力を使って危害を及ぼす行為。
- オムツ交換時、嫌がり引っ掛かれるなど、介護抵抗による暴力。
- 殴られる、叩かれる、引っかかれる。
- 物を投げてくる。
- 服を引っ張る。
- 認知症の方で、サービス提供を拒否され、「帰りなさい」「まだいるんですか」と手が出る。
精神的暴力
個人の尊厳や人格を言葉や態度によって傷つけたり、おとしめたりする行為。
- 言葉の内容や、態度に対して感じる。
- 話し掛けても返事なし。聞いたりすると、乱暴な返事。
- 暴言(もう来なくていい、帰れなど)。
- やる気をなくすような事をよく言われる。
- 怒鳴られる。
- 屈辱。
- 大声を出す。
- 人格を否定する発言をされる。
- 無視をされる。
- 責められる。
- 理不尽な事を言われる(出来ないサービスを説明しても聞き入れてくれない)。
- 仕事をしている様子をじっと見ている。無言の圧力。細かくチェックし、後日苦情の電話が掛かってくる。
- バカ、頭悪いと言われ、他のヘルパーと比べる。
- 太っているねなど体型や顔の事を言われ、見た目で判断される。
- 要望が多く、対応に困る。
- 他の事業所と比べる。
- 見下すような言い方をされる。
- 理不尽な事や過大なサービスが求める、1対1の対人サービスでは逃げられない状況での利用者の方からのハラスメントは度々あるが、それは自分のサービス時の利用者の方との関わり方が問題なのかもしれない。
- サービスを拒否される。
- サービスと関係ない個人情報を含めた会話。
- 家族分の調理を多めに準備を依頼される。
- 利用者の言葉をうのみし、家族から非難される。
セクシャルハラスメント
意に添わない性的誘いかけ、好意的態度の要求等、性的ないやがらせ行為。
- 入浴中に自分の陰部を触り見せてくる。
- 身体を触られる。
- 性的発言。
- 入浴中等に理不尽なサービスを要求してくる。
- 腰に手を回される。
- 卑猥な言葉を言われる。
パワーハラスメント
- 賃金の格差。
- 報連相がない。
- 冷たくされるなど、態度が他の人と違う。
- 残業する者は能力がないからだ。仕事をどれだけ頑張っても良いことはないぞ、等の暴言、圧力、差別。
- 仕事内容の伝え方がしっかりとされてない。
- 怒鳴る。
- 困難ケースということでケアプラン立たず、とりあえず、サービスしてほしいと言われる。
- 細かすぎるケアを要求される。
- 訪問先であったことをケアマネに伝えたが、いちいち騒ぐなと言われた。
厚生労働省の調査でも、施設介護の場合は、特に身体的暴力の比率が高く、訪問系のサービスでは、精神的暴力の比率が高くなっています。石川県ホームヘルパー協議会のアンケートのハラスメントの実態からも、訪問介護においての現状が理解出来ます。
施設・事業所のハラスメント対応に必要なことは何か
1でご紹介した事例を踏まえても、施設・事業所の対応体制整備が必要です。
対応が必要なハラスメントを明確にして職員に周知すること
施設・事業所で対抗措置が必要なハラスメントとは?
- セクハラ:性的暴行、性的嫌がらせ、性的暴言、
- カスハラ:怒鳴る、人格を否定するような暴言、暴行(叩く、小突くなど)
誰の行為にどのような対応ができるか?
- 家族のハラスメント行為➡対抗しやすいです。
- 認知症が無い責任能力がある利用者のハラスメント行為➡やや対抗しにくいです。
- 認知症がある責任能力が無い利用者のハラスメント行為➡対抗しにくいです。
サービス提供拒否ができるハラスメント行為とは?(介護保険制度上の問題)
どのようなハラスメント行為かによって大きく異なります。
- 刑法に抵触する行為(犯罪行為、こちらに被害がなくても対抗できる)
刑事責任を問える相手であれば直ちにサービス提供拒否が出来ます。 - 不法行為となる行為(相手の行為によって職員に被害が生じている場合)
損害の賠償請求とセットでサービス提供を拒否出来ます。 - 契約違反となる行為
一定の猶予期間を与えて改善を促し改善されなければサービス提供拒否は可能ですが、あらかじめ契約書へ記載し、契約時に説明と同意が必要になります。
1.~3.においても利用者が事業所等のサービス提供拒否による不利益とならないよう、他の事業者へのサービス継承手続きが必要になります。
施設・事業所で対抗措置が必要なハラスメント行為
- 相手の行為が違法行為である時(違法行為:刑法や条例などに違反する行為)
- 相手の行為が不法行為である時(他人の権利を侵害する行為=不法行為責任による賠償責任)
- 相手の行為が債務不履行である時(債務不履行:契約違反に該当する行為=契約違反(債務不履行)による契約解除と賠償請求)
まとめ
以前も介護事故から過度な訪問介護サービスなどのカスタマーハラスメントを受けた訪問介護事業所の管理者から、
「私、今回の件で…正直、本当にこの仕事が虚しくかんじて…体重も減るし、頭痛もするし、よく眠れないし…身体壊してまで、何でこんなに言われなきゃならないのかと…今、問題視されている、介護保険が浸透したことによるハラスメントに近いのでは…離職者出るのも仕方ない業界ですよね。
医療だと、みんな有難がるのに…虚しすぎるしかも、ヘルパーは一番地位が低い本人には痛い思いして可哀想なことしたなと、頑張っていたのですが…夫がまともな人なら、もっと支えてあげたかったことが、心にひっかかり…報われない仕事に…本当に辛いです。ケアマネがうちなので、家族に以後、責められないかと、心配で…精神的に疲れました。少しずつ、フェードアウトするのが良かったのか…何が最善だったのかわかりません。」
とLINE頂きました。
皆さんの施設・事業所もハラスメントにより、このような残念な結果にならないように職場環境改善にご活用下さい。