日本では、死亡率の低下と少子化により高齢化が進んでおり、2025年には65歳以上の高齢者の割合が人口全体の30%を超えると予測されています。こうした背景のなか、厚生労働省は介護サービスの持続可能性を確保しながら、サービスの質を維持・向上させることを目指しています。そのためには既存の業務を見直し、生産性を向上させて介護労働の価値を高めていくことが必要です。
具体的な対策として、介護業界におけるICT(アイシーティー:インフォメーション&コミュニケーションズテクノロジーの略)の導入が有効だと考えられています。そして、2021年にはすべての都道府県でICT導入のための補助金制度が整備されるなど、DX(ディーエックス:デジタルトランスフォーメーションの略)が加速しています。
本記事では介護業界でも注目されているDXの導入メリットや課題、効果的な進め方、導入事例などをわかりやすく解説します。
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介護DXとは?
経済産業省ではDXについて、
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
と定義しています。
介護業界におけるDX(介護DX)とは、スマートフォンやPCなどのデバイスを活用して業務効率の改善を図り、より質の高い介護サービスを提供するための取り組みです。
なお、ICTとは日本語で「情報通信技術」と訳され、インターネットを使ってデジタル情報をやり取りする技術のことです。たとえばスマートフォンやPCなどを活用し、入居者の情報をデータとして管理・共有したり、職員のシフト作成や勤怠管理を行ったりなど、介護分野におけるDXでもこのICTの活用が欠かせません。
介護現場におけるDXの具体例
実際の介護現場では、以下のようなICTを導入することでDXを推進できます。
ICTの例 | 概要と効果 |
---|---|
介護ソフト | 介護記録や帳票作成、シフト作成や勤怠管理など、ITソフトやツールの活用により、データを電子化することで、転記ミスの防止や業務効率の向上などにつながります。 |
データ共有場所の統一化 (クラウド化) |
業務関連の情報をデータ化し、ウェブ上で共有することで、場所や機材に関係なくアクセスできます。このデータは研修などにも活用でき、災害時のデータ消失対策にもなります。 |
グループウェア | スケジュール管理や稟議申請・承認、職員間のコミュニケーションがオンラインで行えます。物理的に離れていても連絡が取れ、履歴から過去のやり取りを確認できます。また、各種申請業務の効率化やタイムカード機能による勤怠管理にも役立ちます。 |
ベッドセンサーカメラ | ベッドやその周辺に機器を設置することで、利用者の状態が確認できます。巡視回数を減らすなど職員の負担を軽減し、その分の時間を別業務に割くことが可能です。 |
インカム | 耳に装着することにより、遠隔で会話ができます。離れていても情報共有できるほか、入居者や利用者の状況を職員全体で注視できるため、事故の防止などにもつながります。 |
情報機器 | スマートフォンやタブレットなどを使うことで、各種システムの利用や、場所を問わず職員間でコミュニケーションを取ることができます。カメラ機能を使えば、利用者の状況を画像で共有することも可能です。 |
このようなICTを活用してDXを推進すれば、職員の業務効率化はもちろん、より質の高い介護サービスの提供が実現できるでしょう。ただし、ICTの導入にはコストが発生するほか、何が必要なのかは現場の状況や課題によって異なります。
下記ではICT機器をどのように活用しているのか事例をまとめています。あわせてご確認ください。
介護DX化のメリットと必要性
介護DX化が現場にもたらすメリットについて、その必要性とともに解説します。
職員の業務効率化
ICTを活用すれば、介護記録やシフト作成、勤怠管理のデジタル化や情報共有の効率化が可能です。
日本では高齢化が進んで介護ニーズが増えているため、限られたリソースで質の高いサービスを提供することが求められます。介護記録の作成やシフト作成、勤怠管理にかかる時間が短縮され、職員が利用者のケアにより多くの時間を費やせるようになるICTの導入が欠かせません。
