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介護老人保健施設(老健)とは
介護老人保健施設(老健)とは、在宅復帰を目指して入所する施設です。医療的ケアやリハビリテーションを必要とする要介護の高齢者が入所しています。食事、入浴、排泄、着替えといった日常生活における介護サービスを受けながら、医師や看護師による医療ケアと理学療法士や作業療法士、言語聴覚士によるリハビリテーションを受ける点が特徴です。
医療提供施設であるため、医師の常駐が義務付けられています。運営主体は、医療法人や社会福祉法人が大半です。あくまで在宅復帰を目指すための一時的な入所施設であるため、3ヶ月以内での退所もしくは入所継続の評価が行われます。
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)との違い
介護老人福祉施設(以下、特別養護老人ホーム)とは、位置づけが明確に異なります。特別養護老人ホームは、著しい心身の障害があり在宅生活が困難な方向けの入所施設です。そのため日常生活における介護が中心となり、在宅復帰を前提としたリハビリテーションメインの介護老人保健施設とは大きく異なります。平均在所日数も、特別養護老人ホームは約4年と長いですが、介護老人保健施設は約10ヶ月となっています。
ただし実際の使われ方として、特別養護老人ホームに入居を希望する方が空きを待つために介護老人保健施設が一時的に利用されているケースもあります。
介護療養型老人保健施設との違い
介護療養型老人保健施設という、似た名称のサービスもあります。平成20年5月に創設されました。夜間の医療ケアや看取り、日常的に医療的ケアが必要な方の急性増悪時の対応を行うためのサービスです。看護職員6:1、介護職員6:1、夜勤を行う看護職員は41:1以上の人員配置が義務付けられています。平成30年4月に創設された介護医療院へと転換する介護療養型老人保健施設も多くなっています。
介護老人保健施設(老健)の種類と特徴
介護老人保健施設は特別養護老人ホーム、介護医療院と並ぶ介護保険における介護施設のひとつです。介護老人保健施設の居室の種類と実施しているサービスについて説明します。
居室の種類
居室には、大きく分けて従来型とユニット型があります。
従来型
従来型は、リビングスペースが居室空間とは別に配置されているタイプです。施設全体がひとつの集団として生活するスタイルで、スタッフごとに担当の利用者さんは固定されていません。
利用者さん1名につきひとつの部屋がある個室と、ひとつの部屋に複数名入る多床室があります。
ユニット型
ユニット型は、リビングスペースを囲むように個室や準個室が配置されているタイプです。1グループおおむね10人以下のグループで協同生活するスタイルで、決まったスタッフが各グループのケアを行います。
利用者さん1名につきひとつの個室があるユニット型個室と、部屋の中に間仕切りがあるユニット型個室的多床室(旧名:ユニット型準個室)があります。
少人数のグループで決まったスタッフがケアを行うユニット型介護老人保健施設は人気があり、近年、施設数が増える傾向にあります。
併設サービス
介護老人保健施設によっては、複数の併設サービスを提供しているところもあります。訪問リハビリテーションでは、在宅療養している方の自宅にうかがってリハビリテーションを実施します。またショートステイを併設し短期的な在宅サポートを行っていることもあります。加えて、認知症のある方を対象とした認知症専門棟を持っている施設もあります。
短期入所(ショートステイ)
短期入所には、日常生活上の介護を中心に行う短期入所生活介護と、医療的なケアや機能訓練に重きをおく短期入所療養介護があります。介護老人保健施設は短期入所療養介護を併設していることも多くあります。看護、医学的管理下での環境があり、短期入所療養介護を行うことのできる施設として指定されているためです。
介護老人保健施設の仕事内容
介護老人保健施設では医療、介護分野のさまざまな職種が連携して働きます。各職種の仕事内容、一日の仕事の流れを紹介します。
介護老人保健施設の人員基準
介護老人保健施設の人員基準は次のとおりです。
医師
常勤1名以上、利用者さん100名に対して1名以上
薬剤師
実情に応じた適当数(標準は利用者さん300名に対して1名)
看護・介護職員
利用者さん3人に対して看護・介護職員1以上、看護職員は2/7程度必要
(利用者さん30名であれば、看護職員3名以上、介護職員7名以上必要)
支援相談員
1名以上、利用者さん100名に対して1名以上
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士
利用者さん100名に対して1名以上
栄養士
入所定員100以上の場合、1名以上
介護支援専門員
1名以上(標準は利用者さん100名に対して1名)
調理員・事務員・その他
実情に応じて必要な人数
各職種の仕事内容
医師
利用者さんの健康状態管理のほか、看護職やリハビリテーション専門職への指示を通じた利用者さんの日常生活自立を支援が重要な仕事になります。必要に応じて診断・治療など必要な医療行為を行います。施設の管理者となる場合もあります。
看護師・准看護師
