介護現場のカスタマーハラスメントの対策②

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介護現場のカスタマーハラスメントの対策②

数年前から問題になっている利用者やご家族から介護職員等へのハラスメントは、認知症や精神疾患からこのような言動をされる利用者もおられ、全てを加害行為とすべきでないとはいえ、適切なサービス提供のためにもハラスメントを防ぐ対策は必要です。

人材確保が困難な中、職員の適切な職場環境を守り、常に利用者への質の高いサービスを提供するためには、ハラスメントを防ぐ環境整備と共に、起きてしまった場合に放置せずに、速やかに対応することが重要になってきます。

今回は『犯罪行為・違法行為となるカスタマーハラスメントと対抗措置』をご紹介します。今後の皆さんの職場の『カスタマーハラスメントの対策』にご活用頂ければ幸いです。

犯罪行為となるカスタマーハラスメントとは

カスタマーハラスメントは、下記の法律にも該当すると理解しましょう。

  • 暴行罪(刑法第208条)暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
  • 傷害罪(刑法第204条)人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。〇逮捕・監禁罪(刑法第220条)不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。
  • 強要罪(刑法第223条) 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。
  • 脅迫罪(刑法第222条)生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。
  • 恐喝罪(刑法第249)人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する(財物恐喝罪)〇不退去罪(刑法第130条)正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。
  • 名誉棄損罪(刑法第230条)公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
  • 侮辱罪(刑法第231条)事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
  • 威力業務妨害罪(刑法第234条)威力を用いて人の業務を妨害した者は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する

違法行為となるハラスメントとは

違法行為1:暴言・暴力などのカスタマーハラスメント

  • 暴行罪:殴る蹴るなどの暴力行為の他にも、頭を小突く、襟首をつかむなど
  • 傷害罪:暴行の結果傷害を負わせた場合
  • 監禁罪:脅して帰れなくしたような場合
  • 強要罪:無理矢理土下座させて謝らせる
  • 脅迫罪:「お前ぶっ殺してやる」と言葉で脅す。PTSDになれば傷害罪
  • 恐喝罪:脅迫して金品を提供させる。
  • 不退去罪:「帰って下さい」と何度言っても居座る
  • 名誉棄損罪:公の場で人を誹謗中傷する
  • 侮辱罪:人を侮辱して精神的苦痛を与える
  • 威力業務妨害罪:1日に何度も電話でクレームを言ってくる(判例は1日14回)

違法行為2:わいせつ行為などのセクシュアルハラスメント

■刑法に抵触する行為

  • 強制わいせつ罪:暴行・脅迫を用いて性交等に至らないわいせつ行為を行う
    ※わいせつ行為とは:普通人の性的羞恥心を害する行為
    衣服の中に手を差し込んで身体に触れる、衣服の上から陰部を触る、長時間にわたって身体を触り続ける、むりやりにキスをする、衣服を脱がせる
  • 強制性交等罪:暴行・脅迫を用いて, 性交,肛門性交,口腔性交をする
  • 准強制わいせつ罪:暴行・脅迫を用いないで性交等に至らないわいせつ行為を行う
  • 准強制性交等罪:暴行・脅迫を用いないで, 性交,肛門性交,口腔性交をする

■条例に違反する行為〇東京都迷惑行為防止条例 第5条(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)

何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。

  1. 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
  2. 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。

    イ住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
    ロ公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
  3. 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

条例に違反する行為については、皆さんの地域の条例を確認して下さい。

■不法行為︓他人の権利を侵害する行為(故意または過失によって損害を与える)
■暴行により相手にケガを負わせるなど

刑法の暴行傷害罪となると同時に民法上の不法行為責任によって損害賠償義務が生じます。同様に、わいせつ行為も精神的苦痛を与えれば損害賠償義務が生じます。パワハラでも精神的苦痛を理由に賠償請求が認められています。

  • 暴言を吐いて精神的苦痛を与える→損害賠償=慰謝料
  • 人格を否定するような暴言によって心的苦痛を与える

民法709条(不法行為責任)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は,これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

■債務不履行:契約違反に該当する行為
■故意または過失によって契約の相手方に損害を与えた場合
■不誠実な行為によって、信義誠実の原則に違反して契約の履行が難しくなった場合など
(信義則上の義務違反)