サービスの質の向上
ICTには利用者の健康状態やケア履歴などのデータを分析できるものもあります。その分析結果をもとに、利用者ごとに最適なケアプランを提供することが可能です。
また、ケアの過程や結果をデータ化して利用者やご家族に共有すれば、どのような介護サービスを提供しているのかを明確に伝えることができます。包み隠さず伝えることで、利用者やご家族との信頼関係の構築にも役立つでしょう。
人手不足の解消への貢献
介護業界では、2040年に約70万人の人手不足が予測されており、深刻な問題となっています。そのため、少ない人員でいかに介護サービスを提供するか、あるいは新たな人材を確保できるかが重要な課題です。
ICTの活用は業務効率化を促進し、この課題の解決に役立つと期待されています。さらに、職場環境の改善により介護職の魅力が高まれば、人材の確保にもつながるでしょう。
科学的介護情報システム(LIFE)への情報提出にかかる負荷軽減
科学的介護情報システム(LIFE)とは、ケアプランや利用者のデータから状態を分析し、これに対して厚生労働省からフィードバックを受けられる仕組みです。
介護記録をデジタル化して適切な介護ソフトと連携させることで、日々の記録やモニタリングから自動的にLIFEデータが生成されます。また、フィードバックデータを業務に活かすことで、介護サービスの質の向上に役立つでしょう。
介護現場におけるDXの課題
介護現場におけるDXは、便利でメリットが多い一方で、課題も存在します。
令和2年に全国の介護関連施設2,500軒を対象にしたアンケートによると、「導入している介護ソフトの利用上の課題」として「パソコンや端末の操作に対する職員の能力差が大きい」といった回答が全体の64%を占めています。
また、同アンケート内の別の設問「施設・事業所で介護ソフトを導入していない理由」の自由記述にも、「パソコンや介護ソフトを扱えないスタッフがいる」など職員側のスキルが不足しているといった回答が見受けられます。このことから、職員のスキルにばらつきがあるという点が介護現場におけるDX化の最大の課題といえるでしょう。
そのほかにも、厚生労働省のアンケート内で「課題と感じていること」の設問に対して下記の回答が集まっています。
- パソコンやソフト、システム等の導入のための費用補助
- 他の事業所の介護ソフトの種類にかかわらず、データ連携ができる環境整備
- 行政と事業所で文書授受するための共通のプラットフォーム
- パソコンやソフト、システム等に精通した人材の確保や派遣の仕組み
- ペーパーレス化のためのシステム(設備)の導入
- ペーパーレスにするためのシステムの選定方法、導入方法についての情報
- 使いやすい介護ソフトの導入
- 利用者や家族の理解・スキル
- ペーパーレス化に対する経営者の理解・法人の方針
引用:ICT導入支援事業 令和3年度 導入効果報告取りまとめ|厚生労働省
DX化に限らず、幅広い年齢層が働く介護現場において、労働環境を変える場合には多少なりとも課題が出てしまうことがありますが、対策についても後述しておりますので、ぜひご覧ください。
介護DXの導入事例と効果
実際の現場でどのように役立っているのか、どのような効果があるのかご紹介いたします。
見守りセンサー付きシステムを導入した事例
愛知県の特別養護老人ホームでの導入事例です。夜間は少数の職員で多くの利用者を見守る必要がありますが、居室を訪問して利用者の状態を確認しており、職員の負荷が高い状態が続いていました。
そこで導入したのが見守りセンサー付きシステムです。6種類のアラート(離床、離床予測、体動、無体動、心拍低下、呼吸低下)が搭載されており、職員はPCや携帯端末でリアルタイムに利用者の状況を確認できます。
このシステムを導入した結果、職員の訪室の回数が減り、身体的・精神的負担が軽減されたことで余裕を持って業務に取り組むことができるようになっています。さらに、利用者の睡眠の質の向上や、利用者の要望への迅速な対応による満足度の向上にもつながっています。
参考:介護ロボット導入活用事例集2022|厚生労働省
