排泄介助を適切な手順で手際よく行うには、どういったポイントを大切にして、どのような介護技術を身につける必要があるのでしょうか。利用者さんごとに状態は違い、そのときの状況によって介助方法や手順は変わってきますが、共通して言えるのは「利用者さんの尊厳を傷つけない」ということです。尊厳を守るためには、できるだけおむつを使わずに自力で排泄をしてもらうことが大切です。これは寝たきりの予防にもつながります。今回は、具体的な排泄介助(トイレ介助)の方法と手順、気をつけたいポイントをそれぞれまとめましたので、参考にしてみてください。
排泄介助(トイレ介助)の基本の手順
利用者さんが失禁してしまうことが増えてきたとしても、安易におむつを使うのではなく、できるだけトイレに行き便座に座ってもらうようにしましょう。そのことが利用者さんの自立(自立心)につながり寝たきりの予防にもつながります。また、移動や立ち座りの際は常に転倒に注意を払いましょう。
トイレまで移動できる場合の介助方法
①誘導
- 安全な移動を妨げるような障害物の有無をチェックする
- 歩行の状態に合わせて手引き歩行や、車椅子を使用するなどの介助をする
- 歩く場合には利用者さんの歩くペースを大切にする
②衣服の脱衣
- 介護者がすべて介助するのではなく、利用者さん本人ができることは本人に任せる
- 職員が介助する際には、利用者さんに手すりをしっかりと持ってもらってから、衣服や下着をおろす
- プライバシーに配慮して手早く介助をする
③便座に座るまでの介助
- 手すりがある場合は、利用者さんに手すりを利き手(または麻痺がない側の手)で握ってもらい、そのあとに座ってもらう
- 転倒に注意する
- 便座に座ったあとには、利用者さんの足が床にしっかりとついているか確認する
④排泄中は外で待機
- 座位を安全に保てる利用者さんであれば、排泄が終わったら呼んでほしい(かけ声やブザーなどを使用して)ことを伝え、介護者はトイレの外で待つ
- 外で待つ際にはトイレの鍵はかけず、ドアを少しだけ開けておき、何かあればすぐに対応できるようにする
- 座位が安定しない方などの場合には、横に付き添い見守りをする
- 横に付き添う際には、下腹部にタオルをかけるなどをしてプライバシーに配慮する
- 介護職員は物音などを立てずに、利用者さんがゆっくりと排泄できるように配慮する
⑤排泄終了の確認(声かけ)
- 排泄が終わったという合図(声かけやブザーなど)を待つ。合図がないようであれば、焦らせないように配慮した声かけを行い状況の確認をする
- トイレで排泄をしているときに瞬間的に力を入れることで、血圧が上昇してめまいなどが起こることもあるので、異常がないかチェックする
- 後に徐脈や血圧低下を起こし、失神にいたることもあるので状態を確認する
⑥清拭
利用者さん本人が自力で清拭ができないときには、職員が素早くケアをする
介助する場合には、利用者さんに手すりをしっかりと握ってもらい腰を浮かせてもらう。姿勢が不安定であれば職員が腰を支える
お尻の清拭は前から後ろに向けて行う
必要であれば陰部の洗浄をする
排泄物や皮膚の状態をさりげなく観察して健康状態を把握する
⑦衣類の着衣
- 利用者さんが自分で衣服を着ることができるのであれば自分でしてもらう
- 職員が介助する場合には、手すりを握って立ってもらいズボンや下着を上げる。姿勢が不安定なときには、介護者は利用者さんの腰などを腕や足を使い支える
⑧排泄後の声かけ
- 利用者さんが自信を持てるような言葉かけをする(失敗なく排泄が上手にできた、排泄物の状態から健康そうであることなど)
ポータブルトイレを使用する場合の介助方法
ポータブルトイレは、「足腰の力が弱くなってきたが短い距離は自分で歩くことができる」「トイレに座って排泄をすることができる」などの利用者さんが利用できます。また、夜にトイレに行きたくなることが多い方や、暗くて危ないことを理由に使うこともあります。
①ポータブルトイレのセッティング
- ポータブルトイレをベッドの側で安全な位置に置きます。
②声掛け・ベッドからの移動介助
- 介助が必要である利用者さんであれば、介護者が体を支えて移乗の介助を行いポータブルトイレへ移動してもらう。
③便座に座るまでの介助
- 衣類や下着を脱衣する介助が必要な利用者さんであれば、ポータブルトイレに向きあうように手すりやひじ掛けを持って立ってもらい(もしくは介護職員の肩につかまってもらう)、その間に脱衣を済ませる。
④排泄中は離れて待機
⑤排泄終了の確認(声かけ)
⑥清拭
⑦衣類の着衣
- 利用者さんに介助者の首に両腕を回してもらい、立っているあいだに下着とズボンを上げる。
⑧排泄後の声かけ