医師の指示のもとに利用者さんへの医療的ケアを行います。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士
医師の指示のもとに利用者さんの心身機能の向上、日常生活自立度の向上のためのリハビリテーションを実施します。利用者さん個別に計画したリハビリテーションの他、日常生活における排泄、食事、入浴、着替えといった動作のアドバイスを行います。
栄養士
献立作成など利用者さんの食生活のコーディネートを行い、栄養状態の管理をします。
薬剤師
医師の指示のもとに利用者さんへの調剤や服薬指導を行います。その他、在庫管理のほか、服薬状況の確認を行います。
介護支援専門員
利用者さんの日常生活自立度の向上、在宅復帰を目指した介護サービス利用のコーディネートを行います。
支援相談員
介護老人保健施設の相談窓口です。利用者さんの受け入れや、日常的な相談、家族からの相談などに応じ、必要なサポートを行います。
介護職
利用者さんの食事、排泄、入浴などの日常生活活動やリハビリテーションの介助、サポートを行います。
一日の仕事の流れ
介護老人保健施設は入所施設であるため、24時間運営されています。看護職員と介護職員の勤務は一般的に、日勤・早番・遅番・夜勤の2~5交替制が取り入れられています。2交代の場合の1日の仕事の流れの例をご紹介します。
6:00 利用者さんの起床後の生活ケア
利用者さんが起床してから洗面、排泄、着替えなどの介助、朝食の準備を行います。
7:00 朝食介助
朝食時の食事介助、片づけをします。
8:30 日勤スタッフ出勤・ミーティング
夜勤スタッフから、夜間の利用者さんの様子の申し送りを受けます。その他、連絡・確認事項など、ミーティングを行います。
8:45 健康チェック、個別リハビリ、レクリエーション、入浴介助
健康チェック実施後、個別リハビリテーションやレクリエーション活動の実施とサポート、入浴介助を行います。随時、排泄介助も行います。
11:30 午前中のケアの記録
利用者さんの午前中の様子、体調の変化などを記載します。昼食準備に入ります。
11:50 嚥下体操の実施
昼食前に口の体操を行います。
12:00 昼食介助
昼食の準備・食事介助・片づけを行います。
12:30 口腔ケア
利用者さんの昼食後の歯磨き介助、口腔ケアを行います。
13:00 個別リハビリ、レクリエーション、入浴介助
個別リハビリテーションやレクリエーション活動の実施とサポート、入浴介助を行います。随時、排泄介助も行います。
15:00 おやつの準備・介助
おやつの準備、介助、片づけを行います。
午後は、個別リハビリテーションやレクリエーション活動の実施、サポートや、入浴介助、夕食の準備・介助・片づけを行います。
17:00 午後のケアの記録・申し送り
利用者さんの午後の様子を記録します。夜勤スタッフへの申し送りを行います。
17:30 日勤スタッフ退勤
日勤スタッフは退勤します。夕食準備に入ります。
18:00 夕食介助
夕食介助、片づけを行います。
18:30 口腔ケア
夕食後の歯磨き介助、口腔ケアを行います。
19:00 就寝準備
パジャマに着替える介助、排泄介助など、就寝準備を行います。利用者さんはテレビ鑑賞など、就寝まで自由時間を過ごされています。
21:00 消灯
消灯後は起床まで、各居室の見回りや排泄介助、ナースコール対応を行います。
介護老人保健施設で働くメリット
介護老人保健施設は医師が常駐しており、利用者さんの方の在宅復帰に向けて医学的なケアやリハビリテーションをメインとして行う施設です。そのため、介護老人保健施設で働くことには、以下のようなメリットがあります。
- 医学的なケアやリハビリテーションに関する知識を学ぶことができる
- 在宅復帰を前提としているため、特別養護老人ホームに比べて介護度の低い利用者さんの方が多く、身体的負担が軽い傾向にある
- 介護老人保健施設の入所定員数は86.2人(平成29年介護サービス施設・事業所調査)であり、多くの症例、利用者に関わることができる
- 毎日のケアやリハビリテーションによって、利用者さんの身体状況や日常生活自立度が改善していく姿を間近で見ることができ、やりがいを感じられる
- 介護職員全体の平均給与額に比べて、介護老人保健施設で働く介護職員の平均給与は高い傾向にある
- 介護職員や看護職員の給与は、夜勤に入ると手当てがつく分高くなる
- 非常勤職員の場合には、求人内容によって日勤のみや短時間勤務という働き方も選択できる
介護老人保健施設での仕事が向いている人
以下のような人は、介護老人保健施設での仕事が向いているといえます。
- 医師、看護師、理学療法士などの医療職と一緒に働くため、医学的な見方やリハビリテーションに関する知識を学び、介護士としてのスキルの幅を広げたい人
- 他職種とコミュニケーションをとり、違った視点の考えも受け入れながら仕事ができる人
- 利用者さんの出入りが多いため、状況に応じて判断し、動くことのできる人
介護老人保健施設は医療的なケアやリハビリテーションを勉強したい人におすすめ
介護老人保健施設は在宅復帰を前提として医療的なケアやリハビリテーションをメインとする施設です。医療的な視点やリハビリテーションに興味がある人、他職種と関わりながら働きたい人、夜勤などの交替勤務に対応できる人におすすめといえるでしょう。