民法第415条 (債務不履行)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。

対抗措置の種類とは

行政や弁護士等にも相談しながら、必要な場合は大切な職員を守るために対抗措置を講じましょう。

違法行為:刑事告訴など

刑事告訴を行い相手に罰則を科すことができます。緊急を要する場合には警察力の行使を請求できます。違法行為による損害も賠償請求ができます。

不法行為:賠償請求

違法行為には当たらない行為によって損害を被った場合は、不法行為責任として賠償請求ができる。賠償に応じない場合は民事裁判となります。

債務不履行:契約解除と賠償請求

契約解除:契約相手の行為が債務不履行に当たる場合は、一方的に契約を破棄して解除ができます。
賠償請求:契約相手の債務不履行の行為によって生じた損害賠償請求できます。

※契約上の債務不履行責任は、不法行為責任よりも幅も広く責任が重いです。

対抗措置の手順をルール化しておく

対抗措置を講じるにも明確な証拠がないと難しいです。職員にもその手順を周知しておきましょう。

事実確認と客観的で正確な記録

被害事実を正確に第三者がわかる言葉で記録しましょう。

〇施設・事業所の記録は、不正確であれば刑事告訴や賠償請求などの法的な手段が一切できません。
〇正確な記録のために必要なこと

■職員は被害を受けた直後に相手の行為や暴言などをメモしておきましょう。
■事業所の正式な報告書で細部にわたって正確に報告書を作成しましょう。
■報告書はボールペンで書きましょう。
■言葉は全て直接話法で記述しましょう。
■わいせつ行為など表現しにくい行為も赤裸々に書きましょう。
■登場人物は実名で書きましょう。
ハラスメント予想される場合は録音しましょう。
・訪問先でのハラスメントが予想される場合は、ICレコーダーを持参して録音しましょう。
・レコーダーがなければ個人のスマホでも良いです。

対抗手段の検討

相手の行為により効果的な対抗手段を検討しましょう。

〇刑法に抵触する行為(犯罪行為)の場合
刑法に抵触する行為であれば被害拡大のための相手の排除が必要になるので、110番通報し現行犯逮捕を要請することもあり得ます。職員がわいせつ行為を受けた旨事業所に報告があれば、警察に刑事告訴を行う前提で相談に行きましょう。

〇不法行為に該当する場合
賠償請求を行う用意があることを相手方に通知し、まずはハラスメント行為の改善を要求する。改善に応じなければ、賠償請求を行いましょう。

〇債務不履行の場合
損害が発生していれば賠償請求の用意があることを通知して、改善を要求しましょう。できれば、弁護士に相談して、相談した事実を相手に伝えましょう。

対抗措置の手順

対抗措置

  1. 警告
    被害事実や犯罪事実を指摘して、中止するように要求しましょう。中止しない場合は、刑事告訴や賠償請求などの法的な措置を執る旨、警告しましょう。通知は内容証明郵便を使いましょう。
  2. 法的手段の準備
    弁護士や警察に相談して、こちらの主張の正当性を確認し、相談したことを相手に伝えましょう。
    ・弁護士への相談:法的な正当性を相手に伝えるために、弁護士に確認しましょう。
    ・警察への相談:警察に行き相手の行為が犯罪であると確認し、刑事告訴の方法を相談しましょう。
    ・介護保険課:法的手段を執った時、苦情申立などが行くので事前に報告しておきましょう。
  3. 法的手段の執行を通知
    日時を明示して法的手段を執る旨を内容証明郵便で送付しましょう。
  4. 法的手段の執行
    警察への刑事告訴や賠償請求訴訟を起こす場合は、下記に留意しましょう。

■介護保険制度や福祉の制約
➡介護保険制度では、サービス提供拒否は正当な理由がなくできません。
➡福祉サービスでは利用者は援助の対象であり、不当な行為でも対抗手段が限られます。

〇家族の場合:家族はサービス提供の対象ではないため、不当な行為があれば通常の契約拒否と同様に対応できます。
〇認知症のない利用者の場合:認知症がなくてもサービス提供の対象者は、援助と処罰の両者を検討せざるを得ません。
〇認知症がある利用者の場合:認知症のために責任能力が無い人であれば、法的責任は問えないので、他の措置を執ります。

契約解除の際には、事前に契約書にその具体的な内容の記載、説明と同意も必要です。

まとめ

カスタマーハラスメントで、対抗措置をとる場合においては、ケアマネジャーや行政に事前にご相談されておくと、後で、ご家族等からケアマネジャーや行政に苦情を言われた場合にも、相談しながらご対応が出来ます。介護サービスを受けておられる利用者やご家族に不利益と感じられることがない対応は、今後の他の利用者への対応にも必要になります。

皆さんの施設・事業所の日頃の教育もカスタマーハラスメント防止には重要ですので、小さなことも声があがる対策も講じて下さい。

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