尊厳を守る!排泄介助(トイレ介助)8つのポイント
排泄ケアは利用者さんの尊厳や自立心を損ないやすい一面があり、安全や健康の面でもリスクがあります。下記に紹介しているようなポイントに配慮したトイレ介助の手順を踏むことが大切です。
自尊心に配慮する
尊厳を守るには、「できることは利用者さんにできるかぎり任せる」「介助者は利用者さんの恥ずかしい、情けないといった気持ちを汲み取り、不快感を抱かせてしまう様な態度(表情や視線など)をしない、言葉を発しない」ことが大切になります。これまで、自分でできていた排泄を他人に見られ、だれかに手伝ってもらうことを自ら望んでいる人はいません。介護職員は、利用者さんが自信を持って自立した生活を送ることができるよう、自尊心を傷つけないトイレ介助の手順を検討しましょう。
利用者さんのプライバシーを確保する
トイレ内に手すりをとり付けたり手順を工夫をしたりして、利用者さんが自分でできることを増やし、職員が介助をする機会を減らせるようにしてみましょう。また、ポータブルトイレを使用する際には、カーテンやついたてを利用するといった配慮も必要です。これら以外にも、利用者さんを急かさずタイミングをみながら声かけをする、物音や雰囲気などのサインでトイレ内の様子を把握するなど、プライバシーを大切にした排泄介助を心掛けましょう。
できることは自分でやってもらう(自立を促す)
利用者さんの失禁が増えることで、介助者はおむつの使用を考えてしまうこともあるでしょう。しかし、トイレ介助つきであってもトイレまでの往復や立ち座りは生活機能の維持に役立ちます。安易におむつを使用すると、生活意欲や活動量が低下して、筋力の衰えや寝たきりにつながるリスクが出てきます。介護職員はこれらのリスクについて理解し、利用者さんができるだけ自立した排泄ができるように支援をしましょう。
転倒事故に注意する
歩いて移動をする利用者さんには、転倒への注意が必要です。滑りやすい履物(スリッパや靴下だけ)での移動は避けましょう。また、便座に座るまでしっかりと見守ることも、転倒を予防することにつながります。環境を整えること(段差を解消する、ドアは開きやすい引き戸や外開きにするなど)も転倒予防の対策において重要です。
排泄のサイクルを把握する
排泄のタイミングを知っておくと、トイレへの誘導や排便などがスムーズに行えるようになります。加齢により尿意や便意を感じにくくなっている方もいるのでサインを見逃さないようにしつつ、1日のスケジュールに合わせて定期的に声をかける、時間を見計らって誘うなど、トイレに行く習慣をつけるようにしてみましょう。
利用者さんのペースに合わせる(急かさない)
排泄介助の際に介護職員が気をつけたいポイントは、嫌な表情をしない、排泄を急かさない、失敗しても責めないということです。介護職員にとっても排泄介助は負担がかかるもの(体力的・精神的に)ですが、介助される利用者さんは、羞恥心などの感情を持っていることを理解して、自尊心を傷つけないようにしましょう。排泄がうまくできたときには、明るく成功を一緒に喜ぶという姿勢で介助することが大切です。
おむつを安易に使用しない
安易におむつを使用することは「利用者さんの尊厳を傷つける」「尿意や便意を感じにくくなる」「皮膚が被れやすくなる」「感染症のリスクが高まる」といった事が考えられます。
排泄の基本はトイレですることで、オムツの使用は最後の手段であると考えてください。状態や状況に合わせて尿取りパッド、失禁パンツ、尿器、便器、ポータブルトイレを使い分けることが理想です。
水分の摂取量を制限しない
高齢者には排泄に失敗してしまうと、排泄の頻度を減らそうと水分摂取を控える方がいます。しかし、水分が不足することで脱水症状や便秘、脳梗塞などの原因になってしまうので、そのことを利用者さんにも理解していただき、積極的に水分をとってもらうようにしましょう。そのためにも、排泄の失敗を叱ってしまうようなことは避けてください。
まとめ
排泄介助(トイレ介助)で一番大切になるのは、何よりも利用者さんの尊厳を傷つけないことです。実際にあった例として、「トイレのカーテンを閉めずにトイレ介助を行っていたところ、利用者さんが恥ずかしいから閉めようとして中腰で前かがみになり転倒してしまった」というケースがあります。尊厳と羞恥心への配慮が足りなかったことが事故を招いてしまうこともあります。
日々、介護職員は多くの業務に追われ忙しくなりがちですが、尊厳と自立を大切にしながら、利用者さん一人ひとりに適した排泄方法と手順を選択することが、安全な介助につながると理解しておく必要があるのです。できることは自分でしてもらいながら、自立を妨げることのない排泄介護をしていきましょう。