勤怠管理システムを導入した事例
株式会社銀水会様の運営する福岡県の小規模多機能型居宅介護・通所介護では、これまでシフト表をエクセルで作成し、出退勤はタイムカードによる打刻で管理していました。
毎月電卓を使って勤務時間を集計し、その後に値を給与ソフトに入力する業務が発生していたため、介護事業者向けクラウド型勤怠管理システム「CWS for Care」を導入。その結果、手作業やファイルのコピー&ペースト時に起こりがちな人的ミスが減り、毎月シフト作成にかけていた8時間程度を削減できました。
クラウド型シフト・勤怠管理サービス「CWS for Care」は、パソコンやタブレットに不慣れな職員が多い施設でもサポート体制が整っていますので安心して導入していただけるシステムです。
より詳しい導入事例はこちら
介護DXの効果的な進め方
介護DXは、以下のような手順で進めると効果的です。
1.課題抽出と自分事化
経営者や管理職だけではなく、職員全体で困っていることや時間がかかっていることを調査し、課題を抽出しましょう。これにより、導入前からDXの必要性を職員に感じてもらい、導入に対する前向きな意識づけができます。具体的な例は以下が挙げられます。
- 職員全体で意見交換する場を設けたり、アンケートを実施したりする
- 慣れるまで一時的に職員の負担が増える可能性があることを理解してもらう
- 提案時には具体的な業務削減策(介護ソフト導入でシフト作成時間を5時間削減できるなど)を提示する
- 費用だけではなく使いやすさや導入効果などの事例も確認して比較検討する
2.業務の明確化と役割分担を見直す
アンケートや会議などで出た意見をもとに、現在の業務の見直しからはじめましょう。また、業務改善についてはDX化以外についても検討し、職員が「業務改善の一環にDX化がある」「職員のためになる」というポジティブな考えを持って取り組めるよう工夫しましょう。
3.ルール設計
DX導入前にある程度の運用方法を決めます。具体的には、以下のような点を検討します。導入後も必要に応じて見直しが必要です。
- 業務負荷も踏まえて導入ツールごとに担当者を設定する
- 情報機器は事務所外での使用も想定して取り扱いルールを設定する
- マニュアルを作成・改訂する(情報共有の方法、システムへの入力単語の統一化など)
- 個人情報保護法、機密情報保持の契約内容を再確認する
- OJTの仕組みを作る
4.メリットを実感してもらう、慣れてもらう
ICTの導入において「自分でも使えた」「便利になった」という成功体験を得てもらうため、慣れて使い続けてもらうことが大切です。具体的には、以下のような方法が有効でしょう。
- 1日の業務で1回は利用するようにする
- 夜間巡視や利用者へのナースコール対応の回数などを導入前後で一定期間記録し、導入後の改善が目に見える形でわかるようにする
- 使い慣れたツールのビジネス版を選ぶなど、少しでも抵抗感をなくす方法を考える
5.負担軽減の注視
導入後にかえって負担が増えないよう、導入の過程で十分に気を付けましょう。特に以下のような点に注意してください。
- すべてのシステムや機器を一気に導入しない
- プライベートのスマートフォンやタブレットは使わない(情報漏洩や統制などの対策)
- システムやメーカーの業者からサポートを受ける
- 一部の職員のみに負担がかからないよう管理する
介護DXの導入を検討される方へ
介護DXの導入は業務負荷の軽減や人手不足への対応など、介護現場における多様な課題を解決する手段です。実際にDX化を進め、効果を実感している事業所は少なくありません。
しかし、手順を誤ったり職員への配慮が足りなかったりすれば、かえって負荷が増える可能性も考えられます。導入すべきシステムなども状況によって異なりますので、まずは課題の抽出から十分に検討を進めてください。
介護業界において課題となりやすいのが、シフト表の作成や勤怠管理です。手入力、あるいはエクセルなどを用いて作成・管理しているケースが少なくありません。介護業界に特化したシフト・勤怠管理サービス「CWS for Care」は、そうした課題を解決します。初めてのICT導入でもサポート体制が整っていますので、まずはお気軽にご相談ください。